《俺はショートヘア王が大嫌い》Episode 19 新たなるスタート(転生 後編)

「連絡先?」

俺は神崎の言葉をはっきりと聴きとっていたのに、反的に訊き返していた。

神崎は顔を赤くしながら小さい聲で言った。

「まあ……友達だからな……」

「友達か……、確かにそうだな」

この関係が友達なのかどうか、まだ俺にはわからない。関係と言っても、出會ったばかりの淺いもの。

それでも、こいつはそれを友達と言った。

なら、それで良いと思う。

「はいよ」

「お、おう……。ありがとな」

俺がLINEのQRコード畫面を差し出すと、神崎は禮を言ってそれを攜帯にかざした。

その瞬間、攜帯に通知が屆き、"新しい友達"の欄に"KanZaki"という友達が追加されていた。

ふと神崎を見ると、自分の攜帯畫面をうっとり眺めていた。

「神崎……、神崎」

「ぬわぁっ!な、何だよ?」

「いや、晝飯食べようって言おうとしたんだが」

「な、何だよそんなことか」

何で聲をかけただけでここまで慌てるんだ?

今はいいか。まずは晝飯だ。

ん?

俺は昨日との違和から、神崎に聲をかけていた。

「今日は弁當なんだな」

「お、おう。作ったんだ」

弁當箱の包まれている巾著を解きながら答える神崎。

「まじか、料理できるのな」

「こ、こんぐらいはな……」

神崎はそう言って弁當箱をでた。心なしか顔が赤い。

いや、考え過ぎだよな。

傲慢な思考を頭を振ってかき消し、弁當を開いた。

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「神崎、弁當小さくないか?」

「私食なんだよ。これで腹いっぱいになっちまう」

へぇ〜。見た目に反しての子らしいんだな。

「な、見た目に反してなんつったぁ?!」

まずい、聲に出てた。

「いや、神崎カッコイイから結構食べるのかと思ってたんだよ」

咄嗟に出た弁解は赤點ものだった。

まず子にカッコイイは適切なのだろうか。心からの言葉であることに変わりはないが、神崎は嬉しいのだろうか。もしかしたら次は毆られるかも。

めちゃくちゃ警戒していたが、杞憂だったようだ。

「カッコイイ、か……」

不満ではないが、何か慨深いようにそう呟いた。

どうやら怒ってはいないらしい。

そこから5分ほど、お互いに無言で弁當を頬張った。

向かいのグラウンドでは、何人かの男子がサッカーをしている。

その中に、小林の姿が見えた。

久しぶりに小林を見た。

なよなよしい佇まいも変わっていない。

俺は思わず苦笑してしまった。

懐かしいなと、そう思った。

気づけば、弁當を食べる手が止まっていた。

俺は殘りない弁當を、し急いで食べ終えた。

弁當を巾著で包み橫を見ると、既に神崎は食べ終わっていて、俺の包む様子を見ていたようだった。

神崎は、俺と目が合うと、勢い良く首を逆方向に捻った。おい、そっちには何もないぞ。

「そ、そういえば」

それを誤魔化すように、神崎が話し出した。

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俺は黙って続きを待つ。

「話し方とか態度がさっきと違うよな……」

「あー、こっちが素だ。さっきのあれは作ってた」

なるべく神崎を警戒させないように、心優しい男の子を演じたのだ。神崎にどう映っていたかは分からないが。

「そうなのか。さっきの態度は変なじがしたからな」

「そういうの分かるのか」

「勘だけどな。その、話変わるけどよ……」

神崎はそう前置きして、続けた。

「お前のことは、何て呼べば……」

「そうだな…、名前でも名字でもいいぞ?」

「じゃ、じゃあ荒井で」

まあ、いきなり名前も何かむずいしな。

「ていうか、お前のその喋り方は素なのか?」

俺は素直に興味のある質問をした。

「ああ。昔っから男と一緒に遊んでたからな。よく男勝り、とかメスゴリラ、とか言われてたな」

あー、クラスに一人はいるよなそういうやつ。

男っぽくて子からめっちゃ人気があって、一部男子からも人気なタイプな。笑い聲とかワッハハハハハ!みたいなじの。

ちなみに、俺が一番苦手とするタイプでもある。

何故かって、そういうタイプの奴はパーソナルスペースを全無視するからな。俺みたいな人見知りの極地にいる人間からすると、ああいう誰とでも仲良くなれる明るいタイプは合わせづらい。

