《豆腐メンタル! 無敵さん》二日目欠席浴中⑪

「ふぎゃあぁぁぁぁ!」

思わず尾を踏まれたネコみたいな聲が出た。もんどりうってテーブルに倒れ込んだ俺は、紅茶やクッキーを盛大に頭からかぶりまくった。一気にK.O.ゲージがゼロになる。「You Lose」なんてアナウンスも脳に流れている。

「あああ。何をしてるんですか、ホズミくん。せっかくのお茶が、もったいない。クッキーとか紅茶って、頭からかぶるものじゃないんですよ? 知ってる?」

「知っとるわ、んなこと! お前は人をどんだけバカにしてんだよ! そろそろマジで殺意が芽生えてきたぞ、俺ぇ!」

俺はがばっと跳ね起き反論した。もう顔真っ赤。熱いーっ!

きゃわわわわ。俺、超絶派手に一人相撲取ってたじゃん。俺だけがどきどきしてたとか、こんなに恥ずかしい経験したことないぞ。これ、絶対一生殘るトラウマだろ。思いだすたび悶絶するのは確実。寢る前とかだと自殺する危険すらある。しばらくは自分を布団ごと縛って寢よう。衝的に飛び降りたりするかも知れないし。そんなとこを誰かに見られたりしたら縛趣味の変態野郎だと思われるかも知れないが、命には代えられん。

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「それですよ、ホズミくん」

「え?」

恥ずかしさを怒りに変換してんだ俺を、無敵さんが凜とした表で指差した。

「それってなに?」

「ですから、殺意があるんですよね?」

「あ? ああ、まぁな」

俺は首肯した。本気で人を殺したいなんて思ったことないし、今回も「出來るわけないけど」ってのが「殺意がある」の前に隠れているけれども。そんなの當たり前だろ、常考。だが、無敵さんにそんなのは通用しないらしかった。

「そうなると、あたしとホズミくんの思いは一つ。もう何の問題もありません。ノープロブレムであると言いたいです」

「いや、それはお前にとってでしかないという予がして仕方がないけど。まぁ、試しにどういうことか言ってみろよ。聞くだけは聞いてやる」

「こほん。つまりですね、ホズミくんはあたしを殺したいわけですよ。で、あたしはお見苦しいを見られたので死んじゃいたい。誤解しないでしいのは、あたしはを見られて恥ずかしいとかじゃなく、ホズミくんに酷いものを見せてしまい迷をかけたことが死ぬほど申し訳ないのです」

「ふーん。で?」

もう分かった。お前が何を言いたいのかは、もう完全に予想出來た。でも、そんなアホなことを本気で言うわけがない。そうじゃないと信じたいので、その先も聞かせてもらう。でも、やっぱり裏切られちゃうわけだよなー。

「なので、ホズミくんにあたしを殺してもらえれば、お互い希が葉ってビーハッピー、ということです」

「……お前、バカなの? なにそれ本気で言ってるの? さっき俺に鈍って言ったのはこのことか? 殺してしいの気付かないとか、それは鈍とは言わねぇぞ。ただ俺が常識的なだけだろが。ただ、事故とはいえ、確かに俺は、お前のを見てしまって申し訳ないとは思っている。でもな。そんな俺の良心につけこんで、お前はそんな途轍もない要求をするのか? そりゃあ、どころか素顔を見られただけで死ななきゃならないような國もあるらしいけど、ここは日本で俺はもちろん日本人だ。法律的にも道義的にも、それは完全に間違ってる。そうだろ?」

先にも罪と罰についてれたが、これは完全につり合いが取れていない。お前は俺か? 人から見ると、もしかして俺ってこんなヤツなのか?

「ダメですか?」

「無論だ」

俺はにべもなく肯定した。無敵さんの目さえ線になってくれていれば、俺は冷靜冷徹に対処出來るようだ。なんだこれかっこ悪っ。

「ふふん。じゃあ、あたしは昨日寢ずに考えた、新しい自殺の方法を実踐してみるまでです。誰にも迷をかけずに済む、ニューセルフキルシステムを」

「……なぜ鼻で笑う? それに、その英語って絶対テキトーだよな? てか、そんな方法を考え付いたなら、まずはそっちでどうにかしろよ。なんで俺に殺させようとするんだ?」

