《豆腐メンタル! 無敵さん》二日目欠席浴中③
「ああ、そうそう。実はね、昨日、無敵さんがあんな風になったでしょ? またあんな事があると困るから、先生、《無敵さんシフト》を考えてきたんだけど……」
黒野の質問でぽんと手を叩いた留守先生は、黒板にしゃー、しゃー、と線を引き始めた。て、無敵さんシフト? なにそれ? 完全に嫌な予しかしないんだが。
「こういう席に替えたいと思いますので、みなさん協力してくださいね」
黒板からくるりと向き直った留守先生は、にっこりとほほ笑んだ。
「って、なんだそりゃあー!」
フリーハンドで描かれたとは思えないほど巧に描かれた黒板の座席図を見て、俺は席を立っていた。思わずんじゃったりもしていた。
俺の席は変わらない。変ったのは俺の周りだ。
窓際真ん中あたりの俺の席の隣には、件くだんの無敵さんがやってくる。無敵さんの後ろには、今名前を覚えたばかりの七谷菜々。前には黒野。俺の反対側、無敵さんの右隣には、後藤田晃司という名前が書かれている。例によって力強い書で。
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「あら? どうしたの、ホズミくん?」
「どうしたの、じゃありません! どうして俺の隣に無敵さんが來るんですかっ!?」
「え? だって、昨日も一番に無敵さんを助けに行ってくれたじゃない?」
「それがどうしたっていうんです? 誰もかなかった、いや、けなかったから俺が行ったまでですよ!」
「でしょ? だからよ。あんな突発的な事態にも、臨機応変、冷靜に対応出來る人じゃないと、無敵さんを任せられないんじゃないかって、先生は思ったの」
「ままま、任せるっ……? って、それって一っ……?」
くらくらと目が眩む。脳がぐるぐると渦巻いている。意味が分かるだけにたまらない。納得出來てしまうだけに信じたくない。
あんたは無敵さんの母親か? 俺は結婚を申し込みに行った無敵さんの彼氏かっ? 「お嬢さんをください」はおろか、「任せてしい」とも! 一言も! 言って! ないぞぉ!
その前に、に落ちた記憶もない。順番すっ飛びすぎだろ、これ。
「任されても困りますっ! 俺には面倒見切れません! 責任なんか取れませんよ!」
昨日も思ったけど、あいつ、まるで「自分の四方にうっかり弾置いて自するボンバーマン」みたいなヤツなんだぞ。救出不可能だから、あれ!
ところで「ボンバーマン」とは迷路のような所で時限弾を武にモンスターと戦う、昔懐かしいレトロゲームである。初心者は、退路に弾を置いてしまうイージーミスを、焦りから連発するのがこのゲームだ。パズル要素が強いので、かなり頭を使わされる。
俺、古いゲームのあのチープさが好きなんだよね。単純だけど奧が深くて、ちょっとした空き時間なんかに重寶するんだ。
「大丈夫。もしもの時は、先生も一緒よ」
「えっ? せ、先生、も……? いいい、一緒……」
え? え? これって一どういう意味? もしもの時は、どうなんの? 一緒に現実から逃げ出して、二人で遠い街に住み、新生活を始めちゃったりするのかな?
それなら、「もしも」がむしろ待ち遠しい! カモン! IFの世界!
「へぇー。菜々も《無敵さん係》かぁー。なんだか結構おもしろそー」
後ろでは、七谷がけらけらと笑っている。通常のクラスには、てゆーか、無敵さんがいなければ存在し得ない変な係も、七谷の中では出來あがっているようだ。
そんな係を作っていいなら、俺は是非《留守先生係》になりたい。もし俺がその係に任命された暁には、教室移の際におんぶしたり抱っこしたり、なんなら馬にでもなる。で、ご飯を「あーん」とか言って食べさせてあげたりもする。気分がすぐれない時には、保健室で一緒に添い寢とかもしなければ。《留守先生係》の任務は重大だ。これは俺にしか出來ないだろ。
では、やはりこの《無敵さん係》は、なんとしても固辭しなければ。《留守先生係》に比べ、《無敵さん係》はあまりにも憂鬱だ。鬱病とか、絶対なる。これだけは俺には出來ない。
「面白い? お前、まだ無敵さんと話してないだろ? 知らないと思うから言っておいてやるが、あいつの面倒くささは、バックラッシュして絡まったベイトリールの釣り糸をほどくくらいじゃ済まないぞ」
この係を消滅させる。そう決めた俺は、まずは七谷の切り崩しに取りかかった。みんなが気乗りしないなら、先生も無理強いはするまい。數は力。みんなで斷ればこんな橫暴は実現しないはずだ!
