《異能があれば幸せとか言ったヤツ誰ですか??》加療
誰かが、俺を見て笑う。
それは、アイツらみたいな、バカにしたような笑い方じゃない。
俺といるのが心底楽しいような、そんな幸せそうな笑み。
そんな顔を見ている俺まで、なんだか嬉しくなってしまう。
その人は、俺に言ったんだ。
「マサタ、強さは優しさだ。でも、勘違いしてはいけない。『優しくなる為に強くなる』んじゃない。『強くなる為に、誰かに優しく為する』んだ。お前は優しいから、きっとすぐに強くなれるよ」
その人には珍しく、哲學的なことを語っている。
いや、珍しいとは言ったが、その人の顔を見るのはこれが初めてのはずだ。
この人は誰だっけ……。
俺の、大切な、大事な人…………。
眼前の、白。
視界が明瞭になるにつれ、それが単なる白ではないことがわかった。
白地に、黒い斑模様。石膏ボードだろうか。
「おー、起きたんだねー」
そんな聲が、左から聞こえる。
首をかし、左を見る。
しい翆みどりいろの髪を背中までばした。
は左がルビーの様に赤く、右はエメラルドの様な緑をしたその眼で、こちらを覗き込んだ。
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「……………盡…?」
マサタは、無意識に彼の名を呼んだ。
盡ハナ。
彼はA+ランクの生徒ではあるものの、マサタを重癥まで追い詰めた數ない生徒である。
「そうね。私が分かるなら大丈夫だねー」
彼はやさしく微笑みながらそう言った。
「お、俺……。なんで……」
「いやねー、決闘が終わるなり倒れちゃってね、それからずっとここで休んでたね」
首から上をかし周囲を見渡すと、自分の橫たわっているベッドの周りをカーテンで區切られていることがわかる。
ここは醫務室のベッドの上だろうか。
「そうか…。その間、盡が看てくれたのか…?」
「違うんだよね。私だけじゃなくて、塚田さんとか城嶺さんとか平佐名さんとかもね、みんなで替で看てたんだよね」
「そっか、ありがとな」
「全然気にしないでね、友達が怪我したら看病ぐらいするよね」
優しく笑いかけながら、ハナがそう言った。
そんな彼に、マサタはしが躍ったのをじた。
そして、それを誤魔化すように話を続けた。
「………なあ、譬聆はどうなったんだ?」
決闘でのダメージ、決して小さくないはずだ。
彼は今、如何しているのだろうか。
「それがね……譬聆さんね………」
明らかに、ハナの表が曇った。
何か深刻なことがあるのだろう。
マサタは、生唾を飲んでその言葉の先を待った。
だが、ハナは言葉でその事実を告げなかった。
その代わりに、マサタの周囲のカーテンを開けた。
それを見たマサタは嘆した。
自分の正面に、アツシがいたのだ。
アツシは、そのに包帯を巻かれ、向かいのベッドの上に鎮座していた。
彼は右手でスマートフォンを作しながら、左手に握られたリンゴを齧っている。
そして、二人の目が合った。
『……あっ』
僅かな沈黙。
そして、アツシがマサタを指差しながらんだ。
「ンでてめェがココの病室なンだよ!」
「知らねぇよ!俺が頼んだ訳じゃねぇし!」
「ふッッッざけンなよ!出てけ!」
「はぁ!?お前が負けたんだからお前が出て行けよ!」
先までの優しく、靜かな空気が噓のように一変し、2人の怒號が小さな醫務室に充満する。
「るッせェよ!俺の方がてめェより年上だろァ!!」
「黙れ!この老害が!」
その一言で、一気に怒りの頂點に達したアツシが、鬼のような形相でマサタを睨む。
「…てめェやるかァ…?」
「“また”ボコボコにしてやるよ……」
下らぬ煽り文句に対して、さらに下らぬ煽り文句で返す。
