《高校生である私が請け負うには重過ぎる》第24話 不明な結果、そして朗報

「おい、起きるのだ。何時だと思っている。この寢坊助委員長め」

穏やかな聲とは裏腹に朝からいきなり叩き起こされた。

眼をゆっくりと開けるとそこにはギリギリと激しい音を立てて歯ぎしりをしている山くんが立っていた。

「う……う~ん、うぅ……ん。むにゃ、あ……山くん……、おはよう……」

あんなことがあったものだから眠れるかどうか不安だったのだけれどいつの間にか眠っていたようだ。しかもあまりよく眠れなかったのか聲のじで寢惚けていると丸わかりだ。とんだ醜態を曬してしまいお恥ずかしい限りだ。

「おはようではない。もう六時を回っているぞ」

「え……。六時? 平日でも休日でも私はこれくらいの時間で目が覚めるのだけれど……」

「眠るのも遅ければ起きるのも遅いんだな。それでよくクラスの代表が務まるものだ。私は平日だろうが休日だろうがいつも五時起きだ」

いやいや、そんなに起床時間が早いのなら何故彼は學校に登校するのがいつも予鈴ギリギリなのだろう。支度をするにしても時間が掛かり過ぎてるし、學校への距離もそう遠くない。今日たまたま早く起き過ぎてしまっただけなのではという疑いも出てくる。

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「何度も起こしたが全く起きなかったから暇で暇で仕方がなかった。だからその間、コンビニで買ってきておいたぞ」

「え? 何を?」

「何を? ではない。夕べ約束したであろう。アンタに今日の朝飯を作ってもらう為に買い出しに行ってきたのだよ。昨日で買ってきた食材は殆ど使ってしまってな」

「ああ! そうだったね。忘れてた訳じゃないけれど、寢起きだったから。ちょっと待ってて、著替えるから」

実は私はこの時、本當に忘れていることがあった。浴室で制服に著替えようとしてスウェットをいだ時、自分の付けていた下著がアレだったことに。

そう我に返ると急に顔から火が出るほど恥ずかしくなってきた。

今すぐにこの下著をいで自分の著ていた下著を著たいところだけれどやはりそれは買ってきてくれた彼に失禮だ、このまま著ておこう。はあ……、私ってとことんお人好しだな。彼に偽善者だと罵られる理由も何となく解ってきた気がする。

制服に著替えたついでに洗面所で顔だけ洗い、浴室を出る。スウェットの時と違いスカートなので通気は比ではない。歩く時に起きる微風でさえ涼しくじる。スカート丈を更に長くする必要がありそうだ。

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「何をしている? スカートなど押さえて歩きにくそうに」

「…………」

我慢我慢。こんな事で一々怒っていては時間の無駄であると共に力の無駄である。昂る気持ちを抑えながら私は彼の買ってきてくれたコンビニのレジ袋を確認する。

中にっていた食材は以下の通り。食パン、ジャム、バター、ハム、これだけだった。

「卵は昨日の分がまだ殘っている。その僅かな食材でアンタなりに朝飯を作ってみせろ」

「うん、まあこの食材で作ることが出來るは限られてくるよね。じゃあ、至らない點もあると思うけれど、一杯頑張って作るから宜しくね」

「フッ……、お手並み拝見といこうか? 糞真面目で偽善なる委員長よ」

そう言えば元々私が朝飯を作ることになったのは人は褒められてびると言う事を証明する為だったっけ。料理とはなんら関係ないことだとは思うけれど、彼のことだ。何も考えが無いなんてことはないだろう。

私は彼のエプロンを借りキッチンに立ち、料理を始めた。手前味噌ではあるけれど、私はこう見えて結構臺所には立つのだ。なので料理の腕はなからず自信があった。

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私は朝飯の定番である、昨日の卵とハムで作った目玉焼きのオープンサンド、電子レンジのトースター機能で焼いた食パン、お好みで塗れるようにに移したジャムとバター。まさにパン朝食のテンプレート。余計な事など何もしていない普通の料理。

