《俺はショートヘア王が大嫌い》Episode 17 夏休み 後編

次の日。今度こそのんびり起きることに功した。

亜実は、叔父さんへの事説明やら引っ越しの手続きやら準備で大忙しだ。予定では、引っ越しは來週あたりだと言っていた。となると、花火大會の前後になるのか?忙しくなりそうだな。

とりあえず、狀況は整理された。

亜実はこの家で暮らすことになった。これからは、あいつと過ごす時間がものすごく増えるだろう。

それは、人としてでもあり、家族としてでもある。

その前に、父さんと母さんがあっさり許してくれたことに謝だ。普通、息子がを連れてきて、一緒に暮らしたいなんて言い出したら、説得するだろう。けど二人も、俺を息子として信頼してくれているからそうしたのかもしれない。

だとしたら、尚更謝をせざるを得ない。

パパママ萬歳。

ふと、時計を見る。8時50分。

俺はやけに目が覚めていることに違和を覚えながら、布団を剝いだ。

一階のリビングに降り、母さんに挨拶。

今日からは仕事が休みなんだっけか。

今日は家で読書でも、と思っていたのだが、生憎すべて読破してしまい、読むものがない。

しょうがない、買いに行くか。

俺は、母さんの作った朝ご飯をさくっと食べ、著替えて家を出た。

殘念ながら、家の近所に書店がないため、し遠いショッピングモールまで足を運ぶ必要がある。

まあやむをえまい。本の為なら労力も割くのだ。

著いた。電車で四駅ほどの場所に位置する大きめのショッピングモール。夏休みというのもあってか、隨分と人が多い。

俺は一直線に書店へ向かう。ドーナツ全品100円セールなんかには目もくれず、書店を目指す。

モールは多くの人でがやがやしているのだが、本屋のコーナーに一歩足を踏みれた瞬間、聞こえる音がページを捲る音だけになった。

そう、このじ。この説明のしにくい本や特有の匂い、しピリッとした空気、たまらない。

さて、どうするか。

よし、今日はシリーズの続きと新しいのもいってみよう。金も沢山あるしな。

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まず、俺は奧のライトノベルコーナーに向かった。

えーっと……あった。イラストで衝買いしてしまったが、ストーリーが案外面白くてハマってしまった作品。五巻まで出ているのか。二巻まで持っているから、三、四、五巻を買うか。

ちなみに、新しいものを買うときのポイントは、二巻まで買うことだ。ネットでストーリーを予め調べるという方法もあるが、俺はしない。最初のうちは、ストーリーを調べていたが、慣れてくると、しない方が面白く読めるのではないかと思い始めたのだ。ここで俺の、新しい本を読み始めるときの流れを皆にお教えしよう。

まず、一巻の裏表紙を見る。そこでどんなストーリーなのかを想像する。それで何か引っ掛かったら二巻買う。まあ店に置かれている以上、面白くないものなど無いのだが、やはり相はある。誰しも、好き嫌いはあるのだ。

本好きの友人がいれば、アドバイスをもらったりできるが、俺にはそんな友人はいない。あ、でも亜実なら話せるな。あいつ、意外とオタクだし。

そういえば、昨日家に行ったとき、ラノベとかなかったな。どこかにしまってあるのだろうか。

まあそれはいいとして。

こんなじで、俺は本を選んでいる。

ただし、これはライトノベルに限る。

普通の小説は、大抵父さんのオススメを買って読んでいた。朝、父さんに會わなかったから、聞くのを忘れていた。失敗。

う〜む、困ったな。普通の小説も結構読むが、選び方は分からない。

一先ず、小説コーナーに向かってみるか。

と、そこで見覚えのある姿が目にった。

夏だというのに、ビシッとスーツを著込み、大人の雰囲気を醸し出す

南先生だ。

どうやら、小説を探しているようだ。

聲をかけてみるか。

「先生」

「ひゃっ」

「え?」

「な、なんだ荒井か。奇遇だな、こんなところで會うとは」

ん?今先生から可い聲が聞こえたような。いや、聞き間違いだ。あの先生があんな聲を出すわけがない。うん、そうだ。そうに決まっている。そういうことにしよう。絶対そうだ。

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心の中で自己催眠をブツブツ唱えていると、南先生が聞いてきた。

「お前も本を探しているのか?」

「あ、はい。ただ、どれが良いかイマイチ分からなくて」

「なるほどな、ジャンルは決まっているのか?」

「いえ、ただ、以外にしようかなと」

「うむ……。以外となると、こんなのはどうだ?」

そう言って、先生は一つの小説を渡してきた。

「『死神共同生活』?」

「ああ。私も読んでみたが、慨深かったぞ」

「へぇ〜。先生のお墨付きですか…」

「まあな。小野寺先生の作品と書いてあって、私も惹かれてしまったのだよ」

「これ、小野寺先生のなんですか?」

小野寺 勇いさみ。小説會の巨匠と呼ばれる男作家で、彼の書く作品には、人間の汚さや執念深さ、しさが込められていて、俺も読んだことがあるぐらい有名な人だ。そう言われたら、読みたくなってきた。

