《俺はショートヘア王が大嫌い》Episode14 天命を待たず人事を盡くす

時間がし経って。

「「「ありがとうございました!」」」

子バレーボールの決勝が終わり、整列。

「亜実、上手くなったね……」

「まあ、沢山練習したしね。でも凜も全然衰えてなくて驚いたよ。正直、今からでも戻ってきてほしいと思ってる」

「そのことなんだけどね……」

凜は、うん、と頷き、決意を込めた表で言った。

「私、もう一回バレーやりたいって思った!亜実と戦って、こう、がビリビリって!もっとくれ!って言ってるような気がして……。でも、戻ってきて……良いのかな……」

「良いに決まってる!」

心の底から出てきた言葉を、そのまま吐き出した。

「私は、ずっと凜のスパイクを待ってたよ!他の皆だってそう!だから、いつでも戻ってきて………待ってるから!」

「……そっか……。ありがと!私、またバレー始める!だから亜実、私たちのコンビのスパイクで全國行っちゃおうよっ!!」

ほんとに凜は。こういう明るいところが凜の良い所だ。

凜と、またバレーができる。

一緒にスパイクが打てる。

楽しみしかない。

だから私は、本心で言った。

「そうだね。私たち2人なら全國なんて余裕だねっ!!」

「あれ?前の亜実なら、『バレーは6人でやるんだから!』とか言いそうなのに」

「まあ、そうかもね……。今は、前とは違うから」

「まさか、噂の彼氏ですかなぁ?」

ニヤニヤして脇を肘で小突きながら聞いてくる凜。

う〜ん、こういうときの凜はめんどくさい。

適當に流しておこう。

「そうだよ〜。最高にかっこいいんだから〜」

「亜実をそこまで言わせるなんて、モデルか何か?」

いやいや、全然モデルじゃないし。スラッとはしてるけど、顔はそこまでイケメンじゃないし、目は鋭いし。

でも、かっこいいんだよね……。

「亜実……何か大人の顔してる……」

あらそう?

男子サッカーの決勝戦、30分前。

出場する選手は、補欠選手を含め、グラウンドで試合前のアップ。

俺はキーパーの岡田にボールを投げている。アップの手伝いだ。

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岡田は中學の頃、サッカー部でキーパーをやっていたらしく、フォームが安定している。

よし、肩の力も抜けてるし、足もよくく。変な張はしてないみたいだ。

ただ、嫌な予がする。

考えてみたが、原因は見つからない。

まあいい。今は皆のサポートを一杯しよう。

そう思っていたとき、鈍い音と歓聲が上がった。

原因は、中村 誠耶せいや。

軽く振り抜いたように見える右足のシュートは、振った足と釣り合わないスピードでゴールに吸い込まれた。

「おいおい!何だよ今のシュート!速すぎるって!!」

観衆の中からそんな聲が聞こえた。

そりゃそうだ。あいつは中學時代、関東選抜選手だったからな。180前後の長に、適度についた筋に、50mを6.1秒で走るというチートっぷり。言葉通りの怪だ。

あいつが嫌な予の原因か。

まあなら心配はいらない。ウチにもバケモンが一人いるからな。

「あれ見ろよ!!あっちのコートのあいつ!あれ、園田 蒼月あつきじゃないか?!」

「はぁ?!あの天才ボランチの?!」

「天才ストライカーと天才ボランチ、どっちが勝つんだ?!」

それはお門違いだな。ウチは蒼月一人で戦ってきたわけじゃない。

ビッグ3に岡田、他のメンバー皆で中村を止めるんだ。

かかってこいよ、中村。

お前のシュート、見せてみろ。

「荒井、お前凄い気持ち悪い顔してるぞ」

「あ、わりぃ。てか気持ち悪いってストレート過ぎるわ」

いくら本當だからって、思ったことをそのまま言葉にするのはいけないんですよ岡田くん。

嫌な予は未だに拭えないままだった。

整列前。俺は蒼月に聲をかけた。

「ちょっといいか、蒼月」

「お、海七渡みなとか。どうした?」

「ちょっと嫌な予がする。立ち上がりは特に集中させた方がいいかもしれん。あとロングシュートも警戒させといてくれ。中村は多分狙ってくる」

蒼月はし考えて、頷いた。

「……そうだな。皆に伝えておくよ。他に気をつけた方がいいことはあるか?」

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このとき、心のにある微かな不安を、伝えるか伝えないか、俺は迷った。

