《マルチな才能を発揮してますが、顔出しはNGで》顔出しNGの事があるのです 15

「3分前~!!」

 コートの中央に立つ審判が試合開始までの時間をつげる。

 ベンチの前には私も含め子バスケ部1年生が集まり、円陣を組んでいた。

 私はこの試合の前に皆んなにどうしても伝えたいことがあった。

「あの! みんな、試合前にごめん。 でもどうしても伝えたいことがあるの…」

 円陣を組んだみんなの視線が一斉に私に向く。 今まで散々人付き合いから避けてきたから、こう注目されると恥ずかしい。

「今まで自分勝手にプレーをして、チームのみんなのことを蔑ろにしていて本當にごめんなさい。 私はバスケを楽しんでいなかった、1人でバスケをしようとしていました。 これからはみんなと一緒にバスケを楽しみたいです!」

「花沢さん…」「華ちゃん…」「よく言った花沢さん!」「私達だってそうだよ、だからこれからはみんなでバスケを楽しもうね」

  チームメンバーそれぞれが私に聲を掛けてくれる。 それだけでチームへの信頼が深まった気がした。 

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「じゃあ、1年生だけの最初の試合の記念すべき最初の聲掛けは、花沢さんにやってもらおう!」「「うん!」」

「そッ、そんな恥ずかしいよ~」

 みんな口々にそうしようと言っているけど、これからあがり癥しようという人に、いきなりそれはハードルが高い気がする。

「ほら、何言ってんの!もう試合始まっちゃうよ?」「はわわわわ、じゃあ… 行きますよ」

 2、3回深呼吸をして、息を整えてから大きく息を吸い込む。

「ふぅ~、みんな!! 楽しんで勝とう!!」「「「オーーーッ!!!」」」

 円陣を解いて、コートの中央に向かう。 反対側のコートサイドには月先輩と部長たちが見守ってくれている。

 月先輩、部長… 見ていてくださいね。 私、花沢華はこの試合で変わりたい…. いえ、変わります!

 《ピィーーー!!!》

 試合開始のホイッスルが鳴り、すぐにボールをはたき落とす音が聞こえた。

 今まで自分だけに向けていた意識をチーム全に向けるのは難しいけど、今まで単調だったきにバリエーションが増えて、攻めも守りも格段にやり易くなった気がする。

 何より、みんながそれぞれのメンバーを活かすためにいているから、私がボールを持った時は普段よりシュートを決めやすい。

 すごい…これがチームワークなんだ。 

  今まで他人と距離を置いてきた私だけど、人に認めてもらって、自分の苦手なところも弱いところも、預けることができるってこんなに簡単なことだったんだ。

 自分がまず心を開いて相手を信頼すれば良かったんだ。

 月先輩、部長、私やっとわかりました! バスケってこんなに楽しいんだって!

 《ピィーー!!》

「試合終了!! 六花大付屬高校の勝利です」

「「ありがとうございました!!」」

 終わった瞬間、チーム全員と手を取り合って喜び合う。 すると周りから拍手の音がチラホラ聞こえ始めた。

 沢山の人に見られていたことを思い出して、急にはしゃいでいた自分が恥ずかしくなってきて俯いてしまう。

 でも、月先輩にこれだけは伝えておきたい!

 コートサイドにいる月先輩のもとに真っ直ぐ駆け寄る。 

「あの! 月先輩ッ!!」

 やっぱり恥ずかしくて顔を見ることができなくて俯いているけど、目線を上げるとキョトンとした先輩の顔がチラッと伺える。

「花沢さんお疲れ様、すごくいい試合だったよ」

 ああ、月先輩は相変わらず優しいな… きっと私だけじゃなくて誰にでも優しいんだろうな。 だから部長も神無月學園のエースの人も、月先輩のことが好きなんだ…

 でも、私だけに優しくしてほしいな… って何考えてんだろう私!?  そうじゃなくて!

「あの! 月先輩! 私、バスケ楽しさがわかりました!! チームメンバーを信頼することで私、苦手な人付き合いも克服できる気がします!!」

  月先輩に想いの丈をぶつけて、に引っかかっていたものが、すっとどこかへ消えてしまったそんな覚が私を支配していく。

「それは良かった! 今の花沢さんはまるで別人みたいだよ。 きっと今の花沢さんなら大丈夫だよ、頑張ってね」

 また優しい言葉を掛けられて、反的に顔を上げてしまった。

 目の前には月先輩の顔があって、初めて至近距離でまじまじと月先輩の顔を見てしまった。

 整った顔に、吸い込まれそうな茶い瞳、なにより笑った顔がすごく素敵だった。

 月先輩を間近で見て一瞬固まってしまい、すぐ恥ずかしくなって、耳まで熱くなるのをじる。

 心臓の音が自分にも聞こえるくらい大きくて、月先輩にも聞こえてしまうんじゃないかと心配になる。

 だっ、ダメだ!もう… 限界…!!

 私は意識が遠のいていくのを止めることができなかった。

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