花沢さんが倒れた。

 ずっと下を向いていて、顔を上げたと思ったらそのまま仰向けに倒れたんだからビックリしない訳もなく、そのまますぐに保健室へ運んでいった。

「勇志、アンタ何したのよ？」「月くんはの子にれることなく気絶させることができるのね」

 と、陣から酷く罵られたが、まさか本當に俺の所為だというのだろうか…

 花沢さんをおぶって急ぎ保健室に著くと、相変わらずやる気なさそうなシゲ先生が診てくれたのだが、過度の張とストレスによるものらしい、しばらくすれば目を覚ますから心配するなということだった。

 ふぅ、ホッとした。 てっきり俺の顔を見て気絶したから、凄い酷い顔でショックをけたか、凄い息が臭くて耐えられなかったのかと思ったが、試合で隨分と頑張り過ぎたのかな。 

 とにかく原因が俺じゃなさそうで安心した。

 暇そうにしているシゲ先生に花沢さんを任せて、俺はその場を後にすることにした。

 育館では午後から男子バスケ部の練習があり、明日は遂に地區大會だ。

 なんとしても県大會出場権を勝ち取り、限定プレミアゴールドダンガムプラモを小畑からいただきたい。

 俺はその想いをに練習に勵んだのだった。

…

……

………

 なんか今日1日凄い長かったような気がする。

 家の玄関で靴をぎながら今日1日の疲労をヒシヒシとじていた。

 こんな時は1番に風呂にるに限る。 

 リビングにいるであろう妹のや母さんにただいまも言わず、そのまま風呂場に直行した。

「はぁ… 」

 室にると先客がいるようで、自然にため息が溢れてしまった。

 ふと視線を落とすと、綺麗に折り畳まれた服の上に、やけに可らしい花柄のパンツとピンクのブラジャーが置かれていた。

 ったくのやつ、上下違う種類の下著じゃないか。 それにこの花柄の可らしいパンツはなんだ？ 中學3年にもなってまだこんな可いのを履いているのか？ やはりまだまだ子供だな。

 置かれたパンツを手に取って、そんなことを考えていると風呂場のドアが開かれ、中から妹のが出てくる…. はずなのだが、出てきたのは

「歩！？」「きゃッ！勇志！？」

「ごッ、ごめん！！ てっきりがってるのかと思ってた！！」「そう、ならしょうがないけど…」

 ふぅ～、さすが歩。 

 どっかの金髪娘と違って、いきなり蹴りかかってくることがなくて助かる。

 最悪の事態を覚悟して出た額の汗を拭きながら一安心する。

「勇志？ ちなみにその手に持っているものは何かな？」「へ？」

 俺が今、額の汗を拭き取ったを広げると、なんとも可らしい花柄のパンツがヒラヒラと揺れていた。

 あ、やっぱりまたこのパターンか。

 俺が最後に憶えているのは、迫り來る歩の右ストレートを見ながら、歯を食いしばったところまでだった。

…

……

………

 「ハッ！？」

 目を覚ますと俺はリビングのソファーに橫になっていた。

 どうやら部活で疲れて帰って來て、そのままソファーで眠ってしまっていたらしい。

 しかも、何故か頭がガンガンする。何か悪い夢でも見ていたようなじだ。

「あら、勇志起きた？」「あれ、歩來てたのか？」

 キッチンでは母さんと歩が並んで料理を作っているみたいだ。

 歩は家に常時置いてある部屋著を著ているので、今日は家に泊まるつもりのようだ。

「う、うん。 それより何か憶えてる？」「何かって… 何だ？ 疲れてたのか帰って來てすぐ橫になってたみたいだ。 でもよく覚えてないな」

「ちょっと強くやり過ぎたかも…」「何？」

「なんでもない！ 勇志が悪いんだからね！」「あらあら～、本當に2人は仲良しね～」

 母さん、どこをどう見たらそうなるんだ。 話しが全く噛み合ってないんだが。

「あ、お兄ちゃん気が付いたんだ。 もうビックリしたよ！ 今度は歩ちゃんのパンッ ー … ふぐぁ！？」 「ちょっとちゃんはこっちに來ようね～」

 が何か言いかけた瞬間、歩が凄い勢いで口を塞ぎにいった。

 歩ってあんなに早くけるんだな、バスケでもやったら結構いいとこまでいくんじゃないか？

「えぇ！？ お兄ちゃん記憶を！？」「そう、だからそっとしといてあげて、私のために」「わッ、わかりました…」

 あの2人の方がよっぽど仲良いと思うのだが、なにやらコソコソやっていて楽しそうだ。

「ねえ勇志、明日バスケの試合でしょ？」「うん、そうだけど？」

 何事もなかったように戻ってきた歩が唐突に俺に尋ねる。

「明日、私とちゃんとで応援に行くから、今日は泊まっていくね」「俺がなんて言っても泊まっていくだろ、歩は」

「まあね～」

 まあそんなことは今に始まったことじゃないから驚きはしないが、年頃の男がいる家に泊まるのはあまり関心しない。

 いくら馴染みと言えど、俺が100%歩に手を出さないという保証はない。 歩は可くて綺麗で魅力的だし、伊達に《Godly Place》のセンターをしていないというのは、馴染みの俺が1番よくわかっている。

