《雪が降る世界》第38話 〜消えた夢〜 時夏said

いつかはきっと、みんな死んでいく。じいちゃんが逝ってしまったように。

それはもう隨分と前のことで。俺が、稚園児くらいかな。ばあちゃんを殘して。

泣いて泣いて、悲観に暮れていた。俺にだって分かるほど。それだけ幸せだったんだろう。

でも俺には何かをしてあげられるような力がさらさらない。表筋もなければ、聲もない。紙に書く文字でしか、自分を表現できない。

こんな田舎町だから、農家の方が多くて家もそう。老に無理させるわけにはいかなくて、なんとか1人でやるってアピールしてるんだけどなかなか聞かないし。何かの腹いせだろうか。まぁまだ東北だから助かってるけど。嫌だよ、もう休んでよ。

どれだけ願っても文字には出し切れない。そんな蟠はきっと、俺の中に一生殘り続ける。たとえ聲が出ようとも。

そもそも昔は話せていた。普通の子供のように。あの日、一人で帰っていなければ。

…聲を、奪われることはなかった。もっと、笑えていた。

聲がなければ必然的に起こることもたくさんあって。特に中學生くらいになると。

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「掃除よろしくー。」

「頑張ってー。」

もうわかると思うけど。嫌がらせじゃなくて何て言うんだろう。奴隷かな?そんな扱いをけた。そうしているうちにもっと聲は出なくなって。これはもう耐えられないと。

1人の紙なら、何を書いたって伝えるものはない。所詮は俺の獨り言。

俺は、実の両親を呪い、クラスメイトを恨んだ。そこまでしなくていいじゃないか。書き綴っていくと自然と憎悪は引いていく。このやり方に、何度救われたことか。

聲がいつまでも出ない俺を心配したばあちゃんは、一緒に病院に行ってくれて。

「心因失聲癥かと。心のケアが必要ですね。」

…駄目じゃん。學校の人は誰も足を止めてはくれなかったのに。家のまわりはほとんど人がいないのに。

時は流れていつの間にか高校生になっていた。もちろん、田舎だからクラスメイトが大きく変わることはあまりない。いなくなった人もいるけど。俺はまた、ここで嬲られ続ける。

でも俺もこのままだと死ぬと思ってとりあえず見た目を変えてはみたんだよ。奇跡的に顔は整ってたから。あとブロンド。これ絶対ハーフだよな…。

眼鏡外して前髪、前髪どうする?切るけど。さすがに切りすぎて別人とかは嫌だし。

一応努力はしたんだよ目立たない程度に。

おかげで子には気味悪がられなくなった。それが良かったのか、悪かったのかイマイチ分からない。本命は違うからなぁ。

確か、冬…くらいだったと思う。コンビニの雑誌見てて背筋が凍りかけた。

'七海唯'

'駒井璃久'

そっくり過ぎてどうしようかと思ったさ。ドッペルゲンガー…?俺こんなに白くないけど。會ったら近いうちに死ぬやつだよな。

その2人がバカみたいに売れてて。街に行けばよく間違われる。嬉しくないわけじゃないがすぐに応えれないから申し訳ない。そもそも俺は駒井じゃねぇ。後原って名前があるわ。てかあんだけ白い奴と見間違えるか?それ以前にこんな田舎にいるわけないだろ。

そうこうしているうちに、學校でも々聞かれたりするようになっちゃって。聲出ないの分かってんだろーが…。ニヤニヤして気持ちわりぃ。

かと言って優しくしてもらえることも無く。そのまま奴隷であることに変わりはなかった。

そして、俺が知らないうちに、季節は変わる。

「過労ですね。」

「…。」

ずっとずっと俺を見捨てずにいてくれたばあちゃんが、死んでしまった。

過労なんて…。俺が何もしてないみたいじゃないか。荷が重すぎた。それだけ。もうこれでじいちゃんに會いに行けて、きっと幸せになれるだろう。

今までいた家が、妙に広くじる。ただただ虛しい思いが募る。育て始めた野菜が元気に実るのを、獨りで待たなきゃいけない。

俺を、1人の人間として見てくれる人は、もういない。

お葬式も、なかなか思うようにやってあげられなくて。本當、墮落の象徴だよ…。

でもここでグダグダしてるわけにもいかない。せめて、ばあちゃんじいちゃんを安心させて、俺が自分なりに全てをやり切るまでは生きなければ。そしたら、ちょっと早いけど、ばあちゃん達に逢いに行ってもいいよね。

學校はしばらく休んで品整理?をする。骨董品かって思うほど古いものから、あぁこれで昔遊んでくれたなって思えるようなものがたくさん出てきた。その中にひとつ、ばあちゃんが書いたものじゃないメモがあった。これ…何語?英語じゃなきゃ読めねぇし和訳できねぇ。ネット信じて大丈夫か?

'雙子の弟の方、リヒトをお願いします。またいつか、逢いましょう。'

何も見なかったことにするか…。この家、俺以外子供いなかったしばあちゃんも孫とか來てなかったから…。え、リヒト?誰それ。名前?俺の?じゃあ時夏って誰?どっち?なんでばあちゃんは何も言わなかったの?

俺は何──

いつの間にか眠っていたらしい。ほっぺに畳の跡が…。痛ぇ。

まだ整理はつかねぇがいろいろ見ていきゃなんかあるだろ。時間はかかるが。

お、これがかたわれの方か。…は?

これ…駒井、璃久じゃないか?白くてオッドアイの、あのモデル。

あぁそういうことね。だから似てんだ。

でもこれは隠しておくべきなんだろう。ばあちゃんだって俺に黙ってたんだから。それなりの、理由が必ずある。

また大人になってから逢えばいい…。

それまで生きていれば。

品整理して、お墓も綺麗にして、高校卒業したら、もうやめるつもりだけど。

まぁ今まで何も知らなくても普通だったんだから、そのまましまっておいてもいいしな。深く考えなくていい。…そうは言っても生で見てみたかったりする。これだから人間ってやつはめんどくさい。ちょっとだけ、希があれば。駒井璃久が俺の存在に気づいていれば。もしかしたら會えるかもしれない。

あと3年────

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