《俺はショートヘア王が大嫌い》Episode 18 転生 前編

長いようで短かった夏休みが終わり、また學校が始まる。

をじりじりと焼くような日差しは鳴りを潛めて、ついでに蟬の鳴き聲も鳴りを潛め、今はどこかぽかぽかとしたを放っている。

ぎりぎりうるさい目覚まし時計を右手で暴に止めて、ダラダラと起きる。

制服に著替えて部屋の扉を開ける。

同時に向かいの部屋の扉も開く。

「おっ、おはよ」

「おう、おはよう」

たったそれだけなのに、この會話に幸せをじずにはいられない。

「今日、涼しいね」

「そうだな」

階段を降りながら、そんなことを話す俺達。

「ふふっ、すごい寢癖」

「そういうお前は整ってるな」

「寢癖直ししたから」

「何だそれ?」

「寢癖直しのスプレーってのがあるの。でも、海七渡の寢癖は直せないかもね」

「ふっ、まだまだだな」

「何ドヤってるの……」

俺の寢癖も直せないとは、寢癖直しとしてはまだまだ半人前だな。

リビングには、既に母さんと父さんと脩がいた。

姉さんは夏休み最終日に、家に帰った。

「おはようっ、海七渡、亜実」

「おう」

「おはよう、おばさん」

「朝ご飯できてるから食べちゃってね〜」

「俺、顔洗ってくるわ」

「ん」

洗面所に向かう。

ジャバジャバと音を立てながら顔を濡らす。

ジメっとした顔にスッキリとした水の冷たさが心地良い。

引っ越して來てから三週間ほど経っただろうか。

來たばかりのときの亜実の態度は大分余所余所しかったが、今ではそんなこともなくなった。

もちろん最初は皆に敬語だったし、辿々しさが

「ふぅ……」

タオルで顔を拭い、鏡の中の自分を見て、今日もイケてないな、なんて思いながらタオルを置く。

自分の見た目なんて、ここ最近まで気にすることなんてなかった。

「はは、らしくねぇな」

俺は変わってしまったのだろうか。それがプラス向きに変わっていれば良いのだが。

「海七渡、ご飯食べるよ?」

「ああ、今行く」

亜実に聲をかけられ、リビングに戻った。

「「いただきます」」

カンッ。モキュモキュ。ゴクゴク。

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そんな音しか聞こえない食卓。だけど嫌ではない。

居心地の良い靜寂、と言うのだろうか。

「夏休み、あっという間だったね……」

急に聲を発せられたから、し驚いたが普通に返した。

々あったけどな……」

「うん。海七渡がカナヅチだったりとかね」

「うるせ。泳げないもんはしょうがねぇだろ」

そう、俺たちは夏祭りに行った何日か後、海へ行った。

二人きりでだ。

ただ、俺は泳げない。なら何故海に行った?

答えは一つだろ?

「泳げないなら海行ったってね〜?何で行きたいなんて言ったの?」

「…………」

「み・ず・ぎ・でしょ?」

「図星」

「自分で言う奴がいるか」

優しいチョップをお見舞いされた。

「あらら、またラブラブしちゃって」

そこに母さんがり込んできた。タイミングにして最悪。

「おばさ〜ん!海七渡、私の水著が見たいから海行ったんだよ?筋金りの変態じゃない?」

「私は海七渡がド変態ってことは前々から知ってたけどね〜」

おい、何で二人ともこっちを見るんだよ。

俺のことですもんね。そうですよね。ごめんなさい。

に正直な人間の方が純粋なんだよ。を心に閉まってぐつぐつ煮えたぎらせてる人間の方がよっぽど変だと思うけどな」

「そういう考えが変なんだよ!」

「どーせ俺は変ですよー」

「適當にあしらうな!!」

「ほんと、もう結婚しなさいよ……」

こんな生活も、三週間続いている。

いつまでも続けばいい、そう心の底から思っている。

「海七渡っ!聞いてんの?!」

「あ、何だっけ?」

「聞いててよっ!」

「ふふふ」

楽しそうな亜実の姿を見れれば、それでいい。

二人で歩いて學校へ。

9月ではあるものの、今日はそこまで暑くないようにじる。同じ道を歩く生徒も、皆薄手のカーディガンやセーターを羽織っている。かく言う俺も、茶のカーディガンを著ている。