「これ、買います」

「そうか。それはよかった」

「それで、先生は何を探してるんです?」

「私か、私も君同様、新しいものに手を出そうとしているのだが、何ぶんピンとくるものがなくてな……」

「そうなんですか……。あ!先生、ちょっとこっち來てください」

俺は先生に追従するよう言い、ライトノベルコーナーへ向かった。

「こういう系は読んだことありますか?」

「ライトノベルか……。いや、こちらの系統には疎いんでな。し手が出しづらいものじゃないか?」

「確かにそうですね。でも、ラノベも普通の小説と同じくらい面白いですよ?例えば、こんなのとか」

俺は、先生に異世界転生主人公最強ものを渡した。

「なるほど……、確かにこんなジャンルは普通の小説には無いな」

「はい、この作品は、バトルがメインなんですけど、初めてラノベを読む人でも分かりやすいし、読みやすいと思います」

「ほう、お前がそこまで言うなら買おう」

お、まじか。南先生がラノベを買うとは。いやはや、俺の雑な説明で読むと言ってくれるのは、何か宣伝できてるみたいです嬉しいものだな。

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「あ、10巻完結なんで二巻まで買うのがオススメです」

「シリーズものなのか、こんなに分厚いのに」

「はい、読み応え抜群ですよ」

「ありがとう、荒井」

「いえ、先生にもオススメしてもらったので」

「ふふ、そうか」

ああ、やっぱり本仲間は良い。こんな風にお互いに本を薦め合って、薦められたのを読んで、想を言い合う。

俺は、先生と本仲間になりたいと思った。

レジに並んだ俺と先生。俺は、前にいる先生に話しかけた。

「先生」

「何かね?」

「その、この本が読み終わったら、またオススメを教えてもらってもいいですか?俺、先生と、本仲間になりたいんです」

「本仲間?」

「はい。お互いに本を薦め合って、読み終わったら想を言い合ってまた新しい本を読む……。本仲間です」

先生は、し考えて、

「それは人ということでいいのか?」

「は?」

「冗談だ。勿論いいとも。その代わり、私にも新しいライトノベルをオススメしろよ?」

「はい!」

「ふふっ」

その時の先生は、茶目っ気溢れる子供のような、無邪気な笑顔だった。

「荒井」

「はい?」

會計を終え、本屋を出ようとした俺に、先生が聲を掛けてきた。

「このあと、何か予定はあるかね?」

「いえ、帰るだけですけど」

「そうか、ならし付き合ってくれ。言っておくが、付き合えと言うのはそういう意味じゃないぞ」

いや、分かってますから。ていうか、俺が彼いるのあんた知ってるだろ。からかうのはよしてくれ。

つれて來られたのは、ボーリング場。

夏休みだから、団の客が多いな。予約で一杯だ。

「ここで待っていてくれ」

俺は、自販機の前で待たされている。

先生は、パパっと手続きを済ませ、番號札を持ってこっちに戻ってきた。

「よし、行くか」

「いや、行くかって言われても。何でボーリング場なんですか?」

「溜まっていた仕事が終わったのでな。お前と一緒に夏休みを楽しもうというわけだ」

なら、せめて何するか最初に教えてくれよ。急に連れてこられて、軽いパニックですよ、こっちは。

「先生、俺一応彼いるんですけど」

「坂木がどうかしたのか?」

「いや、彼がいるのにの人と二人っきりっていうのは些いささか問題があると言いますか……」

「私を扱いしてくれているのか?」

ですから」

の子魅力などないぞ?」

「沢山あるじゃないですか。綺麗だし、大人だし、優しいし、あとそれから……」

「あ、荒井、もう大丈夫だ」

見ると、先生は顔を真っ赤にしていた。何故照れているんだ?

「とにかく、早く投げましょう」

「そ、そうだな、行くか」

ということで、ボーリングをすることになった。

シューズを履いて、ボールを運んで、いざ投球。

まずは練習だ。

先生から投げる。しいフォームから放たれたボールは、十分なスピードで真ん中を貫き、見事ストライクとなった。上手い。

対して俺は、普通のフォームで、普通に放り投げる。腕力には自信があるが、コントロールを考えると、力任せに投げるのは良くない。俺の投げたボールは、まあまあのスピードで左側を通り、ピンを三つ殘した。久々に投げたせいか、難しい。

二球目で、なんとかスペアを取った。ふぅ、セーフ。

そして本番。

先生は、さっきと同様にストライクを取った。

その時、隣のレーンからやけに視線をじた。

二人の大學生っぽい男が先生の一部をガン見していた。言ってしまえばだ。

確かに先生は、スタイルがいいし、もある。長もまああまああるし、顔も整っている。

そう考えたら、めちゃくちゃハイスペックだな、先生。

「見たか、荒井」

「めちゃめちゃ上手いですね、先生」

「ふふっ、そうだろ。にしても、ここは暑いな」

そう言って、先生はスーツのジャケットをいだ。汗をかいているせいで、Yシャツがけている。すると、隣の男たちの視線がいやらしくなった。

こいつら。まあ俺も、亜実がいなかったらガン見していたかもしれない。まあ男なんてそんなもんだ。

いかんいかん。切り替えなくては。今は先生とボーリング、いいな?