だが、神崎はそんなじはしない。俺の見てきた今までのどの人間よりも遙かにおとなしいし、パーソナルスペースを分かっている。

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いや、人は皆違うのだ。型にはめて軽々しく判斷するのは良くないな。

と自己解決し終わったタイミングで、晝休みの終わりを告げるチャイムが鳴った。そろそろ戻るか。

「戻ったほうが良さそうだな」

「そうだな……」

「ん、どうかしたか?」

「い、いや、なんでもねぇよ!」

「そうか?」

やけに意味ありげな面持ちだったが、まあいいか。

俺たち二人は教室に戻り、五時限目に備えた。

ここが、亜実の作戦実行のチャンスであった。

五時限目。

朝のホームルームで言われていたのをすっかり忘れていたが、五時限目はロングホームルームなのだとか。言ってしまえば、主に何かを決める時間に使われる。はて、何か決めるものでもあっただろうか。

と、教室の前の扉から、擔任である南先生がってきた。その手には、クリップで止められた小さい紙束があった。

先生はそのまま教卓の上にその紙束を置き、生徒に向き直り、話し始めた。

「全員いるな。それではロングホームルームを始める」

クラスはしざわついている。そのざわつきは、マイナスなものではなく、寧ろこれから起こることへのワクワクのようなものが含まれている気がした。そして、それは的中する。

「早速ではあるが、お前たちは來月から修學旅行だ。行く場所は京都。3泊4日だ」

修學旅行?てっきり三年生でするものかと思っていた。いや、うちは中々の進學校ではあるから、験を考えると二年生で実施するのは理に適っているか。

「修學旅行……ね」

俺は口かられた言葉も気にせず、窓の外を見る。

外の景は至って普通で、中庭を囲うように植えられている木の葉がしづつ枯れ落ち始めているだけだ。それをただ、何も考えずに眺めていた。

來月には、京都にいるのか。なんだか、時の流れの早さを徒然にじている。いや、真逆だ。徒然などではない。一般的には、変化のない環境に手持ちぶたさをじるのが徒然であるのに、俺は変化し続ける環境に飽きてきたのかもしれない。普通でいい。ただ、亜実と過ごして。ただ、蒼月と適當に話して、絢幸先輩を軽くイジって。普通でいいんだ、俺は。