そして俺は、後者を選んだ。

「いや、特にない。勝ってきてくれ」

「任せてくれ。男子も優勝して混合も優勝して全部優勝しちゃうか」

いつもの落ち著いた大人の表ではなくて、子供のような無邪気な表で、そう言った。

「そうだな。いっそ蒼月がハットトリックでもしてくれれば楽なんだけどな〜」

「おいおい。それは中々厳しいリクエストだな」

「無理か?」

「まさか」

「そう言うと思ってたぜ」

俺は、蒼月の前に手を出した。蒼月は俺の意図を察したようで、同じく手を出してきた。

高校に上がって初めての試合。

蒼月とやったパフォーマンス。

手をタッチしてグーパンチ。

また出來るなんてな……。

審判から整列の合図が出た。球技大會であるから、審判はサッカー部の生徒だが、やけにサマになっている。

だからだろうか、が高まる。

「蒼月………頼むぞ……」

その聲は意識か無意識か、蒼月に屆かないように発せられた。

「ではこれより、男子サッカー決勝戦、2年8組対2年2組の試合を開始します。お互いに、禮!」

「「「お願いします!」」」

「蒼月、海七渡はでないのか」

「目立つのは苦手らしくてね。丁度いいハンデじゃないかな、誠耶」

「あいつが出ないなら、お前らに勝ち目はない」

「さぁ、どうかな?」

おいおい。何言ってるか分かんないけど、整列からバチバチじゃねーか。誠耶は見た目からああいうじだけど、蒼月もああ見えて燃えるタイプだったっけ。こりゃ恐ろしい試合になりそうだ。

20分ハーフの延長なしPKあり。

前半のキックオフは2組。

「皆!立ち上がり集中してこう!ロングシュートも警戒してね!」

お、伝えてくれたみたいだな。

そして、試合開始の笛が鳴る。

キックオフ直後。それは起こった。

笛の直後、中村がセンターからシュートを狙ってきた。

勿論誰しも油斷した。

蒼月の聲掛けが無ければ。

「うっし!」

中村のシュートは、準備萬端の岡田が移してキャッチ。しかし、中々危ない場面ではあった。

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俺の予が的中した………のか?

まあそこはいい。もしかしたら、蒼月に伝えておかなかったら點がっていたかもしれない。

しはチームに貢獻できただろうか。

「伊藤!」

岡田が左サイドの伊藤にスローイング。伊藤はそれを上手くコントロールし、サイドを駆け上がる。

陸上部の腳力を活かして相手を振り解く。

めちゃくちゃ速い。

あっという間にゴール前だ。

「こっちだ!」

蒼月が伊藤の右側に走り込んだ。相手ディフェンダーの間に位置を取り、一度下がり、そこから素早く斜めに裏へ抜ける。當然、相手は反応が遅れる。そこに伊藤が合わせてパスを出す。

