《異能があれば幸せとか言ったヤツ誰ですか??》譏笑

「ヨソミしてンじゃねェよ!」

その聲は、背後から響いた。

振り返り切る前に、視界の端で上方からこちらへ接近するそれに気がついた。

アツシだ。

跳躍したアツシが、飛びかかってくる。

その手には、アーミーナイフが握られていた。

この隙に、アツシはナイフを回収していたのだ。

そんなことに思考を割いている間にも、アツシはこちらへと接近している。

その表は、勝利宣言をするかの様に笑っていた。

「──────────〈境界超越Manifold Breaker〉…」

マサタが呟いた瞬間。

アツシのは、大きく後方へと吹き飛んだ。

壁面へと衝突したは、その衝撃で肺の空気が全て抜け、それは聲として発現する。

「………かはァッ!」

あのとき笑っていたのは、他でもないマサタであった。

マサタの才華は、次元を変える能力。

それは低次元を高次元へと変更することも、無論能力の範疇である。

マサタがこの決闘中に移目的で2+1次元へと転移させた空間は全て、『薙刀の刃』へと保管していた。

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それは、鏡の向こうは2+1次元であるから。

鏡の向こうには奧行きがない。

だが、鏡の外と同様に時間があり、縦軸と橫軸がある。

即ち、距離軸が今いる空間より一つない2+1次元と言えるだろう。

事実、マサタが自の分を生産するときもこの方法を用いていた。

鏡に反した自分を3+1次元へと転移させることで、鏡の向こうの自分を引き摺り出していたのだ。

それと同じことを、たった今、空間で行った。

背中にナイフを突き刺され、自の前方の空間を2+1次元へと書き換えた。

その際、書き換えた空間を、背中のナイフへと転移させる。

そして、背後からアツシが接近する。

それを確認し、背中のナイフに保管された空間を、再び3+1次元へ展開する。

そうすることで、マサタとアツシとの間に理的な距離を生み出すことが出來る。

その空間が展開されるエネルギーにより、アツシのは大きく後方へと移することとなり、を壁面へと衝突することになるのだ。

そして、アツシは衝突の際の衝撃を無効化することができない。

ゼロのを破壊することを考えるのなら、そのを壁を床などに衝突させることを考える方が合理的である。

力がゼロであると言うことは、弾丸も刃もそのれたとしてもってしまう。

それはつまり、弾丸も刃もそのに対してエネルギーの放出を行えないと言うことである。

しかし、そのの無いが運をしているとなれば話は異なる。

は壁や床に衝突することで壁面を押す形になる。

そしてが何かを押すとき、運法則の第三法則に則り、必ず作用反作用の法則が生じる。

A,Bの間でAがBへと力を加えるとき、AはBから押し返される。

つまりは、押した力と同じ力で押し返される。

これは、たとえ係數がゼロに近くとも揺るがぬ真理である。

そのものに壁を『押させる』ことによって、間接的に壁から『押される』狀況を作り上げることが可能なのだ。

これを、アツシので行ったのだ。

アツシが壁へと與えた力と等しい力でアツシは背を押されることとなる。

その衝撃は、決して小さくない。

事実、アツシは未だに苦しそうに地を這っている。

そこに生まれる慨はなく、殺蟲剤をかけられたゴキブリを眺める様な、そんな覚だった。

そのまま速やかに、アツシの元へと歩み寄る。

「………ぅぁあ……ぁあがぁあ………」

き聲を上げながら、アツシが立ち上がる。

だが、あれほどの衝撃を一けたアツシの戦闘能力は決して高くない。

しかしそれは、マサタも同じこと。

背中に突き立てられたナイフの痛みを必死に堪えながら、マサタはその歩を前へと出す。

二人の距離は著実にむ。

そして、二人の距離が2メートルを切った時。

「ゥおらァあああ!」

仕掛けたのはアツシ。

右手でナイフを逆手に握り、大きく振り上げる。

きっと普段のアツシなら、こんな行はしないのだろう。

攻撃の予備作が大きいと、それからの攻撃の軌道が読まれやすい。

格闘技において、その予備作は可能な限り減らすのが理想的である。

そうすれば、相手が攻撃を認知してから回避するまでの時間が減り、的中率が上昇するのだ。

だが今のアツシは、目に見えて慌てていて、焦っている。

今までこれほどまで追い込まれたことがないのだろう。

そんなアツシの攻撃を回避することは、決して難しくなかった。

だが、マサタのにダメージがない訳ではない。

この場合の最善の作を考える。

このままかしてナイフを躱すか?

否、回避しきれる確証がない。

ならば。

「………………ンなッ!?」

マサタはその右手で、ナイフをけ止めた。

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