《俺はショートヘア王が大嫌い》Episode7 はじまりの始まり

「あなた、本気で言ってるの?」

「ああ。本気だ。お前は、俺をどん底から引き上げてくれた。お前のことをどうでもいいと言って捨てようした俺を……。」

「……そう。確かににあなたは、文化祭を経て知名度も上がったし、私とだんだん釣り合うようになってきたかもね。私があなたを助けたのも、あなたに可能があると思ったからよ」

「な、なら!」

「でも、まだまだよ」

そう言って、亜実はいつかぶりのニヒルな笑みを浮かべた。まあこうなるとは予想してたけどさ。でも、ここですんなりするような奴だったら、多分想いを寄せることはなかっただろう。俺のこれからの人生をゲームで例えるなら、亜実と関わらずに進むイージーモードと、亜実とたくさん関わり合って進む超級ハードモードのどちらかだ。以前の俺なら、迷わずイージーモードを選んでいただろう。だが今の俺は、このの趨くままに進むと決めた。

「そうか……。なら、絶対惚れさせてやるから待っとけ」

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これでいい。むしろこれから、ここがスタートライン、原點だ。こっからどんなルートに進むかは俺次第。俺が主人公で、パーフェクトヒロイン坂木 亜実を攻略するゲームか。やらないなんて選択肢はないな。

「言うようになったわね。なんかかっこいい……」

「え?」

「な、何でもないわ!」

「?」

最後の方何て言ってるか聞こえなかったけど、とりあえずどう攻略するかを考えなきゃな。あ!もうこんな時間じゃねーか!早く送らないと。

「亜実、もうこんな時間だし、帰ったらどうだ?送ってくぞ」

「?泊まっていくつもりだけど?」

「……へ?」

ちょっと待ってね、脳の処理が追いついてないから。Now loading…。いや、おかしいだろ!確かに流れで行けばこうなってもおかしくないけど、やっぱりおかしい!

「だめなの?」

「だ、だめってわけじゃないんだが……いや、やっぱりだめだ!なんかヤバイ気がする!」

「何がヤバイのよ……泊まるだけでしょ?」

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ならその妖艶な雰囲気を今すぐ仕舞い込んでください、俺が俺でなくなってしまう前に。

「だって、ほ、ほら!著替えとか無いだろ。だから無理だ」

「著替えならあなたのを借りるから大丈夫よ?」

「んぐ……」

それ大丈夫かどうかは俺が決めるんじゃないの?何であなたが決めてるの?でもあいつの顔を見る限り、この狀況を予想してたっぽいな。しは意表を突けたと思ったのに。こいつにはまだまだ敵いそうもない。

「はぁ…。分かったよ。今日は泊まってけ。部屋は姉の部屋があるからそこを使ってくれ。著替えは後で渡すから」

「ありがとう。でも減點よ。そこは男なら、『今日は寢かさねーぞ……子貓ちゃん♡』みたいなことを言わないと」

「いやそれ絶対言わないし言うやついないだろ。てか、それお前の理想じゃないよな?なわけないよな、そんなセンスないセリフ」

「そ、そんなわけないでしょ。そんなことより、シャワー借りてもいい?」

「あぁ、いいぞ」

「それじゃあ借りるわね。……覗いたら殺すから」

「覗かないけどな。お前に嫌われることはしたくないし」

「そ、そう///不意打ちとはなかなかやるわね」

「不意打ち?何の事だ?」

意味はわからないけど、なんか顔が赤いな。まーいーや。

[ジャァァァァァァァーーーー]

「♪〜♪♪〜♪〜」

風呂場からはシャワーの水の音と、亜実の鼻歌が聴こえてくる。今風呂場の景を想像したやつ、靜かに手を挙げなさい。安心しろ。俺もだ。まぁ好きな人が自分の家に來てシャワーを浴びている狀況にドキドキしない男なんて、この世にいないだろ。なぁ、お前たち。「兄ちゃん、あのの人、兄ちゃんの彼?」

