《異能があれば幸せとか言ったヤツ誰ですか??》星が瞬く夜空の下。噴水の前で。

浜曷に促されるまま、ヒカリとコウジは進路指導室へとっていった。

校舎からは想像もできないような薄汚い部屋で、窓からは生暖かい夜風が吹き込んでくる。

浜曷は、コウジとヒカリに対峙するようにパイプ椅子に腰掛けた。

「まず、二人とも無事で何よりです」

「は、はぁ…」

コウジが返すと、浜曷は足を組みながら視線を鋭くし、今度はヒカリに問いかけた。 

「何故、自分が呼び出されたか。わかりますね?」

「分かってるわ。一人で大暴れしたことでしょ?」

「ええ、その事です。親さんが亡くなったことはお気の毒ですが、それであなたが暴れ、學園から死者が出ていたら、あなたはどう責任を取るつもりだったのですか?」

浜曷は淡々と、且つ、確かな怒りを込めながら話す。

「悪かったわよ」

反省のはほとんどなかったが、ヒカリはそう言った。

「今回は神的に不安定であったということにしますが、今後こう言ったことがあれば、対処を考えますからね」

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浜曷は鋭く睨むようにヒカリに告げた。

そして、そのまま視線をコウジへと向けた。

「あなたもです、塚田君。」

「へ?」

矛先が自分へ向き、素っ頓狂な聲がれる。

「拠點を変更するように鵞糜さんに指示しましたね?」

「あっ…」

「拠點は學園のAIが演算し、最適な場所に設定されています。その場所を変えると計算が大きくズレるので、降下點や敵のきが大きく変わるんです。知らなかったということで不問しますが、今後は勝手に拠點を変えないでください」

「は、はい……」

「話は以上です。もう時間も遅いので、速やかに帰寮して明日からの授業に備えてください」

そう言われ、二人は指導室を後にした。

帰路。ヒカリとコウジは歩いていた。

空には數多の星が瞬いている。

思うに、星は輝くものなのではなく、輝くものを星と呼ぶのだと思う。そして、それは決して理的にではない。

輝かしい功績や生涯を終えたものだけが、死後、星になれるのだと思う。

そんなことを考えていると、前を歩くヒカリがふと足を止めた。

視線を下ろすと、立ち止まったヒカリの前に小さな噴水があった。

「なんで、アタシを助けたの?」

ヒカリが呟くように問いかけてきた。

「いや、それは…」

言いかけて、言葉が詰まった。

この質問の意図を図りかねたからだ。

この問いの真意は、「誰に指示されたのか」ではなく、「なぜその指示を飲めたのか」という問いだろうか。

「城嶺に、生きていてしかったからだ」

逡巡の後、コウジは答えた。だが。

「噓よ!アンタがアタシに生きていてしい訳ない!気遣いなんていらないから、本當のことを教えて!」

ヒカリがんだ。

「城嶺に生きていてしいと、心の底から切に願う人がいたんだよ」

コウジはそう言いながら、ポケットから一つの封筒を取り出した。

「……え?」

その封筒には綺麗な字で『書』と記されていた。

それは、出撃前に浜曷から渡されたである。

「城嶺の母さんの書だ。今から読み上げるぞ」

丁寧に封を切り、紙面を一言一句違えずに読み上げた。

〈ヒカリヘ。

ママはもう、長くありません。

なので最期に、あなたに手紙をします。

まず、本當にごめんなさい。

本當は全て思い出していました。

けれど、それを明かして、あなたのことを忘れてこの學園から立ち去ってしまったら、あなたに謝ることもできなくなってしまう。

それが怖くて言い出せませんでした。

そして、2年前のあの日のことも。本當にごめんなさい。

私しかあなたを支えてあげられないのに、任せに、あなたの心に一生消えない傷を殘してしまいました。

きっと謝って解決することではないと思います。

それでも、謝らずにはいられません。

こんなママで、本當にごめんなさい。

ママはあなたを産めたことを誇りに思っています。 どうか、優しく育ってください。

ママより。〉

一通り読み終えると、ヒカリが悔しげに歯がみしながらこう言った。

「なによ…。今更母親ヅラ…?呆れたわ。こんなの子供ってことが恥ずかしいわ…っ!」

力強く握られた拳は、怒りからか小刻みに震えている。だがコウジは察していた、ヒカリの怒りは寂しさの延長線上にあるものだと。

コウジは再び手元の手紙に視線を落とす。

そして読み上げた、その最後の一文を。

〈追啓 玉子焼き、上手になったね〉

「どう…して………」

ヒカリは、膝から地面へと崩れ落ちた。

「どうしてもっと早くに言ってくれないのよ!」

ボロボロと、大粒の涙を地面へと降らせながら。彼は悲しくんだ。

しかし、それは単なる悲哀ではない。

今までの辛労しんろうが報われ、積善せきぜんの余慶よけいを噛みしめている様子だった。

「城嶺。城嶺の母さんは、全部知ってたんだよ。城嶺自が今までしてきた、努力も、忍耐も、苦労も。全部見ていてくれてたんだよ」

宥めるように、ヒカリヘ言う。

「でも…。もうママはいないのよ…っ!今のアタシには…多分……何も無いわ」

「……あるだろ」

「何がよ…っ!今の私に何があるって言うのよ!」

「俺だ!!俺が!お前のそばにいてやる!」

「…えっ?」

コウジがぶと、ヒカリは目を丸くした。

「お前が何もかも手放しても!俺だけは殘ってやる!だから何も無いなんて簡単に言うな!」

「なんで……なんで私に優しくできるの………?」

不思議そうにヒカリが尋ねる。

「優しく、なってしいから」

「え?」

「人って、優しくされたら優しくなれると思うんだよ。逆に、優しくされなきゃ、優しくなれない。優しくない人は、優しくされなかった人だと思う。俺がお前に優しくして、お前が優しくなれるのなら、俺はいくらでもお前に優しくなれるよ」

そう言うと、コウジは優しく微笑んだ。

すると、釣られるようにヒカリも笑う。

「ふふ…なによ。それ」

「わ、笑うなよ…恥ずかしいんだぞ」

「でも、ありがとう。悔しいけど、ちょっと元気出たかも」

「なら、良かったよ」

コウジがヒカリに手をばす。ヒカリはそれを摑み、立ち上がる。

「帰るか」

「そうね」

二人は、ゆっくりと歩み出した。

真っ直ぐに。迷いなく。

それはどことなく、二人の心を表しているようだった。

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