《異能があれば幸せとか言ったヤツ誰ですか??》憶起

鵞糜サナエ。

の歩んだ生涯を、ここでは記す。

西暦2001年、3月15日に彼は生まれた。

し頑固だが、真面目で正義に満ちた父親。病弱だが優しく、としてのあり方を教えてくれた母親。

そして、決して強くはなかったが、向上心があり、守ることと手本になることの難しさを自分に教えてくれた『弟』。

の名前を鵞糜サナエと言ったが、これは語弊がある。

サナエの出生時の姓は『那原』であり、彼はマサタの実の姉である。

裕福な家庭ではなかったが、家族四人で幸福に生活をしていた。

そんなある日だった。

中學2年生になったサナエは剣道部に部した。

の文武両道、質実剛健な格から男を問わず人気があり、勉學においても部活においても優秀な績を修めていた。

そして、部活終わりの帰り道。

に染まった空の下で、晝間の直と、その黒ですっかり焼き上がったアスファルトを踏みつけながら、サナエは自宅へと向かっていた。

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田舎の薄暗く窮屈な路地裏では、ブロック塀の上で三貓が溶けている。

そんな貓を眺めていたときだった、背後から聲をかけられた。

「おねぇさん、部活お疲れ様〜」

気なのような聲音でそう言われる。

慌てて振り返るが、その姿は見えない。

「そっちじゃないよ〜、こっちこっちぃ!」

その聲に釣られ、視線を投げ上げる。

するとそこには、塀の上で腳をパタつかせるがいたのだ。

サナエは、彼に出會った。

背丈や聲から察するに、年齢は10や11程度だろうか。

その顔は、夕焼けの逆でよく見えない。

塀の高さは約180cm。

それなりの高さがあるため危険であると考えたサナエは、に注意をした。

「其処から落ちると危い。早く降りなさい」

「えーっ、やだよー」

不服そうな聲でが返す。

「其れに、直に日も暮れる。親さんが心配する前に帰りなさい」

「んもぉー!おねぇさんとお話ししたいの!」

速やかに家へと帰そうとするサナエの反応に、はそう喚き出した。

こうなってしまった子供は厄介で、なかなかかないのだ。

サナエはため息を一つつくと、塀へ向かって両手を突き出し、へと聲をかけた。

「ほら、おいで」

だが、はサナエの腕に甘えることはなく、無視をするように話を始めた。

「あっ!おねぇさんの肩にあるそれ!シナイでしょ!?」

「ん。ああ、左様だ」

「私知ってるよ!おねぇさん剣道部でしょ!」

「ふふ、良く知って居るな。其の通りだよ」

「もしかしておねぇさんって、ケッコー強い?」

「如何だろう…。斷言は出來ぬが、弱いつもりは無いな」

「だと思ったー!私そういうの、一目見るとわかっちゃうんだよねー」

「良い特技だな、し羨ましいよ」

「えへへー、でしょでしょー?」

「ああ、降りて詳しく話を聴かせてくれぬか?」

褒めることで機嫌を良くしたを自然な流れで塀から下ろそうとする。

しかしはまたも言葉を続けた。

「待ってー!もう一個分かったことがあるの!」

「ん?何だ?」

「おねぇさんのおかぁさん、病気でしょ?」

「…………!?」

そこで初めて、サナエはの異常さに気がついた。

のことに関しては、察力次第で多のことは分かるのかもしれない。

だが、自分の親族の報に関して知り得ることは絶対にないのだ。

「何故其れを知って居る…?何者だ……?」

「おねぇさん、気づくのおそぉーい。そんなんじゃぁ、やられちゃうよぉ?」

はそう言いながら塀の上で立ち上がると、そのまま闊歩し始めた。

その言葉を聞いたサナエは、竹刀袋から素早く竹刀を取り出し、その切っ先をへ向けた。

「何のつもりだ…?如何やって其れを知った?」

「そんなのどーでも良いじゃん。おねぇさんはさ、おかぁさん助けたいの?」

「黙れ、質問に答えろ」

「答えなかったらどうするの?その竹刀で叩くのかなぁ?」

「質問に答えろと言って居るんだ」

怯えた様な、或いは怒った様な聲でそう言い放つ。

すると瞬間、の聲音が変わった。

「チッ………話通じねぇー…」

否、聲自は変わっていないのかもしれない。だが、その聲音から放たれる雰囲気が、一気に重厚を増した。

「おねぇさんさぁ、私のこと倒す気ないでしょ?」

「否、何時でも貴様を討てるぞ」

「噓だね。私が年下のの子だからって、手抜いてるでしょ?」

「何時でも貴様を討てると言ったのが聞こえぬのか?」

「じゃあおねぇさんはさ、刃を持った大男が目の前に現れてもそんな対応するの?しないでしょ?自分から仕掛けるよね?」

「當然だ。貴様は刃を持たぬ小こわっぱだからな」

「じゃあ、私には勝てるってこと?」

「無論だ」

「……………………舐めんなよ?」

瞬間、の右手が瞬いた。

かと思うと、に激痛が生じた。

「………はがっ!?」

慌てて自分のれる。

するとそこには、注の様なものが刺さっていた。

「んなっ!?」

それをから引き抜き、の方を睨め付けるが、そこにの姿はなかった。

その代わりに、背後から嘲笑が聞こえた。

「それ、タダの麻酔だよぉ?」

直後、再び首筋を痛みが襲う。

「本名は─────コッチだから」

覚と直勘から、首の右側から注を突き刺されているのだと察する。

引き抜こうとするが、徐々に全から力が抜けていく。

「麻酔が回って、力んないでしょ?まあ、どうせ苦しむんだから麻酔があったほうがいいよね?」

「…………は、はぁ……ぅぁあ……」

今のサナエには、聲と呼ぶに足らぬ掠れた呼吸音で返答することしかできなかった。

「はい、おしまい。まあ、どんな癥狀になるかは分かんないけど、役に立つと良いね」

暗く沈んでいく視界は、のその言葉を最後にプツリと途絶えてしまった。

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