「いや、まだ彼じゃないな……"まだ"……な。」

「兄ちゃん……狙ってるんだね」

「狙ってるっていうか、惚れちまったんだよな……」

「今の兄ちゃん、めっちゃ大人だ……」

「ばっかお前、俺はまだガキでいいんだよ。子供のうちに々なことしたいからな。大人になんてなりたくない……」

「今の兄ちゃん、すごいカッコ悪い」

「元々だよアホ」

そんな調子でぺちゃくちゃしてると、亜実がシャワーを浴び終わったらしく、俺の著替えを著て風呂場から出てきた。そう、"俺の"著替えを著て。何かもう彼より彼らしいというか何というか……惚れ直したわ。

「な、何よ、惚れ直したって……」

「うぇ?!」

やっべ、聲に出ていたらしい。しょうがないだろ、自分の好きな人が自分の著替え著てたらこうなるのは必然だろ。

「と、とりあえず俺は寢るわ」

「ねぇ、あなたの部屋、見てもいい?」

「は?別にいいけど。特に何もないぞ?」

「大丈夫、期待してないから」

「思ってても口にしちゃいけないことってあると思うんだ、俺」

こういうとこは是非是非直してもらいたい所存であります。

「落ち著いた雰囲気ね……」

「そうか?ずっといるもんだからよく分からん」

「すごい本の量ね」

「ラノベとか小説とか哲學所とか歴史書とか々あるぞ。大は親父からの貰いもんだが」

「お義父さん、いい趣味ね。私もニーチェ、好きなの」

「お前もニーチェ好きなのか。俺も好きだ」

「………」

「おい?」

「へ?い、いえ、なんでもないわ!ニ、ニーチェいいわよね」

「ああ、この人の考え方には共する部分が多いし、何より人の心理をよく理解している」

「そうね、この人の言葉は全て名言と言ってもいいぐらいね」

「お前がそんだけ褒めるってことはやっぱりニーチェってすごいんだな」

「私が褒めなくても凄い人は凄いわよ。何で私が基準なのよ、あなたは」

「お前とずっと一緒にいると、お前の凄さがひしひしと伝わってくるからな」

「褒めてるのか貶してるのか分からないわね……」

額に手を當て呆れたように首を橫に振ってそう言った。

「とりあえず俺は寢るから。ほら、出てった出てった」

「嫌よ、まだ眠くないもの」

「お前はそうでも俺は眠いんだよ」

「さっきあんなに寢たのに?」

そう言ってニヤリと口角を上げる亜実。くっそ、さっきの膝枕のが〜!

「なら勝手にしてくれ、俺は寢るから」

「そ。ならお言葉に甘えて」

実際、さっきぐっすり寢たせいで全く眠気はない。

でも目は瞑っておこう。目瞑ってれば寢てなくても疲れは大取れるらしい。これ豆な。

本と棚のれる音とページを捲る音だけが部屋を支配している。本を取り出してはし読み、戻しては違うのを取り出しを繰り返しているようだ。俺の部屋にある本は200冊ほどだが、ほとんどがシリーズだから一巻を読めば容は分かる。にしてもページ捲るの早すぎない?ほとんど読んでないでしょ絶対。ページを捲る音に耳を澄ましていると、呟くような聲が聴こえた。

「こんな本読んでるんだ。これ、すごく面白そう。今度貸してもらおうかな。でも貸してくれるか分かんないし……。私のこと好きってほんとなのかな……。これからどうしよう……」

驚いた。そこにいるのは、皆のヒロイン、坂木 亜実ではなく、俺のときに出てくる、魔を彷彿とさせる絶対悪のような亜実でもない。弱々しい雰囲気を纏った、乙と呼ぶべき存在がそこにあった。これが亜実の素なのか?なら、俺の前での亜実も作りなのか?やばい、わからなくなってきた。と、俺の脳がカオス化しているとき。