キーパーと一対一だ。

相手キーパーは焦って前へ飛び出す。蒼月はそれをしっかり確認し、落ち著いてループシュート。

ボールはふわふわとゴールに吸い込まれた。

「「「オオォォォォォ!!!」」」

伊藤のスピードと蒼月のスマートなチェック外しに観客が湧きに湧く。

まず先制。良い流れをつくったな、蒼月。

「みんな!このまま追加點だ!」

「「「おう!!」」」

蒼月の盛り上げに皆も応える。

前半始まってすぐの出來事であったから、相手もまだ失點した実がないらしい。

ただ、そこはあちらのキャプテンが切り替える

「おい、まだ始まったばっかだぞ。點取り返して勝つぞ」

「「「おう!」」」

「いやー、みんなわりぃ!あいつめちゃ速くて置いてかれちまった!次は止めるわ!」

「水野!頼んだぞ!」

「おう!泥舟に乗った気でいてくれ」

「アホ。それを言うなら大船だ」

「あ、そっか!中村やっぱ頭いいな!」

「お前からすればな」

あっちもちょっと空気が和んできやがった。

ここから重要なのは、中村がどう周りを使うかだ。

そこら辺の分析は、もうしてある。

2組は、右サイドバックの水野を使ったサイド攻撃が殆どだった。

水野はサッカー部で、中村ほど速くはないが、あいつのパワーポイントはその力と"消える"ことだ。

"消える"というのは、知らないに逆サイドにいたり、前線にいたのに、気づいたらデイフェンスラインに戻っていたり。

あいつの無限と言われる力がなせる技だな。

相手はこの2人が中心の攻撃を仕掛けてくる。

要するに、この2人を止められれば點はらない。

まあそんなことは、準決勝の負けた奴らも考えたはずだ。それでも勝てなかった。

中村と水野、2人を同時に止めるということは、中村、水野レベルの選手が2人いないといけない。

実質、それは不可能に近い。

あの蒼月でも厳しいと思う。だから伊藤を左サイドに置いた。あの俊足なら、水野をしは足止めできる。かといって、完璧に封じられるとは限らない。そこは伊藤次第だな。

中村が一人、二人と躱しながら、中央突破を試みる。

そこに蒼月が立ち塞がる。

「俺がいるの分かってて來てるとしたら、誠耶もアホかもね」

「ふっ、言ってろ」

そう言って、中村は左サイドの裏へ浮いたスルーパスを蹴る。そこに水野がいた。

水野は右サイドバック。中村がスルーパスを蹴ったのは"左"。

既にそこに、水野はいた。

「ナイスパス。そらよっ!」

ワンタッチして、水野はクロスを上げた。

そこに長の中村が競る。蒼月では勝てない。

「どりゃぁぁ!」

「くそっ!」

岡田がベストのタイミングで飛び出し、左サイドへパンチング。カウンターだ。

伊藤がフリーでボールを拾った。岡田は狙って弾いたんだな。

「またブチ抜いてやるよ」

伊藤が左サイドを駆け上がる。相手ディフェンスは皆置いていかれる。そのまま相手陣地まで運ぶ。

このまま2點目、と、そう思っていた矢先。

伊藤はボールを奪われた。

「おいっ、まじかよ!」

さっきまでウチの左サイドにいた水野に。

水野は、対角の伊藤の所まで、伊藤のスピードに負けず追いついてきた。

本當にバケモンだぜ、あいつ。

「中村!」

「ナイスデイフェンスだ、水野」

カウンターのカウンター。

中村がまたもや、ボールをこちらの陣地まで運んできた。それをディフェンス陣がなんとか守る。

そのボールを拾われ、また守る。

それを10分ほど繰り返した。

細かいカウンターはあったものの、相手ゴールまで繋ぐ前に、水野にボールを奪われてしまう。

現在の狀況で幸いなのは、中村が一切守備をしないことだ。

ここを踏ん張って、前線のメンバーで押し上げていけば、水野と他の選手ならなんとか崩せると思う。

それにしても、水野はすげーな。

この10分ずっと守備と攻撃で走りっぱなしなのに、走りに疲れが見られない。

とりあえず、ここは耐えて守るしかない。隙があればボールを奪って、人數をかけてカウンター。

今はこれしかない。

そう考えていたら、チャンスが転がってきた。

こちら陣地で無理にボールを運ぼうとした水野がコントールミスをし、そこを蒼月が見逃さずにカットした。

「みんな!カウンターだ!押し上げるぞ!」

「ヘイッ!園田!」

「頼んだ!」

蒼月は、右サイドに繋いだ。ビッグ3の一人がボールを前へ運ぶ。さっきと同じように水野がプレスをかけるが、ここを狙う。

水野が、ここにいるということは、本來の水野のポジションが空く。もしカバーがいてそこが空いていなくても、カバーで空いたところを狙う。

「伊藤っ!」

逆サイドの伊藤へ大きく放る。

「っしゃ來た!」

水野の本來のポジションである右サイドバックの位置には、誰もカバーはいなく、ガラ空きだ。

そこに伊藤が走り込み、パスをける。

スピードは遅く、ふわふわとしたパスだったが、ディフェンスは予想外のサイドチェンジに対応が遅れた。またも一対一。

キーパーは出てこない。さっきの失點を気にしているのか、飛び出して來ない。

キーパーと伊藤の距離は、7mもない。この距離で足を振り抜けば、決まることは間違いない。

2點目を確実に決めたと誰もが思った。

「なんであそこまで戻ってきてんだよ!」

観客の中からそんな聲が聞こえた。

また、水野だ。伊藤のシュートの瞬間にスライディングでシュートブロックしやがった。

水野は気づかれにくいが、めちゃくちゃ足が速いということ。あの位置からゴール前まで戻れるということが何よりの証拠。

「あっぶねー!戦犯かますとこだったぜ!」

本人はそんなこと考えてもないらしい。

結構抜けてる所がある。それが奴の刃こぼれでもあるが、今のところ、意表を突く策は全く思いつかない。今はリードしてるからいいが、もし同點に追いつかれたら、多分……いや、確実に負ける。