枯れ落ちる木の葉を眺めていると、知らず知らずそんなことを考えていた。

この関係も、いつか消えてしまうのだろうか。何を言ってるんだ俺は。そんなこと考えても意味ないだろ。だったら何だ、自分で解決すればいい。それだけのことなのだ。

俺は先生の話も聞かずに、ただ心の中で問答を繰り返していた。たいそう無駄な問答を。

自分の世界から戻ってくるきっかけは、震える攜帯だった。機の下で畫面を確認すると、亜実からメッセージが屆いていた。

『どうする?』

何のことかさっぱり分からん。話聞いてない俺が悪いんだけどさ。

『悪い、話聞いてなかった』

素直な返答をしておいた。ものの數秒で返信は來た。

『ばーか』

『修學旅行の二日目と三日目の自由行の班を考えるんだってさ。それをどうするって聞いてるの』

なるほど、そういうことか。

『人數とか規定されてる?』

『ううん、二人以上ならOKだって』

それなら、俺と亜実の二人で話は帰結するのでは…と思ったが、違うな。これは、作戦の第二段階。第一段階は、接をすること。なら次に踏むべきプロセスは……

『俺と亜実と神崎で組むか』

友好関係を結ぶということ。

俺はともかく、亜実と仲良くしている姿が皆の目に映れば、「なんだ、嫌な人じゃないんだ」みたいなじに誤解が解けるだろう。おそらく亜実も同じ考え方だろう。

やがて、返信が來て。

『みなとならそう言うと思った』

『あとはい方だけど…』

『それは任せろ、なんとかする』

『おっけー、頼んだよ』

攜帯をポケットにしまい、隣を見る。

よし、やることは決まったな。

俺同様、神崎も攜帯をずっといじっている。

そして、俺と目が合った。

「どした?」

「な、なんでもない」

まあ、目と目が合う理由なんてないよな。とりあえず、話を進めるか。

「あのさ」

「な、なに」

「修學旅行の自由行、組まないか?」

「………私と?」

「ああ。もう一人、あそこに座ってる坂木ってやつも一緒なんだけど、駄目か?」

急に距離を詰め過ぎたか。流石にいきなりは戸うか。

「悪い、別に無理やりってわけじゃなくてな、神崎が良ければって」

「そ、そっか」

沈黙。圧倒的沈黙。貫かれる無音。神崎はじっと一點を見つめている。きっと考えているのだろう。このいに乗るか否かを。

俺は待った。神崎がもう一度俺に目を向けるまで。

だが、それはいつまで経っても起こる気配がなくて。これは失敗した、そう思った。まあ、繋がりを持っただけでも功と言える。何かあったときにすぐサポートできるし、神崎がまないのならわざわざ友好関係を結ぶ必要もない。

しかし、俺の予想は外れる。

神崎は目を瞑り、ゆっくりと重い瞼を持ち上げて、悲しそうに笑った。

「私、あの子にひどいこと言っちまった。自分の都合を押しつけて、自分さえ良ければ何でもいいって投げやりになってんだ。私が一番されたくないことを、私はあの子にしちまった。いはすごい嬉しいけどさ、あの子が許してくれるかな……」

それは、さっきよりも更に弱々しい、本音を曬した神崎だった。元々弱いはずなのに、友達を守るために強くいた普通のの子。特別視してはいけない。頑張ったね、なんて汚い言葉を使ってはいけない。お前に何が分かる、俺だったらそう思うからだ。知ったような口を利くな、とも思う。だから、何も知らない俺は、知らないままでいるのだ。

「大丈夫だ、あいつは気にしてないってよ。ていうか、あいつが言い出したんだよ、神崎と組もうって」

「………ほんと……?」

「ああ、だから気にするな」

「う、うん……」

神崎はカーディガンの袖で目をった。アイラインのせいで目の周りが真っ黒になり、パンダみたいになっていて、俺はおかしくって笑ってしまった。

「な、何で笑うんだよ…?」

「これ…見て……」

俺は攜帯でカメラを起し、崩壊しそうな腹筋を抱えながら神崎に向けた。

「な、なぁああああ!」

「馬鹿、聲デカイって!」

「あっ……」

慌てて口を両手で抑えるが、時既に遅し。クラスメイト全員が俺たちのことを見ている。く、俺まで恥ずかしいじゃねぇか。

「おいおい、彼ほっといて浮気か?心しねえぜ?」

「ほんと、程々にしときなよ?」

「そ、そんなんじゃねぇって!」

その瞬間、クラスがどっと沸いた。

岡田と蒼月、覚えてろよ……。ぜってえやり返すからな。俺はそう固く決意したのだった。

帰り道。亜実の部活が終わるまで教室で適當に時間を潰し、時間になったら育館に迎えに行く。前までとはし変わった放課後となった。

絢幸先輩は験勉強を本格的に始めたらしく、塾で猛勉強しているのだとか。さっき蒼月に聞いた。

そうか、先輩はもう大學験か。いや、俺も他人事じゃないな。習慣的に授業の予習・復習はしているのだが、験勉強と呼べるほど本格的に始めてはいない。そろそろ始めるか、験勉強。

なんとなくでこれからの目標を立てた俺を他所に、隣にいる亜実は疲れた表だ。

「相當疲れてるんだな」

「まあね。大會前っていうのもあるんだけど、二年と一年の仲があまり良くなくてね」

ほお、仲があまり良くない、か。俺からは仲良さそうに見えるんだけどな。きっと俺の見えないところで々あるのだろう。ちょっと怖いな。

特に、子はそういう仲間意識が強いイメージがあるから、敵に回したら數で潰されてしまう。分かったか、そこの男子諸君。は敵に回すな、以上。

「何かきっかけとかがあるのか?」

「んー、私の知る限りでは無さそう」

なら、多分ないな。いや、絶対にない。こいつの目から逃れるなんてことができる人間がいるのなら、それはもはや人間ではないだろう。

「まあ、先輩後輩ってちょっと異様な関係ではあるからな」

「このままだと、変な空気で大會迎えることになっちゃうんだよね。流石にそれはまずいかなって」

確かにそれはまずいな。試合だけに集中したいときに、他のことが頭をチラつくというのは、なんとも不愉快だ。

「だからって顧問に相談するっつーのもな……」

「そーなんだよー」

亜実は項垂れるような聲音で言った。心底疲れてるんだな。

「力にはなれねーけど、困ったら言ってくれ。聞き手ぐらいにはなるから」

「………」

「何だよその顔

ぼーっとした顔で俺を見ている。何だよ。

「いや、普通の人なら、『あんまり無理すんなよ』とか『俺に相談しろよ』とか言うのに」

「いや、そんな無責任なこと言えないだろ。亜実にしか分からないことばっかなんだから、そんなの俺に分かるわけないしな。だから、亜実がしでも楽になれる方法を考えて、俺が愚癡を聞く相手にぐらいになれたらなって思っただけだ」

