《俺はショートヘア王が大嫌い》Episode13 排球

次の日。

暑いよ〜………溶けちゃうよ〜………。

もやっと本気を出してきたらしい。すごい暑さだ。

亜実は朝練があるらしく、先に學校に行った。

久しぶりの一人登校。なんか寂しいな……。

暑さと寂しさのオンパレードだな。

俺はペダルをゆっくりと踏んで地獄を歩く。

最近、というか、2年に上がってからはほぼ毎日歩きだったからな。亜実と登校してたから。

このペダルの覚も懐かしいといえば懐かしい。

俺はギシギシと不快な音を立てながら、學校へ向かった。

朝のSHRショートホームルーム。

たしか、球技大會の種目が発表されるんだっけか。

教壇には相変わらずの淡々とした態度と口調の南がいる。

「球技大會の種目についてだが、発表するぞ」

そう言って、し間を開ける。クラス張が走る。ただの種目発表なんだけどな〜。まあこの學校は行事に力をれているっぽいからしょうがないか。

「まず、男子の種目はサッカーに決まった。」

それを聞いて、岡田がよっしゃぁぁ!とんだ。

よく見たら、蒼月あつきも、機の下で小さくガッツポーズをしていた。なんだ?みんなサッカー好きなのか?

まあウチのクラスは経験者が多いし、優勝も夢ではない。なんたって蒼月がいるからな。

蒼月はサッカー部の司令塔で、キャプテンを務めている。ほんと、いつも助けてもらっていた。

蒼月とサッカーか……。もうすることはないと思ってたんだけどな。

正直なところ、楽しみといえば楽しみでもある。

もしかしたら、蒼月のさっきのガッツポーズって………いや、考え過ぎか。

岡田の一聲でクラスがし賑やかになったのも束の間、南の「子の種目は………」という聲で再び靜寂を取り戻す。

子の種目は……バレーボールだ」

なるほど。バレーボールか。ウチのクラスの希通りだな。なんてったって、亜実がいるからな。正直、優勝しか見えない。

「最後に、男混合種目だが、ドッチボールになった」

お〜。ドッチボールね。あれって野球部が無雙する競技なんだよな。ウチのクラスにも、野球部の富山がいるから何とかなりそうだ。

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「ホームルームは以上。皆1時限目の準備をするように」

そう言って南は教室を出ていった。

そんなことはお構いなく、クラスは盛り上がりまくっていた。

こりゃ大変なことになりそうだな。まあ俺は適當に端っこにいればいいや。運全然してないから多分けないし。

てなわけで、球技大會の練習が始まる。

晝休み。

男子は外でサッカーの練習をしている。

俺は端っこで適當にリフティングをして遊んでる。

久々にボールったけど、意外と衰えてない。良かった。クラスの奴らに迷をかけるのは嫌だからな。

それより、なぜかさっきから誰かに見られてる気がする。まあ気のせいか。

ウチの男子を見るに、なかなかレベルが高い。

中學までサッカーをやっていた奴が5,6人いるらしい。殘りは素人だが、全く出來ない奴はほぼ僅か。

俺の反対側にいるクラスの奴らを見ると、蒼月がいた。何やら、サッカーが苦手なやつにコツを教えているっぽい。流石、蒼月!こういうときでも自前のの優しさとイケメンパワーを発揮している。

俺がぼーっとそっちを見ていると、蒼月が俺を呼んだ。

「おーい、海七渡〜。ちょっと來てくれ」

お察しの通り、俺と蒼月の間では、々あった。

けど、蒼月はそれを無かったことにしようとしているのかもしれない。なら、俺もそれにノッかるのがベターだろう。

「おう、今行く」

そう返事をして、蒼月の方へ向かった。

「悪いな、なんかボールの蹴り方が分からないらしいんだ。俺、教えるの下手だから海七渡に任せてもいいか?」

噓つけ。サッカー部の中でもトップのスキルを持ってるお前が、説明できないわけ無いだろうに。

多分蒼月は、孤立気味の俺を救おうとしてくれたのかもしれない。ハッキリ言うと、ありがた迷だな。俺は別に一人が嫌いなわけじゃないし、球技大會も無難にやり過ごすつもりだったのに。