本來なら、水野を活かしている中村を止めるのが第一條件。なら本を引っこ抜いやればいい。

そうすれば葉に栄養は行かない。

ともあれ、コーナーキック。チャンスであることに変わりはない。

蒼月がニアサイドへ速いボールを蹴った。

それに反応したのは、ビッグ3のメガネ。

マークは完全に振り切っているように見えたが、ボールを追っている人間はもう一人いた。

「自分で作ったピンチは自分で救いますよっと!」

メガネの前に水野がり込み、ヘディングで跳ね返す。そのボールを中村が拾い、カウンターになってしまった。ウチの選手は殆ど足が止まってしまっている。非常にまずい。

「みんな!カウンターだ!バック!!」

「する前にブチ込むまでだ」

中村が自前のスピードで一気にハーフラインを越え、ペナルティーエリア前まで辿り著いてしまった。

「これで同點だ」

中村が足を振り抜こうとしたとき、橫から足が出た。

「打たせねぇぇぇぇぇ!」

「伊藤っ!」

伊藤が中村を超えるスピードでペナルティーエリア前まで戻ってきた。なんて速さだ。中村より全然速いじゃねーか。

しかし、シュートは不用意な形で防がれた。

伊藤のばした足は、中村の足に掛かった。

ホイッスルが鳴り響く。

フリーキック。ペナルティーエリア前で、絶好の位置。

「悪い、みんな。やっちまった」

「気にすんなよ!俺が止めてやるっ!」

岡田、頼んだぞ。

キッカーは中村。ボールの位置は中村から見てやや左側。つまり、右利きの中村なら巻いて壁の頭を越してニアに決めるか、ファーに速いシュートを打つしかない。

俺の予想だが、多分中村はファーに打つ。

試合前のシュートを見る通り、中村はパワータイプに近い。だからカーブみたいな繊細なキックはあまりしているところを見たことがなかった。

俺は一か八か、岡田にハンドシグナルで、ファーサイドを指差した。

岡田は頷いて、構える。

時間的にも、これが前半のラストプレーになるだろう。

ここで、大きな分岐が生まれる。

中村は、軽いステップで助走をとり、

"ニアサイド"へ蹴った。

度肝を抜かれた。あの中村が、カーブ。俺の中で

は思い浮かびはしたが、可能の薄い選択肢と切り捨てたものだ。

ボールは弧を描いて岡田から離れていき、ニアサイドに吸い込まれていく。

しかし、岡田はニアサイドに反応していた。

俺のサインを信用していなかった訳じゃない。岡田は、"どちらも選ばなかった"のだ。

俺のように、可能の高い方を選ぶのではなく、可能のある全ての選択肢を予測して、行に出た。

素直に凄いと思った。俺にはそんな考えは存在しなかったから。

ともあれ、岡田はボールに反応し、キャッチの勢にった。その時、俺はやばいと思った。

「岡田っ!」

蒼月がぶ。

気付いたときには、岡田はゴール前に倒れていた。

「擔架をお願いします」

「分かりました!」