それぞれをお皿に乗せテーブルの上に置いていく。その様子を彼は終始何も言わずに見つめていた。

「はい、お待たせしました。どうぞ召し上がってください」

「フム……、食パンは二枚ずつ焼いたのか」

「朝飯は一日をいかに活的に過ごせるかを左右するからね。パン朝食だと腹持ちが悪いからエネルギーの消費も早いし、沢山食べないと。あとジャムとオープンサンド両方の食べ方が楽しめるようにしたのも一つの理由かな」

「まあ、その心遣いは認める。我が助手としては良い判斷をしたと言えよう。だがこれはまだまだ序の口、見た目や栄養も大事だが要は味だ。味が悪ければどんなに見栄えのいい料理も三角コーナーに無殘に捨てられた生ゴミにも劣るものだ」

それは流石に誇張し過ぎだと思うけれど。

私は食パンにバターとジャムを塗りながらそう心の中で突っ込んでいた。実際に突っ込むことなど絶対に出來ない。したこともない。

「じゃあ、戴きます」

「……パク」

彼は何も言わずに先ずは食パンを何も塗らずに一口食べた。

「……モグモグ、サクサク……サクサク」

を読み取ることが出來ない。ただ黙々と食パンを食べ続けている。依然何もつけずに。そして一切れを食べ終えた。次に彼は目玉焼きとハムのオープンサンドをもう一切れの食パンの上にややはみ出す形で乗せ、オープンサンドのみを一口食べた。

部屋の中には彼がオープンサンドを口の中で噛みしめる音だけが響いている。彼がサンド片手に食べる姿はどこか様になっていた。ポスターにられても相違ないほどに。

そして彼は漸く食パンとオープンサンドを同時に食べだした。特に表を変える様子もなく口だけをかし食べ続ける。そして半分ほど食パンを食べ終えたところでオープンサンドを食べ終え、最後にジャムとバターを食パンに塗り、食べる。

私は自分の分の朝飯を食べるのを忘れてしまうくらい彼の食べる姿に終始見惚れていた。そして彼は全ての皿を空にした。そして彼はただ一言ーーこう言った。

「……フゥ、おいしかった。ご馳走さま」

「……え?」

「いやぁ、だから、おいしかったって、言ってるのだ……。うん……おいしかった」

………何故だろう。全然嬉しくない。

彼の口元が……笑ってない。

言葉が笑ってない。喜んでない。

ただ私に気遣って、言葉を選んで私に言ったと言うじだった。

ここで私は思った。何か失敗してしまったかな……と。

料理を失敗したつもりなんてなかった筈だけれど、彼には何か気にらないことでもあったのだろうか。

山くん……? 失禮なことを訊くようだけれど本當に味しかった? 私、人に料理を振舞うの初めてだったから、あなたの好みとか解らないから。ねえ、正直に言って、何が気にらなかったの?」

「いや、気にらないことなど何もない。私はただ純粋においしいと思ったからおいしいと言っただけさ。それ以上でも以下でもない。ただアンタがそこまで言うのなら一言だけ言わせてもらうが、何て言うか……その……アンタの料理――」

「………ゴクっ!」

どうしても張で生唾が口の中に溜まり、それを一飲みする。彼が何かを言うこの瞬間はいつも冷や汗をかく。そして彼はまたしても意味不明で不可思議なことを言った。

「おいしいだけなんだよなぁ……」

まったく意味が解らなかった。

おいしいだけ……?

おいしかっただけってどういう事?

料理っておいしいだけじゃ駄目なの?

