《雪が降る世界》第50話 ~真新しいお墓~
「今年こそは、勝ちたいな。俺が言うのも変だけど。」
「確かに…。まぁチームプレイだし、サポートよろしく。」
「分かってるさ。
今日の練習で調子悪くなったとことかないですか?応急処置ならできますよ。」
「洗濯できる霧吹き的なやつ持ってるか?」
「それは家でやれ。的な意味でだ。」
「んー…。明日の朝早く集合してそこで調整しようか。頼めるか?」
「もちろんですよ。何時にします?」
「7時でいいかな。ここを10時に出発する予定だから。」
「わかりました。」
早いな…。起きれるか?遅刻したらまずいし…。
「こまは時夏がいるからなんとかなるだろうが加がまじで心配だ…。」
「俺は母さんに起こしてもらえると思う。…多分。」
「あ、そう。じゃあ2年は問題ないな。」
「もう帰ろ。お腹空いた。」
母さんね…。いつ出てくるんだろうな。
「時夏ー。明日俺が5時半に起きてなかったら起こして…。」
「隨分早いね。ばあちゃんみたい。」
「7時集合なんだもん。」
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「そっか。
全然話は違うんだけど、俺ばあちゃん達のお墓に行かないといけないから…。璃久はどうする?」
「それもあったわ。俺はここで行けるけど。東北?」
「當たり前じゃん。あとね、品の中に父さんと母さんの手紙がっててさ。頑張ったけど信憑は低いから七海君にお願いしていい?」
「おすすめ。」
「じゃあはい、よろしく。あとご飯できてるから好きな時に食べといて。今からちょっと街に出てくるよ。」
「ひとりで大丈夫か?」
「璃久が並んでるのが大変。」
「ハイ。」
なんか地味にひどい…。もっとオブラートに包み込んでだな…!騒がれるのが嫌なのも分かるけどさ…。
時夏は料理達者なんだ。…筑前煮とか作ったことない。おばあさんさすが。
「これ絶対七海が好きなやつじゃん。寫真送ってやるか。」
秒で既読がつき意味深なスタンプが大量に送られてきた。七海でもこんな嫌がらせするんだ…。もっとハイレベルなやつ予想してたよ。
「ねぇ璃久人気ありすぎじゃない?馬鹿なの?なんで俺が間違えられてんの?」
「だって似てるから…。なんかあった?」
「あったもなにも、中年のおっさんずにめちゃくちゃ絡まれたんだけど!また聲奪う気?」
「俺もそれはよくあるが…。なんで聲?」
「小學生の時にさっきみたいな事があってから喋れなくなったの。もう心臓止まるかと思った。」
「あ、ご飯味かった。」
「…聞いてた?」
「聞いてたよ。でもこっちが先かなーって。」
「そんなわけないだろ。」
「じゃあ風呂沸かすわ。」
「…ありがとう。」
切り替え早…。これでついてこれるとかすげぇな。田舎なめちゃいけねぇや。
「ていうか璃久は誰のお墓?」
「んー…澪っていうんだけど…。北海道から一緒に東京に來た無縁の弟。」
「早死?」
「病気。今年ってすぐだったかな。」
「お疲れ様。」
「何それ…。」
「おはよ…。眠すぎて顔が壊れてるんだけど。」
「いつも通りで何よりだ。…弁當とか珍しい。しかも多くね?」
「ん…。これは時夏がみんなも食べなよって…。コンビニよりはいいじゃん?」
「どこのオカンだよ…。お禮言っといてくれ。」
眠い以外に調不良なところはなく、無事全員でバスに乗り込めた。意外に寢不足が一番危ないよなこの季節。また熱中癥なるわ。クーラー求む。
「やっば、味すぎ。」
「兄弟揃って料理できるとか何?」
「知らねぇよ。俺は和食作らないし。」
「その辺東北ってじすんなー。」
「でも結構辛口だったのはビビった…。」
「本的なところは変わんねぇんだ。」
「失敬な。」
「今日は時夏來てくれなかったんだ?」
「転校するかなんかで忙しいみたい。」
「まぁそうか…。」
「近々向こうに行くけど。
あとさ七海。これ、和訳してくれないか?時夏がおばあさんの品から見つけたんだって。」
「ふーん…。見せて。」
俺も時夏もまず何語?から始まったのによ…。エリートクオリティ…。ちょっとくらいびっくりしてほしかったなー。
「書いといたから。その方が都合いい。」
意味わかんねぇ。都合って何。
'この子達が17歳になった頃に出られます。それまで、溫かい家庭で過ごしてください。お願いします。'
なんてこと…。今年か?いつなんだ…。
「多分冬とかじゃない?それっぽいこと言ってた気がする。」
「惜しい…!」
「何ひとつとして惜しくはねぇ。行けばいいだろ。」
「どうせなら夏が良かったわ。」
「わがまま言うな。」
大會は無事に終わった。バスの中の空気はこの上なく悪いが。
「ごめん、ほんとに…。」
「小瀬先輩…滅多にあんなミスしないのに。何かありました?」
「いや…深い意味はないから。ただの注意散漫…。」
「その理由を聞いてるのに。」
「…飼ってた犬が今朝死んだ。」
笑っちゃいけない、笑っちゃいけないけど…!めちゃくちゃ優しい。
「…じゃあ優勝できなかったことは、忘れましょう。」
「は…?」
「命より大事なものなんて、ありませんから。優勝なんて來年できますよ。多分。
…先輩はOBになるけど。」
…七海が言うと重すぎるんだよ。辛辣じゃん。葬式みたいな空気出し過ぎ。
「そう…。多分か。頑張れよ。」
「先輩は明日から験以外考えないでくださいね?間違っても部活のことなんて思い出さないでくださいね?」
「分かった…。」
8月中頃──
「これが澪?」
「そうそう。一番奧にいるはず。」
「こっちのの子は?」
「あぁ…。その子も行かねぇと。…俺が好きだった人。」
「なんかごめん。」
澪も瑠璃も元気にしてるといいな…。
あの二人がいなくなったあとの斷癥狀はほとんど治まったがこういう時はなんとも言えない。
「あれ?誰かいるよ?」
「え?…!!」
「…なんでお前らがそこにいる?」
「実の子供だからでしょう?あなたとは違うの。」
「生きてた時に、一度も會いに行ってやらなかったくせに…!よく來れたもんだな。」
「今ようやく落ち著いたからね。
仕事してる人の気持ちなんて、わからないだろうけど。バイトの人には。」
「いつの話してんだよ。俺は今れっきとしたモデルだ。良かったよ、あんたらの子供じゃなくて。顔で生きていけるから。」
「璃久…?この人達は?」
「俺の養母。…いいから帰れよ。目障りだ。」
「はいはい…。育ててあげたのにそんなこと言われるなんて…。」
父さんの加勢もあってスムーズに帰ってくれた。
「璃久があんなに豹変するとは思ってなかったなー。いつももうちょい穏やかじゃん?」
「あいつら世界一嫌いな人だから。」
「なんでイルカ?花じゃないの?」
「いや花は當たり前。…瑠璃はイルカが好きだから。」
「へぇー。The定番だね。」
「いいんだよそこは。イルカ以外わかんなかったから。」
その後、ちゃんとおばあさんの所にも行って來た。お墓は時夏の頑張りのおかげが、何年も経っているものなのに例えようもないほど綺麗だった。
「これくらいしか、出來ないから。」
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