「ん?あれって……」

「どうしたの?」

「いや、あの前にいる男二人って……」

「あっ!」

蒼月あつきと先輩だった。

「一緒に登校……」

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呟きながら、隣でニヤニヤしている亜実。なにそれかわいい。

「見ると益々お似合いだよな、あの二人」

「ほんとだよ!絢幸先輩から々聞いちゃおっと」

「程々にしとけよ……」

ワクワクしながら蒼月とのことを々聞いてる亜実と、それを鬱陶しそうに答える先輩。うん、容易に想像できる。

夏祭り以降、二人がどうなったかは分からないが、あの様子を見る限り仲良くやっているのだろう。

末永く幸せになってもらいたいものだ。

夏休み明けの教室は、ワックスの匂いでどこか新鮮味を帯びていて、初めて來た場所のようにじる。

それでも、クラスの賑やかさは変わらない。

海は何人かの子と楽しそうに喋っていて、岡田は男子に囲まれてワイワイしている。

「お前たち、席に著け」

それを南先生の聲が諌める。これもいつもの景だ。

俺は新たに窓側の最後列という神スポットを手にれ、上機嫌だ。隣の席は空席だ。うちのクラスは他クラスよりも一人なく、席が一つ余るのだ。

全員が席に著いたのを確認して、南先生が話し始めた。

俺はその容に、心で驚いた。

「今日からこのクラスに新しい生徒を迎える」

クラスが揺れた。

「「えぇえええ?!」」

生?

そう思ったときには、クラスの男子が大聲でんでいる。

「頼む、子であってくれ〜!!」

「別にどっちでもよくない?でも、あんたなんかじゃ付き合えないから」

「うぐっ……」

そこに海がツッコむ。いやー海さん、相変わらず鋭いですね。俺には比較的軽めだが、思ったことはすぐに言ってしまうタイプの人だ。切れたナイフだぜ。

それにしても、転生か……。別というか、こういうイベントってあるんだな。なんかアニメってじだ。純粋にどんな人が來るのか興味が湧く。

そいつは、教室のドアをガラッと開けて、ふてぶてしく教壇に立った。

子だ。

背は子にしては高い方で、165くらい。

髪は金髪のベリーショート。右側を耳にかけていて、その耳には何個ものピアスがついている。

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目はツリ目で睨まれたら怖い顔をしている。

だが、人だ。スタイルも良い。

亜実がいなかったら一目惚れしていたかもしれない。

しかし。

見た目から推測するに……

「ヤンキーかよっ!!」

一人の男子が思わずツッコんだ。

それっぽい人にそういう風に言うのはタブーだろ!