自分の返事を聞いて、ボールを投げる。ボールは上手い合にど真ん中に當たり、ストライク。

「よし」

「上手いじゃないか、荒井。さては実力を隠していたな?」

「いえ、たまたまですよ、たまたま」

その後も、俺と先生は順調にスコアをばしていき、

荒井:153

    南:168

となった。いやー、先生マジで上手かった。

俺も運良くスコアがびた。

二ゲーム目も、同じ調子で先生と話しながら楽しく過ごした。一緒にいて気付いたが、先生は結構おしゃべりだった。最後の方は、ストライクを取ればハイタッチをしたりしていた。普段の學校での姿からは想像もつかない。

「ふぅ〜、疲れた……」

「そうだな、そろそろ終わりにするか」

シューズとボールを片付けて、會計へ。

「お一人様で、1100円でございます」

俺は財布を開けて金を出そうとしたが、先生が手で制した。

「私が出そう。付き合ってくれたお禮さ」

「いいんですか?」

「その代わり、あの本の想をたくさん聞かせてくれ」

俺は大きく頷いて答えた。

「もちろんです」

ここは先生に奢ってもらおう。

會計が終わり、ボーリング場を後にしようと言う所で、急に催した。先生に一応斷っておこう。

「すいません、トイレ行ってもいいですか?」

「ああ、ここで待っていよう」

俺がトイレを済ませて戻ってきたとき、先生は二人の男に囲まれいていた。さっきの男たちだ。

「お姉さん今時間あります?」

「俺らとお茶でもしない?」

と言いつつ、目線は先生のを捉えている。

下衆だな。お茶なんてするつもりいくせに。

「悪いが、お前たちを相手している暇はないんだ」

「そう言わずにさ〜」

「お姉さんめっちゃスタイルいいね!めっちゃかわいいしさ〜」

そう言って先生の肩にれようとした。

止めるか、そう思ったが。

パシッ。

らないでくれ、スーツが汚れる」

先生が、男の手を払った。

男はそれにカチンと來たらしく、

「下手に出てりゃ調子乗りやがって、このアマ」

「一発毆れば言う事聞くんじゃね?」

片方の男が拳を握って毆りかかろうとしたとき、俺は止にった。

「なんだよ、あんたら」

「荒井……」

「てめぇこそ誰だよ、こいつの男か?」

「あんたらに話す義理はないな」

「ガキのくせになめてんじゃねーぞ!!」

毆りかかってきた。だけど予想していたため、うまく対処できた。浮いている足を側に引っ掛けた。

それだけで、男は無様に転んだ。父さんから小さい頃教わった合気道だ。護のためにしだけ習っていた。

「大丈夫ですか?あっさり転んだみたいですけど」

「て、てめぇ……」

「この野郎っ!!」

もう一人の男がタックルをしてきた。正面からけても何ともないのだが、摑んで投げるのも面倒だから、避けて腕を後ろに回して固める。いくら二一とはいえ、毆ったらこちらにも非があることになる。だから、正當防衛に治まる程度で対処する。これも父さんから習った。力は、行使すべきときに行使すべし。今は使う必要はない。

「いでででででで!」

「こら!何してるっ!」

ちょうどいいタイミングで警備員が駆けつけた。

この狀況を見れば、二人の男が仕掛けてきたと誰しもが分かる。最初に男が毆りかかったとき、俺が転ばせたときの大きな音で、既に野次馬が集まりつつある。一部始終を見ていた人は多いだろう。

「警備員さん!そこの男の人二人がに毆りかかろうとしてました!!」

「何だと!」

まあその二人はボロボロなわけだが。

「君、そろそろ放してあげなさい……。それ以上固めたら折れてしまう」

「大丈夫です、骨外してますから」

「えぇ……。と、とりあえず放してあげなさい」

俺は警備員さんに言うことを聞き、放した。

男は、右手をぶら〜んとさせて俺を怯えた目で見ている。

「何ですか」

「す、すいませんでしたっっっ!」

「いや、謝る相手が違うでしょ」

お前が謝るのは南先生だろ。早く謝れ。

その男と、もう一人の男も先生の前まで歩いて、謝罪した。

「「すいませんでしたっっっっ!!」」

「あ、ああ」

これにて、ナンパ事件は一件落著となった。

あ、ちなみに男の右腕の骨はしっかり元に戻した。

結構反省してたっぽいし。もし、先生じゃなくて亜実だったら折ってたな。しかし、個人的を任せてはいけない。碌なことにならないからな。

まあ、怪我人が出なくてよかった。怪我人が出れば、警察沙汰だ。貴重な休みの時間が割かれることになる。俺にとっては、休みはそのぐらい大事なのだ。

「あ、荒井!」

南先生が、俺の方へ駆け足で向かってきた。

「怪我はないか?」

「はい。先生も、無事で何よりです」

「馬鹿者」

「あいた」

優しくチョップされた。全然痛くない。

「危険な真似をするな。私はお前の教師だ。お前を守るのが私の仕事だ。だから、あそこは私に任せておけばよかったんだ!」

「確かにそうですけど、を守るのが男の仕事ですから」

我ながらキザなセリフだ。恥ずかしい。

「ば、ばかもの……」

またチョップされた。さっきよりも弱々しく、チョップというより、頭をでているような覚だった。

俺はそこで先生と別れ、家に帰った。

家に帰って、先生に薦められた本の存在を思い出し、読むことにした。

【そいつとの出會いは唐突だった。俺がバイトを終えて家に帰り、自分の部屋にった瞬間……、そいつと出會った。】

【「こんばんは」

そいつは、そう言って俺に満面の笑みを向けてきた。だ。見たこともないだ。白いスーツに白いYシャツに白いネクタイ、そして真っ白な髪に真っ白な。何もかも白い。

「不審者?」

俺は攜帯で110番を押す寸前だった。そりゃそうだ、俺の部屋に見知らぬがいるんだから。幽霊かもしれない。だが、俺に霊はない。幽霊とは、こんなにはっきり見えるものなのだろうか。俺は混していた。しかし、その指は、強い意志を持ってボタンを押した。筈なのに。

