《異能があれば幸せとか言ったヤツ誰ですか??》猖獗
數多の腕が、迫りくる。
それを、を翻して躱し、突き進む。
サナエは地を駆け、排斥対象の中樞を探していた。
この巨に存在する中樞がどれほどの大きさであるのか、皆目見當もつかない。
だが、しずつダメージを與えていけば、いずれ中樞が呈するだろう。
その瞬間、中樞目掛けて一斉に畳みかける。
これが最も理想的なシナリオである。
合理的とは言い難いが、敵の猛攻を食い止めつつ、こちらも撃破へと近づくという點では非合理に過ぎると言う訳でもないだろう。
迫りくる腕が、赤い粘をまき散らしながら薄する。
その粘が、接した質に対してどのように作用するのかが判明していないため、不用意にや武を接するのは避けたい。
先刻同様、を翻し回避する。
だが、今度は違う。
回避した先を予測したかのように、またもや腕がびてきたのだ。
回避は出來ない。だが、何も出來ない訳でもない。
ここからは三択。回避という選択肢が潰えた今、サナエが取れる行は、防かけ流しかカウンターだ。
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防は出來ない。効果不明の粘と接するリスクが大きい。
け流しも難しい。敵の懐の中で、け流す為に一か所に留まるのはリスクが高い。
消去法から、最善の行はカウンターであると導き出される。
腕に対して突きを行い、才華を発するのは難しい。
時間や技、力を考慮すると、腕を切斷するのが理想的だろう。
その結論に至った瞬間。サナエは抜刀し、目前の腕を切り落とした。
越しに骨が地面に衝突する音が聞こえたが、そんな気味の悪い音に足を止めていられるほど余裕はない。
切り落とされた腕は、地面を這いずり回る。
さながらトカゲのしっぽのようだ。
サナエは、真っすぐに排斥対象の顔面を見た。
腕を切斷されたことに対して、目立った反応を示していない。
つまり、この排斥対象は、最初から腕を自のとして認識していないか、そもそも痛覚や覚がないということになる。
どちらにせよ、この無數の腕を切斷する度に喚かれるよりは良いだろう。
さて、高300mの排斥対象の中樞を如何にして探すか。
そしてもし発見したとして、如何にしてそれを破壊するか。
壁は大きく高い。だが、決して壊せない訳ではなさそうだ。
サナエは不敵に笑う。
その時だった。
ドン。と、背中を叩かれる。
制を崩すが、急いで勢を立て直し、振り返る。
だが、背後には何もなかった。
代わりに、サナエのを奇妙な違和が襲った。
を見下ろす。腕が、三本あった。自分の両腕の他に、もう一本。
一秒後、ようやく理解した。
先刻切り落とした排斥対象の腕が────────────自のを貫いていたのだと。
油斷していた。侮っていた。
100が1つか、1が100個、その二つだと思っていた。
1つの100が、99と1に分かれる可能を考慮していなかった。
「………あ………あぁ………」
その腕は、今なお薄気味悪くビチビチと蠢いている。
すると、腕のきがピタリと止む。
きが止まったその腕を、サナエが引き抜こうとした瞬間。
ガバッ!
「んぐっ…!?」
その腕は、サナエの顔面をがっしりと摑んだ。
呼吸が封じられ、視界も塞がれる。口から鼻にかけて、吐き出そうとしたが充満する。
まずい、非常にまずい。
刀は地面に落としてしまっている。
まずい、誰か…………!
「開華!〈等重変換Equal Dead-Weight〉!」
「開華っ!〈境界超越Manifold Breaker〉っ!」
二つの聲はほぼ同時に響いた。
同時に、の違和は消え、視界と呼吸が再び機能を獲得する。
「大丈夫か!?鵞蘼!」
苦しみながら吐と咳を繰り返すサナエの肩を、コウジがやさしく抱き留める。
傷口からは止めどなくがあふれている。
「コウジ先輩!時間がねぇっス!一旦ここから離れましょう!」
マサタは、周囲の狀況を鑑みながらそうぶ。
「ああ、そうだな」
納得したようにうなずくコウジ、心配そうにサナエを見るマサタ。
「姉貴、ちょっと消すぞ」
「……ああ」
サナエが頷くのを確認してから、ゆっくりと、マサタの手がサナエの額にれる。
瞬間、サナエは忽然と姿を消した。
マサタの才華により、2次元へと転送されたのだ。
それにより、サナエが手當てをけるまでの間に癥狀が悪化することもない。
そして、再びマサタはんだ。
「〈境界超越Manifold Breaker〉……!」
自の薙刀の刃の中に閉じ込めた2+1次元を3+1次元へと変換する。
変換したその空間は、足元で展開される。
そしては一気に20mほどの高さまで飛翔する。
また、頭上の3+1次元を2+1次元へと変換することで、更に高所へと移していく。
満足な高度まで上昇し、一時的に空中に3次元の足場を展開し、そこでサナエを救護する。
「〈境界超越Manifold Breaker〉」
再びサナエが姿を現す。
そして、サナエはマサタが自を移させたと理解すると同時、マサタから渡された刀で自の腹を貫いた。
「〈司刻刀ジゴクトウ〉…第三刀・魅遡斬ミソギ」
サナエが、死にかけの聲でそう呟く。
すると、みるみる傷が癒えていく。
やがて、傷も服の破損も『元に戻った』のだった。
【書籍発売中】【完結】生贄第二皇女の困惑〜敵國に人質として嫁いだら不思議と大歓迎されています〜
【書籍版】2巻11月16日発売中! 7月15日アース・スターノベル様より発売中! ※WEB版と書籍版では內容に相違があります(加筆修正しております)。大筋は同じですので、WEB版と書籍版のどちらも楽しんでいただけると幸いです。 クレア・フェイトナム第二皇女は、愛想が無く、知恵者ではあるが要領の悪い姫だ。 先般の戦で負けたばかりの敗戦國の姫であり、今まさに敵國であるバラトニア王國に輿入れしている所だ。 これは政略結婚であり、人質であり、生贄でもある。嫁いですぐに殺されても仕方がない、と生きるのを諦めながら隣國に嫁ぐ。姉も妹も器量も愛想も要領もいい、自分が嫁がされるのは分かっていたことだ。 しかし、待っていたのは予想外の反応で……? 「よくきてくれたね! これからはここが君の國で君の家だ。欲しいものがあったら何でも言ってくれ」 アグリア王太子はもちろん、使用人から官僚から國王陛下に至るまで、大歓迎をされて戸惑うクレア。 クレアはバラトニア王國ではこう呼ばれていた。——生ける知識の人、と。 ※【書籍化】決定しました!ありがとうございます!(2/19) ※日間総合1位ありがとうございます!(12/30) ※アルファポリス様HOT1位ありがとうございます!(12/22 21:00) ※感想の取り扱いについては活動報告を參照してください。 ※カクヨム様でも連載しています。 ※アルファポリス様でも別名義で掲載していました。
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