なんだ。これなら海外渡航など無理そうだ。昨日、ほっときゃ良かった。

「え? ……あ、そう言われればそうですね。なんでだろ、あたし。……ホズミくんなら、迷かけてもいいような気がするのかな?」

に指を當てて、そんな可らしいポーズで腹が立つことをさらっと言うなよ。俺なら迷かけていいとか、すげー失禮だと思うんだが」

とは言いつつ、俺はちょっと嬉しさをじたりもしていた。迷をかけてもいい相手って、結構特別な関係じゃない? とか、一瞬思ったからだ。

もしかして、無敵さんって俺の腹違いの妹とかだったりして。いや、ないな。あのアホオヤジ、母さんラブが病気レベルだから。

「それでですね。その、ニューセルフキルシステムのことなんですけど」

「聞けよ、人の話。失禮に失禮を重ねてるぞ、お前。それに、そんなの間違いなく卻下だ。どうせ太平洋の真ん中まで船で行って飛び込めば、サメに食われるんじゃないかとか思ってんだろ? 昨日も言ったが、もしも行方不明になった場合、どの道捜索されるんだ。それから、沿岸からの投自殺も迷過ぎる。もし浜辺にが上がったら、第一発見者が可哀そうだろ? ぶよんぶよんに腐ったお前を、萬が一、子どもとかが見つけてみろ。その子の心に、海より深い傷を作るぞ、きっと」

「あ、ぐぅっ」

むかついたので言いそうなことを全て先回りして潰してやると、無敵さんは苦しそうにき聲を上げた。図星かよ。徹夜までしたとは思えない冴えないアイディアだな、おい。お前、バカだろ。

「あ。じゃあ、ナイアガラの滝に飛び込めば? あそこの滝つぼ、絶対死が上がって來ないらしいですよ?」

それでも無敵さんは挫けない。負けない退かない諦めない。友努力勝利の語で主人公が貫くべき姿勢を無敵さんが持つと、こんなにも殘念なことになるんだな、とかしみじみ思った。これは、手加減無用容赦無しに叩き潰さねばならない。こんな負の連鎖は斷ち切らなければならないのだ。だって、もうこんな不な議論に巻き込まれるのはイヤなんだもぉん!

「卻下。あそこにどんだけの観客が訪れると思ってんだよ。楽しい旅行で見に來た人を、しんみりさせたいのか、お前は? 迷なヤツだな」

「はぐぅ。め、迷っ」

無敵さんががっくりと項垂れた。良し。無敵さんの弱點は完全に把握した。「迷」だ。ちゃらららっちゃっちゃっちゃー♪ 「メイワク」の呪文を覚えた! 俺は無敵さんを封じ込める魔法の呪文を手にれた。どうやらレベルが上がったらしい。MPを消費しない呪文なので、これから存分に多用したい。

昨日と同様の展開に、またしてもしょんぼりとする無敵さん。その姿になからず心が痛んだ俺は、よせばいいのに余計なことを訊いてしまった。

「……なぁ、無敵さん。お前、なんでそんな風なんだ? なんでそんなにオドオドビクビクしてるんだ? 自己紹介くらいで死にそうになるとか、そんなんで今まで良く生きてこられたな?」

そうだ。たかが自己紹介で、あんなに自分自を痛めつけてしまうのなら、學校行事はおろか、授業ですらまともにはけられないんじゃないだろうか? 授業中、指名されるのなんてしょっちゅうだし、人前に出なくちゃならない行事だっていくらでもある。その度にあんな風になっていたら、普通になんて生きられないはずなんだ。

無敵さんは、ゆっくりと顔を上げると、俺を見つめた。じっと瞳を覗きこまれ、俺のが固くなる。勘違いしないでしいのは、固くなったのはであって、特定の部位ではないということだ。真剣な無敵さんの眼差しに曬されては、いくら俺でもそんな反応など起こり得ない。

そして、無敵さんは俺の質問からはちょっとずれたところから答え出した。

「あたしがこうなってから、あんなにハッキリと言いたい事を言ってくれたのって、ホズミくんだけなんです」

「それって俺が空気の読めない人間だって言いたいわけか?」

「あ、いいいええ。そそそそういう意味じゃなくって。だって、そうしてあたしに気を遣って腫れものをるように接してくれていた人たちって、結局、あたしがしてしかったことじゃないわけなので。そういう意味では、ホズミくんはあたしにとって正しい選択をしてくれているんです。だから、空気が読めないどころか、心までも読めているんじゃないかって、そう言ってもいいくらいなんですよ」

正しい、だって? やめろ。俺を正當化するんじゃない。そういうのは、もうたくさんだ。

「いや、心なんて全然読めてねぇし。読みたくもねぇし」

「は、ひ、ふぅ」

「変な聲出すな。産気づいてんのか、お前は」

「え? いえ、こ、心當たりは、ない、です」

「照れるな。真面目にけ取るな。心當たりなんてあったら引くぞ、俺。あと、さっきちょっと言ってたけど、こうなってからっていつのことなんだ?」

「あ。そ、それは……」

「やっぱりいい。今の質問は忘れてくれ。俺はこれ以上お前のことを知りたくない」

俺は腕をクロスさせて拒否を示した。示したんだ。なのに。

かすかに、無敵さんのが震えた。剎那、俺は直する。

コイツは、何か大事な、重大なことを伝えようとしている、と――

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