《過去に戻り青春を謳歌することは可能だろうか》16話 過去に戻り後悔を拭うことは可能だろうか 10
「——お姉ちゃんの様子、どう?」
遙希のその言葉に俺はゾッとして、背筋に電撃のような衝撃が走った。
「え?なんでお前がそれを聞くんだよ、お前ん家ちにいるんじゃねーの?」
短い沈黙…
「うそ…」
遙希はを噛む。
「直斗の家に行ってないって…ならお姉ちゃんはどこに…」
「ちょっと待て、どういうことだよ」
「昨日岐阜から帰ったんだけどね、夕方になってお姉ちゃんがまた家出したのよ。その時のお姉ちゃんすごく落ち込んでて…」
その話を聞いて背筋に大量の冷や汗をかく。一昨日から続いていた騒ぎがピークを迎え、頭の中では様々な思考が渦巻く。
「なんで…可憐さんは落ち込んでるの…」
まずはそこから聞いて、しずつ頭の中を整理しようと思った。
けれど可憐が落ち込んでいる理由は分かっていた。
「おばあちゃんが…」
遙希は下を俯いた。その目は潤っている。
可憐に対する不安。そしておばあちゃんに対する想い。それらが遙希顔を濡らした。
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「わかった。ありがと…お姉ちゃんは何とかしてやるから安心しろ」
「ちょ、ちょっと…!」
そう言って俺は遙希の言葉を最後まで聞かずに走り出した。
まずは自分の教室に戻り荷を全て持ってから再び一階に降りて學校指定の靴を履き走り出した。
可憐のいそうな場所。
それはあの公園だった。
——いなかった。
それ以外にいそうな場所なんて分からない。
なぜなら俺はそこまで可憐のことをよく知らない。一緒にいる期間がないからだ。けれどそれだけでは終わらせてはいけない。
再び走り続け1人になれそうな公園やカフェ、んなところに向かった。
中學の頃に蓄えた力が盡きるまで俺は走り続けた。
走っている途中何度も心の中でんだ。
——過去に戻してください。
學校を飛び出してから4時間が経ち現在の時刻は17時20分。
一旦家に帰り犬のご飯を作りコンビニで買ったおにぎりとパンを胃にれ、制服を洗濯機の中に放り込んだ。
そして俺は黒タイツを履き、その上からバスパンを重ね、白い長袖のジャージを著て再び家を出る。
可憐の捜索を23時まで続けた。
もしかしたらもう家に帰っているのかもしれない。しかし確認を取るが無い。家も知らない。
自分の無力さに辛くなり走りながら俺は泣いていた。
「うう…うっ……か、過去に…過去に戻してくれよ!頼むから…頼む…」
心當たりのある次の場所に向かいながら何度も口に出していた言葉は、いつのまにか降ってきた雨に流されていった。
ついには大雨になり頬を伝う雫も數を増した。
そのせいで、人を探しているのに何も見えなくなっていたと思う。
不安が渦巻いている俺には、もはや何も分からなかった。
結局見つけることはできず、家に帰り、風呂にり布団にを投げた。
久しぶりに走りとても疲れた。なのに眠ることはできなかった。
5月10日金曜日
結局一睡もできなかった俺は、いつもよりも1時間近く早く學校に向かった。
今日の天気は、昨日の大雨がこの日に降らす予定だった雨もついでに全て流してしまった。と言っているような雲ひとつない快晴。
學校に著きいつもの駐場に自転車を止める。
その駐場はどこか懐かしかった。
そういえば初めて過去に戻ったのはここだったな…
あの訳のわからない現象はここが始まりだ。
普通の人ならばすぐに原因を調べるのかもしれない。
間違いなくアニメや漫畫、小説の主人公はその謎を解明し、もとの普通の人間に戻れるように時間を使うだろう。
けれど、俺はその気にはなれなかった。ならなかったし、いつかしずつ分かっていくのだと思っていた。
それに…
その不思議な現象をから切り離すことはしたくないのだ。
その理由はさっぱり分からない。
一つでも理由を挙げろと言われるのならば、“なんとなく”という薄っぺらいものしか出てこないだろう。
けれど、既にその現象から切り離されているのではないのかと思う。なぜなら何度も願ったのに結果は戻れなかったから。
育館からは、バスケットボール部のドリブルの音、ボールがゴールネットをくぐる音、バッシュの音、部員の掛け聲、様々な音が混ざり合い、その演奏の音は、正まさにザ・青春そのものだ。
育館にると男子バスケットボール部の部員全員が俺の方を見て立ち止まった。
「おい直斗!ついに…ついに部するのか?」
とんでもないスピードでダッシュしてきた翔かけるが抱きついてくる。
本當に暑苦しい…
翔の聲を聞いた他の部員が俺と翔の方へダッシュしてくる。
「直斗先輩がいれば県大會は余裕だ!」
1年生だと思われる元気な部員がガッツポーズをする。
やめろ、言い出しにくい
「直斗…お前ってやつは…」
ガタイのいい3年生の部員が目頭を押さえる。
だからやめろ!!言いだせなくなるだろ!ゴリラ!
ええい、面倒くさい鬱陶うっとおしい恥ずかしい嬉しい
「あの…すみません…俺部しにきた訳じゃ無いっす」
その瞬間、場が凍った。
「っち…なんだよ」
2年の神谷かみやが舌打ちをする。
やめろ!心が痛む!
「勘違い…すみません…」
さっきの元気の良さとは真逆な寂しそうな態度を取る1年。
やめなさい!心が痛む!
他の部員は練習を再開し、殘ったのは俺と翔だけになった。
「ごめんな」
「別にいいって、そんな簡単にはれんもんな、こちらこそ鬱陶うっとおしいことしてごめんな」
「悪かった」と俺の前で両手を合わせ翔はニコニコしながら謝ってくる。
「ほんと暑苦しかった」
「すまんすまん」
「なあ翔」
「ん?」
「バスに夏ノさんっているでしょ、呼んでくれね?」
翔がニヤッとする。その顔をするときは何かを面白がっている顔だ。
「この前、生徒會長と一緒に學校來てたよな?」
「その理由はこの前話しただろ」
「え?そうだっけ?」
キョトンとしている翔の顔を見て思い出す。過去に戻る前は晝休みに話したが、俺が過去に戻ったことでそのできごとは抹消されている。
「いや、勘ちが…」
何か思い出したかのように言葉を區切る。
「あ、でもなんかそんな気がする」
今、こいつはなんて言ったのか。
「どうゆうことだよ」
「なんか直斗からそんな話をどこかで聞いたような気がしてさ、ま、気のせいか、そんでどういうことなんだよ〜」
過去に戻る前のことは過去に戻ることで無かったことになると思っていた。
もしかしたら“俺と関わる”そのことがキーになりしだけ関わった人の記憶に殘るのかもしれない。
ほら、何もしなくても分かってくるもんだろ。だから分かろうとしなくてもいいんだ。
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