《僕の前世が魔でしかも不死鳥だった件》不死鳥の力
三つの戦い。
まさかこの現代で、こんな激しい爭いをすることになるとは思わなかった。
それも、自分の大切な人たちを相手に。
運命の殘酷さ。
何億という歳月を生きてきた僕は、そんなもの嫌というほど理解している。
世界の在り方とはこんなものなんだろう、と諦念を抱くのには百年もかからなかった。
運命という言葉に甘えて、その殘酷さの全てを仕方ないのだとけれてしまう。それがこの世界に生まれ変わったばかりの僕だ。
なら、今の僕は。
今ここにいる僕は。
今この瞬間を必死に足掻いている僕は。
赤城優希姫という存在によって変えられた僕は。
運命なんて知らない。
諦められる訳がない。
これだけは、この僕らが過ごす日常だけは、何としてでも。
繋ぎ止める!!
心がぶように、僕は優希姫と姫剎の間にり、二人の銀の矢と雷をけ止め続ける。
「羽川先輩、どいてください!!」
「邪魔をしないで夕月!!」
「お前らが退け! 優希姫!! 姫剎!!」
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ヤバイな、いくら不死鳥モードでも、天使の矢と吸鬼の雷を防ぎ続けるのはキツすぎる。
それに、もう一つ嫌な予がしてきた。
この戦いの最中、周囲に集まってきている気配。優希姫と同種の、神に選ばれた者の気配だ。
すでに囲まれてる。
僕や姫剎が狙いだろう。
優希姫が仕組んだとは思えないが、彼の両親も天使しの類いならそっちがいててもおかしくないか。いや、そもそもこんな派手な戦いだ。どこまで力の広がりがあるかは知らんが、勘づいて他所からやって來る天使だっているかもしれない。
どんな仮定が合ったところで、萬事休すに変わりはないんだから。
こんな狀況、どうやって打開すれば…………、
『けないことを思うなよ』
『お前は、不死鳥………』
『神がその姿を顕現した、伝説の存在だぞ?』
『人間は人間なりに、魔は魔なりに、不死鳥は不死鳥なりのやり方がある』
『そうは思わんか?』
ははは、そうだな。
全くその通りだ。
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いいだろう、なら僕のやり方でやってやるよ。
「くな、魔ども!!」
三人が地に足を著けた瞬間を狙ったように、低い男の聲が響いた。
…………來たか。
四方を囲んでいただろう天使たちが次々に現れる。
十、二十、いや、それ以上。
老若男様々な天使が、僕ら三人を包囲していた。
「お前たちに逃げ場はない。抵抗を止めれば、痛みなく消してやる」
天使たちが一斉に弓矢を構え、僕と姫剎の二人に狙いを定めている。
「な、何で、天使たちが………」
その聲を上げたのは優希姫の方だった。
突然の事態に混し、優希姫も姫剎も呆然と周囲を見回している。
だがやがて狀況を理解すると、同じ天使である彼は慌てて口を開く。
「ま、待ってください!」
どうやら本當に焦っているようだ。
「どうして、あなた方がここに、この町には私たちの一族以外に天使はいないはずなのに」
「これだけ派手な戦闘になって、他の天使たちが嗅ぎ付けない訳がないだろ。むしろ何故この狀況を我々に報告しなかったのかの方が疑問だな」
どうやら中年男に見えるこの天使が、集団を率いてきたようだ。代表で喋る彼以外は僕と姫剎を狙いすましたまま目を逸らそうとしない。
「君はたしか、赤城の娘だったか。才ある娘と聞いていたが、吸鬼という伝説の存在を相手取るのにも本來なら十名以上の天使が必要だ。ましてや不死鳥などという未知もいるとなれば、単獨で撃破出來る相手でもないだろう」
「そ、それは………」
男の言葉に、優希姫は黙り込んでしまう。
「もういい、君は下がっていなさい。才能に溺れた愚か者が、君に神に使える資格はない」
吐き捨てるような男の言葉に、優希姫はぎゅうっとの前で拳を握り締める。
憤怒か、恐怖か、悲愴か、赤城優希姫はを震わせていた。
「さて、あの愚か者のことはおいて、お前たち魔の方の始末に掛からせてもらうぞ」
男の意識が、改めてこちらに向いた。
ちらりと姫剎を見たら、顔を歪めている。どうやら先の男が見せた優希姫への態度が原因らしい。
実際、かなり嫌な野郎なのは分かった。
あんなのが天使とは、世も末というやつだな。
「言っておくが逃げようなどと思うなよ。今ここには日本中から天使が集結している。この四十の神の使いを前に、お前たちに勝ち目も逃げ場もない」
「どうせ抵抗しようがしまいが殺すつもりなんだろ?」
試しに問い返すと、意外にも答えた。
