《豆腐メンタル! 無敵さん》失敗卒業新生活

最後の校歌を歌い終えた俺は、黒い筒に詰まった一枚の紙切れを片手にして校門をくぐった。

もう、ここに通うことはない。三年間通った中學の學び舎は相も変わらず無想な灰のコンクリートに塗り固められているが、そこかしこが飾り付けられていて違和を覚える。

雲ひとつない快晴のもと、一陣の風が吹き抜ける。春三月とはいえ、それはまだまだ溫いというところにも達していない。俺は肩をすくめて歩を進める。一歩ごとに、中學生活が過去になる。

中學校の敷地をぐるりと囲む桜の木々は、ようやく一、二と花を咲かせ始めたところだ。味気ない見送りが、俺の中學生活を象徴しているような気がする。

ふと、これまでのことを振り返る。思い出に浸るような趣味はないが、この時ばかりはさすがに考えずにはいられなかった。

みんなはまだあちらこちらで仲のいい友達と「これからどっか行く?」とか「高校にいってもまた遊ぼうね」とかやっている。

だが、俺の周りに人はいない。

今日が特別な日だとは分かっていたが、話す相手もいない俺には、考えることくらいしか出來なかった。

別に友達がいなかったわけじゃない。むしろ、俺はクラスでも目立つ部類で、リーダー的な存在だ。違うな。“だった”と言った方が適切だ。

「結局、俺には本當の友達はいなかった、ってことかもな」

呟いてから、自的な笑みを浮かべてみる。

振り返らずに、俺は過去から遠ざかる。後ろには過去しかなく、前には未來しか待っていない。だから俺はただ足を運んだ。互に、迷いなく、力強く、そして――必死に。

なんとなく、なぜだか子どもの頃に読んだ《星の王子さま》の一場面が思い浮かんだ。ともだちを探していた王子さまが、キツネに出會った場面だ。キツネと友達になりたい王子さまは、確か「どうすればいいの?」と聞いたはずだ。

でも、その後が思い出せない。キツネが答えた友達になるための方法は、どういうものだったのだろう? それはとても簡単で、當たり前なことだったような気がするけど――現代社會においては、かなり難しいことだったような気もする――

『さよなら、オト。約束は……』

直後、脳に再生されたのは、莇飛鳥あざみあすかの言葉だった。約束。そうだ。俺は、莇飛鳥と約束をした。だが。

『約束は、忘れていいよ。守れるはずのない約束なんて、覚えていても辛いだけだよ。そうでしょう?』

莇飛鳥は、そう言って悲しげに笑った。

でも、俺は忘れない。忘れるつもりなど微塵もない。それがどんなに困難で、不可能に思えることだろうとも。

あの日。莇飛鳥と二度と會えなくなった日に、俺は誓ったのだから。

俺は、自分の”正義”を貫く、と――

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