《過去に戻り青春を謳歌することは可能だろうか》15話 過去に戻り後悔を拭うことは可能だろうか 9
5月8日水曜日
「ふぁぁあ」
大きく口を開けて毎朝恒例のボーっと選手権を始める。
昨日は栃木から電車やタクシーを駆使してようやく家に著いた。時間は午前1時にさしかかっていたような気がする。
めるちゃんのご飯のお皿をなんとか片付けた。家を留守にしている間、姉にご飯をあげてもらっていた。
そのまま夕飯は食べず俺はリビングに倒れこむかのようにして寢込んだ。
朝ごはんを軽く取り學校へ向かう。
「可憐さんから連絡こないな」
自転車に乗りながらふと思う
「あ、過去に戻ったから連絡先換してなかったわ」
てへぺろ。
それにしても今の可憐の狀況が気になる。
お晝休みが始まるまでそのことで頭がいっぱいだった。
そして俺は授業が終わった瞬間に二學年室へと向かい扉を軽くノックしたあと「しつれいしまーす」と禮儀のない聲でった。
この二學年室は二學年の擔任の住処すみかとなっているが、大ここにいる先生は決まって2人だけだ。
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「よお、直斗どーした」
空梅雨 樹からつ みき先生は、座りながら長い黒髪を一つにまとめ、ビジネスチェアーを俺の方えと向けた。年齢は今年で27歳と10コ年齢が離れているわけだが、その貌と若々しいから同年代と間違われることがよくある。
「よお空梅雨からつ」
「お前はいつも空梅雨からつ先生のことを呼び捨てにして、生意気な高2だこと」
「がははは」と大きな笑い聲を上げているのは定年退職を迎えてもなお働き続けている國語教師だ。
「篠原しのはら先生はいつも元気ですね」
「元気じゃねーよー、忙しいよー、年寄りにはそろそろ限界だぜー」
そんなことを言っているが、日頃の篠原先生の様子を見る限り、あと10年は余裕でやりそうだ。
俺は、いつも心の中でこの人を“デンジャラスジジィ”と呼んでいる。
いや、デンジャラスじゃないんだけどね?なんかデンジャラスな雰囲気出てるから
「そんで、どーしたんだ直斗、私は明日の日本史の授業の準備で忙しいんだが」
そう言って俺の方を鋭い眼差しで睨んでくる。
大抵の生徒は空梅雨からつのその視線に気圧けおされてしまうが、俺ともなれば余裕だ。
「まあまあ落ち著けって樹みきちゃん」
近くにあった椅子に腰を下ろし右手で空梅雨からつを制するように前に出す。
「はあ?キレそう」
それは空梅雨の口癖だ。
「あのさ」
「なに」
「空梅雨からつって生徒會の顧問してるじゃん」
「それとダンス部の顧問をしている。おかげで発しそう」
「お疲れ様」
この人は、長嶺原ながみねはら高校の教員の中で一番働いている。それは俺だけではなく周りの生徒のほとんどが思っていることだ。
しかし、いつも生徒の前では忙しい素ぶりは見せず凜として優しく振舞っている。その優しさは、鋭い目からくるイメージとは裏腹で、生徒から「ギャップがたまらん!」ということで人気を得ている。多分それだけじゃなく、空梅雨のしさも手伝っているのだろう。
噂によるとファンクラブがあるとかないとか。
だが、俺の前ではいつも忙しそうにしている。
まあ、長い付き合いだから優しくし合うするような関係ではない。
「あのさ、生徒會長の電話番號知ってる?」
「知ってるけど…お前まさか狙ってる?」
そう言って空梅雨は訝しんでいる様子で俺に聞く。その疑問はまるで、『お前があのにお近づきになれるなんて思うなよ』という意味を孕はらんでいるようにけ取れる。
「お前じゃムリだろ、ガハハハ」
窓側の席でお弁當を食べていた篠原しのはら先生が再び大きな聲で俺を罵倒ばとうしてきた。
うるせえデンジャラス…
「いや、狙ってはねーけど、ただ連絡を今取らなきゃいけないんだよ、てか空梅雨からつの攜帯からかけるから別に知ろうとしてねーし」
デンジャラスを無視して弁解をする。
「まー、いいけど、あいつ今岐阜にいるぞ?」
「それは知ってるよ」
「へぇ…珍しい」
「なんで?」
「いや、だって可憐が岐阜に行くことなんて私とあの子の擔任くらいしか知らないはずなのよ、可憐は直斗に心を開いたのかしら」
空梅雨は目をまん丸くして口元に手をやり足を組み、なにか考えている様子でボソボソと言っている。
「そこんところは分からん」
聞いたと言っても俺が過去に戻ったことで無かった話になっている。だからよく分からない。
「まあ、いいわ、ほれ」
「お、せんきゅ」
空梅雨は自分のスマホを取り出し一通り作して通話の畫面の狀態で俺に投げたあと機の上のパソコンに向き合ってタイピングを始めた。
『プルルルル…プルルルル』
結局、可憐は出なかった。
その日、俺は家電量販店のアルバイトで重い白家電を運び家に帰り、眠った。
可憐のことが気にり騒ぎが収まらず終始眠ることはできなかった。
5月9日木曜日
その日の晝休みも俺は二學年室に向かい、空梅雨からつの攜帯で可憐に電話をかけた。しかし電話先で聞こえるのは『プルルルル』といった乾いた音だけだった。
それからは昨日と変わらず、バイトで汗を流し、家で淺い睡眠をとった。
5月10日木曜日
今日もお晝休みの時間に二學年室に向かおうと授業が終わってすぐに教室を出ようと扉を開け廊下に踏み出そうと思ったときに重みのある衝撃をじた。
「おう…ごめん」
「あ、いえ、ごめんなさ…」
俺とぶつかったの子は見たことがある子だった。というか俺の嫌いなやつ。
目が合うとあからさまに顔を歪められた。
「なに運命の出會いをじてるのよ、気持ち悪い」
「じてんのはお前のほうだろ」
「うざい」
俺とぶつかった可憐の妹の遙希はるきはどこか機嫌が悪そうだった。
「てか、どうしてお前がここにいるんだ、誰かに用かよ」
「あんたに用があって來たのよ」
「あ、俺でしたか、モテることやら」
「ホントうざい」
教室の扉でそんなやりとりをしていて気づかなかったがクラスメイトたちが驚いた様子でこちらを見ている。
「え、なんで直斗が遙希ちゃんと話してるんだ」「あいつあんな可い子と仲がいいんだよ。くそ…」「あの子って確か、バスの可い子だよな?」
このじ…可憐のときと同じだな。
けれど過去に戻ったため、その事実も俺の手で抹消した。
もちろん近くで翔かけるがニヤニヤしている。
「いいからちょっと來なさい」
一階にある談話室と書かれている廊下に出した休憩スペースで俺は自販機で買ったココアのプルタブを開け口をつける。
「で、どーしたんだよ」
遙希は、教室の時の威勢を忘れたかのような聲音でこう言った。
「——お姉ちゃんの様子、どう?」
遙希のその言葉に俺はゾッとして、背筋に電撃のような衝撃が走った。
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