《マルチな才能を発揮してますが、顔出しはNGで》顔出しNGなのにどうしてモテるのか 7

 月くんがトイレに行ったきり戻ってこない。

 本當に彼は人の気持ちも知らずにトイレにばかり行って… 

 もう、ライブなんて人生で初めてなんだから早く戻って來なさいよッ!!

 何故か月くんの前だと素直になれず、ライブ慣れしているような雰囲気を出してしまったり、本當に何しているのかしら、私… 

 それにライブ會場という所は、こんなに激しいところだったなんて知らなかったわ!

 鮨詰めで息苦しいし、1人になると余計に不安になってしまう。

 月くんが戻って來たら、絶対に懲らしめてやるんだからッ!

 そう心の中で決意した瞬間、突然會場の照明が全て消えて思わずがビクっと反応してしまう。

 キャッ! なに?急に暗くなったけど、もしかしてもう始まってしまうの?

「「「うぉおおおーッ!!!」」」

 會場が暗くなると同時に、観客たちの興も今までとは比べにならないほどの盛り上がりを見せ始める。

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 そして、ステージにとりどりのライトが點滅し、レーザービームが辺りを飛びいながら、大音量でイントロが流れ始めると、先程まで騒いでいた観客たちが一斉に靜まり返った。

 ついに始まるんだ…

 《Godly Place》のライブが…

  再びステージに明かりが戻ると同時に発するようなも大音量が會場に響き渡る。

 そのあまりもの衝撃に、私はつい耳を塞いでしまったけれど、いつの間にか耳に當てていたはずの手は私の頭より高く上がり、がリズムに合わせてき出していた。  私は全で《Godly Place》の音楽をじていた。

 の芯が震えるベース音とバスドラムの重低音、掻き鳴らすギターの心地良さと心に響く歌聲… そのどれもが私の心を摑んで離してくれない。

 今までの私の人生で、間違いなく一番のと喜びを味わっていると実していた。

 最高の時間は瞬く間に過ぎていった…

 「次が最後の曲になります… 」

  えッ!? ユウさんが喋った?

 確か、ユウさんは歌う時以外は喋らないということは、ファンの間でも有名な話だったはずなのだけど… 

 変ね… ユウさんの優しい聲、何処かで聞き覚えがあるような気がする…

「これから歌う最後の曲は、僕がどうしても演奏したくて、本番のちょっと前にメンバーに無理を言って、急遽演奏させてもらえることになりました」

 わざわざMCで言わなくてもいいことを律儀に話しているユウさんは本當に優しい人なのだろう。

  だから、尚更どうしてあんな変なお面を被っているのか疑問で仕方がない。

 ユウさんというキャラとお面とのギャップがあり過ぎて、何とも言えない不思議な気持ちになってしまう。

 でも、ユウさんの素顔が分からないからこそ、私の大好きだった父の面影を重ねられるのかもしれない…

 「それでは聴いてください…《限りない蒼の世界』」

 あ…

 私の大好きな曲だ…

 ユウさんがどうしてもやりたかった曲というのは、この曲だったんだ… 

 ミュアさんが弾くピアノの流れるような伴奏からユウさんがそっと儚い聲で歌い始める。 

  まるで、一雫の水が水面に落ち、その波紋が伝わっていくように、私自がまるで蒼い世界の水面に立っているような、そんな覚を覚える。

 そして、ユウさんの聴く人に優しく問いかけるような歌に、私の心を探られ、自分でも隠そうとしていた想いが、リボンを解くように簡単に開かれていく…

……

………

  心つく前、私は父の弾くギターがすごく好きだった。

 いつも男の子のように走り回っていた私も、父がギターを弾いて歌う時だけは、父の隣に座り大人しく聴いていた。

 父の歌聲はとても心地良く、優しい歌聲だった…

 ある日、母が私に「父は遠いところへ行ってもう帰って來ない」と話した。  私を悲しませないようにと必死に笑顔を作りながらも、時折言葉を詰まらせてしまう母を見て、かった私でも父は死んでしまったのだと直ぐに理解できた。