というわけで、俺は七谷へと振り返り、無敵さんの面倒さを、釣りに例えて分かりやすく説明した。
小學生の頃、釣りにはまっていた俺は、買ったばかりの新しいベイトリールが投げる度にバックラッシュ(リールの後ろから糸がモジャモジャと飛び出す狀態)して、泣いた記憶がある。
朝五時から出かけたのに、結局夕方の五時まで糸をほどく作業で終わっちまったからな。ルアーを一度も池に放れないまま帰ったあの日の悔しさを、俺は一生忘れない。
「なにそれ? 菜々、釣りのことなんて知らないし。まぁいいじゃん、オトっちゃん。いざとなったら、ぶん毆って気絶させたらいいんだよ」
なにその短絡的かつ暴で頭の悪い解決法。これも七谷は知らないのかもだけど、脳みそって考えるためにあるんだぜ。
「オトっちゃんて誰だよ? 俺は於菟オトだ。お前の親父になった覚えはねぇ」
「菜々だって、オトっちゃんをおとーさんにした覚えはないよー。でも、同じ年で、の繋がっていないお父さん、かー。もしもそんな人と同居とかしちゃったら、いけない生活始まりそー。きゃははははっ。やば。マジで恥ずかしくなってきた」
「……なにおかしな妄想してんだ、お前は……」
なんだこいつ。なんかどうもおかしいぞ。なんなんだ、このじ? なんか、微妙に話が噛み合っていないような気がするが。こいつ、多分だけど、思考ルーチン的な構造が、本的に俺とは違うんじゃないだろうか? 例えるならば、七谷がiosで俺がAndroid、みたいな。例え同じ結論を導き出しても、途中の演算が全く別、みたいな。……俺、こいつ得意じゃないタイプだなぁ。
「先生。なぜ、私もなのですか? この人選の拠を提示してください」
今度は黒野が噛みついた。冷靜なのが逆に怖い。つい、とメガネのずれを直すその手が、なんか怒りに震えているっぽい気がした。
「はーい。ホズミくんと同様、黒野さんを選んだことにも、もちろん拠がありますよー」
留守先生は、ぱん、と手を合わせると、
「無敵さんの四方を囲む子たちは、特にお友達を大事にするの。先生は、それを知っているのです♪」
そう言って、無邪気に笑って見せたのだった。
「は?」
俺も七谷も黒野も、間抜けな息を吐き出していた。ん? そういや、後藤田ってやつは? それらしい反応を示している人間はいないようだが?
しっかし、何言ってんの、この人? なんでそんなことが分かるんだ? 俺とか、友達なんてもういらねーとか思ってる人なんだぞ。
それに、七谷。
こいつだって、見た目かなり軽そうだ。見かけで判斷するのは良くないと思うけど、「キミのためになら、死んだっていい。キミは、菜々が絶対に守る。ここは、絶対に通さない!」とか言って友達の為に張るとかはまずないだろ。俺だってそこまでしねーし。
……前は、そんなこともあった、けど。
あと、黒野。
下の名前は知らないし知りたくもないし知る必要もないんだけど、こいつだってそんな風には到底見えない。
どっちかっつーと「さぁ、私を守りなさい。あなたたちの代わりなどいくらでもいるけれど、私の代わりは誰にも務まらないのだから」とか言って、人を盾に使いそうだ。
それが、俺の二人に対する第一印象だった。
「さて。では、ホズミくん」
「は? はい」
呆然としていた俺は、留守先生にびしっと指差されていた。そして。
「《無敵さん係》として、最初のお仕事を言い渡します。無敵さんの様子を確認し、大丈夫そうだと思ったら、學校に連れてくること。張り切って頑張って來てくださいね」
「はぁっ!?」
留守先生は、教師としてはあるまじき、あり得ない指示を俺に下したのだった。
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