でもな〜、さっき乗っかるのがベターとか言っちゃった矢先、いきなりへし折るのは々気が引ける。

しょうがない、ここも蒼月の策略にノッてやろう。

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「わかった。なら蒼月はあいつらの方にってくれ」

俺はグラウンドの真ん中で試合をしているクラスの奴らを指差した。

「お前がったほうがあいつらの刺激になるだろ?」

「……そうだな。そうするよ」

そう言って、蒼月はグラウンドの真ん中に走っていった。

「それじゃあ、蹴り方を教えるぞ。こう見えても元サッカー部だからさ。分からないことがあったら何でも聞いてくれ」

うむ。我ながらいいキャラ作りだな。

「それじゃあ、質問していいかな?」

3人のうちのメガネをかけた奴が挙手して言った。

「任せろ、何の質問だ?」

「ボールの蹴り方が分からないんだけど……」

「なるほどな。それじゃあ実際に蹴って教えるから、見ててくれ」

俺は、防球ネットの前にボールをセットして、インサイドで転がす。

「これが"インサイドキック"って言って、名前の通り足の側にボールを當てる蹴り方。これは、味方にパスを出したり、コントロールを重視したいときに使う蹴り方。ちょっと蹴ってみて」

ボールを渡して蹴らせてみると、苦手って割には上手く當たってる。けどやっぱりフォームがぎこちないな。

もっとちゃんと教えてやらないと……。俺の教え方のせいでクラスに迷がかかってしまうかもしれない。

それだけは、なんとしてでも阻止せねば……………。

俺の指導者神に火がついてしまった。

そして俺は、月曜日から金曜日まで、毎日晝休みに3人の特訓をした。

最初は、キックの仕方やドリブルだの何だの基礎の初歩を教えていたのだが、途中からシュートやセットプレーとか、発展的な練習をこなすようになってしまった。

結果的に言うと、俺が教えた3人は、蒼月を除けばクラスでトップ3の実力を持つことになった。

いや、おかしいだろ?!なんでそんな急長すんのさ?!教えてた俺が一番ビックリだわ!

こいつらサッカー部ったほうがいいんじゃないか?ってぐらい上手くなってしまった。

決して、俺のコーチングスキルが高いわけでもないし、3人も本當に初心者だった。もともとセンスがあったのかもしれない。まあよかったよかった。

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これは3人の努力の結晶だ。俺は楽しそうにサッカーをしてる3人を見て、教えてよかったと思った。

ウチのクラス、優勝できるぞ。

そして、約2週間後。月曜日。7時限目である。

球技大會は明日。クラスは結束が固まってきて、絆というものが一層深まったような気がする。

例の3人を始め、男子は皆スキルアップに功し、文句なしのレベルに達したと思う。

子の方は、亜実曰く、めちゃくちゃ強いらしい。

あの海 友梨乃は元バレー部らしく、海 友梨乃がセッターで、亜実がスパイカーだそうだ。

他の人たちも、申し分ない実力らしい。

これはいよいよ楽しみだな。

2週間前までは、無難にやり過ごすはずだったのにな。

今日の7時限目のホームルームで、球技大會のメンバーを決めるらしい。てか今じゃねーか。

結果的に言うと、俺はベンチだ。

まあ迷かけたくないからいいけどさ。

一応経験者なんだけどな〜。しくしく。

キーパーは岡田が務めるらしい。なんて頼れそうなキーパーだ。

まあ俺なんかが出なくても蒼月がいるからな。

あとあのビッグ3な。もうめんどくさいからこう呼ぶわ。

とにかく、明日が本番、恨みっこなしのガチンコ勝負。

勝ちたい。純粋にそう思った。だからかもしれない。俺は自分でも理解できない行に出た。

「あのさ………」

間を開けて、はっきりと言った。

「円陣組まないか?」

クラスメイトの視線が、俺に集まる。うわー怖い。失敗したかな。そう思っていたが……

「いいこと言うじゃん。やろうよ」

意外や意外。あの海 友梨乃が俺の提案にノッてくれた。まじかよ。結構良い人なのか。いやいや待て。文化祭のときもミサンガ作ってたし、はいい人なんだろ。見た目はめっちゃ怖いけど。

「海七渡の言う通りだな!やろうぜ!!」

岡田もノッてくれた。岡田の聲を境に、クラスの皆が円狀に集まりだした。

肩組んだはいいけど、誰か掛け聲とか言わないと終わんないんじゃないか?

