《異能があれば幸せとか言ったヤツ誰ですか??》撤退

「〈境界超越Manifold Breaker〉ぁぁぁあああああああ!!!!!」

と同時、サナエは服と刀を殘して消失した。

「鵞糜さんっ!」

ハナの顔が一瞬にして青ざめる。

だが、その判斷力と反応速度は全く変わらない。

ハナは宙空でぶ。

「お姉ちゃん!!」

そして再び響いた聲は、アテスター越しにレナとハナの両者の聲が重なったものだった。

『開華ッ!』

「〈不一為二-定熱神通圧Pressure〉」

「〈不一為二-定圧神通熱Temperature〉!」

瞬間、ハナのは空中で大きく軌道を変え、マサタへ向かい高速で移する。

マサタはハナに背を向けたまま、足元に転がった刀の鞘を踏み抜いた。

すると、弾かれるように刀が宙を舞う。その柄を摑み、引き抜く。

完璧な抜刀。鞘はまるでその場に固定されているかのように微だにしなかった。

そして居合の要領で、振り返りながら剝き出しの刃をハナへ向けて振り抜いた。

ハナはそれを躱すように、後方へと軌道を変更する。

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惜しくもその鋒はハナの首を切斷する事はなかったが、アテスターと、その向こうのわずかな首の皮を切斷していた。

一筋、元を生暖かいが伝う。

もう一ミリ踏み込んでいれば、彼の命はなかっただろう。

そして、彼はまたぶ。

「お姉ちゃん!」

瞬間、今度はマサタのが大きく後方へと飛ばされる。

だが、マサタは空中に3次元を展開し、そこに著地した。

「邪魔すんな」

そう吐き捨てると、マサタは自の周囲を3次元の壁で囲み、大きな立方を生み出した。

それはまさしく、最強の城と呼ぶにふさわしいだろう。

どんな強大な力でもっても、あの障壁を破ることはかなわない。

しかしそんな堅牢な防壁は、時間にしてわずか數秒で蒸発した。

だが元に戻ったその空間に……マサタの姿は無かった。

周囲を見渡してそれらしき人を探すが、いない。

「………消えた…?」

嘆していると、コウジの背後から聲がかけられた。

「逃げられたわね…。アタシたちは、一旦學園へ戻るわよ」

ヒカリだ。だが、その対応は至って冷靜だった。

「お、おい。逃げられたんだろ…?追わないのかよ…?」

思わず聲がれる。

だが、その聲に答えたのはヒカリではなくレンタだった。

「いや。今追ったところで彼を保護できる確証がないんだよ。それに、そもそもどこに逃げたのかもわからないからね」

落ち著いて対処するヒカリたちに、コウジは言いようのない憤りをじた。

「そうじゃねえよ!!お前ら!大切な仲間が殺されたんだぞ!何でそんなに落ち著いていられるんだよ!悔しくないのかよ!」

冷靜さも落ち著きも、きっと大切だ。

だが、目の前でクラスメイトが殺されたのにこれほど冷靜で良いのだろうか。

それは亡くなった仲間にも失禮であるし、何より、自分が死んだ時に誰も悲しむ人がいないと考えると、恐ろしくて仕方がない。

もう自分のことを覚えていてくれるのは學園の仲間しかいないのに、その仲間が悲しんでくれないのは、あまりにも殘酷すぎるのではないのだろうか。

だが、そんなコウジの聲を聞き、レンタが返した。

「64人」

「……え?」

「64人。これまで僕の前で死んでいった友達の數だよ」

「…………」

その真剣な眼差しに圧倒され、聲が詰まる。

「僕らだって、目の前の死に思うことがないわけじゃないさ。今までだってそうだよ。でもね、今言った64人のうち25人は、君みたいに死んだ仲間の仇を討とうとして無理をした人達なんだ」

「で、でも……」

「気持ちはよく分かる。僕も最初はそうだったから。でもね、那原マサタを確保するっていう側面でも、鵞糜さんの無念を晴らすっていう側面でも、ここは一旦退いて作戦を練り直すのが最善だと思うよ」

コウジはレンタの言葉に圧倒された。

それは、その理論には全く綻びがなかったから。

そして何よりも、その眼差しと経験による発言の重みが、レンタの口から出る言葉をより力強くしていた。

「良いかい。この學園で生き延びることを考えるなら、論や論は何の役にも立たないよ。でも、知識と知恵があればどんな問題も解決できる。任せに行する人は迷だし、すぐに死んでしまうんだ。考えてからけるのが人間の特徴なのに、思考を放棄したら〈排斥対象アイツら〉と何も変わらないよ」

「…………分かった…」

コウジのその言葉を聞いて、レンタは立ち去った。

レンタの理屈には心から納得しているし、賛同もしている。

だが、悔しくないわけではない。

悲しくない筈がないのだ。

コウジは、振り返らずにレンタの背を追った。

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