《異能があれば幸せとか言ったヤツ誰ですか??》端緒

いたわけでもない、呼吸を止めたわけでもない。

だが、息が荒い。

ここは決闘場。その場ゲート前の、待合用の椅子である。

その椅子に、一人の年が腰掛けている。

ダークブルーの短い髪、濃紺の雙眸、その名は那原マサタ。

彼はまさに、これから決闘に挑もうとしていた。

息が荒いのは他でもない、張と興からである。

手足は細やかに震え、気味の悪い脂汗が皮を伝う。

そんな今にも壊れてしまいそうな一杯に維持していると、そんなマサタを嘲笑うように軽快なファンファーレが響いてくる。

それと同時に、場ゲートがゆっくりと開いていく。

『両選手!場です!』

遠くの浜曷がそうぶ。

だが、その聲はまるでマサタに屆かない。

マサタはただ、正面で下卑た笑みを浮かべる男を睨んでいた。

その名は、譬聆アツシ。

學園で3番目の戦闘能力と、學園トップの支配力を有する。何より、マサタがこれから決闘を行う対戦相手である。

どちらからとなく、歩みを進める。

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自然と、薙刀を握る手にも力が篭る。

両者の理的な距離はゆっくりと、確実にんでいく。

そしてある程度まで近づき、止まる。

その視線は、まるで犀利さいりな刃の様に、互いの神を刺し貫く。

そんな視線から、相手が本気で自分を殺そうとしていることが分かる。

がちりつく様な殺気に當てられながら、両者は決闘開始時の所定位置についた。

わずかな沈黙が、直徑200メートルの円狀のフィールドを満たした。

その靜寂の中、浜曷が息を深く吸い込む。

それはつまり、間も無く開始の合図がかかるということ。

が強張り、薙刀を握り込む手にさらに力が加わる。

「戦闘…………………開始ッ!!」

その聲が聞こえると同時、アツシが一直線にこちらへ駆ける。

腰からアーミーナイフを取り出したアツシは、そのナイフをマサタのアテスター目掛けて投擲する。

鋒がこちらを向いたまま、狂いなく元へ飛んでくる。

それを理解し、ある程度の選択肢が頭に浮かぶ。

この飛來するナイフを、躱すか、け止めるか、弾くか。

そして選択肢を潰していく。

け止めることはできない。剰あまつさえ右手が薙刀で塞がれているのに、左手までもがナイフで塞がれてしまうのは悪手である。

弾くこともできない。薙刀で弾くのは技的に困難である上に、アツシの才華が不明である以上、彼のれたものに武れるのは可能な限り避けたいところである。また、才華によって弾くこともできない。マサタの〈境界超越Manifold Breaker〉は展開にし時間がかかる。

一度展開した異次元障壁を消し、再展開するとなると、その隙に攻撃をける可能が上がるだろう。

ならば最善の行は、回避に他ならない。

を僅かに右へかし、そのナイフを躱したマサタは、まっすぐに駆けて來るアツシを見據えた。

アツシとマサタ。

両者の戦闘において、薙刀により攻撃可能な範囲の広いマサタは、アツシが彼自の攻撃可能範囲まで接近する前に攻撃を仕掛けるべきである。

マサタは、アツシが程圏に突すると同時、アツシの元を切り裂こうと薙刀を振り抜いた。

「…………………はっ?」

だが、切れなかった。

回避されたわけでもなければ、け流されたわけでもない。

鋒きっさきは確かにアツシのれた。

それなのにその鋒は、アツシを傷つけることなく表面を這うだけだったのだ。

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