「無駄です。私はあなたにしか見えない存在ですから」

「じゃ、じゃあ幽霊?」

俺がそう尋ねると、そのは面白可笑しそうに笑った。その姿は、非常に不気味だった。

「幽霊ではありません。そんな生溫い存在ではありませんよ」

生溫い?よく分からない。しかし、次のの発言で頭が真っ白になった。

「私は死神です」】

「海七渡〜、お晝!」

「あ〜、今行く」

母さんに聲をかけられたため、そこで本を閉じた。

冒頭の一部だけしか読んでいないが、既に面白い。

死神との出會い。そんなことが実際に起きたら、それはそれは恐ろしいだろう。俺なら気絶するかもしれない。

飯を食うために、一階に下りた。

「はい、召し上がれ」

「え?これって……」

母さんが出したのは、ペペロンチーノだった。

ふと、昨日のことが蘇る。

「ん?ペペロンチーノだけど」

「いただきます」

フォークでパスタを巻いて、口に運ぶ。

味い。けど、亜実のペペロンチーノの方が味かった。比べたいわけではないが、どうしても比較してしまう。

約17年間、俺の舌を満たしていた料理に、昨日の亜実が勝ってしまった。

恐ろしや〜。

「ごちそうさまでした」

「はーい」

皿をシンクに置き、水を引いてリビングを出た。

二階に上がり、すぐに左。ここが俺の部屋だ。そして、その向かい側の空き部屋が、近々亜実の部屋になるものだ。

俺は椅子に腰掛け、本を開いた。続きを読みたい。

完全に虜になってしまったらしい。

気づいたら、空は赤くなっていた。

窓から差し込む西日が眩しい。

もうそんなに経っていたのか、と思うほど、時間を忘れて読書に沒頭していた。

前にも思ったが、どうやら俺と絢幸先輩は似ているみたいだ。

亜実は、そろそろ部活が終わるくらいか……。

「花火大會、來週か……」

今日が日曜日。來週の土曜日と日曜日が、花火大會當日である。それまで、特にすることがない。暇だ。この本が読み終わったら、また新しいのを読んでみるか。南先生とは本仲間になったわけだし。

今日、々あったな。

まず、先生と偶然會って、本をおすすめし合ってボウリングをする流れに。そこでチンピラに絡まれる事態になって、々面倒な狀況にはなったが、なんとか解決。

前の俺では考えられない。

以前の俺なら、面倒事は極力避けるスタイルを貫くだろう。先生にわれても斷っていたと思う。

俺も、しづつ変わっているのかもしれない。

一つ上げるとしたら、大切なものが増えた。

友達、という存在。

その曖昧である定義を、俺は大切にしたいと思っている。

つけていたイヤホンを外し、窓を開けて外を眺める。

窓を開けただけで、そこには違う世界があるようにじられた。ジメっとしたりの暑い空気。

心地悪い筈なのに、気分が良い。

家の前を、男の中學生二人組が歩いている。

ものすごく微妙な距離。お互い意識していることが俺にも分かった。男の方の手がの子の方の手を握ろうとして、やっぱり止めて、と葛藤している。

の子の方は、それに気づいているのにも関わらず、握ってくれるのを待っているようだ。

なんとも大人っぽい空気だこと。

最近の中學生はこんなに大人のをしてるんですかね。の子の方とか、完全に魔だろ。あれは付き合っても、男が手玉に取られる結末が想像できるぞ。

俺は窓を閉め、ベッドに寢転んだ。

「同棲……じゃないよな……」

亜実の引っ越しに関して考えていた。

あいつ、學校に連絡しなくていいのか。

學校側は認めてくれるのだろか。もしかすると、認めてくれないと予想して、亜実は學校に連絡しなかったのかもしれない。そうなると、このことは、家族にした方がいいだろう。保護者がいるにしても、同棲をしていることに変わりはないしな。

そんなことを考えていたら、知らないに寢てしまった。

夜飯時に目が覚め、一階へ下りる。

そこには、し違和を発する存在がいた。

「涼姉?」

「お!海七渡!やーやー、夏休みだからね〜。遊びに來たよっ!」

涼姉だった。今では、好きになれない唯一のショートカット子となって殿堂りした。また來たのかよ。

「夏休みたっぷり休むためにたくさん講義れといたからね!これでのんびりとダラダラできるよ〜」

床にぐでーと寢転ぶ涼姉。俺の安寧を脅かさないのなら構わないのだが。こいつは、毎回毎回邪魔ばかりしてきてもう飽き飽きしている。

「兄ちゃん!今日ハンバーグだって!」

「おう、そうか」

うん、脩は純粋で可いぞ。涼姉もしは見習った方がいい。

「さ、みんな揃ったことだし、ご飯にしましょ」

「いぇーい!久々のお母さんの手作り料理〜!」

一人でめっちゃテンション上がってるな、おい。

まあ、いつもは獨り暮らしだもんな。てことは、亜実もこういうじなのか。でも亜実は、そんなに弱いやつじゃない。それは分かっているが、あいつも人間だ。心がある。その心が壊れかけたときに近くにいてやれるのが俺でありたいと思うのは、當たり前のことだ。よし、後で電話しよう。

