《異能があれば幸せとか言ったヤツ誰ですか??》笑う二人、爽やかな風の中で。

走る。奔る。疾る。

階段を駆け上がり、二階で右折。

そのまま廊下を駆け抜け、75m先にある扉を開ける。

そこにあるプレートには“第三醫務室”と掲げられている。

扉の向こう、醫務用ベッドの上で、は黒髪を靡かせていた。外を眺めている為、その顔は窺えない。

開け放たれた窓からは心地よい風が忍び込み、失いかけていた季節を部屋中に撒き散らしている。

が、聲を出した。

「…………思い出したか、マサタ」

鵞糜サナエ。マサタが初めて戦をえた學園の生徒であり─────マサタの実の姉である。

マサタはサナエの元へと駆け寄った。

そして、んだ。

「ごめん!俺、姉貴のこと!思い出せなくて!」

その聲と同時に、マサタは腰を直角に曲げて謝罪をして見せた。

そんなマサタを見たサナエは、怒るでもなく、喜ぶでもなく、ただ優しく微笑みながら言葉を繋げた。

「良いんだ。寧ろ私が忘れさせたのだ。すまなかった」

「そんな…姉貴は謝らないでくれよ。俺、あんな事したんだし…」

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あんな事、とは、マサタがサナエに対して行った打擲ちょうちゃくのことに他ならない。

マサタは、サナエの両手足の自由を奪った上で、その顔面に毆打を繰り返したのだ。

サナエはマサタのその言葉に対して、反応を示さなかった。

その代わりに、サナエは話を切り替えた。

「マサタ。私が家を出た日の父の言葉、憶えて居るか?」

「ああ。よく、憶えてるよ。」

「私はな、目の前に居る大切な弟も守れなかった。でも、お前は違う。お前は、私を実の姉と知らずとも、敵である私を救い、守ったのだ。お前は───────誰よりも強いよ」

「姉貴……」

「だが己惚れるなよ。お前は強いし、強さは徳だ。だが、強気にはなるな。そしてもし、弱くなったとしても、弱気にはなるな。」

「…なんでだ………?」

「人は強気になると、自分自を過大に見てしまう。そうすると、自ずと他者を見下し、他人に憎まれる。弱気でいることはその逆だ。弱気でいる人間は、自を過小に評価し、必要以上にハードルを下げ、長に歯止めを掛けてしまうのだ」

「そっか…………」

「弱気でも強気でも駄目だ。自他の能力を正しく判斷できる審眼が必要だ。其れが無いのなら、他者も自分も同等に扱わなくてはならない」

サナエはいつになく真剣な表でそう語っている。

その口から放たれる言葉の一つ一つが、マサタの心に深々と刺さっていく。

「お前は十分に強くなった。だからこそ、弱い者の気持ちを理解してやってくれ。生まれついての強者には、弱者の心境はわかりえない。それは、お前が良く知って居る筈だ」

自分をいじめてきた連中らは、いじめられる者の気持ちを知りえない。だからこそ、果てしなく無慈悲に、殘酷になってしまうのだ。

「お前なら屹度きっと、皆の味方にれるだろう」

「どうだろう………。俺、そんなじゃねぇし……………」

「まあ、そう重く考えるな。お前らしく生きて征けば良いさ。那原家の人間なら、自ずと人を助けて仕舞うだろうな」

サナエは優しく微笑む。

「そうだな!親父とお袋の間に生まれた俺らなら、きっと誰にも負けないし、誰だって救えるよな!」

「ははは!云う様にったな!マサタ!」

サナエには珍しく、大口を開けて、心底楽しそうに笑っている。

そんな笑顔に、マサタはなんだか嬉しくなってしまう。

「當たり前だろ!誰の弟だと思ってんだ!」

マサタはを張って、サナエにそう言い返した。

サナエは微笑みながら、マサタの頭をでた。

「本當に、お前が弟で良かったよ…」

その懐かしいには、確かな敗北があった。

だが、その敗北は決して不愉快なものなどではなかった。

犬が飼い主にでられて喜ぶのは、きっとこの心地よさからだろう。

そんな、優しい慈に満ち溢れたは、マサタがこれまで味わってきた苦痛を、絶を、悲哀を、弔っているようだった。

「有難うな、マサタ」

サナエが囁く。

「やっぱり………………姉貴には敵わねぇなぁ……」

優しい心が、しい言葉が、止まっていた二人の時空を、再びかしたのだった。

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