「あぁ?」

「ひぃ……」

やっぱり。ああいう奴にはなるべく関わらないほうがいい。命の危険をじる。

「神崎かんざき、自己紹介しておけ」

南先生に言われ、その神崎は渋々自己紹介をした。

「神崎 凜……」

神崎……凜……。

「他に無いのか?」

「………」

「なら、神崎。あそこの席に座れ」

そう言って先生が指差した席は……

俺の隣。

まじかよ。神スポットが一瞬にして地獄に……。

「よ、よろしく」

隣に座った神崎に挨拶、あっさり無視された。

なんともやりづらいな、こいつ。

そのままHRは終わり、一時限目とHRの間の時間。

神崎に、亜実が話しかけた。

ナイス亜実。夏休み明けでもパーフェクトヒロインを演じている。

「神崎さんだよね?私、坂木 亜実!よろしくね! 」

「………」

まじか。亜実を無視しやがった。

亜実が話し掛けても、神崎は攜帯の畫面から目を逸らさなかった。

「あ、あの……」

亜実がし困ったような演技をしているとき、神崎が口を開いた。その聲はとても冷たかった。

「私はお前らと仲良くする気はねぇから。話しかけんなよ」

「で、でも……」

「あんた、そんな言い方ないでしょ」

會話を聞いていた海が、間に割ってる。

「亜実はあんたのために言ってくれてんの。分かってる?」

「だから私はそういうのいらねぇって言ってんだろ?お前何様?」

「あんたね……」

まずい。このままだと、確実に喧嘩になる。

この狀況を何とかする策は……

「まあまあ、そんなギスギスすんなって!」

「岡田……」

岡田が二人の間にり、明るく言った。

クラスしホッとした空気が流れ出す

やっぱり頼りになるよ、岡田。

「お前誰だよ?」

「俺は岡田 廉太れんた!よろしくな、凜!」

「名前で呼ぶなっ!!」

「悪い悪い!」

岡田のおかげで、クラスはちょっとばかし明るくなった。ふぅ、助かった。

ていうか、岡田の下の名前、廉太って言うんだな。初めて知ったぞ。

そのまま一時限目が始まった。

攜帯が震え、亜実からのメッセージだと気づいた。

おそらく、さっきの件だろう。

亜実からはこう送られていた。

『神崎さんと喋って』

いや、無理だろ。あんな怖い顔したんだぞ?たしかに人かもしれないけど、それでも怖いんだよ。

『無理だろ。毆られる』

人を見た目で判斷するのは良くないが、さっきので見た目以外でも不良であると証明された。

よって俺には無理。

『合気道でなんとかして笑』

笑じゃねぇんだよ。というか、なんでそもそも接する必要があるんだよ。自分から火の中に飛び込むバカはいないだろ。

『そもそも接しなきゃいけない理由は?』

返信は早かった。

『このままだと、神崎さんが孤立しちゃう』

『本人はそれをんでるんじゃないのか?』

『最悪の場合、イジメられるかも』

イジメか。でも神崎ならそんなこと関係なしにこてんぱんにしそうだけどな。

『寧ろイジメる側っぽいけどな』

『ばか、あの子はどう考えても強がってるだけ』

強がってる?隣にいるこいつがか?

強そうだけどな……。

とりあえず質問の返信をする。

『じゃあ、亜実は神崎の居場所を作ってやりたいってか?』

『まあそうなるかな。一人からの攻撃なら大したことないけど、大多數からの匿名の攻撃は神に凄いダメージを與えるからね。イジメってそういうものでしょ?』

『分かった。やってみる』

俺はそう送って、攜帯をしまった。

隣を見やる。

當の本人は、機の上で攜帯を見ている。

見た目通りの不良っぽさだ。

俺が神崎の様子を見ていたら、視線に気づいたのか、こっちを向いてきた。

やばい、目が合った。

眉を寄せながら、こっちをギロッと見てくる。

何見てんだよ?って顔だ。

俺はお節介を承知で言った。

「なあ、あの問題分かる?」

「………」

ギロッとこっちを見たままかない。

まるで蛇に睨まれた蛙だ。張する。

神崎は俺を數秒睨んで、また攜帯をいじり始めた。

まあ、答えてくれるわけないよな。

『失敗した』

そう送って、俺は授業をけ始めた。

ファーストアタックは失敗に終わった。

二時限目、三時限目……と毎時間話しかけてはみたものの、睨まれるだけで返事はしてくれなかった。

というか、回數を重ねる度に睨む目が鋭くなっていって、六時限目の時は本當に怖かった。

しつけぇぞっ!てじの顔だった。

亜実に頼まれたとは言っても、このミッションはしハード過ぎやしないか?