「いっただっきまぁ〜す!!」

「いただきます!」

「いただきます」

「それにしても、5人揃って飯を食うのは一年ぶりになるな」

「そうね、去年もこんなじだったものね」

父さんと母さんが、嬉しそうに話していた。

飯は、いつも俺と脩の二人。たまに母さんがそこに加わったりってじだった。

父さんは、出張や他會社との接などであまり家に帰ってこない。長期休暇が取れるのは、夏休み以外は殆どない。

涼姉だって、こんな風に言ってるものの、醫學部だから、々大変だと思う。

だから、こうして家族全員が揃うというのは、それ程大切なものなのだ。

今日ぐらいは、涼姉の好きにさせてやろうと思ってしまうのも、きっとそのせいだ。

「もしもし」

「もしもし、海七渡?」

「ああ、俺だ」

晩飯を食い終わった俺は、すぐに亜実へ電話を掛けた。特に理由はないのだが、強いて挙げるなら、引っ越しの日時を聞きたい。

「引っ越しっていつ頃?」

「あ~それね!夜言おうと思ってたんだけど、明後日になった」

「結構急だな」

「早めの方が良いかなと思って」

まあ後でごちゃごちゃやるよりは、先に済ませておいた方が楽ではある。でも、それならもうし早く伝えてもらいたかった。そこまで急ぐほどでもないが、やはりこういうことは、きちっと予定しておかないと、トラブルの素となる可能がある。

一先ず、父さんと母さんに伝えておこう。

「分かった。なら明後日、またな」

「うん、ばいばい」

そこで電話を切った。明後日、火曜日に亜実が家に來る。家に來るというか、引っ越してくる。

俺は一階のリビングに向かった。

リビングでは、涼姉と脩がテレビを見ていて、父さんがコーヒー片手に読書、母さんが皿洗い。

俺以外リビングに集結していた。手っ取り早くて助かるが、俺だけ省かれている気がして、し寂しい。

「父さん、母さん。亜実の引っ越し、明後日に決まったって」

「おお、そうか!」

「これで亜実ちゃんもうちの家族ね!」

事を知っている二人は乗り気だ。問題は………

「え?!兄ちゃん!亜実お姉ちゃん家族になるの??」

「亜実?誰それ?海七渡、ちゃんと説明して!」

「分かった、説明するから座ってくれ」

涼姉も脩も、気になりすぎて立ち上がっちゃってるからね。

「………ってわけ」

「「………」」

二人とも、黙っている。反対、されるだろうか?

開口一番、脩の一言。

「てことは、兄ちゃんと亜実お姉ちゃんはケッコンするんだよね!!」

「はい?」

脩、それは話が飛び過ぎだ。ていうかこんなじの、前も會ったぞ。

「結婚はしない。ただ、一緒に暮らすことになる」

と、脩に答えたら、涼姉が口を開いた。

「でもさあ、その子が自分でそうしたいって言ったんじゃないんだよね?その……亜実ちゃん?だっけ、亜実ちゃんがんでるかどうかは分からないんじゃない?」

確かに。こういうとき、無駄に鋭いのが涼姉の良いところであり、厄介なところだ。

「引っ越したいとは言ってたけど、私たちと暮らしたいとは思ってないかもしれないよ?」

「分かった、なら今確かめる」

俺はおもむろに亜実に電話をかけた。スピーカーをオンにして。

數コール鳴った後、亜実が出た。

「もしもし、どしたの?」

「いや、引っ越しについてなんだけど……」

「うん」

「亜実は、うちに引っ越すのは嫌か?」

「は?何で?」

「いや、どう思ってるのか気になってな」

數秒間を開けて、亜実が答えた。

「私、獨り暮らし始めて気付いたんだ……。それまでは家族なんていなくてもいいって思ってたんだけど、獨りってすごい寂しくて、怖かった。お父さんとお母さんの夢も見たよ。夢では、高校に通う私をお父さんと母さんが見送ってくれてて、幸せだった」

「うん」

「でもね、夢の中のお父さんとお母さんは、最後は私を置いてどこかに行っちゃう……。結局、夢でも私は置いてけぼりにされちゃうんだ……って、そう思ってた」

「……」

「でもね」

「海七渡が、一緒に暮らさないかって言ってくれて、すごく嬉しかった。私、それを隠すために々言い訳作ったりしてたんだ……。なんだか、素直になれなくてさ……」

亜実は続ける。

「逆に聞くよ?私と一緒に暮らすなんて迷じゃない?海七渡だって他の人たちもそう思ってるんじゃない?」

亜実は自嘲じみた聲音でそう言っていた。

違う、これは本音じゃない。亜実の強がりだ。

亜実は不安なんだ。自分はれてもらえるのか。

「そんなこと思ってないっ!!」

そうんだのは、母さんだった。俺の攜帯を奪って、そのまま続けた。

「亜実ちゃん!私はね、亜実ちゃんの辛い過去とか何にも知らなくて、ただただ可い子だな〜って思ってた。ほんと、海七渡には勿無いぐらいの人さんなんだもん!すごく大人っぽいし!」

「でもね、亜実ちゃん……。亜実ちゃんはまだ子供なの。大人に迷かけてなんぼなの。まだ高校生なんだよ?そんな子がね、大人を気遣って苦しむなんて、私が絶対に許さないんだから!!」

母さんの見たことのない心からのび。

誰しもが、驚いた。

「え……?」

何が起こったのか分からないというような聲音。

そしそのまま、母さんが持っている攜帯を父さんが奪った。

「亜実ちゃん、俺達はいつでも待ってるぜ。金のことなんか気にすんなよ!一人二人増えようが関係ねぇよ。だから、いつでも來な!海七渡の將來の嫁さんなんだからよ、もう家族見てぇなもんさ」

