《異能があれば幸せとか言ったヤツ誰ですか??》傭聘

「罪人でも咎人とがにんでも良いです!でも!悪人にはなりたくないんです!俺は俺の正義を曲げたくないんです!」

と涙で顔面を汚しながら、マサタはんだ。

その言葉を耳にしたコウジは、顔を俯かせ、肩を震わせた。

「………そ…かが………」

小さな聲で何かを呟く。だが、獨り言にも等しいその聲量は、マサタが聞き取るには不十分だった。

だが、マサタはその発言を聞き返さなかった。

理由は単純。

コウジが、それを再びんだから。

「こんのぉ!クソバカがぁあぁあああああああああ!」

顔を上げたコウジは、が裂けるほどの大聲でんだ。

「へっ?」

思わず小さな聲がれるが、コウジは構わずに続けた。

「何が正義だ!何が悪だ!アホかボケぇ!良いかぁ!?どんなに高潔で高尚で潔白な理由があろうとなぁ!“他人を傷つけた時點で悪”なんだよ!」

小學校でも教わるような、単純な話だ。

『人を傷つけてはいけない』。

他者を傷つけてはならない。

他者を苦しめてはならない。

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他者を困らせてはならない。

そこに至るまでの過程に如何なる理由があろうと、だ。

「正義も悪も変わんねぇよ!お前がどんなにスゲぇ正義でも!鵞糜を斬ったお前は悪だ!」

コウジは怒鳴るようにマサタへぶ。

しかし、マサタは思った。

他人を傷つけた時點で悪なのなら、この世のどこに正義があるのか。

正義とは、一何か。

「じゃあ!正義ってなんだよ!」

対抗するように、マサタは自の心を聲に乗せた。

それに対し、コウジはゆっくりとマサタに歩み寄り、目前で屈んで答えた。

「いいか?正義は、お前の中に始まって、お前の中で終わるもんだ。要は自己満だな」

そう言うコウジからは、先刻のような荒々しさが抜け、授業を行う教師の様な落ち著きがあった。

でもな、と、コウジは続ける。

「多分、お前は勘違いしてる。悪と対峙するのが“正義”だと思ってるんじゃないか?悪は正義を包含してんだ。悪の反対は『善』だ」

「で、でも。この世に悪人しかいないって言う事実は変わらないんじゃ…」

「その通りだ。人を傷つけない人なんていないし、悪人に善行はできない。でも、過去に悪いことをしただけの“罪人”なら善行はできるだろ?過去なんて関係ないんだよ」

「じゃあ俺に!またあの時みたいに!他人に搾取されるためだけの存在になれって言うんですか!?」

マサタが涙ぐみながらぶ。

善行は即ち、自己犠牲である。

他者に“善く”することによって、他者にとって『都合が“良く”』なるのだ。

だとしたら、善行をするだけでは、いじめられていたあの時の様になってしまう。

他者に躙され、搾取されるだけのサンドバッグだったあの頃に。

「お前のためにある命を、全部他人に使えってわけじゃない。でも、目の前で苦しんでる人に手を差しべるのは、そんなに面倒じゃないし、お前にとっても損にはならないだろ?」

「お、俺は、それがしたかったんだ!でも!お前らがそれを邪魔したんだろ!?」

「違うな。お前がしたのは、加害者への制裁だ。俺が言ってんのは、被害者の救済だ」

マサタはいじめの加害者の報を掲示板で募り、その加害者に報いをけさせてきた。

だが、それは善行ではない。

毒を以て毒を制するだけなら、永遠に毒は抜けない。

マサタのとった行の結果として、いじめという柵しがらみから解放された人間もなからず存在している。

しかし、それによって彼らの傷が癒える訳でも無ければ、マサタの行が許される訳でもない。

し考えてから、コウジはこう言った。

「聖アニュッシュ學園に來い」

「…………………………はっ?」

マサタが目を白黒させる。

だがその発言は、マサタの『自分と同じ境遇の人間を救うために行できる力』を見込んでのものであった。

「ココなら、俺がお前の悩みも後悔も全部聞いてやれるからな。それに何より、お前なら才華が暴走して困ってる人を放っておかないだろ?」

「い、良いんですか…?こんなことした、俺が……?」

った様にマサタが尋ねる。

「俺の話聞いてたか?『過去なんて関係ない』んだよ」

コウジはそう言って、マサタに微笑みかける。

「良いよな?みんな?」

そしてコウジは周囲を見渡す。

すると、ヒカリ、ハナ、レンタが寄って來る。

「アタシは別になんでもいいわよ」

ヒカリはし素っ気なく。

「じゃあ!もうお友達だねー!」

ハナは快活に。

「鵞糜さんは生きていたけど、彼にしたことは無くならないからね。これからちゃんと頑張らないと、罪滅ぼしはできないからね」

レンタは厳しく。

それぞれが、新生としてマサタをれた。

「あぁ………っ!あ、ありがとうございますっ!」

マサタは何の比喩でもなく、泣いて喜んだ。

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