無視ではないが、ほぼ無視してるようなもんだろ。

晝休みになったため、俺は弁當を開けてたべる。

亜実と付き合うことになったとはいえ、クラスでは大一人だ。亜実にもクラスでの立ち位置ってものがある。俺もそれは把握してるつもりだし、だから無駄な接はしない。

一人でパクパク弁當を食べていると、橫の存在が気になって、チラリと見てみた。

神崎は、晝飯を出さずにただ攜帯をいじっている。

こいつ、攜帯いじり過ぎじゃないか?

今時の子ってこんなにいじるの?って俺が言える立場じゃないか。

クラスを見渡してみると、一番左の列の最後尾に俺、その右隣に神崎、神崎を避けるように他の皆はそれぞれのグループで仲良くお晝。こんなじの位置関係。

確かに、亜実の言う通りになりかけている。

皆神崎のことを腫れ扱いしている。まあ今朝の件を見れば、そうなっても仕方ないか。

亜実の視線をじる。はぁ……、やりたくねぇ……。

「なぁ……」

「………」

「あの……、神崎さん?」

「………チッ、なんだよ」

よし!やっと返事してもらえたぞ!これは絶好のチャンス、気にれないように普通に喋ろう。

「もう晝だけど、食わないの?」

「……持ってきてねぇんだよ」

「あ、そうなんだ。売店あるよ?」

「……金ねぇし……」

「そ、そっか……。金、貸そうか?」

「……いらねぇって」

う……。いや、ここで押し切られたらこの先相手してもらえないかもしれない。ここは無理矢理にでも突破口をこじ開ける!

「お、俺買ってくるよ!」

「は、はぁ?!いらねぇっつってんだろ!」

駆け足で教室を出ていった俺。なんとか乗り切っ………てはないか。寧ろこれからだな。

俺は売店で子が食べそうなパンを3つとお茶を買い、教室に戻った。

「お、お待たせ」

「頼んでねぇわ!!」

俺は半ば無視して、買ってきたパンとお茶のった袋を前に出す。

「腹減ってたら午後辛いでしょ?」

「………禮は言わねぇからな」

そう言って荒々しく袋をけ取った。

よ、よかった……。これで一歩前進した……のか?

何にせよ、相手をしてくれるようになったことは収穫と見ていい。

第一段階、クリアだ。

俺は席に座り、弁當を食べ始めた。

隣の神崎も袋からパンを取り出し、仕方なくという風に食べ始めた。よかった、食べてくれたか。

「おい…、あいつパシられてんのか……?」

「さぁな……。とりあえず関わんない方がいいだろ」

そんな會話が聞こえたが、無視を決める。

口は災いのもと、それを忘れてはいけないのだ。

隣をみやると、焼きそばパンを大事そうに食べている神崎がいた。

味い……か?」

「…………」

無言で頷く神崎。け答えは完全にしてくれるようになった。

亜実の、"居場所を作る"という考え。どうすれば居場所をつくれるだろうか。

第一に、神崎のバックボーン。

これは亜実が擔當するとして。いや待て、亜実が擔當したとしても、神崎が亜実を朝みたいに拒絶したら……。それは部決裂となり、このクラスの人間と流することは100%できない。

次に、クラスメイトとの流。

今のままなら、怖がられて距離を置かれる可能が高い。それなら、神崎が怖い人じゃないという証明ができればいい。

口で言うのは簡単だが、神崎とろくに會話もできないこの狀況では、実現不可能なさくであると思う。

一先ず、まずは亜実と神崎が仲良くなる必要がある。ということは、俺が神崎と良好な関係を構築する必要がある。ひっくり返せば、俺と神崎が仲良くなれないと、この作戦は詰むというわけだ。なにそれ、責任重大!

それが功したとして、次は神崎が良い人である証明が必要だ。これは追々考えるとしよう。今思いつかなくても、亜実と話し合えば案はおそらく見つかる。早とちりは良くない。

というわけで!

俺はこれから、神崎と仲良くなりますっ!!

