《僕はまた、あの鈴の音を聞く》No.6 親友
翌朝。月曜日、つまりは休日明けの登校日。
「憂鬱だな」
「朝から何言ってんの?」
僕の妹、茜が呆れながら、そう言った。
「というかしん!もう學校まで10分だよ!そんなのんびりして大丈夫なの!?」
「そう言う茜も、學校じゃないのか?」
「私は土曜日に學校があったから今日は休みなの! 」
「そうなのかー」
「ねぇ、大丈夫しん?昨日帰ってからずっと上の空だよ!」
「そうかい」
そう言って、僕は、しい妹のれてくれたコーヒーを飲み干す。
「ふう......」
「落ち著くなー!!」
「ようよう、親友。相変わらずぼうっとしてんな」
放課後、空いた教室で僕に話しかけてきたのは半年前の僕の親友こと、神崎冬夜かんざきとうやだ。
「神崎、突然だけど伊藤穂波って知ってるか?」
「ん? 知ってるも何も、お前の方が知ってるぞ」
「僕が、神崎よりも?」
神崎は、同じクラスだけでなく、一學年丸ごとの報を網羅している人間だ。
僕が、この學校に來た時も、とても助けられた。
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その神崎よりも知っている.......いや、知っていただと......。
「いいか、お前と伊藤は稚園から同じ學校の馴染だ。そして、俺はあくまで今現在の報(子)しか手にれる事が出來ないのに対し、信義!伊藤ちゃんのい姿、聲、無邪気さを一番良く知ってたんだよ.......なのに、なのに、お前というやつは、勿ねえ事したな〜」
そして神崎は僕の肩に手を置き、もう片方の親指を立てて、
「ドンマイ!!」
と一言。
(つくづく思う。何でこんな奴が僕の記憶喪失に會っただけで気づいたのかと)
「神崎の趣味にとやかく言おうとは思わないし、僕から聞いておいてあれだが、し黙ってくれないか」
そんな僕に対し、ニヤニヤと笑う神崎。
「そんな事言うなよ〜。それにしても、伊藤ちゃんの名前を聞いても思い出せないとは深刻だな〜。お前ら結構仲良かったのに〜」
「そうみたいだな」
「その伊藤ちゃんがどうした?」
突然、神崎が表を変えた。
ーまたこの目だ。
確か、初めて會った時もこの目をしていた。普段何も考えてないようなのに、この目の時は、全てを見かされているような気がする。
「昨日、その伊藤穂波に會ったんだ。というか呼び出された」
「ほほう、その話。詳しく」
元に戻った。何なんだコイツは......。
そして僕は、昨日あった事をざっくりと説明した。
「それは、実に面白い話だね〜」
「何も面白くねえよ。でっ、伊藤が怒った事に心當たりでもあるのか?」
「ある!」
神崎は腕を組み、斷言した。
「でも教えるわけにはいかないね。それは伊藤ちゃんと信義の問題だ。俺は橫で笑いを堪えながら見てる事にするよ」
「お前もかよ。ったく、記憶喪失をした人間に教えないのは、みんな、思いやりの心がないんじゃないか?」
伊藤も、コイツ神崎も、そして、家族も......
「それはどうかな。それに茜ちゃん達の場合は仕方ないんだよ」
「なんで、茜のことが出てくる。もしかしてお前!僕の心を読んだのか!?」
「ふふふ。貴君の心を読むなど造作もないわ...ってそんなわけないだろ。何年親友やってると思ってんだよ。五年だぞ。五年!」
その年月の長さは僕には、分からないのだが。
「おっと、もうこんな時間か〜」
ふと気づいたかのように、神崎が腕時計を確認しながらそう言った。
それに合わせるように、僕も教室の黒板の上にかけてある時計を見ながら時間を確認した。
ー5時45分。
「んじゃ、お先に〜」
神崎が早々に教室から出て行こうと、鞄を肩にかけ、椅子から立ち上がりながらそう言った。
「じゃあな」
「おっと、そうだ信義」
また、神崎があの目に戻る。
「何だ?」
「例の人、見つかったのか?」
「.......いや、まだだ」
「そうか、殘念だな。まあ、いつか會えるんじゃないか?」
そう言った神崎は、僕に背中を向け、教室から帰る様子で、そのまま言葉を続けた。
「信義、お前が記憶があろうが、なかろうが、俺はお前の親友であり続けてやるから安心しろよな」
「何だよ急に」
「いや、何でもねえ。またな」
「ああ、また」
神崎が教室から出た後、僕が帰る準備をしていると、廊下の方から神崎と誰かの聲が聞こえた。
「あー、伊藤ちゃん!どうしたの?」
「あっ、神崎君!教室に東山先生いた?」
「......あー、いるとも、いるとも!僕らの擔任東山先生は教室にいらっしゃりますとも!」
(あいつわざと大聲で話してるだろ)
「そう、なら良かった。ありがとう」
「伊藤ちゃん、またね〜。くれぐれも怒らないように」
「どういう事?」
「さあ〜」
そこで、會話が終わったのか、足音が近づいてくるのが分かった。
コツ、コツ、コツ
「失禮します。東山先生、頼まれていたものを......」
「あっ......」
そして僕は約三十時間ぶりに、伊藤穂波との再會を果たした。
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