《俺はショートヘア王が大嫌い》Episode6 ダイキライから

文化祭も終わりを迎えた翌週、クラスはめっきり球技大會ムード一に染まりつつある。部活にっている人は、夏の大會に向けて部活に勤しんでいる。俺の屬するサッカー部も、今週の試合に備えて激しい練習の真っ最中である。のだが………。

「そんぐらい止めろよ〜、海七渡〜」

「わ、悪い。」

最近、皆の俺への當たりが強くなってきた気がする。まぁ試合前だからしょうがない部分もある。実際、俺が止められれば點はらないしな。こういうのは中學でも日常茶飯事だったから、そこまで気にしない。

次はシュート練習だ。前に立っている選手にパスを出し、リターンをけてシュートを打つシンプルなものだ。1年の一人がリターンをして、それを2年のエース、中村 誠耶(なかむら せいや)が強烈なグラウンダーシュートを放った。俺はそのボールにあわせてダイビングし、外に弾く。が、そのボールを2年の一人が超至近距離で俺に向けて蹴り飛ばした。

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俺の手はボールのスピードに追いつけず、ボールは俺の顔面に直撃した。

「海七渡!」「おい!平気か!」

慌てて顔を押さえてみたら、グローブ全面がで染まっていた。相當のが出ている。誠耶と蒼月が俺のもとへすぐに駆けつけてくれたおかげでなんとか助かったが。俺がある確信を得たと同時に、誠耶がそいつに言い放った

「おい」

「あ?」

「お前、わざと顔狙っただろ」

「は?んなわけ無いだろ。たまたまだよ、た•ま•た•ま」

「チッ」

そいつの後ろの奴らも皆俺の姿を見て笑いを堪えている。これは推測だが、おそらく、俺が文化祭で部活を休んでいたことに不満を持っているのだろう。うちの部活の練習容は結構ハードだし、空気もピリピリする。だけどこれは完全に八つ當たりだろ。

結局、顧問に今日は安靜にしとけと言われ、止して帰ることになった。

ーー蒼月sideーー

「お前、やっぱりわざとだろ!」

「あいつがサボってやがったのが悪いんだよ」

「サボってたわけじゃない!海七渡は素人なのに頑張ってギター練習して、ライブを功させたんだぞ!」

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「そんなの部活ほったらかして遊び呆けてたのと変わんねぇんだよ。もし、今回の大會でアイツがスタメンに選ばれたら、俺は部活辭めるから、それじゃ」

「お、おい!待てよ!」

二年のそいつはそう言って練習に戻った。皆おかしいだろ……。このチームがバラバラになりかけたとき、みんなをまとめ上げたのは海七渡だったじゃないか。中村が部活を辭めようとしたとき、必死に止めてなんとか引き留めたのも。このチームは海七渡に支えられてきたからここまでこれたのに、皆それを忘れてしまったのか?このままだと、このチームは崩壊してしまう。何とかしないと。

「蒼月」

「ん?中村か」

「あれ、どう思う」

「わざととしか思えないだろ」

「どうする」

「分からないけど、1つ言えることは、海七渡は絶対間違ってない」

「ああ、俺もそう思う」

ーー海七渡sideーー

結構出してたから頭がクラクラするな。それにしても、これからどうするかな。部活行ってもどうせあんなじだしな〜。亜実に相談したところで俺の問題だから自分で何とかしろとか言われそうだし。どうすりゃいいんだよ!教〜えて〜おじいさ〜ん〜。

「何気持ち悪い顔してんのよ」

「出會ってすぐこんな罵詈雑言浴びせてくるのは亜実ぐらいだな。あと、人が真剣に悩んでるのにそういうこと言うのやめようね」

「あなたの顔のせいでしょ?それで、何があったの?」

「んーと……実は…」

いや、待てよ。ここは自分で何とかするべきじゃないか?自分だけで上手くこの問題を解決するところを亜実に見せてやれば……。しは俺のことを認めるようになるだろ!ならしぐらい辛くても乗り越えてみせるさ。

「いや、何でもないわ」

「そう、そういえば部活はないの?」

「いや、ボールがぶつかって鼻が出ちまって、今日はとりあえず帰れって言われてな」

「そうなのね。お大事にね」

「あぁ、ありがとな」

「?」

「なんだ?どうかしたか?」

「いや、帰らないの?」

「?いや、お前が部活終わるの待ってんだよ。彼氏だから當たり前だろ」

「///そ、そう///。なら、もうすぐ終わるから待っててくれる?」

「了解」

ん?なんでこいつ顔赤いんだ?下向いてモジモジしてるし。まあいいや、とりあえずおれは明日からどうするかを考えなきゃな。部活は行くべきだろうか?蒼月に相談してみよう。

