《マルチな才能を発揮してますが、顔出しはNGで》顔出しNGで新曲作ります 6

 學校とスターエッグプロダクションの往復にも隨分と慣れてきた晝下がり。

 毎日深夜にまで及ぶ猛練習を耐え抜き、晝間は健全な高校生活を送るという過スケジュールをこなし、も心もボロボロである。

 まあ初日に湯事件があった所為で、やる気も元気も全てなくしてからのスタートだったのが1番こたえているんだけどな…

「勇志、大丈夫か? 《kira☆kira》のヘルプ凄く大変そうだな?」

 四限目の授業を機に突っ伏して過ごした俺に、後ろから真純が心配して聲を掛けてくる。やはりどんな時も頼れるのは心の友だな。

「わかるかー… そうなんだ辛いんだ… いつも怠いとか面倒くさいが口癖みたいな俺だったが、本當にシンドイ時って何も言えなくなるんだな… 」

「ここ4日くらいパタリと文句言わなくなったもんな。そう言えば《kira☆kira》のヘルプ始まってからだな~、果たして練習がキツイのか、それともあの2人が強烈なのか?」

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「どっちもだ… 」「それはそれはお疲れ様」

 あの湯事件以來、キアラはどこかよそよそしいというか、俺の顔、まあお面を被ってるのだが、とにかく俺の顔を見ると、顔を赤くして走って逃げて行ってしまう。

 しかも、逃げる際に柱にぶつかったり、壁にぶつかったり、人に當たりしたりと、そこまで俺のこと嫌いになったのかと思うくらいだった。

 アキラの奴は相変わらずで、會えばいきなりイチャモン付けて來て、キアラがおかしくなったのはお前の所為だとかなんとか大騒ぎしていた。

 どっちにしてもコンサートまでには収まってほしい。このままの狀態ではコンサートに臨めないだろう、メンバー同士が噛み合ってない今のままでは、いい音楽なんて出來っこないからな。

 そう思うと、俺がいない間のガップレのことも心配だ。スターエッグプロダクションで寢泊まりしている間はガップレの方に顔を出せないから、何かあったら連絡くれとは言ってあった。

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 もう4日になるが連絡1つないから大きなことは何もなかったのだろうが、一応真純に確認しておく。

「そういえば真純、ガップレの方はどうだ?」「うーん、まあ変わりないかな。相変わらず翔ちゃんは聴きやすいメタルを作ることに闘しているよ。あとは概ねいつも通りかな」

「概ね、ね…」「毎朝勇志を迎えに行くのが日課だった歩ちゃんが、もう何日も迎えに行けなくてウズウズしてるくらいさ」

「俺って一何なんだろうか… 」

 歩のことは置いておいて、翔ちゃんが聴きやすいメタルを作るのを頑張っているらしいから、俺もある程度落ち著いたら様子を見に行くとしよう。

「勇志ー、一緒にご飯食べよー!」

 真純と話していると、教室のり口から歩がお弁當を2つ持ってってきた。

 普段は俺にお弁當を屆けた後は、自分のクラスに戻り、友達と一緒に晝飯を食べているのだが、珍しく俺と一緒に食べようと言って來た。これも、真純の言っていたウズウズとやらの所為だろうか。

 「あら珍しいわね、歩がお晝を月くんと食べようなんて」

 委員長にとっても珍しかったらしく、近くを通り過ぎた歩に聲を掛けていた。

「別に深い意味はないからね!? 今日はそういう気分なの! そうだ、時雨も一緒にお晝どう?」

 どさくさに紛れて歩が委員長をお晝にっている。まだ俺、歩と一緒にご飯食べることを了承したつもりはないのだが、いつも通り俺に拒否権はないのだろう。 

「そうね、たまにはご一緒させていただくわ」

 俺と真純、つまり男たちがササッと機と椅子を運び、4つ向き合うように並べ直す。俺の向かい側は真純が座り、その隣は委員長。俺の左隣は歩という並び順に座った。

「はい勇志、お弁當」「おう… ありがとう、毎日悪いな」

「気にしないで、朝起こしに行かなくていい分、時間があるからついでに作ってるだけだから」

 俺がスターエッグプロダクションから學校に通うようになってからは、歩は俺のお弁當を作って持ってきてくれていた。最初は遠慮したのだが、ひとつもふたつも変わらないということで押し切られた。

