《異能があれば幸せとか言ったヤツ誰ですか??》深雨

雨が、降る。

頭上の積雲が、水滴を大地へと垂れ流す。

垂れ流されたその雫は、髪を、両手を、銃口を、銃を、頬を、濡らした。

濡らされた朱の髪が、キラキラと輝く。

だが、當の本人は、そんなことに気が付かない。

それ以上に目の前で起きた出來事が衝撃的過ぎて、そんなことを気にする余裕がなかった。

「……ハ……ナ…………?」

いがちなそのが、思わずかられてしまう。

それは、目の前の風景が現実であるとけ止めたくないという、我儘な願の表れだろうか。

レナは、ハナのもとへと駆け寄った。

自分でも出せる最高の速度で、その距離を直線で駆け抜けた。

速く、早く、疾く………!

アキレス腱が引きちぎれてしまいそうな程、を前傾させて駆け抜けた。

こんな、こんな、こんなこと、あるはずない。

ハナが、ハナ…………………が。

やがて、その緑の髪が見える。

うつ伏せになり、瓦礫の下敷きになってしまったその姿は、すでにハナが重傷を負っているということを示している。

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「ハナぁ!!」

泣きそうな、けない聲で、その名をんだ。

「ハナ、ハナ……ハナ…」

ばされたその右手を、強く握る。

目を覚まし、いつもの笑顔で私に甘える姿を思い描きながら、彼の名前をんだ。

「………おね……え…ちゃ……………」

苦し紛れに、必死で発聲するハナが、自分を求めた。

その聲を聴いて安堵した心は、レナのにハナのその右手をより強く握るように指令を下す。

「ハナ……。大丈夫、すぐに救助班を呼んでくるから。し待ってて」

「……やだ…やだよ…………行かない…で………」

ハナの手は、縋るようにそう言いながら、レナの手を強く、強く握った。

開かれたその両目からは、涙のようにが流れている。

だが、現実は非である。

否、溫な現実など存在しない。

アテスター越しに聲が響いた。

『全生徒へ通達。現時點を持って、現場を引き揚げます。繰り返す、現時點を持って、現場を引き揚げます』

無機質な機械音のような聲。

その容は、聲音に似合った無慈悲で無な命令だった。

「…………っえ?」

レナのから、そんな不安な聲がれる。

そして直後、レナはそんな指示に反対した。

「ま、待って下さい!まだ、まだハナには意識があるんです!せめて救助してください!」

『許可できません。これ以上の戦力の喪失は致命的です。速やかに引き揚げて下さい』

無機質な聲が、冷徹で殘酷な返事をする。

「お願いします!助けてください!ハナが!ハナがぁ!!」

『許可できません。これ以上の戦力の喪失は致命的です。速やかに引き揚げて下さい』

繰り返された二度目の返答は、レナにこれ以上の抗議が無駄であると分からせるには十分だった。

「じゃあ………私はここに殘ります」

「ダメです、レナさん。早くヘリに戻って下さい」

次にその聲をレナに屆けたのは、浜曷だった。

「馬鹿言わないで!自分の妹を見殺しにしろって言うの!?」

「はい。今は瀕死のハナさんの命よりも、健在な貴方の命の方が、価値があります。早急に戻って來て下さい」

「この人でなしッ!アンタに人の心はないのッ!?」

嘆と怒りをないまぜにした聲が、空を駆ける。

それでも、浜曷は意見を曲げない。

「貴方は利口なので分かるはずです。あなた一人ではアレに太刀打ちできないこと、あなた一人では今のハナさんを救えないこと。あなた一人では、何の役にも立たないこと。ここは一度引き揚げ、この【排斥対象イントゥルージョン】の能力などを分析した上で、確実な敵討ちをするべきです」

「─────────────────黙れ」

「………………えっ?」

今度、そんな素っ頓狂な聲を上げたのは、浜曷の方だった。

しかしレナは、そんな浜曷の聲に耳を貸さなかった。

「黙れ。私は、一人だけでも殘る。ハナ一人で死なせるくらいなら、アタシも一緒に死ぬわ」

「やめなさい!早く戻りなさい!」

焦ったように浜曷がぶ。

「アンタらがハナを見捨てても、アタシは、アタシだけは────────ハナの味方だから」

そう言うとレナは、強くハナの手を握った。

「…………………ずっと……ここにいるわ…………」

きっとハナには、見えていないだろう。

レナが、慈に満ちた微笑みを浮かべながら、ハナのその右手を自の両手で優しく包み込んでいるのが。

だが、レナは噓を吐いていた。

ずっとここにいるなんて言葉は、真っ赤な噓だ。

本當は、居ても立っても居られなかった。

自分の妹を、こんな風に傷つけたアレが、憎くて仕方なかった。

だが、かといって、その手を離すわけにはいかない。

きっと手を離してしまえば、ハナが寂しがってしまうだろうから。

レナは、自の腰に攜えた一本のナイフを取り出す。

そしてそのナイフを────────自分の左手に突き立てた。

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