正門で亜実を待っていると、小走りで亜実が向かってきた。

「部活お疲れ様」

「うん!ありがと!」

この変わり合にも慣れたもんだ。もう全く別の人間として認識してるからね俺は。全然気にしない。

「ほい」

「ん?」

「ん?って後ろ乗るんだろ?」

「え、いいの?」

「最近乗せてなかったからな。今日だけな」

「ほんと?!やった!」

だからそういうオーバーなリアクションいらないから。可いのはもう知ってるから。って別に可くないし!全然そんなこと思ってないし!

5月といっても今日はなかなか暑い。だから自転車で浴びる風はとても清々しく気持ちがいい。なんかあれだな、こうやってしてると、ほんとに人同士みたいでなんか楽しいな。こいつと人になりたいわけではないけど、友達としてはアリかも。なんてな。

「送ってくれてありがとね」

「おう。じゃあまた明日な」

「あんまり一人で抱え込まないでね」

「えっ?」

「何でもないわ。それじゃあおやすみ」

「まだお休みってほどの時間じゃねーけど」

その言葉を聞く前に、家の玄関の扉は閉まってしまった。

家に帰った俺は、これからどうするか考えていた。そうだ、蒼月に相談しようと思っていたのだ。おもむろに攜帯を取り出し、蒼月へメッセージを送ろうとすると、ラインの著信がった。電話の相手は、今日俺の顔にボールをぶつけた、2年の小林だ。とりあえず出てみるか。

「もしもし」

「俺だけど」

「小林か、こんな時間に何だ?」

「お前に話があってな。お前のことだからなんとなく分かってんだろ」

「まぁ、一応は」

「なら話は早い。単刀直に言う、お前……部活辭めろ」

「………は?」

「俺はてっきり今日の謝罪かと思ったんだが」

「んなわけねーだろ。お前の予想通り、あれはわざと狙った。お前が気に食わなかったからな」

「俺が部活をサボって、ライブなんかやったからか?」

「そういうこった。分かってんならさっさと辭めてくれ」

「いや、でもそれは文化祭のための練習だからサボりってわけじゃないような」

「うるせぇよ。皆お前に辭めてほしいんだよ。普段からサッカーのことになると熱くなるし、俺らをそんなのに巻き込むなよ」

こいつ、何言ってんだ?こいつも試合に勝ちたくて部活をやってんじゃないのか?そうじゃないとしたら、何の為に部活をやってるんだこいつは。

「お前は試合に勝ちたくて練習してるんじゃないのか?」

「別に勝ちたくてやってるわけじゃない。ただの仲良しごっこさ。俺らはテキトーにサッカーができれば良かったんだよ!なのにお前のせいでめんどくせーことになるし、お前がウザくて仕方なかったんだよ!」

そっか。俺だけだったのか。サッカーに本気で向き合ってたのは。俺は勘違いをしていた。皆、サッカーが大好きで大好きで仕方なくて、勝ちたくて、上を目指したくて、見たことのない景を見たくて、やっていたわけじゃなかったのか。そっか……。そっか……。なら、俺がサッカーを続ける意味はもうない。俺はサッカーを続ける意味がない、そしてこいつらは俺に辭めてほしい。お互い損のしないwinwinの関係。なら、それでいいじゃないか。誠耶がサッカーを辭めそうになったとき、止めなくてよかったんだ。俺が高校でやってきてたことは、全部間違ってたんだ。そう考えたら、頭ももスッキリした。何もかもが抜け落ちたような、そんな覚だった。