南先生が、一人の先生にそう頼んで、岡田に聲を掛ける。

岡田は、中村のシュートをキャッチしようとして、ゴールポストに頭をぶつけた。

そのまま、その場に倒れ込んだのだ。

意識はあるものの、朦朧としている。脳震盪か。

「おそらく脳震盪だ。岡田、私の聲が聞こえるか」

「南……先生……、今………スコアは……ですか……」

「1-0でウチが勝ち越したまま前半が終了した。お前があのシュートを止めてくれたおかげだ」

「そっか………よかった………」

「岡田!お前の分も俺が走ってやるから!今はゆっくり休め」

「わ……りぃ……な……伊藤……。荒井……」

「何だ」

「あとは……頼んだぜ……」

「………任せろ」

試合に出る気はなかった。

だが、を呈してゴールを守ったキーパーに頼まれた。後は頼んだぞと。ならやるしかない。

前半が終わり、ハーフタイム。

久しぶりにはめるグローブの

ずっと使っていなかったから皮が固くなっている。

グローブをはめて手をグーパーしていると、蒼月がきた。

覚は摑めそうか?」

「まあぼちぼちだ。グローブはめたら死ぬ気でゴールは守る。前と一緒だ」

「はははっ」

は?なんで笑ってんだよ?

「何か変なこと言ったか?」

「いや、変わってないなと思ってさ。でも、よかった………」

蒼月は間を置いて……

「また海七渡とサッカーできるって考えたら、ウズウズしてきたな」

「たっぷり走ってもらうけどな」

「どんどんこき使ってくれてかまわないさ」

「ならめちゃくちゃ」「海七渡っ!」

急に名前が呼ばれたと思ったら、亜実がこっちに駆け寄ってきていた。

「じゃあ海七渡、俺は先にコートってるから」

「あ、おう」

そう言って蒼月は、コートへ走っていってしまった。

「どうした、急に聲かけてきて」

「いや……その……」

何だ?モジモジしてるけど。

「頑張って!!絶対優勝してよ!!」

亜実は力強く拳を握って言った。

そうだ。俺は岡田の代わりにゴールを守るんだ。

亜実は多分、俺を心配してるのだろう。

だからしでも不安を取り除こうとしてくれたのだと思う。

俺は一杯の謝を込めて、亜実に言った。

「ああ、ありがとうな。絶対勝つから、お前の彼氏のカッコイイとこ、ちゃんと見とけよ」

俺は亜実へ親指を立てて、亜実はそれを顔を赤くしながらぼーっと見ていた。あいつ大丈夫か?

その時、ハーフタイム終了のホイッスルが鳴った。

俺はコートにり、皆と円になる。

「えーっと…」

俺は何を言おうか迷って、蒼月や中村たちとボールを追いかけていたときを思い出し、あのとき言っていたセリフを反芻した。

「もちろん勝ちに行くぞ。ここで負けたら岡田に顔向けできねーからな。俺は死ぬ気でゴールを守る。だからお前らはただ死ぬ気でボールを追え。後ろは俺に預けとけ。點なんかんねぇからよ」

何か、恥ずかしいな。し狙い過ぎか?