 時と場合によって俺は、過ちを犯してしまうのではないかと、人知れず心配しているわけだ。

 まあそんなことは歩が知る由もないのだが、本當に俺がジェントルマンで謝してほしいくらいだ。

 「はあ… 」

 明日には試合もあるし、今は余計なことは考えずに寢よう。

 ささっと寢支度を済まし、自分の部屋のベットの中へ潛り込む。

  1日の中でベットの中へる時が1番幸せだなと再確認し、しニヤけてしまう。

 段々と遠のいていく意識を心地よくじながら呼吸を整えていると、ふとベットの中に誰かがってくるようなじがした。

 おそらくのやつだな。

 は時折寂しいからと布団の中に潛り込んでくることがあるので、今回もそうなのだろうと別段怪しむこともしなかった。

 こういう時はのやつをそっと抱き締めてあげるとぐっすり眠れるということらしいので、今回も隣にいるであろうをギュッと自分の方へ抱き寄せた。

「うッ…」

 抱き寄せた際にし聲がれたのか可い聲が聞こえたが、そのまま構いなしに抱きしめ続ける。

 ちょうど俺の顎の下あたりにの頭がすっぽりと収まるような形になり、髪のからはの子獨特の甘くていい香りが鼻を刺激する。

 そこで俺はある異変に気付いた。 

 いつもならじることない２つのとてもらかくて尚且つ大きな膨らみが、俺のお腹のあたりにムギュッと押し付けられているのを…

 いや、を抱き締めるときにいつもその２つの膨らみじないこともないのだが、今回は異常にその膨らみがデカかった。

 何かがおかしい…

 可い我が妹が、いずれナイスバディなレディになるだろうとは思ってはいるが、たかが數週間でここまで長するなどあり得ないだろう。 そこから導き出される答えはひとつ…

 今抱き締めているのは妹のではないということだッ！！

 その疑問を確かめるために俺は恐る恐る口を開く。

「歩… なのか…？」

 俺の顎の下に隠れていた顔がし離れ、歩の綺麗な顔が目の前に現れる。

「うん… ゴメンね起こしちゃった？」「いや、でもどうして…？」

 言い訳などいくらでもできたが、目の前の歩の顔はどこか寂しそうに見えて、どうしても理由を聞かなければならない気がした。

「最近、勇志がずっと遠くいるような気がしてて…」「別に、學校でもガップレでも、家でだってこうして會ってるじゃないか？」

「違うの、そういうことじゃなくて、うまく言えないけど、距離をじるの」「そっか… 」

「あの約束、憶えてる？」「どの約束だ？ いっぱいあり過ぎてわからん」

 「とぼけないでよ！」「う゛ッ！」

 歩の拳が無防備な俺の腹に食い込む。もうちょっと手加減というものをしてほしい。

 「『俺が歩を歌わせてやる。悲しい唄じゃなくて、誰かを笑顔にする希の歌を俺が歩に歌わせてやる』って、私すごく嬉しかった… 」

 そういえばそんなこともあったな、今でこそ考えられないが、昔の歩はまるで別人だったからな。

 生きることに希をなくしたの子、それが昔の歩だった。

「ねぇ！ ちゃんと聞いてるの！？ 人が真面目な話をしてる時はちゃんと聞く！」「はい、ごめんなさい！」

 一応、俺の家族のことを気遣ってか、聲のボリュームは最小限にして怒ってくれている。

 それでも怒られていることに変わりはないが、口元がし緩んでしまいそうになる。

 「ねぇ勇志…. 」「ん？」

「私たち、これからもずっと一緒だよね？」「うん、これからも一緒にいるよ」

 〝ずっと〟とは言えなかった。

 歩は俺とずっと一緒にいることに拘っている気がする。でもそれは歩の自由を奪っているのではないかと、心の何処かでじていた。

 だから〝ずっと〟とは言えなかった。 

 でも、ガップレや學校がある限り、當分は一緒にいることになるだろう。

 なんだかんだ思っていても、結局俺は歩の優しさに甘えているんだろうか…

「なあ、歩？」「……….」

 目線を下ろすと、歩は目を閉じて靜かに息をしていた。

 言いかけた言葉を呑み込み、俺もそろそろ寢ようかなと目を閉じてみるが、一向に眠れる気配がしない。

 ダメだ！眠れん！！

 お腹の辺りにあるけしからんものが俺の意識を覚醒させる。

 無だ、無心になるのだ！！  必死に無我の境地へと達しようという努力も虛しく、カーテンの隙間から日が差し込んでくるまで、俺は己のと戦い続けるのであった。