正しく、売り言葉に買い言葉。
それでも互いに手を出さないのは、二人とも重癥であるが故に、きが取れないからである。
「ま、まあまあ……。落ち著こうね……」
ハナが両者の顔を見ながら割りる。
「ポンコツは黙ッてろォ!」
アツシがそんなハナの言葉を蹴散らす。
「おい!盡は関係ないだろ!謝れよ!」
そのアツシの言に、マサタがまた食いつく。
「あァ?ンだと?!ポンコツなのが悪ィンだろ!」
「許さねえぞ!この野郎!」
「あぁー!もう!靜かにしてね!」
ヒートアップしていく二人の喧嘩を見ていたハナが、それを押した。
マサタのベッドの枕元にある、オレンジのコードとその先端に取り付けられたボタン。
ナースコールだ。
それを押すと、アテスターから聲が響いた。
「どうしましたか?」
「浜曷先生!那原くんの意識が回復したけどね、譬聆さんと喧嘩しちゃっててね、私じゃ止められそうにないんですね!助けてくださいね!」
マサタとアツシは、今なお背後で下らぬ諍いを続けている。
きっとその容は、ナースコールを通して浜曷にも聞こえているだろう。
「……わかりました」
その聲は普段と何ら変わらないが、間違いなく怒りをめていた。
そんな聲だった。
數分して、扉が開いた。
全員の視線が扉へと集中する。
見ると、浜曷が立っていた。
「浜曷先生!」「浜曷先生?!」「伽ちゃん!」
ハナは助けを求めるように。
マサタは驚いたように。
アツシは嬉しそうに。
それぞれがその名を呼んだ。
浜曷は、マサタの元へ歩み寄り。
ドン。
と、その背を叩いた。
「いっっっっっっでぇええええええええ!」
マサタが悶える。
「痛覚も反応も正常ですね。決闘勝利と意識回復、おめでとうございます。ただ、殘念ながら後癥として、脳に異常があるようですね。病室で騒ぐのはその影響でしょうか」
浜曷が淡々と話す。
怒っている。この上なく怒っている。
「す、すみません…」
背中はダメだろ。という心の聲を殺して、マサタは謝罪した。
浜曷は踵を返し、今度はアツシの元へと歩んでいった。
「伽ちゃん!この病室からアイツ追い出してよ!」
アツシは未だに喚いている。
浜曷は、そんなアツシのすぐそばに歩み寄り、彼の右頬を自の左手で優しくれる。
「えッ……。ちョッ、伽ちゃん…。ダメ、みんな見てる……」
なぜか頬を赤らめながら、アツシが恥じらう。
浜曷はそんなアツシに優しく微笑む。
そして、右手を首筋へ這わせ─────それを振り上げ、アツシの首筋へと振り抜いた。
「あ°ぁあぁああああああぁあ!」
その激痛に、アツシは思わず仰け反りながら絶した。
そのび聲をどうやって発音したのかは謎だが。
見ると、浜曷の右手は手刀の形になっていた。
「誰が“伽ちゃん”だ」
普段は敬語でしか會話をしない浜曷が、怒りのあまりため口になっていた。
「痛ッてェ……。ひでェよ、伽ち──浜曷先生…」
同じ過ちを繰り返しそうになったが、振り上げられた手刀を見てすぐに訂正していた。
「二人とも、病室で靜粛にするのは一般常識です。そもそも、場所に関わらず、大きな聲を出すのはマナー違反です」
『…はい……』
「“次”は、ありません」
『はい、すみませんでした』
「謝るべきは、私に対してではなく、盡さんに対してです」
『盡さん、すみませんでした』
「い、いえ…。大丈夫ですね…」
謝罪されるハナでさえも、思わず浜曷の顔を窺ってしまった。
「それと、那原さん。あなたにお話があります」
「…えっ?」
浜曷は、マサタに醫務室から出る様に促した。
マサタはし怯えながら浜曷の後に続いた。
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