３０層のボスはヘドロンという魔だ。

種族名でもわかるようにヘドロの魔だと思われるヘドロンは濃い緑や紫などのが混ざっており、大きさは高さ２メートル、幅４メートルほどでなだらかな山形をしているが形は自由にできるようで常に微妙な変形を見せながら周囲に何かを吐き出している。

その見た目は不衛生で近づいただけでも病気になりそうなので近づきたいとは思わないシローたちだった。

このヘドロンはこの炎の迷宮の中では珍しく火系の屬を持たない。

だから火系の対策をしてボス戦に挑んだ者からすれば拍子抜けしてしまうのだろう。

ただ、ここで気を抜いたものはこのヘドロンには勝てないと思われる。

「弱點なし、理耐と魔法耐を持っているぞ」

「これはまたえらくい……いや、くはなさそうだけど攻撃が効きにくそうだね」

ジーナの言う通りヘドロンは高いＶＩＴ値と理耐、そして魔法耐があるのでＨＰを削るのにとても苦労する魔である。

ただ、幸いなことに魔法防に関係するＭＮＤ値は極めて低いのでどちらかというと魔法で攻撃するほうが効率は良い。

「あれには近づくな！毒を持っている」

「面倒なだねぇ～私と相は最悪か」

「ジーナさんだけではありません。私も相が悪いです！」

「アズハは斬撃を飛ばせるじゃないけど、私は何もないからな。シロー殿に任せるしかないかね」

「ご主人様、援護します！」

「いや、ここは俺１人で大丈夫だ。２人は見ていてくれ」

シローがスーッと２歩前に出るとヘドロンがき出した。

魔法を放つと思っていた２人は走り出したシローを見てビックリする。

「な、毒があるんだぞ！」

「危ないです！」

しかし２人の懸念は危懼に終わる。

何故ならシローは【超越魔法】によって自分の周囲に結界をはっており、その結界によって毒はシローには屆かないのだ。

そんなこととは知らずヘドロンは【毒ガス】を吐き出す。

シローが毒ガスを浴びても平然としているとその不定形のボディーから手をばしてシローを薙ぎ払おうとするが、その手がシローに接する直前に吹き飛んだ。

それは【闘神武技とうしんぶぎ】によって拳に気を乗せたシローの軽いジャブによって起こったことだが、ヘドロンには何が起きたかわかっていない。

吹き飛んだ手が壁や床に付著するとジュワーと音を立て壁や床を溶かすことからその手にも毒があるのは分かった。

軽くステップを踏み瞬時にヘドロンに接敵するシローの左拳がシュッと繰り出されるとヘドロンの山形のに拳大のが開く。

しかしヘドロンは痛みをじていないようですぐには塞がり反撃をする。

やや距離をとったシローにヘドロンのからバスケットボール大の不衛生な球が飛び出し迫る。

しかしシローは著弾寸前にを半歩ずらしそれを避け、後方でベチャリと音がする。

「一発では無理か、ならこれならどうだ！？」

シローは左の拳を目にもとまらぬ速さで三度突き出す。ボクシングでいう高速ジャブの連打だ。

ヘドロンのボディーに３つのが開くが、そのはすぐに塞がる。

「チッ、なら！」

仕切り直しの為に後方に移したシローの直が危険をじる。そしてアズハとジーナがぶ聲が聞こえた。

すぐに大きく飛びのくとそこには２目のヘドロンが山形のボディーでシローにのしかかるところだった。

「分裂か！」

先ほど発されたバスケットボール大の球がいつの間にか２メートルほどの大きさになってシローに襲い掛かったのだ。

理法則を無視した２目の登場だったがシローは危機をじていなかった。

「まったく……仕方がない、あれを出すか」

その瞬間、シローのがり輝く。

アズハのように神狼化が解放され進化したわけではない。

そのに危機を持ったのか２のヘドロンは山形のボディーを大きく揺らしシローに飛び掛かる。

２のヘドロンがシローを覆いつくす。

アズハとジーナの悲鳴が響く。

その瞬間、ヘドロン２のボディーが風船のように膨らむ。

「はぁぁぁぁぁっ！ゴッドハンドォォォォォスマッシャーァァァァァッ！」

その聲とともにヘドロンのボディーが裂け眩いがれ出す。

そして次の瞬間、りがヘドロンを飲み込む。いや、ヘドロンを滅するのだった。

あまりの眩しさにアズハとジーナは目を覆うことしかできなかった。

これは気を超える神の気、神気を纏った拳を數百から數千発も放つシローの必殺技の一つである『ゴッドハンドスマッシャー』だ。

【闘神武技とうしんぶぎ】の技の一つだ。

シロー以外の者が同じ技を放てたとしても全の筋が斷絶し骨が砕けるほどに自のを犠牲にする技だ。

しかし今のシローのＶＩＴ値であれば自滅技とも言える『ゴッドハンドスマッシャー』もデメリットなく使用が可能なのだ。

それだけ高いＶＩＴ値が必要になるのがこの『ゴッドハンドスマッシャー』なのだ。

「まったく、面倒をかけやがる」

そんな聞きなれた聲に２人が目を開ける。

「待たせたな、ドロップアイテムはこの薬のようだ」

手に１本の瓶を持ったシローが何もなかったかのように２人に話しかける。

「しかし倒したのは２なのにドロップアイテムはこの薬１本だけなんてしけてるな」

「まったく、シロー殿はいつもマイペースだな」

「ご主人様が無事でアズハは嬉しいです！」

「あんなザコに殺やられる俺じゃないぞ」

減らず口をけ流して２人はシローが持っている瓶の中が気になった。

アズハがウルトラレアスキルである【解析眼】を発させる。

アズハやスノーなどはシローのユニークスキルである【ステータスマイスター】によって々と便利なスキルが與えられているので、ウルトラレアスキルである【解析眼】をアズハも持っているのだ。

「えっ！……神薬エリクサー」

「え、エリクサーだって！？」

すでに【解析眼】によって中が神薬エリクサーだと知っていたシローは驚かないが、アズハとジーナは暫く放心する。

２人が放心するのも仕方がない。神薬エリクサーは部位欠損があるほどの大怪我も治し、時間制限はあるものの死んだ者でも生き返らせることができ、更に若返りを促すといわれている薬なのだ。

もし市場に出せば神薬エリクサーを奪い合って國単位の爭いが起きかねないほど希で貴重な薬なのだ。

「殘念ながらスノーには使えないので売るか？」

「「本気マジですか！」」

オークションに出せば以前シローが出品した『ジャイアントモウの（上質）』どころの話ではない。『ジャイアントモウの（上質）』でさえ４５００萬レイルと高額だったが、その數倍、いや、數十倍の値がついてもおかしくないのだ。

「これを売るのはいつでもできるから、先ずは先に進むぞ」

その価値をわかっているのか、と思う２人を促し３１層へ足を踏みれるシローだった。

気を取り直したアズハとジーナは神薬エリクサーのことを忘れたかのように魔を狩りまくった。

まるで記憶から神薬エリクサーのことを消そうとしているかの如く２人は意識を魔に向けるのだった。

「はぁぁぁぁあっ！」

「うりゃぁぁぁぁっ！」

２人の活躍によってシローたちは３５層に足を踏みれた。そしてそこで家に帰るのだった。