「無論だ。お前たちのような世界の害悪が存在しているなどあってはならない。大人しくしていれば楽に殺してやる。ただ抵抗するなら苦しむことになるがな」
「お前らに僕を殺せるのか?」
「隨分と躾のなってないガキだな。その生意気な口だけは譽めてやろう。だが周りをよく見ろ、これがお前たちのおかれている狀況だ。我々はすぐにでも貴様らの息のを止めることが出來る」
「本當にそうかな?」
「不死鳥がどれほどのものかは知らんが、所詮は魔。これだけの人數を揃えた天使の集団には絶対に勝てない」
ほう、大した自信だな。天使というよりは悪魔に近い卑下た笑みだが。
どうやら彼らは本気らしい。
姫剎は相変わらず顔を歪めたまま、そして優希姫も、握った拳から流れるがその思いの丈を表している。
それが僅かばかりに殘った僕らへの思いの表れなら嬉しいが、どうだろうな。
確証はない。でも、一つだけ言えること。
今、優希姫は揺れているんだ。
心のに葛藤が見えるのが僕には分かる。ついさっきまで、同じ葛藤に苦しんでいた僕には。
倒すべき敵と、手放せない絆。
その二つがぶつかり合う苦しい迷いの中にいて、優希姫は答えをだすことが出來ないでいる。
殺されるのが分かり切っている、と言い切った彼が。
まだ切れていない。
無くなった訳じゃない。
今そこに見えている。
僕と彼を繋ぐものが、手をばせば屆く距離にある。
僕が化けと知ってなお、優希姫は繋いでくれている。
僕の大事な日常。
僕の大事な人たち。
なら、もう僕には何も怖いものはない。
見せてやる。
やってやる。
繋ぎ止めるためなら喜んで、
僕は最兇の魔に戻ろう。
これが、『私』のやり方だ。
その瞬間、辺りが凍り付いたように、僕たちを囲む天使たちがいっせいに呼吸を止めたのが分かった。息をのむ、というやつだろうか。
間違いなく、僕が放った殺気のせいだ。
小學生時代に子供たちを気絶させてしまったときとは比べにならない殺意の力を、僕は中から放っていた。
あれほど軽口を叩き、余裕の表を見せていた男も固まっている。
「どうした? この『私』を殺したいのだろ?」
僕は追い討ちをかけるように、冷たく刺すような聲で問う。
だが彼ら天使たちはかない。というより、けない。
「ほら、どうした? やってみろよ……」
僕は大きく手を広げ、自分は的だと言わんばかりに聲を上げる。
「う、うわあぁぁぁぁ!!」
弓を構えていた一人が、恐怖に負けたのか矢を放った。いや、放ったではなく、離してしまったの方が正しいか。
だが紛れもなく天使の矢だ。同じ天使の優希姫が放っていたくらいの威力はあるだろう。
まあ、意味はないがな。
真っ直ぐに向かってくる銀の矢は、僕の數メートル手前という距離で跡形もなく弾け飛んでしまったからだ。
「な、何が………」
何が起きた、とでも言いたかったのだろうか。
なら、答えてやろう。
「分からないか? 天使が持つ矢の力が『私』の殺気に押し負けて消えただけのことだ」
「な、そんなバカな!」
男がようやく直から抜け出して聲を荒げる。
「我らの矢は、神から授かった魔殺しの矢だぞ、たかが魔の殺気ごときで……」
「たかが?」
隨分とまあ、笑わせてくれる。
「貴様らの前にいるのは不死鳥だぞ?」
僕は言葉に合わせてから溢れる力を更に大きく高めていく。
「吸鬼や獣人などと同列に扱うなよ?」
奴ら押し潰すかのように。
「『私』は元より神が人の想像によってこの世に顕現した存在。言わば、貴様らの上位種」
僕が纏う黃金の炎は、やがて巨大な神鳥を作り出す。
「四十やそこらの天使の勢力で、よくもまあそれだけ自信満々になれたものだ」
見上げてくる天使たちはもはや顔を真っ青に変えている。
「『私』を倒したくば、十萬の天使と神を連れてこい、前世はそれでギリギリ敗れた。つまり、それでようやく同じ土俵だ」
天使たちの戦意が一気に薄れていくのが分かる。だがここで手は緩めない。
「言っておくが『私』は不死だ。再生能力を撃ち破る力で『私』を殺したとしても、この現代に転生したように何度でも蘇る」
これは正直、ハッタリだ。次に死んだら転生するかどうかなんて、僕にも分からない。それでも、使えるものは何でも使わせてもらう。
「選択肢をやろう。ここで『私』に全員殺されるか、撤退して十萬の天使と神を連れ再び『私』に挑むか、それとも二度と『私』と敵対しないか」
さらに僕は言う。
「まあ、もし『私』と本気で戦う気があるなら止めはしない。が、そのときは、この世界もろとも吹き飛ぶ覚悟は決めてこいよ?」
最後の警告とばかりに僕はに纏う黃金の炎を天に放ち、その圧倒的な力を発させた。
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