 まあお弁當じゃなかったらコンビニ弁當だったろうし、ここはありがたく頂いておこう。こっちの方が遙かに味いしな。

 委員長のお弁當にはご飯が半分詰められ、その半分には綺麗にオカズが並べられている。それにしても全的に小さいな、そんなんで足りるのだろうかと心配になる。毎日バスケ部の練習で力も使うだろうし、本當に大丈夫だろうか? 

 それに比べ、歩の方は男の俺と同じ量のお弁當をペロリと平らげ、お菓子まで食べるんだぞ。よくそれで歩のモデル型を維持できるなと不思議で仕方ない。

 真純は今日も買い弁だ、まあ男なんてそんなもんだろう。

 「そう言えば委員長、バスケ部の方はどうだ? 男子バスケ部とうまくやってるか?」

 男子バスケ部の県大會出場が決まった後から、さっそく俺の方はバスケ部に顔を出さなくなったため、男子バスケ部がうまくやってるかどうかは小畑に聞く以外はよくわからない。

 それに小畑に聞くと、「いつもと変わらず子バスケ部は最高だぜ」とか俺の求めている答えとは違うことが返ってくるので最近はもう聞いてない。

「そうね、子はもうすぐ全國大會だから、それに向けて練習メニューをハードにしたの。男子の方は県大會1回戦で負けてしまったから、子の大會が終わるまでは、前と同じようにコートサイドにいてもらってるわ、たまに練習試合の相手はしてもらってるけど」

 そうそう、子は全國大會出場だったな。學校の正面から見える校舎の壁には大きく『六花大付屬高校子バスケ部 全國大會出場』という橫斷幕が掲げられている。

「さすが子バスケ部、最近學校の中は子の全國大會出場の話で持ちきりだもんなー」

 真純が委員長の話に続く、確かに全國大會が決まったあたりから、子バスケ部はもうアイドル並みの人気で、レギュラーメンバーに至ってはサインやら握手やらで人集りができていたほどだった。

 俺もガップレのユウとして活してる時は、だいたい同じような目に合っているので、人に囲まれているバスケ部の子を見ると気の毒に思ってしまう。

 人に囲まれて気分が良いのは最初だけで、毎回となると気も滅ってくる。

 今回の子バスケ部の人気は全國大會出場という一時的なものだから、そのうち、熱りも収まるだろう。

 しかし、委員長の人気は簡単には収まらないだろうな。

 うちの學校では既に非公式のファンクラブが運営されているし、『コートの中の神』という稱も今や誰もが知っていた。まあ當の本人はというと、全くじている様子もないし、いつもと変わらないみたいだ。

 だがしかし、教室の四方八方から主に男たちの嫉妬にも似た怒りの目線をけている俺と真純はゲシゲシとメンタルポイントを削られていた。

「歩? 月くんにお弁當を作ってあげるのは良いけれど、月くんの好きなばかりれていては、栄養バランスが偏ってしまうわ。はい月くん、貴方はしっかり野菜も食べないと駄目よ」

 そういって委員長は自分のお弁當からほうれん草のお浸しを俺のお弁當の蓋に乗せる。

 嬉しいよ? 嬉しいけど、今まさに周りの男共に弾投下しちゃいましたからね委員長!!

「何よー、時雨! それじゃあまるで私が勇志を甘やかしているみたいじゃない!ちゃんといつも厳しくしてます! 今日は、その… たまたまなんだから!」

 あーあ、もうやめてよー… まるで俺の所為で喧嘩したみたいに周りから思われちゃうでしょ?

 ほら、余計に目線が厳しくなってきた。もう視線で雑魚敵倒せるくらいなんじゃないか? 

 ただでさえクラスで浮いた存在だというのに、もうこれ以上は勘弁してくれ…

 友達って作るのは難しいのに、失くすのは簡単なんだね…  今日、それがよーくわかった1日だった。

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