「……………………えっ？」

狀況が飲み込めず、目が泳ぎながらそんな聲がれてしまう。

だが両親は、そんなハナを待たなかった。

否、待たなかったのではない。

そもそもハナのことなど見ていなかった。

「母さんがな、お前の部屋から見つけたんだよ。これはハナだよな。どういうことだ？」

いつか、こんな日が來る気はしていた。

ただ、もっと先のことだろうと思っていた。

「それはね…………」

言い訳を探す。だが、無い。

両親を納得させられる言葉を探す。だが、無い。

希を、逃げ道を探す。だが、無い。

「どういうことだと聞いているんだ！答えなさい！」

「…………も、モデル活…です……………」

怯えながら、言葉を絞り出す。ハナの目線は、足元を貫き続けている。

「そうか………」

父は落ち著いたようにそう言った。

理解してくれたのかと思い、ハナは顔を上げた。

だが、次の瞬間。

父は手にしていた雑誌を地面へと叩きつけた。

そしてそれを────────何度も踏んだ。

踏んで、踏んで、踏んで、踏んで、踏みつけた。

踏みつけられる度に、ゴッ、ゴッという鈍い音が、地面を通してハナの足を震わせた。

「お、お父さん…………？」

ハナがそう言ったた時だった。

父は一頻り踏みつけたその雑誌を拾い上げ、ハナ目掛けて投げつけた。

そして。

「貴様！いい加減にしろ！ロクに勉強もしないで！帰りが遅いから部活にでも専念したかと思えば！モデル活！？笑わせるなぁ！」

鬼のような形相で、んだ。

「レナはこんなに頑張っているのに！遊び惚けて！恥ずかしくないのか！貴様はどれだけ私達の顔に泥を塗れば気が済むんだ！恥ずかしくて外も歩けんわぁ！」

父の怒りは、完全にピークに達していた。

だがそれは、父だけではない。

「………………じゃあ……どうしたらいいの………………」

そう呟いたのは、他でもないハナ自だった。

「………………文句があるなら言ってみろ」

「じゃあ！どうしたらいいの！これは！私なりの努力の結果なの！」

「何が努力だ！逃げてばかりのお前が！努力なんてする訳あるか！」

「努力したわよ！食事量も減らしたし！部屋でエクササイズだってした！その寫真一枚撮るために！私がどれだけ努力したと思ってるのよ！それとも、レナに夢中で私のことには気が付かなかったの！？」

「當然だ！優秀なレナの教育で忙しいんだ！出來損ないのお前なんかを見ているほど私たちは暇じゃないんだ！」

「じゃあ！じゃあなんで私を生んだの！？道として利用するためでしょ！？レナみたいに！でも私がレナみたいに他人様に自慢できる績じゃなかったから！使い道がなかったから！こんなことするんでしょ！？」

「貴様あ！」

んだ父は、ハナのぐらを摑み上げた。

「やめて、あなた！」

母が割ってる。

だが、ハナはまだまだ言い足りなかった。今までため込んだ鬱憤は、この程度では張らされない。

「ほら、私の出來が悪いから、こんなことできるんでしょ？私が無能だから、役立たずだから、毆れるんでしょ？こんなの教育じゃない。加工よ、加工。見栄えだけ取り繕って、誰かに自慢するためだけに私たちを育ててるのよ。あなたたちに教え込まれたことは沢山あるわ。でも、あなたたちから學んだことは一つだけ。人は自分の子供ですら、道として利用するってことだけ」

すると、父の手からみるみる力が抜けていった。そして、その両手はだらりと垂れた。

それから一言、ポツリと呟いた。

「出ていけ」

「ち、ちょっとあなた……」

母がたじろぐ。それは、夜間に自分の娘が外出するのが心配だからだ。

娘の夜間外出を許した母親というレッテルを付されるのが怖いからだ。

結局、この人たちの心配や懸念の先には、常に自分しかいない。

いつだって、自分自の為だけに我が子を守るのだ。

ハナは、投げつけられたファッション誌を拾い上げた。

皺だらけになり、所々破れてしまったその表紙では、もう寫った人がハナだと判別することは出來ない。

ハナはその表紙を破り取り、ポケットへとねじ込み、玄関扉を開けた。

そして。

「さよなら」

とだけ言い殘し、その姿を、蒸し暑い夜の空気へと溶かしていった。