「わかった。俺、辭めるよ」

俺はそう言って自分から電話を切った。

攜帯の畫面が歪んで見えない。何でだ?目頭がすごく熱くて、心が苦しい。

何で……俺は泣いてるんだ……。

もう何も分からない。今までやってきたこと、これからするべきこと、全部分からなくなっちまった。なら一層、もう全部捨ててしまえばいい。そう思った。人間の信頼関係というものは、繋ぎ合わせることは難しいが、斷ち切ることはとても容易い。だから、人の繋がりは糸で表されるのだろう。俺はそんな自分に繋がった全ての糸を、片っ端からぶった切った。そうだ。これでいい。むしろ気分がいい。これで全部ゼロからやり直せる。もう今までの思い出とか友達とかどうでもいい。俺は俺だ。俺は一人で生きていける。俺には脩と涼姉がいればそれでいい。そういえば父さんがもうすぐ帰ってくるんだっけ。久しぶりに一緒にゲームしたいな。まだ父さんには一回も勝ったことないからな〜。今度こそ勝ってやるぞ〜。

[ピーンポーン]

「誰だよこんな時間に」

「はい、どちらさまで…」

「あら、大分やさぐれてるわね」

「あ……み……」

「人の名前を神妙深く呼ぶのはやめなさい。気持ち悪いわ」

なんでこのタイミングて來るんだよ。帰ってくれ。お前とはもう會わないって決めたんだ。

「何で……俺ん家……」

「あなたがO中出だって言ってたから、その周りの家を片っ端から探っていったのよ」

「何で……そこまで……」

亜実は、優しく微笑んで……

「だって、私はあなたの彼だもの。彼だから當たり前でしょ?」

その言葉で、俺の作り上げた脆い防波堤は壊れた。

気づいたときには、亜実に抱きついていた。

「俺っ……ひぐっ……自分が何してきたのか……分からなくなって……ひぐっ……」

「でも……何とかしなくちゃって……思って……ひぐっ……だけど……うまく行かなくて……」

「そう……。頑張ったのね……。海七渡は頑張った。皆が誰一人知らなくても、私が知ってるから……。だから安心して。」

ただ泣いた。ひたすら大聲を上げて。恥ずかしいとかそんなは思い浮かばなかった。ただ、【ああ、俺はここにいていいんだ】という自分の居場所が見つかった安心と、自分の頑張りを知ってくれている人が近くにいたことに対する嬉しさで、俺は泣いたのだ。

どれぐらい経っただろう。目が覚めたら、俺は橫になっていた。どうやら、泣き疲れて寢てしまったらしい。ふと、さっきの景がフラッシュバックする。

「んぐっ……///」

忘れたくても、忘れられない。意識がだんだん鮮明になってきた。ん?頭の下に何からかいものがあるな。枕かと思ったが、枕とは違うだ。

「やっと起きたのね」

「あ、あ、あ、亜実?!」

「亜実だけど、どうかした?」

「どうかしたじゃないだろ!今のってもしかして……」

「膝枕だけど?」

「ぬぅわぁぁぁぁ!」

「急に唸り聲をあげてどうしたの?!」

どうしたのじゃないよ!俺、の子の前で泣きじゃくって、抱きついて、膝枕してもらって……。俺は何をしとるんだぁぁぁぁぁ!脳で大絶していると、

「とりあえず落ち著いたみたいね」

「これが落ち著いたように見えるか?」

「はいはい屁理屈言わないの。まずはじめに、話を聞かせてくれる?」

俺は今までどんな気持ちでサッカーをやってきたか、小林たちがサッカーをどう思っていたか、小林とのいざこざについてすべてを話した。

「なにそれ」

「え?」

「どうしてあなたが辭める必要があるの?!辭めるべきはどう考えても小林とかいうゴミでしょ?!」

「そうかもしんないけど、なんでそんな荒ぶってんの?」

「だって!……あなたの姿を見て……私も悲しくなった……」

こいつがこんなことを言うとは思わなかった。

「でもあなたも悪い!あなたの自分を信じる力が強ければよかったのよ!誰に何を言われても、あなたの魂の中にある英雄を放棄してはダメでしょ!!」

その剎那、俺のに電流が走った。

「!……そう……だよな……。」

【君の魂の中にある英雄を放棄してはならぬ。】ドイツの哲學者、ニーチェの名言だ。俺はこの言葉を知っている。かつて、俺が部活を辭めそうになった誠耶に言った言葉だ。だから、俺はその言葉の意味の深さをよく知っていたから、その言葉が、俺の心にストンと落ちた。

「ありがとな、亜実。おかげて目が覚めたよ」

「そう、それはよかっ……」

「でも、部活はやめる」

「えっ?」

「もっと違うものが見えたからな」

「違うものって?」

俺は今持ってる一杯の想いを込めて言った。

「俺は………亜実、お前が好きなんだ……。」

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