 私は、母に見つからないように布団に潛り、聲を押し殺すようにして泣いた。

 父のギターや歌聲だけでなく、父のことが大好きだったのだと、その時初めて気付いた。

 時が経つにつれ、いつの間にか父の顔が思い出せないことが増え、寫真で確かめてもまたすぐに忘れてしまうようになってしまった。

 きっとそれは私が自分でんで忘れようとしていたのだと思う…

 手ひとつで私を支えてくれている母のため、いい子になろうとずっと努力してきた。 

 勉強も運も頑張り、クラスでは毎年學級委員に推薦される程になり、風紀委員では副委員長を任されている。

 先生やクラスの皆からも信頼され、期待もされている。 

 そして何より、母が喜んでくれる!

 私にはそれが嬉しい…  誇らしい… はずなのに! それだけでは、ぽっかり空いた心の隙間は埋まらない…!

 どうしてかなんて分かってる! だってしょうがないの!

 もう、私の父はいないのよ!

 どんなに頑張っても褒めてくれない! 悪いことをしても怒ってもくれない!心地良いギターの音も、歌聲も、もう何も! 何にも殘ってないのよ…

 ねえ… お父さん…

 どうしてお父さんは…

 死んじゃったの…?

……

………

『限りない蒼の世界』は私の心をさらけ出したまま終わってしまった…

  苦しくて今にもが張り裂けそう…

 この曲を聴くと大切だったお父さんを思い出すことができて大好きだったのに、実際の演奏を目の前で聴いてしまうと、こんなにも自分の心が荒らされ、曝け出されえしまうなんて思いもしなかった。

 もう二度とこんな曲は聴けない…

いいえ、もう二度と《Godly Place》の曲は聴けない…

 そう思った時だった。

『ーー 僕は此処にいるよ 』

「えっ…?」

 顔を上げると、照明が落ちたステージの上で、ユウさんがギターを弾きながら違う曲を歌っていた。

 確か、ユウさんは『限りない蒼の世界』が最後の曲と言っていたはずなのに…

『ーー 君の心の中、辛いとき悲しいときも』

『ーー 君の名前をずっと呼び続けているよ、ただ1人のする人』

『ーー この広い蒼の世界には思い悩みも痛みもない』

『ーー 空へと羽ばたいたその翼を縛るものは何もない』

 初めて聴いたはずの歌なのに、ずっと前から知っていたような懐かしいじがした。

 まるで、お父さんが私を勵ますために歌っているような、そんな暖かく優しい歌だった。

 曲が終わった途端、私は急に肩の荷が降りたようなに包まれ、その直ぐ後に今まで心の奧底に溜め込んでいたものが、洪水のように溢れるのをじた。

  いつの間にか目の前の柵を強く握りしめていた手に、何か冷たいが當たったじがして、その時初めて自分が泣いていることに気付いた。

 こんなに泣いたのはいつ以來だったかしら…

 最後に憶えているのは、確か父が亡くなった日だった気がする。

 歌が終わっても、誰ひとりとして歓聲や拍手をする者はおらず、ただ靜寂が會場を覆っていた。

  ふと周りを見回すと、私と同じように目の周りを赤くして泣いている人や、座り込んで泣き崩れている人もいるようだった。

  そうか… ここにいる人たちも皆んな、私と同じように何か問題を抱えていて、その隠したい部分に優しくれられたのだろう。

 直ぐにガップレのメンバー全員がステージの1番前に並び、一斉に深々と頭を下げると、會場の彼方此方から小さな拍手が起こり始め、すぐに大喝采へと長した。

「ありがとーう!!」「ありがとーッ!!!」

 と、いろいろな場所から聞こえてきた。  私もこの気持ちをどうしてもガップレに、ユウさんに伝えたくて…

「ガップレありがとーうッ!!」

 と、大聲でんだ。

 その時、ユウさんが私の方を向き、また軽くお辭儀をしてくれた。

 もしかして、私の聲がユウさんに屆いたのかも知れない…

 その後もしばらく拍手と歓聲は止むことがなかった。

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