そう疑問を抱いていると、

「荒井、なんか言いなよ」

「え?俺?」

「言い出しっぺじゃん」

なんで俺なんだよ海さぁ〜ん!無理だって!俺、クラスでは結構影薄いし!彼が亜実ってことぐらいしか取り柄ないし!おい待て、それってすごい取り柄じゃねーか。じゃあ俺がやんなきゃな、うん。

切り替えめちゃめちゃ早いね。

「えっと……」

俺は脳をフル回転させ、どんな言葉を言おうか探す。でも、全く浮かばない。

困っていると、亜実が俺を見て微笑みながら頷いた。

わかったよ。俺はこいつにとことん弱い。

大きく息を吸って、張をほぐす。

「男子も子も、今日までの練習を忘れずに、明日全力で頑張ろう!」

「8組、絶対優勝するぞぉぉぉぉぉぉぉ!」

「「「「おぉぉぉぉぉぉぉぉ!!!!」」」」

帰路にて。

「にしても、目立ちたがらない海七渡があんなことするとはね」

「自分でもよくわかんないだよなそれが」

亜実はそっか、と言って空を見上げた。

。夏の夜空は、星がよく見える。

「優勝、したいね」

「するんだろ?」

「もちろん」

「そういうと思ったわ」

「何それ」

そう言ってクスクスしてる亜実は、暗がりの中でり輝く藍晶石カイヤナイトのようで、俺は目も心も奪われた。

「ぼーっとしてるけど、どうかしたの?」

「い、いや!なんでもないよっ?!」

「すんごい怪しいんだけど」

あ、ジト目も可い。じゃなくて!

