《過去に戻り青春を謳歌することは可能だろうか》19話 私の知らない世界の君

目を開けると、岐阜の病院のり口前に俺は立っていた。

「戻ったのか…」

肩に下げていた鞄を開き、財布を取り出し中を確認する。

土曜日は財布に2000円しかっていなかったが今は帰りの電車代がしっかりっている。

「よかった…さすがに『未來の経済回してきました』とかシャレにらねーからな」

財布を戻し攜帯で時間を確認する。

20:04

5月7日 水曜日

「ふぅ…」

スマホに表示されている文字を見て安堵の息をらす。

「あ、そうだ」

一旦病院から離れ、近くの雑貨屋さんに店。

そこの雑貨屋さんは閉店時間に近づいているため、客足が滯っている。

「ありがとうございましたー」

の店員から小灑落た箱にったハンカチをけ取り外で封を開け、ゴミを鞄の中に突っ込む。

予想だが可憐が病院から出てくるとしたら23時を回った頃だと思う。だから時間はまだ全然ある。その時間を潰そうと思えばコンビニに寄ったり書店に寄ったりして適當に潰せるが、俺はそれをしなかった。

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「……」

病院の自ドアの橫の長椅子に座りし仮眠を取った。

途中、警備員さんの目覚めのコールで起こしてもらった。

警備員にめっちゃ怪しまれながら待つこと3時間。

病院の自ドアが開く。

中から出てきたのは黒のカーディガンを著た長い黒髪の高校生。

可憐は俺に気づくことなく、自ドアから數歩歩いたところで立ち止まり辛そうに涙を流している。

學校での姿は、いつも堂々としていて威厳のある佇たたずまいだが、今は違う。

聲を堪え泣いている可憐は、弱々しく、もうし空が明るかったら見えなくなってしまいそうなくらい儚い。

睡眠を削って必死に探した人が目の前にいる。

涙が出そうになったが必死に堪え、俺は可憐に歩み寄った。

「——ねえ、直斗、今度は未來どこから戻ってきたの?」

そう聞いたあと、2人の空間に沈黙が降り注いだが、直斗が吹き出し、その沈黙を一掃する。

「可憐さんは本當に勘がいいなー」

「まーそれもあるけど、直斗から過去から戻ってきたオーラがすごいのよね」

「どういうこと?」

直斗が過去から戻ってきたという拠はいくつかあった。その拠は、私が本気で信じていなかった“過去から戻った”という現象を心から信じさせた。

「まず一つ目は、直斗が渡してきたハンカチ」

手に持っているハンカチを広げる

そのハンカチの右下には小さく『飛騨 高山』という黒い刺繍がっている。

駅から病院までどこも寄らなかった。つまりハンカチなんて買っていない。

「伏線ふくせんってやつ?」

「単なるミスでしょ」

「まーそーかも」

多分直斗は心もも疲弊ひへいしきっていたのだろう。だから…

「髪のも急に寢癖つけるし、顔は來る時よりもゲッソリしてる、クマなんか半端じゃないわ」

「おめかしすればよかったなー」

のない適當な言葉を発する。その聲音からも疲労が伝わってくる。

「それとね、直斗と會ったとき、一瞬記憶にない映像が頭に流れたのよ」

「…どんな?」

直斗の聲には、さっきとはまるで違う真剣さが含まれている。

「えっとね、本當に一瞬だけだったから詳しくは覚えていないけど、直斗が警察に職質されているところ…っぶ…」

よくよく考えると笑えてしまい吹き出してしまう。

「警察の方からのスカウトだったかもよ?」

「なわけないでしょ」

「他にはそういうやつは無かったですか?」

「んー」

記憶をし辿たどり一つ心當たりを汲み上げる。

「今日屋上で見たんだけど、直斗の部屋で私が泣いていて、それを見た直斗が『俺を過去に戻してくれ』ってんでた」

「…やっぱりか」

「過去に戻る前に直斗と関ってれば、その時に過ごした時間は帳消ちょうけしにならなくて何らかの形で記憶に殘ってるってこと…?」

この持論は確信に近いものだと思う。

単なる私の持論でしかないけれど

「多分そうだと思います。翔かけるって名前のクラスメイトがいるんですけどね、そいつが俺と晝休みに可憐さんのことについて話した気がするって言ったんです。確かに話した事実は俺の中ではあるんですけど一回過去に戻っているはずだから、その事実は消滅していると思ってたんですが、可憐さんの考え通りのことが起こっているようです」

顎をりながら直斗は淡々と説明をした。

けれど、それとは別に説明してほしいことがあった。

「私の話って何よ」

「あ…可憐さんめっちゃ可い…とか?」

「はぁ…まぁ今日は別にいいわ、直斗がしっかり睡眠をとって回復した時にゆっくり話しましょ」

「は、はい」

言いにくいような話でもしてたのかしら、でも多分私が直斗と一緒に學校に行ったことよね、3學年でも々噂されていたし。

「つまりフラッシュバックした記憶は事実なのよね」

「俺らの考えが合っていれば」

なら…

なら、もう一つのフラッシュバックした記憶も事実だとしたら…

記憶の中の私は、土砂降りの中、傘を差し歩いていた。雨が吹き込み、傘の意味を果たしていなかったと思う。

知らない道だったから、私は一人で遠出でもしていたのだろうか。

5メートル先、十字路が見えた。

——顔をくしゃくしゃにした直斗が私の前を全速力で橫切る。

『直斗と関わった人』との時間は、直斗が過去に戻ったとしても、その斷片は記憶に殘る。

——直斗と関わった人…

ならば、あの直斗は、私のことを探していたのだろうか…

私の知らない世界で、私のためにずっと戦っていたのかな…

直斗と目が合う

急に顔が熱くなり急いで橫を向く。

「どうしました?」

「な、なんでもないわよ…さ、直斗はもう休みなさい、私は戻るわ」

直斗が不安そうな眼差しを向ける。

「大丈夫よ…」

直斗の不安を取り払いたかったが、自信のない聲になってしまう。

これから私が直面するであろう悲しみ。

直斗が戻ってきた時點でもう分かっているのよ

「可憐さん」

急に立ち上がった直斗は私の目を真剣に捉えた。

「落ち込むときはとことん落ち込んでください。どんなにすごい落ち込み方でもいい…」

そして彼はこう言い放った。

「俺が何度もやり直して、何度も助けてやりますから…」

ああ、本當にこの人は…

「そんな力あるのかしら?」

「ありますよ!」

まだ直斗のことを全然知らない

「そもそもそんな顔で來られたら引くわ」

「それはひどい」

知り合って3日しか経っていない

「なら、頼んだわ」

「了解です」

でも、もう仕方がないよね

「いいから早く行きなさい」

「はーい、何かあったら言ってくださいね」

「わかったわ」

だって…

「それじゃ」

「さよなら」

だって私は…

「…好きよ。直斗なおと…」

をしてしまったのだから。

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