《異能があれば幸せとか言ったヤツ誰ですか??》警醒
翌朝、コウジは自室のベッドで目を覚ました。
時刻は六時半。いつも起きる時間よりも一時間ほど早く目が覚めてしまった。
普段なら二度寢をするところなのだが、不思議と眠気がない。この狀態では二度寢もできないと思い、暖かい布団に別れを告げ、冷たいフローリングとご挨拶をする。
そのまま一階へ下りると、朝食の準備をしているスミレが驚いた顔をしてこちらを見てきた。
「どうしたの、お兄ちゃん?合でも悪いの?」
「普通だよ!たまたま目が覚めただけだよ」
偶然とはいえ、早めに起きただけで調を心配されるのは悲しい。これで早起きは三文の徳という諺は噓であると立証されてしまった。
「お兄ちゃんが早起きなんて、珍しいね」
「ああ、なんか二度寢もできなくてな…」
スミレの手伝いをしながらそんな會話をする。もちろん手は休めない。
「いつもこの時間に起きてくれたらいいのに…」
「それは無理だな」
毎日この時間に起きていたらおそらく俺のは持たないだろう。そう考えると、俺よりも早くに起きて朝食の準備をしているスミレはさぞ大変だろう、と素直に心する。
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朝食の準備を終えた俺とスミレは、親父を起こして朝食を並べていく。
いつも通りに全員が席に著いたところで朝食を摂り始める。俺は、目の前に置かれたサバの味噌煮を食べようと箸をばした。しかし、サバに箸が屆かない。違う、箸そのものが無くなっていたのだ。
「え、え?」
意味不明の狀況に戸う。するとスミレが俺の様子がおかしいことに気付き俺を見る。
「どうしたの…って、何してんの」
不審者を見る目で俺を見てくる。辛い。
「いや、箸が消えて…」
「ハぁ?寢ぼけてんじゃないの?」
やや怒気の込められた聲でそう言われたが、俺自何が起きているのか理解できなかった。
箸を落とした覚や音は無かったし、テーブルの下を探しても落ちていなかった。
ただ、気になることに、俺の茶碗の底が濡れていた。
俺が思ったことは、まるで昨日の休み時間のようだと言うことだった。
結局そのあとは別の箸を使ったのだが、帰り道に新しい箸を買ってくるよう、スミレに頼まれたのだ。當然スミレには怒られたのだが。
そして帰り道。佐藤と佐伯と三人で無駄話に花を咲かせ、その後百円ショップにて箸を購。し遅くなってしまった。空は既に星が瞬きだしていた。
「もうこんな時間か…」
白い息を吐き、自宅の方向へ足を向けて歩き出す。
冬のこの時間は人の姿はほとんどなく、どこか寂しい景だった。
頭の中で今日起きた出來事を回想しながら、近道をするために狹い路地へっていく。
ふと、前方から黒い人影が向かってくる。この狹い路地では人が二人やっとすれ違うことができる程度の道幅しかないため、俺は片側の壁にへばり付くような形で道を開けた。
人影が徐々に近づいてくると、その人が大きめのベンチコートを羽織っていることがわかる。そして、その人影はすれ違いざまにこう言ったのだ。
「次は人になるぞ」
突然のことで何のことを言っているのか理解できなかったが、一つのことが脳裏をよぎる。
例の手紙の送り主のことである。もしかすると、こいつが手紙の犯人なのではないかと疑ってしまう。そして、一度生まれた疑念はなかなか消えないのだ。
俺はすれ違おうとしていた足を止め、そのまま振り返り、呼び止めようとする。しかし、
「いない…?」
その人影は消えていたのだ。無音で走って行ったとしても、この路地は狹く、しばらく曲がり角がないため、どれだけ速く走れたとしても、この短時間では一番近くの曲がり角へ到達することさえ困難だろう。左右のフェンスは高いわけではないが、一番上に有刺鉄線が張られている。それにもし登ろうとしようものなら、必ず音を立てるだろう。
一どうやってこの場所を音もなくこの短時間で抜け出すことができるのだろうか。
そんなことを考えていると、右に細やかな振が伝わってくる。攜帯電話のバイブレーションである。ディスプレイを點けてみると「スミレ」と表示されている。いつもならメッセージアプリでやり取りをしているのに、いったい何の用かと思いながら著信に出る。
「ちょっとお兄ちゃん!今どこ!何時だと思ってんの!」
電話に出て直ぐに怒鳴られ、攜帯の畫面から現在時刻を確かめる。
「まだ七時だぞ?」
「『もう』七時なのよ!遅くなるなら連絡くらいしなよ!」
「いや、俺もこの時間になるなんて思わな――――」
言い訳を最後まで言い切る前に電話を切られてしまった。
電話口からはツーツー、と無機質な音が繰り返されていた。
男子高校生がこの時間帯まで外出するのは普通と思っていたが、どうやらスミレの中では違っていたらしい。
「ったく、いきなり怒鳴りやがって…」
俺は小走りになって帰宅したが、結局スミレにこっぴどく叱られたのだった。
その後、浴と夕食を終えた俺は自室のベッドで橫になり、路地裏での人影について一人で考えていた。
奴の正、狙い、報網、そして『次は人になる』という発言の意味。
ない頭で必死に考えてみる。だが、答えは出ない。ただの思い込みだったのだろう。そう信じ、俺はそのまま目を瞑って眠りについた。
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