あんまり見惚れすぎるのもダメだな。『でもこいつが可すぎるのが悪いし』

「可すぎるって………そういうこと平気で言うなバカ……」

って聲に出てたんかい!でも照れ顔見れたから結果オーライだな、うん。

亜実を送ってから家に帰って。

「ただいま〜」

「兄ちゃんおかえり!」

「おー脩しゅう、ただいま」

「海七渡お帰り〜」

「今日は早いんだね、母さん」

「そうなの。そんなことより海七渡!亜実ちゃんは次いつ來るのよ!」

「知らねぇってそんなこと。てかそんなに仲良くなったのか?」

「ま〜ね〜。"ガールズ"トークが盛り上がってね〜」

「ガールズってところがやけに強調されてるんですが……」

「何か言った?」

「いえ何でもありません!」

そんな満面の笑みで言われたら言えるわけねーだろ。もう母さんはガールズって呼べる年齢じゃないよって。

「そういえば、最近シャツの洗濯が多いけど、どうしたの?」

「あ〜、明日球技大會だからそれの練習してたんだよ」

「そうなのね!そういえば今週の土曜日、あたしとおとうさん旅行行ってくるから」

「旅行?どこに?」

「箱の溫泉よ!のんびりしてくるわね〜」

「ふ〜ん。行ってらっしゃい」

「何よ、素っ気ないわね!」

「両親のイチャイチャになんか興味ねーよ」

「そっか、それもそうね」

「でも応援に行くわよ!海七渡の活躍っぷり見せてね」

「俺ベンチだから來なくてもいいんだけど」

「じゃあベンチで座ってる海七渡を応援に行く!」

「アホか」

「あ〜!お母さんに向かってアホって何よ!」

「そんなことより、腹減ったから飯食おうぜ」

「そうだったわね!今日はじゃがよ!」

「まじか、そりゃヤバイな」

「海七渡大好きだもんね、じゃが」

そう言って、さっきまでの子供っぽい表から、子を見守る優しい表になった。急に母になるから困るんだよな。この人。

今日の夕飯はじゃがだった。腹一杯になったまま、風呂にる。

まだ17なのに、湯船に浸かるときって絶対あぁ〜っ

て言っちゃうんだよな。もう年か……。

湯船に浸かって、考える。

明日、俺達は勝てるのだろうか。俺は補欠だからな、願うことしかできない。

だから神様、明日だけは、靜かに見守っててくれよ。

そう願うことしか、俺はできないから。

喧やかましい目覚まし時計のアラームで目が覚めた。いつもならダラダラ起きるところだが。

生憎、今日は悪くない目覚めだ。

ほとんど開いていない目をこすりながら、階段を降りる。

一階の洗面所で、ぼさぼさの髪で眠そうな自分を見て、笑ってしまう。

なんだか、今日の顔はしっくりこないな。

いつもなら、この世を呪う寢ぼけ顔なのだが、今日に限ってはワケが違う。ちょっとイケメンとか言われちゃう合のキマッた顔だ。

球技大會、本番……

やるべきことはやってきた。

正直、上手くいってほしいと思っているが、そうなると思っていない自分がいる。

やっぱりし捻くれてるのかもな。父さんの言うとおりかもしれない。

実際、皆は今日を本気で楽しみたい、本気で勝ちたいと思ってるだろう。けど、俺はそっちじゃない。

逆なんだ。

捻くれている。そう言われた。

上等だ。

なんならその捻くれをプラスに変えるぐらい捻くれてやるさ。

捻くれた考え方で勝たせてもらうぜ、今日は。

そう決意したとき、鏡に映っていた俺の顔は、気持ち悪いぐらいニヒルな笑みだった。

なんだろうな、こっちの顔の方が俺には似合うわ。

出會った頃の亜実の顔とちょっと似てんじゃねーか?もしかしたら移ったのか?

寧ろ好都合だけどな。

今日はいつもよりしだけ、今日を楽しめそうだ。

高校前。

今日は亜実と一緒に登校しているため、歩きだ。

高校前は、【〇〇高校球技大會!!】と場門がデカデカと設置されている。

俺達の通うこの高校の球技大會は々派手で、近隣に住む人や保護者、他校からの學生も観戦に來る育祭覚のイベントとなっている。

因みに、育祭はこれの10倍は派手だ。うちの高校は、イベントに力をれ過ぎな気がする。

今日は、普段の一時限目から試合が始まる。

今日一日だけは、勉強を忘れて、勝利を求めて暴れまくっていい日。

こんなイベント、高校生がやる気を出さないわけがない。まあ俺はこっそり端にいようとしてたけどさ。

「なんか雰囲気出てきてるな」

俺が門の前で言うと、亜実が真剣味を帯びて言う。

「ほんと。張してきちゃうよ」

「お前が張?つまんない冗談だな」

「私を何だと思ってるの?!私だって張ぐらいするから!」

眉を寄せながら頬を膨らませて言う。

あーもう!あざといんだけど騙されちゃう!

弱すぎだろ、俺。

教室に著いて。

殆どのクラスメイトは來てるな。皆気合がっているように見える。顔も引き締まったじがする。

皆、今までを無駄にしたくないんだろう。

対して、俺はそこまで何にもしてない。だから失うものなんてない。

まあ出るのドッチボールだけだしな。

サッカーは補欠だから誰かが負傷しない限り出ることはない。高みの見、じゃないからただの見だな。

もしものときの策は用意している。

たとえ、クラスの皆を裏切ることになろうとも、必要であれば実行する。

その覚悟は今朝、鏡の前でしてきた。

ただ一つ失敗を犯した。昨日の円陣の件だ。あの提案をしなければ、予定通りスムーズに事が進んだかもしれないが、まあ過去は悔やんでも仕方ない。今できることをやるだけだ。

朝のホームルーム。

擔任の南も、今日はいつものスーツではなく、クラスで揃えたクラスTシャツなるものを著ている。

なんか急に子供っぽくなってかわいくなったな。

「知っての通り、今日が球技大會本番だ。近隣や外部の方々が多數來訪する。くれぐれもトラブルにならないよう気を付けるように。」

いつもの淡々とした面白みのないホームルームだな。他の皆もそうじているかもしれない。

けど……

「とまあ、建前はこんなところだ」

今日は違うらしい。

「私は、お前たちの今までの練習を全て見てきた。お前たちは気づいていないだろうがな」

やっぱりな。グラウンドにいたとき、誰かに見られてると思ったら、南だったのか。

クラスの皆は驚いている。そりゃそうだ。

この人は無駄なことはすべて切り捨てるタイプだ。変な馴れ合いもしないし、笑うところなんて見たことがない。學校を仕事場としか考えていないような、無駄を嫌うようなイメージが生徒たちには焼き付いているからな。