何だそれ。

放課後。部活のなかった亜実とそのまま帰ることに。例の件について話す。

「なるほど。確かにそれがシンプルで単純だよね」

「ああ、だけど思った以上にハードだと思う」

「ほんとだよ、あの子私に真っ向から敵対したし。初めてだよ、あんなこと」

亜実は、學校ではパーフェクトヒロインで居続けなければいけない。それは、今まで積み重ねてきたステータスや立場、人間関係などの全てがその仮面に張り付いているから。

俺から見れば、學校での亜実もプライベートの亜実も、パーフェクトで凄い人間ではあるが、タイプは違う。

學校での亜実は、おしとやかではあるものの明るさも兼ね備えたリア充のテンプレのような存在。皆から好かれ、皆を好く存在。

リアルの亜実は、もうし大人な雰囲気を持っていて、常に冷靜で冷淡。その時々の狀況において、何が最適解かを一寸違わず見極める皇帝のような存在。

大した違いはないが、學校という社會施設で生きていくのなら、リア充のテンプレの存在のようなタイプの方が有利に事が進む。それを見極めたから、亜実の今のキャラが出來上がったのだ。

とまあ、ここまでは俺の勝手な予想だ。

重要なのは、そんな存在に真っ向から反対したということ。あの様子を見るかぎり、神崎はんで孤立することを選んだように思える。

理由はわからないが、そうせざるを得ない理由があるのかもしれない。

現段階では、そこを追求する必要はない。今は、神崎とどう関係を結ぶか。そこに盡きる。

俺がどうしようかと悩んでいると、亜実が冷靜に分析した。

「今日のあれを見るかぎり、私が直接接することはしない方がいいかもね。ここは海七渡に任せる」

そう言って、亜実は強く頷いた。

俺もそれに強く頷きを返す。

「とりあえず、連絡先とかは換しないとな。あとは、共通の趣味とか」

「共通するところ、ある?」

笑いながら言われた。確かにそうだけどさ。

「厳しいだろうな。でもどうにかするしかねぇよな……」

「そうだね。あ、とりあえず海七渡がお晝って、そこで話が弾めば……」

「待て待て、前提がおかしいわ!何でいをけてもらってる前提?俺を買い被ってるのか痛めつけたいのか?」

「まあまあ。海七渡なら行ける!ファイッ!」

そう言って爽やかなウィンクとグッドボーズをプレゼント。おい、俺の扱いがひでぇぞ。

次の日、俺は無策のまま晝休みを迎えてしまった。

神崎は昨日と同様、ずっと攜帯をいじっていた。

すぅ〜、はぁ〜。よし、當たって砕けろ、だ。

「なあ、神崎さん……」

「…………んだよ」

「あの……、お晝……良かったら一緒に食わない?」

「………………は?」

ですよね〜。そりゃ、は?ですよね。でもね、もう何も思いつかなかったんですよ。これで勘弁してください亜実さん。

だが、神崎は予想外の反応をした。

「…………昨日の借りだからな」

「ほ、ほんと?!」

「チッ、早く行くぞ!どこで食うんだよ?」

「あ、今行く!」

よし!功したぞ。見たか、亜実。俺のストレートな気持ちが神崎の心のミットに屆いたぞ。

そう思い亜実の方を見た。

あれ?なんか顔がむくれてる。

「亜実、彼氏さん他のとどっか行っちゃったけど、平気なの?まあ、亜実なら何か考えとか………」

「……………」

「あれ?亜実?」

「あいつ……、何で功させてんの………」

「え……亜実怖いよ……?」

「ふん」

「あ、可い」

海七渡め、何であっさり功させてるのさ……。

私は失敗したときのためにちゃんと後ろ盾を用意してたのに。何か複雑だなー。

俺と神崎は中庭に移し、敵等なベンチに腰掛けた。

座ってすぐ、神崎が俺に質問した。