「はい……」

亜実の聲が震えているのがわかる。泣いている。必死に堪えている。亜実は、強くなんかない。強くいようとしていた、ただの、弱いの子だ。

そして今度は、その攜帯を脩が奪って……

「亜実お姉ちゃんっ!またお家來てよ!俺、亜実お姉ちゃんと遊びたいっ!!」

「うん……そうだね……」

まだ堪えている。泣いちゃいけない、そう思っているのかもしれない。

その攜帯は、涼姉に回された。

「えっと、初めまして、海七渡の姉の涼すずです。私疑ってたの、亜実ちゃんは私たちと暮らすことを本當にんでいるのかって。でも、もうそんなの関係ない……」

涼姉は、大きく息を吸ってんだ。

「家族になりなさいっっ!!」

用な涼姉の心からの言葉。たく、涼姉はツンデレ極めてやがる。

「ふっ……ぐ……ずっ……」

気持ちは伝わったみたいだぞ、涼姉。

涼姉が、俺に攜帯を渡してきた。

「てわけだからさ、俺たちはいつでも亜実と家族になる準備できてるから」

「ぐっ……ずっ……、私、家族になって……いいの……?」

「ばーか」

「「當たり前だろ(でしょ)(だよ)!!!」」

「………!」

「あ……ありが……とう……!」

亜実は、泣きながら謝した。

みんな、亜実を家族として迎えてくれる。俺も安心した。

今日は、このまま寢よう。

そして、引っ越し當日を迎えた。

「亜実、この本は?」

「あー、適當に本棚に並べといて。でも、ジャンル分けしてくれたら嬉しいかも」

「はいよ」

只今、絶賛労働中であります!

俺は、亜実の私の詰まった段ボールの山を一つ一つ部屋に整理していく。

なんとかすべての本を棚に置き終えた。

ふぃ〜。疲れたぁ〜。さて、次の段ボール。

テープをはがして、開けてみたら、服が詰め込まれていた。そして、一番上には、ブラジャーとパンツ。俺は固まった。そして、

「うわっ!」

驚きで聲を上げた。

「ん?どうしたの?」

亜実が心配して近づいてきた。やばい、どうにか誤魔化さないと。バレたら絶対キレられる。何かないか……何か……。駄目だっ!!何も思いつかないっ!!

「いや、その……」

「ああ、下著ね。別にいいよ、しまってくれるの?」

え?

予想外の反応。怒られるかと思った。

てか馬鹿野郎!彼の下著なんかしまえるかっ!

今の俺にはまだハードルが高すぎるぞ。

ったらやばい気がするから止めとく」

「別に海七渡ならいいのに。なら他のをお願い」

「おう、分かった」

気を取り直して別の段ボールを漁る。

段ボールも殘り三つ。あとしだ。

これは靴だな。結構ってる。7足くらい。

「この靴、下の靴箱にれとくわ」

「ん、よろしく〜」

俺は段ボールを抱えたまま階段を下り、靴をしまった。

「靴終わった」

「ありがと、こっちも終わったよ」

部屋にったら、段ボールの箱以外、きれいに整えられた狀態になっていた。

あの空き部屋がこんなにおしゃれになるとは……。

ふわふわのカーペットとか敷いてあるし、やっぱり子だなってじが伝わる部屋となった。

「よし、飯食おうぜ。もう腹減って死にそう」

「ほんとありがとね」

「ああ、力仕事は男が擔當だからな」

「ううん、そっちじゃなくて……」

亜実は突然抱きついてきて……

「家族にしてくれて」

上目遣いで俺に言ってきた。あー、もう。ずりぃな、ほんと。

「あー、やば」

「ん?何が?」

「超好き」

「ふふっ、私も」

そう言って更に強く抱きしめてきた。もう無理。

「ちょっと待て、これ以上やると、俺のHPがやばい」

「ふ〜ん、じゃあやめとこっか」

ちくしょう。この小悪魔的な笑みを浮かべる目の前のに、完全に心を摑まれちまった。

亜実が引っ越してきて変わったことと言えば、賑やかになったことが一番大きい。

みんな亜実に話し掛けていて、亜実も嬉しそうにしていて、安心した。

特に涼姉と母さん。

母さんはまだいい。

ただ、涼姉。俺のだとかお寶の隠し場所だとかを全部亜実に吹き込むのはやめろ。俺の味方がいなくなっちまうだろ。まあ殘念ながら、お寶なんてのはも存在しないがな。すべて処分した。

それを言ったら、亜実と涼姉はつまんない顔をしていた。まずい、俺の家での立場が危ういぞ。

敵が一人から二人に増えちまった。

それでも。

新しい家族を迎えて、家が賑やかになった。

亜実が笑うことが多くなった。それが一番嬉しい。

そして、亜実が引っ越してきて、4日経った。

土曜日、花火大會。

「うわ〜!亜実ちゃん綺麗っ!!」

亜実は青を基調とした浴を著ていた。一言、神だ。

「そ、そうですか?」

うん、母さんに褒められて照れる亜実、神だ。

「似合ってるぞ、亜実ちゃん。なあ、海七渡?」

「あ、ああ。かわいいし綺麗だ」

「そ、そっか……。ありがと……」

俺に褒められて顔真っ赤な亜実、超神。すーぱーごっど。

「うわー、リア充の空気が漂ってるな〜」

うん、赤い浴の涼姉、まあ綺麗だ。亜実には遠く及ばないがな。

「涼さん、綺麗です!」

「うむうむ、そうだろそうだろ!」

自分で言うかね、そういうこと。だから彼氏できないんだよ。実際、見た目は滅茶苦茶良いだろうけどさ。

「海七渡も、かっこいいよ……」

「お、おう」

亜実からの不意打ちのカウンター炸裂っ!!