確かに料理は見た目も大事だけれど、一番大事なのは味しさなのではないだろうか。

いやそもそも『料理は味しさ』と言う固定概念が間違っているのだろうか? 考えても全く解らない。答えがありそうでない問題を解くなんて経験はこれまでけてきたテストでも一度もない。

「ごめんなさい。やっぱり私にはあなたの言っている意味が解らない……。口に合わなかったのなら素直にそう言ってくれれば良かったのに……」

「何をそう落ち込む必要がある? 私はマズいなんて一言も言ってないぞ? 人の話聞いているのか? おいしかったと言っている。だがそれだけなのだ」

「それの意味が解らないんだよ。味しいだけってどういう事? もっと的に教えて」

「平たく言うとアンタの料理は人を満足させればそれでいいというじの料理だったのだ。そんな料理はファミレスでも食える。つまりあんたの料理はファミレスだ」

謎がさらに深まったと同時に若干の衝撃を覚えた。

彼の勝手な見解とは言えファミレスの料理ってそんな風に作られていたんだと思うと流石にショックを隠し切れなかった。

「アンタだったらいつか答えに辿り著くことが出來るだろう。聡明な委員長さん。そう言えば元々この料理は人は褒めてびることを証明する為に作らせた料理であったな。それでは今回の件、私の負けだ」

「え? 負けってどういう事?」

「私はアンタが親なり友達なりに料理を振舞っている上でこの話を持ち掛けてしまっていた。だがアンタさっき、人に料理を振舞うのがこれが初めてだと言ったな。問うに落ちず語るに落ちるとはこの事だ。つまりあんたの料理の腕は自分だけしか解らなかったと言うことだ。褒められてすらいないのは勿論、非難すらされていない訳だからな。だから俺の出した提案が悪かった。俺の負け。以上」

え? これって勝負だったっけ?

しかも私なんか勝っちゃってるし。素直に喜べない。

彼は味しいとは言ってくれたけれど、どうも合點が行かなそうにしていた。私の料理は味しい、ただそれだけ。

何回思い返してもグサリとその言葉が心に突き刺さる。マズいと言われた訳じゃないのに、ただ普通に味しいと言われただけなのに、褒められた筈なのに。

こんなにも悲しくて居たたまれない気持ちになるなんて。

私はそんな悲しみから逃げるように自分の分の朝飯を勢い込んで無作法に頬張り、自分の作った料理の出來を確かめる。その味はいつもと何の変哲もない私がたまに自分で作るパン朝食の味だった。何も変なところなんてない。失敗してなんかない。

けれど味しくはじなかった。食パンも、オーブンサンドも。

あっという間に自分の分の皿も空にして、彼の分の皿と重ねて、私はシンクにそれを浸けた。いつも言っていたご馳走さまの言葉も言えなかった。

いや言いたくなかった。彼を不快な気持ちにさせて何がご馳走さまだ。本當にけない。不甲斐ない。意気地ない。

「アンタはホントに自分に厳しいよな。俺は別に気にしてなどないのに。そんなに悲しいのなら洗い流すがいいさ。その皿に殘ったパンくずと共にな」

巧いこと言われてしまった。同されてしまった。

慘めだ。

お皿を洗う私の後ろ姿、彼にはどう映っていただろう。凄く痛々しかったと思う、もう心は傷だらけだった。

「さて、これからどうしたもんかねぇ。依頼の電話もあんたがしてきた時以來一回も來てねぇし――うおぉッ 」

彼が暇そうに今日の予定を確認しようとしていた時だった。突然部屋中にけたたましい著信音が鳴り響いた。

に突き刺さるようなその音に私も思わず洗っていた皿を離してしまった。ひびがっていないか心配だ。彼自も相當びっくりしたようで、普段冷靜な彼が大聲を上げて驚いていた。

その瞬間……目に焼き付けておきたかった。

後ろを振り向いた時には既に彼は懐から攜帯電話を取り出し電話に出ていた。

どうでもいいことだけれど彼の攜帯電話は今時の學生には珍しくガラケーだった。まあ、彼にとって攜帯なんて、連絡を取るための手段でしかないということか。

「ほう……解った……では、二丁目の空き地に來い。今すぐだ……話はそれから聞こう。私も支度が整い次第向かおう」

それでは後でな、と言い彼は電話を切った。そして彼は口元をニカッと不気味に歪ませそのままの表で私の方に向き直り、喜満面にこう言った。

「フフッ……! 噂をすれば何とやら――喜べ委員長。依頼の電話が今し方掛かってきた! 今すぐに向かうぞ! クライアントを待たせるな!」

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