南は続ける。

「見ていてじた。岡田、お前は授業の容は理解するのは苦手だが、授業で寢ているところは見たことがない。その真面目さが練習を見ていても伝わったぞ」

「あ、あざっす!」

ほら戸っちゃってるよ。生徒褒めるとこなんて初めて見たぞ。

「それから海、お前は授業に対しては不真面だが、周りを引っ張る力がある。自分の役割を理解していたな。よく頑張った」

「別に。やりたいことやってただけ」

そう言ってる割に、顔が赤いのは説明不要だな。

「それから………」

先生はクラス全員に対して一人ひとり違う言葉を伝えた。

俺達は勘違いをしていたらしい。

この人は、俺達のことを誰よりも考えてくれていた。誰よりも見てくれていた。

ほんと、不用な人せんせいだな。

「最後に………」

"先生"は間を開けて……

「私の生徒として、恥のない試合をするように。負けなんて存在しないぞ。優勝してこい」

最後に力強く言い殘した。

その顔には………初めて見る笑みがあった。

「よっしゃあぁぁ!!やってやろうぜ!優勝するぞ!!」

先生の言葉をけて、岡田が吠えた。岡田のこういうところが、先生の言う良いところなんだろうな。

「そうだな!優勝しようぜ!!!」

「よし!皆頑張って優勝しようよ!!」

「先生に優勝プレゼントしてやろうぜ!!!」

岡田を筆頭にクラスの皆が気合の一言をぶ。

嵐の前の靜けさ、という言葉がある。

ありゃ噓だな。

クラスの第一試合。男子サッカー、一回戦。

結果から言うと、圧勝。

まず始めに、蒼月が他の選手とレベルが違う。

ボールを取られることなく前線に運び、ビック3の一人へラストパス。それを難なくゴールに転がし、同じような攻撃を繰り返して。

結果は6-0。失點は0。圧倒的な強さだ。

クラスの第二試合。子バレーボール、一回戦。

2セット先取でストレート勝ち。

理由は言わずもがな。あんなスパイク取れるやついないっつーの。

見るの2回目だけど、やっぱり迫力が前よりある気がする。

男子のサッカー、子のバレーボールは両方とも順調に決勝まで勝ち進んだ。

準決勝は、例の小林のクラスだったが、危ないシーンはそこまでなく、3-1で勝利した。

蒼月が異様に小林に厳しくディフェンスをしていたが、まあ深くは探らない。なんか自分が原因な気がする。

次は子のバレーボールの決勝。

試合前のアップ中。育館は応援の人で熱気がすごい。おかげで汗だくだ。

練習中、亜実がスパイクを打つたび、観客がどよめくのはもう恒例である。

なんでも、あいつのスパイクは全國で5本の指にるらしい。まあそりゃそうだ。目が慣れないと追いつかない。常人なら目が慣れる前に試合が終わってる。俺は反神経が良い方だからギリギリ追いつくけどな。