荒井選手!これはダウンをとられたっ!

「海七渡っ!何照れてんの?!これ以上私を苦しませないでぇ〜!」

聞こえませーん。非リアの悲嘆の聲なんか聞こえませーん。

「うるせ」

「ねぇ、海七渡」

亜実が俺のとこまでトコトコ歩いてきた。下駄だからトコトコかわいい。

「ん?どした?」

「んっ」

亜実は何かを伝えたいらしく、手を俺に出してきた。あーはいはい、分かりましたよ。

「これね」

俺は亜実の右手を左手で握った。

「んふふ」

空いてる左手でにやけた顔を隠している亜実、やばい。

おっと〜!これは重いボディーブロー!!ここで二回目のダウンだぁ〜!もうあとがない荒井選手!

「ねえ、あの二人発させていい?ねえ?いいよね?」

「だめよ、涼。あんなに幸せそうなのに」

「なら、俺らも手、繋ぐか?」

「そうね、ふふ」

「あー!お父さんとお母さんまで!ぐぬぬ……」

「姉ちゃん、どしたの?」

「脩!お姉ちゃんと手繋ご!」

「うんっ!いいよ!」

後ろを振り返ると、みんな手を繋いで歩いていた。

たく、めちゃくちゃ仲良しだな、うちの家族。

ーーーーーーーー蒼月・絢幸sideーーーーーーーー

「あ、絢幸先輩〜」

「あ、蒼月くん!」

今日は蒼月くんと二人きり。一緒に屋臺を回って、花火を見る。それで、最後は………。

「ごめんね!待たせちゃって」

「いえ、今來たところですから」

「それじゃあ、行こっか……」

「はい」

屋臺がたくさん並ぶ道をまっすぐ進む。

フランクフルト、わたあめ、やきとり。どれも味しそう。

「あの、絢幸先輩……」

「なに?」

「その、浴……すごく似合ってます」

「え、あ、ありがとう……」

あ、蒼月に褒められちゃった!どうしよどうしよ!嬉しすぎてちゃんと返事できなかったよ!

落ち著け私。テンパっちゃダメだよ、當 絢幸。

でも、褒めて照れてる蒼月くんを見てると、かわいくてニヤけちゃうよ。

「あ、絢幸先輩!」

「ん?」

蒼月くんがテンション高く何かを指差していた。何だろう?

「たこ焼き!ありますよ!」

「うん、そうだけど?それがどうしたの?」

「いや、別に特に意味は……」

もしかして、照れ隠し?

「ふふっ」

「絢幸先輩?どうしました?」

「蒼月くん、意外と照れ屋さんなんだね」

「えっ?」

「隠しても無駄。バレバレなんだから」

ふふ。蒼月くん、最初は凄い大人の人だと思ってたけど、結構子供っぽいところが多くてかわいい。

「じゃあ、たこ焼き食べる?」

「は、はい!」

ーーーーーーーー荒井・亜実side ーーーーーーーー

「おい、もう良くないか?」

「なんで?まだ玉殘ってるし」

「これ以上やったら、他の人の分無くなっちまうぞ」

「そっか、じゃあこの辺でやめとこうかな」

今、的をやってたんだが、亜実が百発百中で景品を落としていくもんだから、凄い人だかりができてしまった。早くここから離れよう。

屋臺のおっちゃんも口開いたまま固まってるし。

「にしても亜実、センスあるな」

「言ったでしょ?々やってきたって」

撃もやってたのかよ?」

「嗜たしなむ程度にはね」

いやいや、撃を嗜むって意味分かんないから。

「あれ、そういえば父さんとかとはぐれちまったな」

「まあ大丈夫でしょ、二人組だったし」

「まあ、そうだな」

俺は時間を確認する。もうすぐ花火が始まる。

「亜実、もうすぐ花火始まるぞ」

「ほんと?じゃあ行こっか」

また無言で手を差し出してくる。分かりましたよ、お姫様。

「へへへ」

もう隠せてないぞ。聲れてるし。

ーーーーーーーー蒼月・絢幸sideーーーーーーーー

「絢幸先輩、もうすぐで花火始まります」

「え?もうそんな時間?!」

屋臺をグルグル回っていたら、知らないに時間が経っていた。

私と蒼月くんは、花火が見やすいところに移している。う〜、人が多い……。

「うわっ!」

そう思っていたら、人の波に押されて蒼月くんと離れてしまった。どうしよう……。このままだと、蒼月くんと一緒に花火が見れない。

「良かった、見つかった」

「え?」

私の手を強く握ってくるしなやかな手。

男の子とは思えない細い指、白い手。

「蒼月くん?!」

「はぐれるかと思いました」

「ごめんね、私がいなくなっちゃったから」

駄目だ、私。自分からっておいて、蒼月くんに迷かけるなんて。蒼月くんもきっと呆れてるよ。

「そんなことより、花火始まっちゃいますよ」

「そうだよね、ごめんね……」

「そうじゃなくて……」

蒼月くんが、手を出してきた。え?手がどうしたの?

「もう焦れったいですね」

「えっ?!」

私、蒼月くんと手繋いでる?!