「……これは昨日の借りだ、勘違いすんなよ」

あのときは禮は言わないとか言ってたのに、律儀にお返しをできる神崎さん、立派なツンデレキャラを演じられていますね、はいはい。

亜実がいなかったら即墮ちしてたかもしれんが、今はそんなことより話をしなければ。

「一つ、聞いていいかな」

「………言ってみろ」

俺はあえて神崎の方を向かずに、正面にあるグラウンドを見つめながら言った。

「どうして自分から一人になろうとしたの?」

大して驚いてはいない。それまでグラウンドを向いていたを、こちらに向けただけ。

「……お前には関係ない」

「関係あるないじゃなくて、俺が知りたい」

俺は神崎の方に向き直り、はっきりと言った。

神崎は驚いた表をしていた。

「お前が知りたいから、私が教えるって?」

「理屈はどうでもいい。俺が知りたいんだ」

俺はただ貫く。理屈はいらない。前フリはいらない。モノローグなんてものは邪魔でしかない。

俺は、ただお前のことが知りたい。

傍から見れば告白紛いのセリフだが、この言葉がそういう意味ではないと、なくとも神崎は理解している。

神崎は、はぁ……と溜め息をついた。

その溜め息は、次、神崎が口を開くとき、一番大事なことを言うのだと思わされるものだった。

神崎は、溜め息と同時にをグラウンドに向けて。

「………私、前の學校でやらかしてんだよ。クラスメイトを毆っちまって、退學になった」

「……どうして毆ったの?」

「私にはガキん頃からのダチがいたんだよ。そいつをイジメてる奴らを見つけた。それで私は、そいつらをぶん毆って退學をくらっちまった。バカみたいだよな?たかが他人のために退學までするなんてよ……。んでよ、私はこの學校に來た。この學校では、誰とも関わらないって決めたんだよ。誰かを助けて自分が苦しむなんて、バカのすることだからな……」

自嘲気味に語ってくれた神崎の目の端には、小さな雫がって見えた。

"バカみたい"………か。

ーーーーーーー過去ーーーーーーーー

「おい優香!お前、イジメられてんのかよ?!」

私は、優香の家に著いて、優香の部屋に転がり込んだ。

「大丈夫だよ、凜ちゃん。私は大丈夫だから……」

ベッドに橫たわる優香のパジャマの隙間からは、腹に大きな痣が見えた。私はゾッとした。

「大丈夫じゃねえだろっ!!腹に痣あざできてんじゃねーか!!」

「こんなの平気だよ。凜ちゃんは専門學校行くんでしょ?そのために一生懸命バイトしてお金稼がなきゃ!」

「もうやめろ!何で辛いのに平気な顔して我慢してんだよっ!!なんでお前が痛がらなきゃいけねぇんだよ!!!」

「辛くなんかないよ。こうやって凜ちゃんが側にいてくれるだけで、私は助けられてるんだから」

私は何も言い返せず、帰った。

次の日、事件は起きた。

優香が救急車で運ばれた。原因は、階段からの転落。頭を強く打っていて、命の危険に関わると醫者は言っていた。

私はすぐに悟った。誰かが優香を突き落としたんだと。

その誰かも目星はついていた。優香のクラスにいるグループ。

私は優香のクラスに行き、そのグループのリーダーを思い切りぶん毆った。

そいつは鼻が変な方向に曲がっていて、床に蹲って痛がっていた。

私を止めたそのグループのたちも全員毆った。

全然痛くない。優香がけた苦しみに比べたら、こんなの全然痛くない。

私は両手の指が折れていることも気づかずに毆り続けた。

私は止まらなかった。気づいたら、私は先生に取り押さえられていた。

私が毆ったたちは、皆転校した。保護者たちが、こんな學校に娘を預けてられない、と言ったらしい。お気楽な奴らだ。自分の娘が被害者だと思いこんでしまっている脳みそに反吐が出る。