「亜実〜!頑張って〜!!」

「亜実先輩!頑張ってください!!!」

「亜実ちゃ〜ん!!ファイトだよ!!」

すごい応援だな。完全ホームじゃねーか。

応援に対して亜実が手を振ると、相手はキャーキャー言ってた。まあカッコイイしかわいいしな。

ディスイズ ザ カッコかわいい。

でも、決勝はそこまで甘くない。

反対側のコート、175cmを越える長を持つバレー部のもう一人のエース。確か木村 奈緒だったっけ。

苗字からしてバレーボール選手だな。

あの高さから放たれるスパイクは、亜実ほど威力やスピードはないが、高打點のスパイク故の恐怖がある。あの高さから打たれたらめちゃくちゃ怖いだろうな。

アップが終わって、もうすぐ試合が始まる。

俺は亜実にタオルを渡して、亜実もそのタオルをけ取る。一応聞いとくか。

「あの木村ってやつ、何か対策とかあるのか?」

「無いよ。でも大丈夫、私が決めるから」

なんだよそれ。めちゃくちゃかっこいいじゃねーか。

ラインに整列し、ホイッスルでネットへ寄り、握手。

1セット目。

海のサーブから始まる。軽く放たれたように見える無回転サーブは、相手選手の前で奇妙な変化をし、コートに落ちた。

「すっげぇ……」

心かられた。當然、観客もめちゃくちゃ盛り上がる。

「あの子のサーブすごいな!絶対元バレー部だろ!」

「次拾わないと、相手は辛いわね」

2本目。

海のサーブは、さっきほどボールが変化せず、相手に拾われたが、それでもしは相手のリズムは崩れる。

けど違った。

れたボールは右側へ逃げる。それをセッターが逆側へ。反対の左側には木村。おかしいな。もう飛んでる。

最高打點から放たれる恐怖のスパイクは、コートの左角にきれいに落とされた。

唖然。その言葉が一番似合う。

「何だよ今の……」

「「「うぉぉぉぉぉぉぉぉ!!!!」」」

育館が歪むほどの歓聲が響く。

「何者だよっ!!!あのセッター!」

「普通ならゆっくり組み立てて返すところなのに……」

「何事も無かったのように決めてきやがった」

「確かにあのスパイカーもすごいけどよ……」

「あの人……知ってる」

隣にいた蒼月が言った。

「確か関東選抜選手だった……西沢 凜」

「西沢 ……凜?あいつが……」

名前は聞いたことがある。関東の選抜選手に選ばれたものの、指の骨折で選抜から外されたって聞いた。それ以來、バレーボールは辭めたらしい。

なら、なんでやってんだよ。

「凜……トスのキレ、全然衰えてないね」

「久しぶり……亜実。もうバレーはしないって決めてたんだけどさ…。奈緒がどうしてもって言うから。優勝したら、バレー、もう一回始めようって奈緒に言われたから。だから手は抜かないつもり」

「凜が帰ってきてくれるのは嬉しいな〜。でも……」

「……私は本気だからね」

「その顔のときの亜実、私好きだった。亜実がその顔になったら、絶対勝てたから。だから今は嫌い。敵になると、こんなにも怖いんだね……。でも負けないよ」

「こっちこそ」

「何、あの二人……めちゃくちゃ怖いオーラ滾らせてんだけど……」

その辺にしといてやれ。海さんがビビっちゃってるから。このままだとキャラ崩壊しちゃうから。

結局、1セット目は、異質すぎる西沢 凜のトスと、木村 奈緒の高打點スパイクに翻弄され、9-25という結果になった。

インターバル。

「亜実、あの西沢っていうセッターをどうにかしないと、厳しくないか?」

一応言っておいた。多分、やってる本人たちが一番わかっているから、そんなこと分かってるよ!なんて言われてもしょうがない聞き方だが、確認は必要だ。

「そうだね……。私が真ん中にってみるよ」

「おう。無理するなよ」

「バカ、無理しなきゃ勝てないって」

「……悪い」

確かにそうだ。今のは失言だった。

それを見かねたのか、先生が口を開く。

「まだ1セット目だ。落ち著いていけ。1セット目で分かったと思うが、本當に怖いのはあのセッターだ。あのセッターの上げるトスのコースを読まないことには勝機はない。次の2セット目、そこを意識していけば、スパイクは上げられる」