「これではぐれないでしょ?」

「……う、うん……」

もう、ずるいよ蒼月くん……。

私と蒼月くんは、花火がよく見える位置までなんとか移できた。

「ふぅ、なんかと間に合いましたね」

「ありがとう、蒼月くん……」

「あ、すいません、急に手繋いだりして……」

「ううん、嬉しかったよ」

「え?」

よし、ここで言おう。花火が始まる前に、この想いを伝えるんだ。もし失敗したとしても、そのときはそのとき。きっぱり諦めよう。だから、今から伝える言葉に、私の全部を込めるんだ。

「すぅ〜、はぁ〜……」

落ち著け。大きく深呼吸をして、口を開いた。

「あのときのこと、覚えてる?私が本を運んでるとき、助けてくれたときのこと……」

「はい、もちろんです」

「私、あのときから……」

「ちょっと待ってください」

「え?」

あ、そっか。蒼月くんは、気付いてたんだ。私の気持ちに。

優しいから、付き合ってくれてたんだ。

私、蒼月くんに気遣わせてたんだ……。

なんか……ショックだな………。

「俺も言いたいことがあります」

「え?」

「絢幸先輩は知らないと思いますけど、俺、去年絢幸先輩に會ったことあるんです。まあ會ったというか、俺が一方的に見ただけなんですけど……」

「え?どういうこと?」

蒼月くんの話についていけない。斷るんじゃないの?

「はい。學校近くの図書館なんですけど、読書スペースであなたを見かけたんです。俺……」

すると、蒼月くんは、大きく息を吸って……

「そのときから、ずっと先輩のこと、好きでしたっっっ!!!」

「………え」

「一年前から、ずっと好きでした!!最初は一目惚れでした。でも今は、先輩のすべてが好きです!!絶対誰にも渡したくないです!!」

ど……ういうこと?私とは付き合えないんじゃないの?斷りの返事じゃないの?

私、告白されたの?

だめだ、頭が追いつかない。でも告白された。それだけは分かる。てことは、蒼月くんも私のことが好き……。

じゃあ、両想い………

「その、返事は別にしなくて…」

「私もっ!!!」

「え?」

「私も!ずっと!好きでしたっっっ!!!」

もっと他に言うこと考えてたのに。

口は勝手にいてた。

早くこの気持ちを伝えなきゃ。

が本能的にそういた。

「いや、俺の方が好きです!だって一年前ですよ?!先輩探すの大変だったんですから!三年生に聞いてもそんなやつ知らないって言われて!!先輩に友達がいないから!!」

「探してたの?!それより友達いないってひどいよっ!!今は海七渡くんだって亜実ちゃんだっているもんっ!!」

「とにかく!俺の方が絢幸先輩が好きです!!」

「いーや!私の方が蒼月くんのことが好きっ!!」

「俺ですっ!!」

「私っ!!」

「俺っ!!」

「私っ!!」

「……はは」 「……ふふ」

「何やってんですかね、俺たち」

「ほんとだよ、もう」

「私に先に言わせて」

「俺が先に言います」

「じゃあ同時にする?」

「わかりました」

私は、清々しい気持ちで……

俺は、心を弾ませて……

「「好きです、付き合って下さい」」

そのとき、空のキャンバスに、カラフルな花が咲いた。

私と、蒼月くんは、それを同時に見る。

この世のどんな花よりも大きくて……綺麗で………そして、すぐに散ってしまう……。

そんな儚い花。

赤、黃、緑のカラフルなで空を照らすの花。

「はい、俺で良ければ」 「私なんかで良ければ」

その花は、すぐに散ってしまうかもしれないけど。

私たちの心に咲いた花は、きっと散らない。

私の心を彩り、何にも染まる、無明な花。

ーーーーーーーー荒井・亜実sideーーーーーーーー

「まあ、大丈夫だろ」

「ん?何が?」

「いや、こっちの話だ」

亜実には言ってなかったな、二人のこと。

「それにしても、花火きれいだったね」

「そうだな、特に最後のあれ」

「ね!失敗したこと思ったら、パパパーンって一気にキラキラするやつ!」

「そうそう」

亜実がテンション上がりすぎて語彙力をどこかに落としたみたいだ。まあそれもまたかわいくて一興。

そんなとこを考えていたら、形態が震えた。

先輩からメッセージ……じゃなくて寫真?

気になって見てみると……、

「……ふっ、良かったですね」

「ん?どうしたの?って、この距離!付き合ったの?!絢幸先輩と園田くん?!」

先輩から送られた寫真には、蒼月と先輩がかなり著した狀態の自撮りのツーショットだった。

「私たちも撮っとく?」

「は?」

何を言ってらっしゃるんだ。浴狀態の亜実と著したら、それはもう、俺のライフの終わりを意味する。

「焦れったいな、ほら」

「おわぁっ!」

亜実が俺の肩に強引に手を回してパシャリ。こういうとこ、イケメン過ぎて惚れちゃう。

「お前なぁ……」

「いいじゃん、私も海七渡と撮りたかったもん……」

おいおい、いじけるなよ。かわいいな、もう。

「わかったよ、ほら來い」

「うん!」

今度は、俺が亜実の肩に手を回してパシャリ。

先輩に送っておいた。

ふっ、お返しだ。

いやー、良かったです。私としては、絢幸推しなんですが、皆さんは誰推しでしょうか?

やっぱり坂木ですかね?

それはさておき。

今回の作中に出てきた『死神共同生活』という作品は、存在しない作品なんですが、こちらも書こうと思います。同時進行なので、どちらかが疎かになることもあると思いますが、どうぞよろしくお願いします。次回の更新は、し先になると思います。

死神共同生活、興味があれば読んでみてください!

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