《豆腐メンタル! 無敵さん》二日目欠席浴中⑩

そして、無敵さんの反論が始まった。

「學校を休んだ? お風呂? 話をそらさないでくださいっ。あたしは、を見られたことについて言っているんですっ」

「はい?」

そうなのだ。反論されたということは、完璧だと思っていた俺の論理が、無敵さんには通らなかったということだ。うっそーん。

ええー? なに、この子? まともな理屈が通用しないタイプなの? 無敵さんが學校を休んだことについても、俺がここに來た最大の理由なのに、軽く脇に置かれちゃってるし。こいつ、やっぱりめんどくせぇー!

ぷくー、と膨らんだ無敵さんの頬を眺める俺の額に、つつーっと汗の伝うがあった。しかして、無敵さんは語り出した。俺の思考回路ではし追いつかないようなことを。

「責任の所在がどうとかより、あたしがを『見られた』ということに対するホズミくんの考えを聞かせてしいの。ほら、自分が悪いわけじゃなくっても、相手に可哀そうなことをしたなぁ、って思う時とか、あるじゃないですか」

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「え? あ、まぁ、それは確かにあるけど。でも、だからって自分が悪くもないのに、謝ったりとかするのは違うだろ?」

「それはもちろんそうです。でも、その場に相応しい適切な言葉が見當たらない時、相手がとても、とってもへこんでいるにも関わらず、『そんなの俺のせいじゃねぇ』とかって、ホズミくんは堂々言えちゃうわけですか?

これが例えばだったりした場合、あたしがこっぴどく振られた原因にホズミくんがいたとしましょう。つまり、あたしが好きで好きでしょうがなくなって、告白までした人が、リアルBLだったことになるわけです。ホズミくんはその人のことをなんとも思っていなかったとしても、それでも事実、あたしは間接的にホズミくんによって路を邪魔されているわけです。

とんでもないの結末です。あたしの心は大変に傷ついているはずです。でも、ホズミくんはそのことを打ち明けたあたしに、『そんなの俺のせいじゃねぇ』と、やっぱり言ってしまうわけですね? ひどいです。鬼畜です。そんなの、人間の皮をかぶった悪魔ですっ」

「いや、ちょっとちょっと。そんなおかしな例えで責められても意味分かんないから。リアルBLとか、その対象が俺だったとか、マジで気持ち悪いから」

なるほど、そう來たか。事実関係から自分の非がないと証明する俺に対し、無敵さんは人道的な視點から攻める気でいるようだ。それにしても、俺の一生に本気で「人間の皮をかぶった悪魔」なんて言われる日が來るとは思わなかった。それも、こんな人間の皮を被った被捕食願持ちの変態に。これ、すげー納得出來ないんですけど。

「意味が分かりませんか? うそです。ホズミくんなら、こんなの絶対分かるはず」

「あー、まぁ、な。でもさ、そんでお前、結局何が言いたいの? 俺にどうさせたいわけ? 俺に出來ることならしてやるが。あ、予め言っとくけど、謝れってのは斷固拒否するけどな」

なんかもう本當にめんどくさっ。このままじゃあ、一向に本題にれない。そう考えた俺は、無敵さんの意向を探ることにした。それを葉えてあげれば、こんなわけの分からない會話も打ち切れるはずだし。これが一番手っ取り早い。と、思ったのだが。

「謝ってしいなんて言いませんけど……」

「けど?」

違うのかよ。じゃあ、どうすりゃいいんだよ。もうイライラしてきた。

「ホ、ホズミくんって、見かけによらず、ど、鈍、なんだね」

「悪かったな。でもな、人は見かけじゃ分からないもんなんだ。勉強になっただろ? だから、これで良しとしないか?」

「で、出來ませんよっ。いいですか、ホズミくん? の子がを見せるのって、ほんっとーに、大事な人にだけ、なんだからっ」

「あー、それはそれは。俺が大事な人じゃなくって重ねがさね悪かったな。はいはい、どうもごめんなさいっと」

俺は投げやりになっていた。どこにこのやりを投げようかと部屋を見回してしまうくらいに。もー、って、どうしてこうも面倒なの? いや、そんな風に思ってしまったら、に失してしまう。こんなのこいつだけだ。そう決めた。

「本當に、悪いって、お、思って、る、の?」

「は? あ、ああ。て、ちょっと」

急に聲が近くなり、驚いて顔を前に向けると、無敵さんが至近距離にまで接近していた。人にはそれぞれ他人に侵されたくないパーソナルスペースというものが存在する。俺の場合、一メートル以に近付かれると不快になる。

が、無敵さんは俺のそれをやすやすと越えていた。俺の視界いっぱいを、無敵さんの顔が占めている。真っ赤な、無敵フェイスが。しかも、瞳が、また大きく開かれている。きらっきらの、きれいな瞳が!

