《異能があれば幸せとか言ったヤツ誰ですか??》莞爾
走って。走って。息が切れて。
もう、視界も明滅している。
それでも全に力を込めて、再びアレの眉間目掛けて、弾丸を放つ。
やはり効果はなく、その弾丸は固い顔面の皮に弾かれてしまう。
それに気づき、アレはまたもや大きな咆哮を上げる。
「……文句…言わないの…………」
駆ける。駆ける。今までの疾走は、これに接近し、ハナから離れることでハナへの被害を抑えるためのもの。
だがこの疾走は、違う。
十分に接近した為、これから先はこの排斥対象が繰り出す攻撃を躱す為の疾走。
すぐ近くの海岸から、磯の香りが鼻を抜ける。
そのはずなのに、の匂いが鼻腔を満たすせいで、この風景も臺無しだ。
「……………良いわね、水平線…………。綺麗よね…………」
ここまで離れれば、ハナにも被害は及ばないだろうか。
こうすれば、ハナも生き延びられるだろうか。
そんなことを考えていると、またもや眼前へと腕が迫る。
水平線をぼんやりと眺めながら、レナはノールックでその腕を打ち抜いた。
もう、発砲の衝撃にも鈍痛にも慣れてしまった。
いや、慣れたのではなく、麻痺してしまったのだろう。
視界の端に巨大な花火が映り込む。
それは、大きな観覧車がライトアップとして輝く、電気的な花火だった。
そんな無機的で機械的な花火でさえも、今はしい。
「………花火……何年ぶりかしら……………」
これが、人生で最後に見る花火だろう。
「私、負けちゃうなぁ……」
不思議だ。
私は、最初から負けると分かっていたのに。
最初から、最期の戦いと分かっていたのに。
寂しいなあ。
悲しいなあ。
虛しいなあ。
死にたく、ないなあ。
それでも、諦めない。
「一応、サイゴまで足搔くわ」
再び、視線を排斥対象へと向ける。
それは巨大で、強大で、絶大で。
勝ち目なんてないと分かっている。
不思議と、排斥対象と目が合う。
「…………どうしたの?」
言葉なんて通じないと知りながら、虛ろな聲と瞳で問いかけた。
幾度目とも知れない咆哮が、レナの鼓を貫いた。
まるで、レナと排斥対象とがコミュニケーションを取っているようだった。
レナは………………不敵に笑った。
「………ふふ……大嫌いよ…………」
瞬間、レナは銃口を排斥対象へと向けた。
銃聲が、冷たい水平線を、僅かに揺らした。
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