「……かっけー……」

伊藤がそう呟き、俺をぼーっと見ている。

「は?」

「分かったぜ。背中は任せた。だからボール俺に寄越せよ?次はぜってぇ決めるから」

伊藤はに拳を當てて言い放った。

だから俺も応える。

「ああ、死ぬほど走らせてやるよ」

「死ぬほどは勘弁してくれ……」

後半が始まった。こちらは1點リードしているから、焦って點を取りに行く必要はない。後半の立ち上がりは、自陣で上手くボールを回して、相手の力を奪うことにした。

しかし、最初は上手くパスが回るが、徐々に相手に読まれ始めてしまう。

相手は1點負けている。確実に勝つなら2點を取らなければいけない。必死にボールを取りに來る。

でもそれでいい。無理に攻めてカウンターを食らうより、守備が完した狀態で奪われる方がこちらは怖い。力も、前半のせいでこちらの方が殘りない。取られそうになったらクリア。これがベストだ。

「おいっ!勝ってるからって卑怯だぞ!攻めろよ!!」

「そんなサッカーして楽しいかっ!!」

まあ見てる人からしたらつまんないだろうな。

実際、やってる俺達も楽しくはない。

ただな、攻めないなんて言ってねーぜ?

俺にバックパスがる。相手選手は、殆どがこちら陣地にり込んでいて、完全攻撃態勢。

そこがだ。

俺は左サイドにグラウンダーのスルーパスを蹴り込んだ。水野が馬鹿みたいに前からボールを追いかけてくれるおで、ぽっかりが空いてしまっている。

々厳しいパスだが、まああいつなら追いつくだろ。

「たく、人使い荒いぜ」

「伊藤っ?!」

ここに來て伊藤のスピード、相手の意表を突くには十分過ぎる。

伊藤は相手選手をスピードで置き去りにして、飛び出したゴールキーパーもさらりと躱かわした。

そのまま無人のゴールにボールを転がした。

しかし、そのボールがネットを揺らすことはなかった。

一人がそのボールをスライディングで外に弾き出した。水野じゃない。あいつは前線からボールをずっと追っていた。いくら水野でも伊藤の速さとこの距離の差を埋めることはできない。