俺はし照れくさく、早口でまくしたてるように述べた。亜実はそんな俺を、頬を赤く染めながら見ている。そして、靜かに笑って……

「やっぱ海七渡は優しいね」

心臓が跳ね上がるのをじた。

「そういうところ、好き」

そして、心臓が舞い踴るのをじた。好きな異にこんなことを言われて、ドキドキしないわけがない。俺は今、相當顔が真っ赤だろう。

「お、おい……」

「ん?なに?」

きょとんとしながらしらばっくれる。

ほんとにこいつは……。さらっとこういうことをされると、こっちはついていけないんだって。いい加減わかってくれ。待てよ。こいつの場合、分かっててやってるとしか思えない。あー、やっぱりこいつ完璧だったわ。

俺はこの不利な狀況をリセットするため、話題を変えた。

「そういえば、來月は修學旅行だな」

「もう一つあるじゃん!」

「え?」

亜実は顔と顔がくっつく程に近づいて、

育祭!」

「あ?」

育祭?育祭って、あの?

まじかよ。

「ちょっと待て。そうなると、10月は育祭と修學旅行がダブルブッキングってことになるんだが」

「そういうこと」

「……まじか」

「まじだ」

かわいい。じゃなくてだな。

高校生活の青春というべきイベントが同月にあるのかよ。大忙しじゃねーか。

「去年のこと、大して覚えてねぇんだよな……」

「え?」

「いや、育祭って何やったっけって思ってな」

「何って、ダンスに応援に競技にフォークダンスに々あったじゃん!」

「ふぉ、フォークダンス?」

何だそれ。他のは思い出したけど、そんなの記憶にねぇぞ。亜実は顎に手を當て、視線は上のまま、過去の記憶を掘り返すように説明を始めた。

「確か、四陣の中で一番ポイントが高かった陣が優勝で、その優勝した陣の人たちは閉會式の後、男二人ペアで育館で踴るってじだったかな。私は踴ってないからよく覚えてないけど」

あー、さっぱり覚えてない。まあ無理もないか。去年の育祭は閉會したら帰ってたし。

因みに俺たちの育祭の説明をしておくと。

全校生徒・先生が四つの陣に分かれる。陣というのは、簡単に言えばチームのことだ。

そして四つに分かれた陣は、それぞれ、風・林・火・山の陣になる。

その四つの陣に分かれて優勝を爭うというものだ。

陣の決め方は、クラスでA・B・C・Dの書かれたくじを引き、二つに分かれる。全クラスそれを行い、それぞれのアルファベットの三年生の代表者が集まり、今度は風・林・火・山の書かれたくじを引く。

とまあ要約すればこんなじだ。

クラスは四等分され、クラスメイトが敵になるというシステムは中々に工夫されていて、面白いと思う。

「去年は風陣だったから、今年も同じがいいな〜」

亜実の聲音から、楽しみな雰囲気がれ出ている。

「気にってるのか?」

「もちろん!疾きこと風の如く、だからね。速さは強さだよ!」

「そんな単純理屈も、お前が言うと納得するわ」

「海七渡は何陣がいい?」

「そうだな……、林かな」

「何で?」

「そりゃもちろん、徐しずかなること林の如く、だからな。勝負は時の運、自分からかずにただゆっくりと流れにを任せるものなりて」

「それって海七渡が楽したいだけじゃん」

「楽とはなんだ楽とは!あくまで戦略的休息だ」

「はいはい、消極的な草食系男子だね〜 。林だけに」

「うっわ……」

「その反応やめろ〜!」

しばかり一矢報いた俺なのであった。

お待たせしました!と言っても、待ってくれた方がいるかは分かりませんが(笑)。

これからは、今回よりはしペースを上げて行こうと思います。まだまだ拙い文章ですが、ご自ください。

次回、木枯らし似合わぬ熱き戦い。それではまた!

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