《異能があれば幸せとか言ったヤツ誰ですか??》立案

のヘリの中は、重く淀んだ空気が漂っていた。

かと言って、沈黙が満ちているわけではない。

「ハナ、また油斷したでしょ」

「ごめんなさい…」

盡つくし姉妹、姉のレナが妹のハナを説教していたのだ。

その聲がヘリのプロペラ音と混じって、形容し難い嫌な雰囲気がこの空間を乗っ取っていた。

「ハナはいつもそうよ。真剣にやればできるのに、自惚れて図に乗って失敗するの。何回繰り返せば気が済むの?」

「……はい…」

「“はい”じゃなくて。あの時チャンスはあったわよね?何で相手の隙を突かないの?見落としてたの?それとも見えててわざと放置したの?」

レナのハナに対する叱責には全くの容赦がなく、見ている方が酷だった。

ハナは戦闘中のような快活とした聲ではなく、苦しみながら嗚咽混じりの聲で返事をしていた。

「ま、まあ…そんなに責めないでよ…。ハナさんも頑張ってたと思うし……」

レンタが間にろうとするが。

「ダメですよ。ハナのせいで那原マサタを逃しましたし、何より鵞糜がびさんが亡くなったんです」

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「でも、ハナさんがいなかったら、僕ら全員やられていたかもしれないし──」

「いいんです…。私のせいなんです……。すみません……私のせいで…」

ハナは俯いて、自分の膝とその上の拳を睨んでいた。よって、その表は全く見えない。

だが、その聲音が、震える肩が、悔やんでいることを示していた。

この中で、誰よりもサナエの死を惜しんでいるのはハナだろう。

目の前で、半ば人質と化したサナエを殺されたのだ。

悔しいに決まっている。

ヘリの中の空気は、より一層重く、鈍く、淀んだ。

だが、そんな空気の中を1時間ほど耐えれば、學園の校舎が見えてきた。

ヘリが著陸するとすぐに、浜曷に會議室へと案された。

「まずは、戦闘お疲れ様でした」

『………』

その場にいる全員の返答は沈黙であった。

それもそうだ。大切なクラスメイトを失って、快活に返事ができるはずがない。

「それでは、対那原マサタ戦における作戦會議を行います」

浜曷はそんな雰囲気を知ってか知らずか、話を強引に開始した。

「まず、彼の才華ですが、次元を変える能力です。非常に強力です。しかし、意識してから発までの間に1〜2秒ほどの間隔が開くことが明らかになりました。また、その時間は那原マサタからの距離と、次元を変える空間の積と相関関係にあるようです」

「じゃあ、遠距離攻撃ってことですか?」

レンタがそう言う。それに浜曷が返す。

「いいえ。そうでもありません。たとえ遠距離でも攻撃に勘付かれてしまっては無意味です。彼の才華は攻防一なので、自のすぐ近くに防壁として展開される恐れがあります」

「じゃ、じゃあ、どうするんですか…?」

「最も有効であるのは、多數同時攻撃であると考えるべきでしょう」

「それってつまり…」

「はい。全員で畳み掛けるべきです」

「でも、他の人と一緒に戦ったことなんてないですよ!」

「ですが、それ以外に手立ては考えられません。彼は、単純な戦闘力も鵞糜さんや盡ハナさんを上回っています。何方どなたかが単獨で制圧するのは難しいでしょう」

「面識もない人との共闘なんて、無意味どころか妨害ですよ!」

レンタが珍しく聲を荒げる。

「これが最善案です。彼に対しては、100のダメージを一回與えるのではなく、1のダメージを百回與える方が効果的です。連続して、回避が困難な攻撃を続けるべきです。それとも、平佐名君は一人で彼を取り押さえられますか?」

そう言う浜曷の態度は、やけに攻撃的な気がした。

ただでさえ皮がひりつくような空気が、より一層そのひりつきを増した。

レンタは悔しげに歯噛みしながら食い下がった。

「では、攻撃を多數同時的に行うという方針で。この方針は、SSクラスの生徒全員にも伝えます。那原マサタの所在を把握した場合、SSクラスの生徒とこの場にいる全員で彼の制圧を行います。その他の連絡は隨時行います。では、解散とします」

會議室から一人、二人、と人が立ち去っていく。

やがて會議室には、浜曷ただ一人が殘った。

手元の資料を見つめる。那原マサタ。

資料通りであるなら、彼は……………………。

腹立たし気に廊下を闊歩するレンタと、その後を追うコウジ。

「あんなの作戦なんて言わないよ!もっと、綿に計畫を立てなきゃダメなのに!」

「ま、まあ…落ち著けよ……」

「落ち著けるわけないよ!鵞糜さんを殺せるような能力を持っていて、さらに武道の経験もある人相手にあんなガサツな計畫なんて!どうかしてるよ!!だいたいもっと───────」

と、言いかけたところでレンタは発言を中止した。

否、せざるを得なかった。

それは、けたたましいサイレンのせいだ。

『學園の全生徒と職員に急連絡!學園の全生徒と職員に急連絡!』

無機質な機械音のような聲が、アテスターを通して鼓を震わせた。

「なんだ?」

だがその聲は、衝撃の事実を告げた。

『侵者多數!侵者多數!総員警戒態勢!』

「……………は?」コウジのから、聲がれた。

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