ちかっ! 近いかわいいい! おいおいおい、近すぎるだろ、それ! その距離、人同士じゃないとあり得ないぞ、多分! ぐああ、また心臓がどっきんどっきんし始めたぁ!

「おおお、思ってる思ってる。無敵さんの將來の彼氏に申し訳ないことをしたとか、俺、マジで思ってるから」

俺は慌てて顔を背け、全然思ってもいないことをそれらしく言っていた。こんな時に重寶する俺の特殊スキル《噓八百》の発だ。

だいたい、將來彼氏になるヤツより先に、その子のを見たことあるってのは、正直言ってかなり優越あるだろ。でも、そういうのって、普通、馴染で小さい頃、良く一緒にお風呂にってたとかいう設定だよね。こんなシャレにならない年齢でそうなるのって、相當荒んだ生活を送ってる子しかいないんじゃないのかな? こんなことって、まずないし。

「はっ。そ、そういえばそうかも。あたしがもし誰かと付き合ったとして、もしそういうコトをする事態に陥った時、『お前の初めての男は、俺だよな?』って聞かれても、どう答えていいのか困るですっ」

「今気付いたのかよ、お前」

しまった。余計なことを言ってしまった。俺は「ち」と小さく舌打ちした。

それにしても、いちいちリアルな妄想をするやつだ。將來は是非クリエイティブな職業に就いてしい。出來ればラノベとか書いて、多くの青年たちに夢と希の捌け口を與えてくれ。俺も含めてだけどな。

「で、でも」

真っ青になり、もの凄く困った顔をしていた無敵さんだったが、數瞬後には再びれたトマトのようなに頬を染めていた。なんか激しくもじもじともしている。

「ん?」

何を言い出すのかと構えた俺の判斷はやはり正しかった。次の一言を無防備に聞いていたら、俺は「神反応微弱! 自我境界線が崩壊を始めています!」とか、オペレーターにばれることになっただろう。いや、エヴァには乗ったことないんだけど。當然。

そして、吐息がかかるほどの距離で、無敵さんはその言葉を発した。

「も、もし、それがホズミくん、だったなら……。その問題は、解決、します」

「は? それって、その將來の彼氏が……?」

俺は自分を指差した。無敵さんは、こくんと小さく頷いた。

「はぁぁぁぁぁ!?」

した。そりゃ絶だってしちゃうだろ! 何を言い出しやがってるんですか、こいつはぁ! ただでさえバスタオル一枚なんて姿でへの興味が絶頂期にある高校生男子(なりたて)の目の前にいるヤツが、そんなめいたことを言うなんて! それは俺に「おいしく。た・べ・て☆」ってお願いしているのと同義だぞ!

いや、でも、もしそうなっても俺は我慢が出來るはず。ここは無敵さんが一人暮らしをする部屋で、邪魔する人は誰もいないし、絶好の環境ではあるけれど。告白がこういう狀況では、デートを何回かしてからキスするとか、そんな順番は飛ばしてしまっても仕方が無いもんな。

いやいや、仕方が無いってどういうこと? やる気マンマンじゃない、これ? おい、頑張れ、俺の理よ!

む、無敵さんなんて、普通にしてたら地味だし目なんか漢字の一だし、おっぱいの形もいいし、スタイルなんて俺の部屋に飾ってあるフィギュアにも負けないくらいにいいけども。俺、あのフィギュア、何度もぺろぺろしているけども。

ぜんっ、ぜん! 我慢出來る気がしねぇ! ダメじゃん、俺! もう全くダメな子じゃーん!

俺の中の《必殺技ゲージ(的興メーターとも言う)》が満タンを一瞬で突き抜けた時、無敵さんはまたしても衝撃的な一言を言い放った。

「でも、もう一つ問題があるんです。それはね、あたしが、ホズミくんのこと、なんとも思ってないことなんですよねぇ」

無敵さんは頬を押さえると、「ほぅ」と小さく嘆息した。

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