「そうだぜ!!次のセットとって、3セット目もとって優勝しようぜ!!」

先生に続いて、岡田が皆を鼓舞する。

「そうだぞ!!まだ1セット目だ!こっから気張れよ!!」

「そうよ!まだ全然チャンスはあるんだから!」

會場もノッてきたな。いいぞ。空気を変えられれば、気持ちも切り替わる。

2セット目。3セット制のため、この2セット目が勝負。落とせば終わり。取れば繋がる。

気持ち的には、厳しい戦いになるが、ここを耐えれば、3セット目はこちらが有利になる。

相手のサーブから始まる。

高く上がったサーブを亜実がスッと拾い、それを海が上げる。最後は亜実が叩き込む。

破壊力が尋常じゃない。

流石にこのスパイクは相手も拾えないらしい。

こちらのサーブ。打つのは亜実。高くトスを上げる。ジャンプフローターサーブ。

ボールは、鳴りそうのない音を立てて、相手コートへ叩きつけられた。

「………………………………」

「「「ワァァァァァァァァァァァ!!!」」」

すんげぇな、あいつ。誰もけなかったぞ。

「凜、あのサーブはちょっと厳しいかも……」

「だいじょぶだよ、奈緒。あのサーブ拾えるの、全國で片手で數えられるくらいだったし……。それにしても、前より速くなってない?」

「まあ練習したからね!」

「やっぱ鬼だよ、亜実は……」

そこからは、一方的な試合展開になった。

西沢 凜の異質なトスも、亜実が真ん中にいることで、瞬時に予測してスパイクに反応できる。

2セット目は25-16でこちらが取った。

「よっしゃぁぁ!!3セット目だぁぁ!!」

「岡田、し靜かにしてろって」

「何言ってんだよ荒井!めちゃくちゃ熱い試合じゃねーか!これはばずにはいられないだろ!」

「まあ、そうだよな……」

正直、亜実を真ん中に置いた時點で、トスとスパイクは封じられた。もう相手に武はない。

勝ったも同然、と言っていいのかもしれない。

普通なら。

「おいっ!あれ見ろよ!」

観客の一人がぶ。何があった?

「相手のセッター、真ん中にいるぞっ!!スパイカーなのか?」

「ほんとだ!!捨ての作戦か?!」

この段階で変えてくるって考えたら背水の陣である可能が高い。だが警戒は必要だ。

亜実を見る。

は?

あいつが……焦ってる。顔がめちゃくちゃ険しい。まるで苦蟲を噛みつぶしたみたいに。

「凜!久々だけど、指、気を付けてよ〜?」

「奈緒の方こそ、セッター久しぶりなんだから、しっかり上げてよね」

こいつら何言ってんだ?

西沢 凜がセッターじゃないのかよ?なんで木村 奈緒がセッターやってんだよ。

相手のサーブで3セット目が始まる。

サーブをするのは木村。高い打點尚且つジャンプフローターサーブ。

だが亜実なら上げられる。

余裕を持って海へレシーブ。海がほぼ真上へトスを上げる。既ににジャンプしている亜実のところへ、ピンポイントに上げられたトスを、亜実が思いっきり振り抜く。

2セット目までは、9割以上っていたスパイクだ。

そう、2セット目"まで"は。

何故か、亜実の放ったスパイクは自陣のコートに落ちていた。

理由は単純。ブロックされたからだ。

じゃあ誰が?

木村 奈緒だ。2セット目まで後ろにいた木村が、今は前に立っていた理由。

亜実のスパイクをコートに打ち込ませないため。

簡単だ。コートにらなきゃ負けない。

極論だが、今はそれが正論になる。

亜実のスパイクが負けた。

初めてだ。亜実のスパイクが負けたのは。

完璧なる敗北。

だが、當の本人はそこまで気にしていないらしい。

寧ろ亜実が気にしているのは、西沢の方だ。

まさかっ……!