「フフッ。起きてるの、バレバレだから」

「ぐぇっ!?」

びっくりしすぎて車に轢かれた蛙みたいな聲が出ちまった。なに、あいつ俺が起きてたの知っててあんなことしたの?どこまで俺をからかいたいの?こいつにはほんとに遊ばれてばっかだな。いつかやり返してやりたい。俺が心ので亜実への復讐を沸々と練っていると、

し昔話をしてもいい?」

「急にどうしたんだよ」

俺はベッドからを起こして問うた。

「まぁいいじゃない。私ね、小さい頃から父と母がいなかったの。父も母もが弱くてね。私が3歳のときに父が死んで、5歳で母が死んだの。どっちも癌だった」

「……」

俺はそれを黙って聞いていた。ここで口を挾むほど、空気が読めないわけじゃない。でも、亜実にそんな過去があったのか。俺もそこまで両親と一緒に過ごせていたわけではないから、その辛さは痛いほどわかる。ましてや、亜実は両親を亡くしている。

それは、子供には大きすぎる神的ダメージを與えることになる。こいつはそれを経験したんだ。

「その後は、従姉妹の家へ引き取られて、中學を卒業するまでそこで暮らしてた」

「……」

「中學を卒業してからは、今暮らしている家を借りたの。」

「獨り暮らしで一軒家をか?」

「そうよ。叔父が、『本當に信頼できる人ができたときに、一緒に暮らせるように』ってね……」

「そう…なのか…」

俺はこのとき、亜実の言う、本當に信頼できる人が俺であったらいいな、なんて烏滸がましくて気持ち悪いことを考えてしまった。こんなときに何考えてんだ俺は。

々なことをしてきたわ。習い事全般は大完璧にしたし、スポーツだってバレー以外もやってきた。わたしって才能あるからね。それで今の高校に學した。學してからは、ひたすら時の人になったな〜。私、やっぱり可いから、告白の數はすごかったわ。男の子からもの子からもね」

俺は、こんなときでもぶれない亜実にし笑ってしまった。こいつは、ほんとに強い。どれだけ折れても、何度も踏みつぶされても、決しては折れない、そんな、雑草のような心を、亜実は生まれながらにして持っていたのではなく、自分で作り上げたのだろう。両親の死から立ち上がり、自分を磨き続けた。それは、常人では乗り越えられることができない、"努力"という山を、亜実は乗り越えたのだ。その山の道のりはひどく険しい。ただし、その頂からの景は、何よりもしい。亜実はその山を登り切ったのだ。楽な道など使わず、ただひたすらに、ただ我武者羅に。そう考えたら、俺はこいつが報われたことに対して、喜びや嬉しさのようなが湧き上がった。

「それで2年に上がってあなたに出會った」

「んで、何で俺をターゲットにしたんだよ?」

「う〜ん………なんとなく?」

「お前って、たまに適當になるよな」

「まあいいじゃない。そのおかげでたのしかったでしょ?」

「ちょっとはな」

俺は振り返る。文化祭のライブぐらいしか覚えてないが、確かに楽しかったな。亜実の無茶振りに振り回されてただけだけど。

「これからは、海七渡が楽しくしてね?」

「き、急に名前呼びはセコいだろ。不意打ちだぞ……」

「あなたに言われたくないわ」

俺がいつ不意打ちなんかしたんだよ。ていうかこいつに不意は無いだろ。全方位ATフィールド全開みたいな雰囲気だぞ。

季節はしばかりを変え、めっきり夏にりかけている。6月の太の下、日差しをたっぷり浴びながら亜実の家の前。ガチャリと音を立て玄関のドアが開かれた。

「おはよう」

「ああ、おはよう」

「なにジロジロ見てるの?」

「いや、やっぱりお前可いな〜と思って」

「あ、朝からなによ///」

「お前を惚れさせるって言っただろ?お前、意外とこういうの弱いのな」

「う、うるさい!いいから早く出発する!」

「はいはい」

朝から好きな人と登校。うん、悪くない。むしろ最高の気分だ。これから楽しくなりそうだ。いや、楽しくしてやろうじゃねぇか。ラブコメの神様、アンタのおかげで俺の高校生活、薔薇になるかもしんねぇよ。

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