まさか。

「中村だっ!!あのキーパーが蹴る前にボールに反応してたぞ!すげぇ勘の良さだ!」

「甘いぜ海七渡。お前のその裏パス、俺がどんだけけてたと思ってんだよ。蹴るタイミングが変わってねーな」

「くそっ、バレてたか」

やられたな。もうあの裏パスは使えない。今まで殆どディフェンスなんてしてこなかった中村が自らディフェンスをするなんて、予想外にもほどがある。

まずいな。次の策なんて用意してない。

こちらのスローインでリスタートする。

ボールは大きく中に投げれられるが、ゴールキーパーがキャッチ。そのボールを右サイドの水野へ繋ぐ。

やばいな、伊藤はもうスタミナ切れで走れない。水野が獨走しちまう。

「蒼月!頼むっ!」

俺蒼月に水野を止めさせようとするが、水野がスピードで振り切る。

そのまま水野は、ディフェンスを躱す………と見せかけて、逆サイドの中村へラストパス。

位置は、ペナルティーエリアのし外。

さっきのフリーキックの位置とほぼ同じだ。

中村は大きく足を巻き、ファーに蹴った。

「あぁぁー!そこで外すのかよっ!!」

確かに枠の外。だが、俺は反応した。

ボールは大きく弧を描き、枠の外からファーサイドのネットへ異様な曲がり方をしていった。

普通のキーパーなら外れたと思って安堵する。

だけど、俺には通じない。

俺は大きく橫に跳び、右手でゴールの上へ弾いた。

観客はどよめいた。

「「「オオォォォォォォォォ!!!!」」」

「何だよ今のシュート?!めちゃくちゃ曲がったぞ?!」

「ていうかあのキーパー何者だっ?!バケモンかよっ!」

こう見えても中學のときは結構有名だったもんで。てへ。

俺と蒼月と中村は、ライバル中學のキャプテンだったからな。そんときからの付き合いってわけだ。

あの二人、俺が今の高校に進學するって言ったら、真っ先に、同じにする!って言いだしやがって。

裏切る形になっちまったからな。だからこそ、中村のシュートは本気で止めた。せめてもの手向けだ。

相手のコーナーキック。ゴールキーパーも上がってきている。おそらく、これがラストプレーになるだろう。

蒼月が手を叩きながら皆に聲をかける。

「みんな!ラストプレーだ!ここ集中っ!!」

「「「おうっ!!」」」

水野がボールを蹴る。ニアサイドの中村を狙ったボールは、俺が手で外へ弾く。

「みんな!カウンターだ!」

蒼月が皆を鼓舞する。さすが蒼月、頼れるキャプテンだ。

俺の弾いたボールは左サイドへ転がっていった。

ボールには向かうのは2人。

伊藤と水野。

「おらぁぁぁぁっ!」「いかせねぇぇぇぇ!」

ほんの數センチ、伊藤の方が先にボールをり、裏に走る。後半最後のシーンだというのに、速さが前半と変わらない。

水野を振り切った伊藤はそのまま中へ切り込み、蒼月へパス。

しかし、そこに中村がプレスをかける。

「二點目はれさせねぇよ!」

蒼月がれば、中村はボールを確実にカットできる位置に足をばした。

だが、蒼月は………

「悪いな」

蒼月は、ボールをスルーした。

相手ディフェンスは、キーパーを含め、蒼月に注目していたため、きが一秒ほど止まった。

ボールは右サイドのメガネがけ取り、ゴールへ優しく転がした。

その瞬間、試合終了の笛がグラウンドに鳴り響いた。

合はどうだ?岡田」

「お!荒井!ってみんないるじゃねーか!俺はこの通り、ピンピンしてるぜ!」

「そっか、よかった………」

海が呟くように言った。

俺達は現在、學校近くの病院にいる。岡田のお見舞いだ。と言っても、本人は全然平気みたいだが。

「それで、結果はどうなった?」

岡田が神妙な面持ちで聞く。伊藤が大きな聲で言った。

「サッカーもドッチボールも優勝したぜっ!!」

「まじかっ!!全部優勝じゃねーか!!!」

「そうだぜ!だから今日は打ち上げだぁぁぁ!!」

「「「「おーーー!!!」」」」

「お前たち、ここは病院だ。聲を抑えろ」

「あっ、南先生!」

「先生!俺達全部優勝しましたよ!!」

「さっき學校から連絡があった……」

「お前たち、よくやったな。それでこそ私の生徒だ」

「「「せ、先生ぇ……」」」

我が子を見守る母のような笑顔。まるで聖母だ。

普段の南先生からは決して想像できない優しい一面。こんなギャップ見せられたら、またファンが増えちまうだろうな。

「先生!今日の夜、打ち上げ行きましょうよ!」

「馬鹿者、打ち上げは止だ。學校側はそんなもの認めていない」

「「「そ、そんなぁ……」」」

ルール上はそうあるものの、守ってるやつはほとんといないだろうけどな。

「ただ……」

先生はし間を置いて。

労會、と言うなら行ってやろう」

いやいや、それ言い換えてるだけで打ち上げだから。教師がそんなんで良いのかよ。

まあ今日ぐらい、先生もハメ外すしてもいいとか思っちまってる自分もいることは事実だしな。

ただ、あんまりこういうワイワイしたのは慣れてないし、打ち上げなんて俺一人がいないぐらいで何ら変化はないだろうし、出席しないのが無難か。

「もちろん荒井も行くよな!!」

岡田っ?!そういうフリは俺にはしなくていいから!

