可い弟の見送りに、後ろ髪を引かれながらも、あらかじめ決められていた手筈通り主人の元へと向かう。

そこは、羽鳥家から徒歩五分の所にある西園寺家本邸。というか、羽鳥家が丸々その屋敷の敷地にあることからわかる通りの大きさである。

しかもごく近しい側近に限られるとはいえ、敷地にある使用人の家とか、ウチだけじゃないのだ。使用人がいる家など、案外多くはないものの珍しいものでもない。

だけど、その使用人だけである種の地域コミュニティまで作れてしまうのは、日本に限って言えば東西南北の“四家”でしか有り得ない。

文明崩壊以前のヨーロッパに実在した風明な住宅地をモデルに整えられた、閑靜な住宅地を2人で歩く。

この住宅地に住む者は皆、西園寺の使用人かその関係者なのだ。通りすがる人が居ればそれはすなわち事を知る人なので、本來太輝く朝に外を歩いていても視線をじることはない。

……例え私がメイド服を著ていようが。

しかし今日に限っては橫から凄まじい視線をじていた。主に私の橫から。

「……何」

頭の先からつま先まで、何を珍しい事があるのか、クロエがその目に焼き付けるようにジロジロこちらを見ている。しかも、妙に嬉しそうなのは何故なのだ。

「んー？別に。ただ、學園に行ったらしばらく雀のこの姿も見納めかぁなんて思ってたら名殘惜しくてね。メイド服っていいよねぇ」

「気持ち悪っ」

「ひどっ。でもさぁ、しょうがないんだよ。創造主がメイド服好きだから」

創造主とは、このクロエを作った人らしい。世界の幹に関わる事項らしいので、恐らく異形種の中でもべらぼうに高位に當たるクロエをもってしてもあまり詳しい事は言えないらしいが、本人曰く親に対する慕のようなものはなく、製造者のような認識だと言っていた。

私としてはいつか、糞邪龍こんなものを生み出してしまった製造責任についてきちんとOHANASHIしてみたいと思っている。

そしてそんな創造主が恐らく変態であることも私の脳メモにはキッチリ刻まれたのだった。

でも、創造主とやらは安心してしい。そもそもこんなものクロエを生み出してしまった時點で好度はゼロどころかマイナスを振り切っている。

ここで多評価がさらにマイナスへふれたとしてもそんなものは誤差です、誤差。

「創造主が変態だとして、それがクロエに何か関係あるの」

「隨分言い切るね。創造主はね、雀たち人間を─おっと、これは言えないのか。……うん、勿論あるよ。他の異形種はそうとは限らないけど、直接作られた俺たちはね、ある程度創造主の特徴をけ継いでいるんだよ」

つまり、このクロエの格は創造主おや譲りである、と。こんな大量殺戮兵魔王型異形種を生み出したことといい、この変態を作ったことといい、ロクなことしない奴ですね全くっ。

「……へぇ」

相槌を打つ私の目は今度こそ確実に死んでいた。歴史上、世界に最も迷をかけた人として堂々の1位を飾りそうな仁である。

「ハハッ。どうでも良さそうな返事だね」

「神様だろうが創造主だろうが、目の前にいないものだから今はどうでもいい」

あっ、でも製造者ってことは、竜を殺す手段くらい知ってそうだよね！コイツ殺す手段教えてくれるなら、土下座でも靴舐めでも何でもしてやりまさぁ。

「……うん、それでいいよ。雀が興味を持つ必要もないからね」

投げやりな返事に、クロエは何故か上機嫌になった。元々上機嫌だったので、今は弾みそうなくらいである、正直気持ち悪い。

走行しているに、私たちは本邸の通用口に辿り著いていた。

「……雀さま、中で當主様がお待ちです」

通用口を抜ければ、洗濯を抱えた若いメイドが聲をかけてくる。可らしいといっても過言ではない容姿だけど、その表は一切かない。

うむうむ、1年前に刺客として敷地にってきた時とは大違いの働きぶりですね！

捕まえた時は泣き喚くわ、家族のために仕方なかっただの言い訳するわで、なかなかどうして五月蝿い子でしたが、人が変わった、、、、、、ような真面目な働きよう。

ぶっちゃけ彼の生死はどうでも良かったのですが、報がしかったので、どうやら守りたかったらしい家族もひっくるめ、関係者を邪竜さんのおやつにした甲斐がありました。

これからも心から西園寺家に盡くすのですよ、という気持ちを込めて彼の肩を叩いたけど、彼は一言も発することなく會釈するとその場を引き下がった。

「……真面目っていうか、心が壊れてる？」

よく働いてくれてるようなので、まあいいでしょう。

恐らく察しの通り、こんなじに人によってはなまぐさい家です。