私は退學になった。

ーーーーーーーーーーーーーー

それで今に至る。

私は、容師になりたかった。

人の髪を切って、笑顔になってもらう。私はその容師のやり甲斐とカッコよさに憧れていた。

容師において、手は大事な商売道

を毆るなんて法度中の法度なのに。

その時の私は、何かに取り憑かれたように暴れた。

もう全部無くなっちまったな……

この手は、汚れちまった。

神崎は、あの亜実に真っ向から対立した。

それは、自分の過ちを戒めているから。

二度とバカみたいなことをしないために。

バカだな。

こいつはバカだ。

何にも気付いてない。

だから、俺もこいつに真っ向から対立する。

「もう私のバカ話はいいだろ、飯食おうぜ」

「バカだな、神崎さんは」

「………は?」

俺はなるべく憎たらしく、神崎が俺に怒りのを抱くように振る舞った。

「友達を助けるためにクラスメイトを毆って、自分は退學。正義のヒーロー気取り?そんなの現実じゃありえないし、自分が不利になるって理解できないの?高校生ならそのくらい分かるはずだけどな〜?」

「て、てめぇ……!」

神崎さんは、右手を大きく振りかぶって毆りかかってきた。

そう、それでいい。

なるべく神崎さんに理を失わせたかった。

冷靜でいられるのはまずかった。

正気でない人間の拳は、大きくブレる。

パシッ。

俺は神崎さんの手首を摑んで、下に降ろした。

「私を馬鹿にしてんのか……」

自分の拳が捉えられたことで、更に頭にが上る。

こうなったらもうめちゃくちゃ。

ただ突っ込んでくるだけ。

「神崎さんはバカだよ。何にも分かってない。自分で思い出してみてよ。何の為にその手を汚したのかを…」

神崎さんのきが止まり、俺の目の前で立ち止まった。俺はここぞとばかりに畳み掛けた。

「神崎さんが友達を守る為に汚した手は、神崎さんの心の綺麗さを表していると思う」

「…………」

「気付いてなかったのか?本當に馬鹿だな、神崎さんは……」

俺は口調を本來の自分に戻し、続けた。

「馬鹿だな。他人のために自分を犠牲にできる人なんか、この世に限られた人しかいない。自分がそれだけ凄いってことに気付けてない。馬鹿だよな……」

「………私は、凄くなんかねぇ……!ただ、その時々のを任せてるだけだ!あの時だって、ただ頭にが上って……。今だって、お前を毆ろうと……」

「じゃあ、なんであの時頭にが上ったんだ?」

「それは……、ダチを傷つけられたからだ。優香を傷つけたから、私は……」

その先の言葉は、拳に握り潰されて霧散した。

「それならを張れよ。お前は一人の人間を助けたんたぞ?誇っていいことだろ?」

「それでもっ!私がやり過ぎたのは事実なんだよ。私が悪い………それで良い……」

「はぁ……」

俺は大きく溜め息をついた。勿論、意図的に。

神崎は俺を悲しげな目で見ていた。

俺が馬鹿といったことを気にしてるのだろうか。

安心しろ、天才と馬鹿は紙一重だ。

「神崎、お前はその友達がイジメられているのを知って、なんであいつがあんな思いをしなきゃいけないんだろうって思ったか?」

「………當たり前だろ!何で優香があんな目に……」

「同じだ」

「……は?」

俺は続ける。

「同じなんだよ。俺は今、何で神崎がこんな辛い思いをしなきゃいけないんだろうって思ってる。神崎はただその友達を助けたかっただけなのに、自分の夢すらも諦めなきゃいなくなった。馬鹿だよな、お前のいた學校の先生やいじめてた生徒の保護者も。弱い人間ほど、壁が立ちはだかったときに周りのせいにする。これは自分は間違ってないと思い込む弱者の神だ。対して勇気を持った人間は、壁が立ちはだかったとき、己の力の無さを悔やみ、己を憎悪する。よく考えたら、これは中々できることじゃない。心が綺麗で、強い人間じゃなきゃな」

「で、でも……、私は……」

う神崎。自分の行が正しかったのか。自分は正しくないと思っているのに、今目の前の男にそれを肯定され、凄いやつだと言われた。

しないはずがない。

を掻きすように、俺は更に続けた。

「お前は、友達を助けたかった。そのために自分の何もかもを擲った。てことは、お前にとってその友達は、それだけ大事な存在なんだよ。お前はバカみたいだと言った。それが馬鹿なんだよ……」