「えっ?えっと、俺は……」

「行くに決まってるでしょ、今日のMVPなんだし」

何言ってるんですか海さん。俺はそんなんじゃないですよ〜。

「は?俺が?」

「そ、そうだよ!岡田くんのために勝つって言ってたし、その……す、すごくカッコよかったよ!」

一人の子がそう言った。それに続いて伊藤が言う。

「それな!後からってきやがってよ〜、ヒーローみたいでウザいくらいカッコよかったぜ!」

「いやいや、俺なんかより伊藤の方がカッコよかったって!俺なんかゴールにいただけだし……別に活躍なんか……」

「荒井……行こうぜ!な!」

「岡田……」

「海七渡、もう諦めろ」

「そうだよ、海七渡いなきゃ始まんないんだから!」

「荒井、教師命令だ。出席しろ」

蒼月に亜実に南先生まで、俺の味方はいないのか!

はぁ、どうやら逃げ道は無さそうだ。

「わかった……行くよ」

皆が俺の答えを聞いて喜んでるなか、亜実と蒼月が俺の方を見てウィンクをしてきた。

実際お前らのせいだからな!絶対許さん!

俺達は労會という名の打ち上げを先生を含めて楽しみ、それぞれの帰路についた。

「ただいま……」

「おかえり兄ちゃん!って今日は大分疲れてるね……」

帰宅早々、弟の脩しゅうに出迎えられるが、し心配された。たしかに今日はめちゃくちゃ疲れた。

できればかずに寢室まで言って今すぐ布団にりたい。

「あ、海七渡。おかえりなさい」

脩に次いで母さんも出迎えてくれたようだ。あ、そういえば、今日母さん応援に來るとか言ってたけど、見かけなかったな。

「お疲れ様、今日は頑張ってたじゃない。海七渡がサッカーしてるの久々に見たよ」

「まあな。部活は辭めたし。でも楽しかった」

「そう。よかったわね」

あ……そういえば……、と言って母さんが紙切れを3枚、俺に渡してきた。

「今週の箱の溫泉旅行なんだけどね、私とおとうさん急に仕事がって行けなくなっちゃってね。使わないのも勿ないし、疲れた心と癒やしてきな。たしか、チケット1枚で2人まで有効だから、友達でも連れて行ってきなさい。まあ亜実ちゃんと2人きりでも私は構わないけどね〜」

ニヤニヤしながらそう言う。うぜぇ。

「友達って言われても……」

母さんめ、俺が友達ないの知ってて言ってやがる。

「流石に5人ぐらいは友達いるよね?」

「ば、ばか言ってんじゃねーよ!俺レベルになったら友達なんて數えられないぐらい……」

「ならいいじゃん!のんびりしてきなよ。あと、お風呂沸いてるからっちゃいな」

「りょーかい」

風呂にり飯を食った俺は、寢室で亜実にLINEを送っていた。

『今週の土日、箱の溫泉旅館行かないか?母さんがチケットくれてさ』

數分経って。

『イイよっ!2人きり?』

あ、そうだ。誰かうかどうかは亜実に相談しなきゃな。

俺は予めう人は決めてある。亜実がOKを出したら聞いてみるか。

『実は、チケット3枚あってさ、1枚で2人まで有効らしいんだ。誰かいたい人とかいるか?』

送信して10秒ほど。

『う〜ん、特にいない!海七渡はいたい人いるの??』

ってもいいのか?2人きりじゃなくなるけど』

『2人でならまた今度行こうよ!そういえば、まだデートしたことないね、わたしたち』

たしかに。言われてみれば、そうだな。

々あったものの、デートっぽいことはしてないかも。いや待てよ、この前ららぽ行っただろ。あれはデートじゃないのか?男が2人っきりで出掛けるのをデートっていうんじゃないの?

亜実の中では、あれはデートじゃないらしい。

そこら辺も踏まえて、返信を送る。

『なら、〇〇と✕✕、ってもいいか?』

『おっけ!』

その返信とセットで、謎のキャラクターが、【おやすみなさい】と言っているスタンプが送られてきた。

はっきり言って、センスがない。

俺はそのセンスを疑うスタンプに、『かわいくないけどおやすみ』と返して、眠りについた。

次回、溫泉旅館會ですっ!

あの人のあんな姿やこんな姿が見られると思います。お楽しみに。

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