《桜雲學園の正不明《アンノウン》》32話 祝勝會

「ただいま~」

ギリギリ走っていないくらいの早足で、急いで部室まで戻ってきた。

會長から呼び出されて生徒會室に行ったけどすぐに終わったし、まだそんなに時間は経っていない。

「あら、景けい遅かったわね」

いい焼きのついたクッキーを片手に、奈が言う。

「そんなに掛かってないと思うんだけどな」

そう言ってソファーの空いているところに座って、クッキーのっている容に手をばす。

「あれ?」

伝わってくるのは、木製のだけ。

いくら手をかしてもクッキーにたどり著けない。

奈、クッキーはどこ?」

おかしい。

いくら志穂奈のクッキーが味しいといっても、生徒會室に行って戻ってきただけだし、無くなるには早すぎる。

「全部食べちゃったわ。ま、一部は他の部活にあげたりもしたんだけどね」

そう言って奈は手に持っていた最後のクッキーを頬張る。

「ん~、やっぱり志穂奈のクッキーは味しい!」

優雅にクッキーを食べ紅茶を口にする様子は、貴族の令嬢のような品の良さがある。

祝勝會とは名ばかりで、実質は志穂奈のクッキーが主役のお茶會だ。

そのメインのものをほとんど味わえなかった俺は、DOPの初勝利のことなど忘れ、そして、テーブルの上に置かれていた教材を見て自分が危機的狀況に立っていることを思い出した。

全ての學生に降りかかる災厄──

そう、悪魔テストだ!!

クッキーを食べられなかったのは殘念だけど、いつかまた食べられるだろうし今は目の前の敵を倒さないと。

「あ、そうそう、景って今日の夜暇?」

よくある、明日から頑張る、ではなくてちゃんと今日から頑張ろうとの中で誓った俺だけど、何気ないじで奈が聞いてくる。

「いや、そろそろテストが始まるし、勉強でもしようかなって思ってるんだけど」

「ふふん、安心しなさい。アス研にったからには赤點なんて取らせないわ」

なにやら自信ありげな様子。

何か策でもあるのだろうか?

「まぁ、勉強するってことは暇ってことね。じゃあ、今日の10時に學校に集合ね。ちゃんと制服で來るのよ」

はい?

いや、暇じゃないし、10時っておもいっきり夜だよ?

「ちょっと待って。そんな時間に何をするの?」

「そんなに焦らないの。そろそろ來るはずだから」

來る?

誰が來るのだろう?

そういえばこの場には俺と奈しかいないけど、他のみんなは?

「お待たせ~、ちゃんと話はつけてきたよ」

「よっしゃ!! 今日は張り切っていくぞ!」

「············良隆よしたかうるさい、·········黙って」

いつもの調子のアス研メンバーが揃って部室にってくる。

「みんな、どこに行ってたの?」

「お化け屋敷研究會のところだ」

「ごめん、何を言っているのかよくわからないよ」

お化け屋敷研究會ってなんだよ。

それって、文化祭の出しでしょ?

「今夜は私達がお客として、実際に參加して想とかを言うのよ」

「·········範囲は學校全、だから·········楽しいよ?」

「いや、そういう問題じゃなくて」

「じゃあ決まりね。今日の10時に學校に集合。絶対に遅れないように。以上、解散」

勢いよく立ち上がって、部室を出ようとした奈だけど、後ろから襟首を捕まれてしまう。

「うっ」

「·········奈、クッキーは?」

いつもは無表で、が読み取りにくい風花さんだけど、付き合いの淺い俺でも怒っているのが伝わってきた。

(石崎、ここは早めに逃げておいた方がいいぞ)

海崎が小聲で耳打ちしてくる。

(ああなった副部長は誰にも止められないからな、さぁ、いくぞ)

腕を引っ張られて部室を出る。

部屋の中には、風花さんに捕まった奈が正座をさせられていて、志穂奈がなんとか場を納めようと頑張っている。

俺は心の中で奈の無事を祈っておいた。

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