俺は、心の底からの本音を目の前のにぶつけた。

「助けた事さえもバカみたいなんて言っちまったら、お前のそいつへの思いを裏切ったってことだぞ」

「…………」

「お前のその戒めは、自分に噓をついてまで貫かなきないけないぐらい大切なものか?お前には、もっと大切なものが他にあったんだろ?」

「……う……う…ん…」

「なら、自分に噓はつくな。大切なものを守り切りたいなら、その信念を通せ。それがバカだろ」

昨日あったばかりの子に……、

今さっき軽く聞いたぐらいのその人の過去。

それに対して俺が何かを言う資格はないかもしれない。けど資格なんて必要ない。

こいつは、獨りぼっちが嫌なんだから。

右手を神崎の頭の上に置き、かす。

「神崎、お前は凄いよ。もし、誰かがそのことを否定するなら、たとえそれがお前であっても、俺はそれに全力で立ち向かう。俺は、お前の味方になりたい。だから、お前はもっと堂々としてろ。凜の名前が泣くぞ?」

「う……うんっ………」

心にストンと落ちたその言葉。

味方になりたい。

私は、優香にそう言いたかったのかもしれない。

そうだ。それだけでよかったんだ。

世の中は、こんなにも単純だったのか。

"優香の味方"を貫き通す。

私は貫き通せたのだろうか。

分からない。

誰かに教えてもらいたい。

合っているのか否か。

それすらも分からないまま生きるのは、辛い。

でも、自分ができる最大限のことをした。

私は、優香を助けられたのだろうか。

不安でいっぱい。

今頃、優香はどうしてっかな。

私のことなんか忘れて、のんびり生きててほしいな。

今の私は、思われるより忘れられた方がよっぽど楽になってしまった。

怖い。優香が私を思っていたら。

手が震える。足が震える。

でも、頭の上の暖かいで、その震えは止まった。

これは、手か。すごく暖かくて、落ち著く。

「あ……れ…?なんで…泣いて………」

その暖かい手で頭をでられると、心の中のが全て吐き出されて、勢い良くの外へ出ていった。

ダメだ………、止まらない。

悲しくはないのに、涙が出てくる。

出るな出るなと思っても、言うことを聞いてくれない涙腺。

そうして暫くの間、私は泣いた。

昨日あったばかりの、男ので。

私が抱きついたら、優しく腕を回してくれて、包んでくれた。人のような抱擁ではなくて、優しく包み込んでくれるお母さんのようなものだった。

あーあ、泣き顔見られちゃった。

暫くの間、神崎が落ち著くまで待っていた。

やがて、泣き止んで。

「ごめん、こんなことまで……」

「気にするな」

「あんなに口悪く當たってたのに、私を助けてくれて……その……」

「禮はいらねぇよ。だって、お前も同じようにその人を助けたんだからな。その人も、お禮言いたがってるんじゃないか?」

「………分かった。今度連絡してみる」

神崎は、口調も和らぎ、し雰囲気が変わった。やはり自分でもし誇張していたんだな。

俺は食い忘れていた弁當を手に持ち、

「あと半分しかねぇぞ。急いで食おうぜ」

「そ、そうだな。えと……その……」

神崎は頬を染めながら、上目遣いで言った。

「その……連絡先……換、しないか?」

お久しぶりです!

いつも見て下さってる方、本當にありがとうございます!未だに文章力は長していませんが、これからも何卒ご自ください。

話は変わりますが、この作品を読んでくださっている皆様、質問や気になること、アドバイス等ありましたら、コメントして頂けると幸いです!いや、

コメントしてください!!

「ここはもっとこうした方が」とか「これはまあ良かったね」など、どんな意見でも構いませんので、読者目線でのご意見・ご要お待ちしております!!

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