「皆、違うぞ。逆だ!」

気づいたときには、既に行に出ていた。

「相手の本當の目的は亜実のスパイクを止めることじゃない。自分たちのスパイクをれるためだ……」

皆はぽかんとしている。何いってんのこいつ?ってじた。だが俺は気にせず続ける。

「あっちの本命は西沢だ 西沢が本當のスパイカーなんだよ」

育館が靜まる。

「「「「…………………………………………は?」」」」

「ありゃりゃ。バレちゃったか」

「おいおいおいおい!まじかよ?!あのトスがスパイカーなのかよ……」

「凜は、"スパイカー"として関東選抜選手に選ばれてるからね……」

亜実が獨り言のように零した言葉は、獨り言にしてはやけに大きく、うちのクラスを焦らせる。

木村のサーブを亜実が拾い、海がトスを上げる。

それを亜実が打つ。それを木村が止める。

それを繰り返す。このままだと確実に負ける。

かといって他の人にスパイクを上げても逆効果。

もうここは亜実がブロックを抜くのを願うしかない。

また木村のサーブ。それを亜実が拾い、海が上げ、亜実が打つ。

ここを落としたら本當に厳しくなる。

現在の點數は、5-9。最終セットは15點。

俺はんだ。

「いけぇっ!!亜実っ!!」

「はぁぁぁぁぁぁっ!!」

亜実の今までで一番強いと思われるスパイクは、ものすごいスピードで、コートに落ちた。

相手のコートに。

「よしっ!」

亜実がガッツポーズをする。それを合図に歓聲が轟く。

「あの木村 奈緒のブロックを抜いたぞっ!」

その後、亜実が勢いをつけ始め、9-9まで差を詰めた。

追いついた。

「坂木ぃぃぃぃっ!このまま押し切っちまえ!」

岡田の吠えが育館を飲み込む。

岡田がさらにプラスの空気に変え、亜実コールがかかりだした。

「よし、このまま押し切ってくれ」

そう言ったものの、まだあっちには一人、ひとり隨分靜かになった奴がいる。

「奈緒、ブロックあると反応しづらいから、外していいよ。私が拾う」

「了解。凜、頼んだよ」

こちらのサーブが上がり、相手が拾う。それを木村がトスを上げようとしたとき………

西沢が、消えた。

違う。実際には、木村の橫で既に飛んでいた。その移とジャンプがあまりにも速すぎて、消えたように見えた。

そこに木村のトスがドンピシャに上がり、スパイクが打ち込まれた。

った。皆がそう思った。

ただ一人を除いては。

「亜実っ!!」

俺は願いを込めて我武者羅にんだ。その名前を。

レフトから放たれたスパイクは、ストレートと見せかけて、クロス。亜実以外は皆、ストレートに寄ってしまっているが、亜実だけは、西沢が腕振り抜く瞬間にクロスの準備をしていた。

上がった。

思ってたより高かったスパイクを、亜実はなんとかオーバーで拾った。それを海が亜実にトス、と見せかけてコートれる。

木村はスパイクを拾った次のトスを狙っていたため、海のきはそこまで警戒していなかった。

また西沢も同様、スパイクの準備をするため、ポジションをし後ろに下げていたため、ネット際に落とされたボールには間に合わなかった。

10-9。逆転した。

この試合、すべてトスを上げていた海は、それを逆手にとり、フェイントをれてきた。

それが見事功したわけだ。

にしても、ここでトスを選ばなかった海は、なかなかの強心臓だ。

この一手が勝負を分けた。

次から、相手は亜実のスパイクだけでなく、海のフェイクを警戒しないといけない。

さっきとはワケが違う。それでも、相手のスパイカーが常人ならまだ良かった。

運が悪い、こっちのスパイカーは鬼なんでね。

14-9。海がトスを上げる。ブロックはある。

亜実は落ち著いている。

腕は振り抜いていた。なのに、スパイクではなく、フェイクをれた。

野球でいうチェンジアップのような覚だ。

亜実は腕を振り抜いたものの、優しく、木村のブロックの橫にボールを落とした。

だが落ちなかった。

「西沢が反応してるっ!」

西沢が拾い上げた。それを木村がコートへ返す。

西沢のスーパープレーに會場が湧き上がる。

返されたボールを亜実が落ち著いて高く拾い、海が上げる。しかし、普通のトスじゃない。

亜実が、長く距離をとって、高く飛ぶ。

海は後ろへ上げた。

初めてのバックアタック。

當然、相手は反応できない。そう思っていた。

「止めるっ!」

木村がブロックにる。否。木村だけじゃない。

木村を含む3人のブロック。亜実はその右を狙った。

右のブロックの左手に當たったボールは変化し、コート外へ。

反応しているのが一人。西沢。

だが、一歩及ばず。

無差別にきを変えたボールは、西沢から離れていき、地面の音を鳴らした。

「や"っだぁ"ぁ"ぁ"ぁ"ぁ"……」

「よしよし、友梨乃は頑張ったよ!優勝したんだから泣かないの!」

號泣する海を宥める亜実。もうキャラとか関係ないな。

子バレーボール、優勝は、2年8組。俺達のクラスだ。

1時間後、男子サッカーの決勝が始まる。

「よっしゃぁぁぁ!この調子でサッカーも優勝取るぞぉぉぉ!!」

「「「「おぉぉぉぉぉぉ!!!」」」」

そうだな。子がこんだけお膳立てしてくれたんだ。これで優勝取れなきゃ恥ずかしいぜ。

2冠してやるよ。決勝の相手は、2年2組。

サッカー部のエース、中村 誠耶せいやのいるクラスだ。

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