《豆腐メンタル! 無敵さん》二日目欠席浴中⑫
「……あたし、いらない子、だから……」
「え? なんだって?」
かすれて小さな無敵さんの聲は、うまく聞き取れなかった。でも。でも、こいつ、今、とんでもなく――、とんでもなく、哀しいことを言ったんじゃないのか!?
それだけはじ取れた。ということは、もしかして俺は、今、無意識に無敵さんの言葉を「聞かなかったこと」にした、ってことなのか?
「だから、あたしって、いらない子なの。誰にも必要とされないし、いるとみんなを不幸にしちゃう。だから、あたしはいらない子。いたらダメなの、あたし」
「…………」
聞かなかったことにはできそうにない。無敵さんは力なく笑った。その笑顔は、俺の心を鋭く抉った。別に驚いているわけじゃない。同しているわけでもない。こう言ってしまうと俺がいかに冷たい人間であるかを否応なしに自分自で知るわけだが、そんな余裕を一瞬にして失ってしまったのだから仕方が無い。
聲が出ない。言葉を失う。思考が停止しているのだから當然だ。油斷していた。不覚だった。俺の心は、無敵さんの言葉に激しく強く共鳴してしまっている。
Advertisement
なぜなら。
俺は、”許されない男”なのだから。
他人から排除されているという點で、俺と、無敵さんは、同じ、だ。
そのまますっくと立ち上がり、隣の部屋へと消えてゆく無敵さんの後ろ姿を、俺は黙って見送ることしか出來なかった。
* * *
隣の部屋に消えた無敵さんが戻るのを待たずして、俺はエレベーターに乗り込んでいた。四人乗れば満員になるような狹いエレベーターの中、足元がふわふわとしているような気がして不安になる。俺はエレベーターの冷たい鉄の壁にもたれかかった。俺の神エネルギーはかなり消耗しているらしい。
結局、何も聞けなかった。
學校を休んだ理由も。
自分を「いらない子」とする意味も。
「……ま、聞かない方が正解、か」
俺だって、自分のことを詳しく人に教えたくはない。不快にさせるだろうからだ。同時に同もされるだろう。なにより、俺のくだらない過去の葛藤に巻き込んでしまうことになるかも知れない。それが俺には許せない。
俺が俺の事を語るのは、“俺にとって正しい反応”をしてくれると確信した人間だけになるだろう。また、面倒をかけてもいいと思えるくらいに甘えられる存在でもあるはずだ。
つまり、語ることは無い。俺が他人にそこまで甘えることはない。そもそも“正しい反応”なんて、俺にも分からないのだから。
ぽーん、と一階に到著したことを知らせる音がし、ドアがするすると開いてゆく。
そこには「あ?」と、敵意をむき出しにして、俺を見下す男がいた。「モデルかなにかやってますよね?」と思わず訊いてしまいそうになるような、すらりとした長の男だ。びしっと著こまれた黒いスーツが大人びてはいるものの……、纏う雰囲気は”暴”としか言い様がない男だった。
「誰だ、てめぇ? ここには、無敵さんしか住んでいないはずだ。まさか、てめぇ……」
「え? は? ひ?」
めちゃくちゃ怒ってらっしゃるらしい。拳をぼきぼきと鳴らし、びきびきとこめかみに管を浮き出させたデルモな男に、俺はただうろたえるのみだった。
「ちっ。まさか、こんなことで人を殺すことになるとはな。俺の人生はもう終わった」
デルモ男(今命名した)は、ボキボキボッキンと指やら拳やら肩やら首やらの骨を鳴らすと、ずい、と俺に歩み寄る。デルモ男の背中から、暗黒のオーラが立ち昇っているのがはっきりと視認出來た。
「え? 噓? これ、絶対錯覚だよな? それか手品?」
気圧された俺は、エントランスの壁に背をぶつけた。腐子であれば、ここで《壁ドン》を期待するに違いない。自分で言うのもなんだが、俺とこのデルモ男とであれば、かなりけることだろう。いや、俺はけも攻めもイヤだけど。
「悪いけどよ。今、手持ちの兇が無いからさ。楽に死なせてやれないけど、悪く思うんじゃねぇぞ」
「えええ! 悪いけど悪く思うなって、おかしいでしょ!? そんなの無理だ!」
攻めだのけだのアホなことを考えている場合ではなかった。デルモ男の切れ長の目にはくっきりとした“殺意”があった。それはもう、瞳に《殺》って字が浮かんでいるくらいに。
いかん! 妙な誤解で殺されるなんて死んでもイヤだ! てかこいつ、一どんな想像してやがるんだ!?
「ちょ、ちょっと待ってくれ! 俺はここの四階に引っ越してきた八月一日ほずみって者だ! ここには人が五階にしか住んでないって、そりゃいつのこと言ってんだよ!」
く、くそっ。こいつが無敵さんの関係者である以上、この報は與えたくなかった。が、痛い思いとか、痛いで済まなくてになる事態とかは避けねばならない。俺は斷腸の思いでそれを伝えた。
「ああん? てめぇ、助かりたい一心で噓ついてんじゃねぇだろな? 証拠はあんのかよ?」
うおお。なんて高飛車な男なんだ。ケンカしても必ず勝つって思ってんだろ。どうしてこういうイケメンって、みんな自信に溢れてんの? イケメン限定でそういう薬でも売ってんの? それっていくらで売ってんの? おい、興味津々じゃないか、俺。
「噓じゃないさ。ほら」
俺はポケットから鍵を取り出した。キーホルダーを付け替えるのとか面倒な俺は、まだ大家さんにもらった狀態のままでこの鍵を使っている。薄っぺらいごく普通の鍵には、『4號室』と書かれたプレートがぶら下がっている。
「ふぅん。噓じゃなさそうだな。そんなもん、今用意出來るわけがねぇし、4號室なんて書いてある鍵も珍しい。たいていはどこも各階に何部屋かあるから、2‐1だの3‐2だの書いてあるだろうしな」
デルモ男は結構あっさりと納得した。
「分かってくれて良かったよ。じゃ、俺はこれで」
とにかくここから逃げなければ。學校にも早く戻らなくちゃいけないし。自分の家に戻るだけでえらい大冒険しちまった。俺は無敵さんに関わると早死にするに違いない。次からは『やくそう』をしこたま買うか『ホイミ』の呪文を覚えてから旅立とう。
「おう。んじゃな」
手を軽く上げたデルモ男の後ろで、ぽーんと軽快な音を鳴らしたエレベーターのドアがするすると開いた。めちゃくちゃ嫌な予が俺を撃つ。
「ホズミくんー。攜帯、部屋に落としてましたよー」
「げえぇぇぇぇっ!」
エレベーターから飛び出してきたのは、俺の攜帯を高く掲げた無敵さんだった。なにしてくれちゃってんだよ、俺ぇ! どうしてポッケからお外に出ちゃったの、マイ攜帯ぃ!
「な! なっにぃいぃぃぃいいいぃ!?」
振り返ったデルモ男が、悲鳴にも似た聲を上げて目を見開く。
無敵さんは、いまだバスタオル一枚を巻き付けたかっこうのままだった。その無敵さんが、俺の攜帯を手にして、「部屋に落としてましたよ―、よー、よー……よー……(エコー付き)」と聲高にご説明してくれている。
これで誤解をしないやつなどいるはずがないと斷言出來た。考えるまでもなく、俺はダッシュを開始していた。
「てめぇーっ! 俺を騙してやがったなぁっ!」
デルモ男が先っちょの尖った蹴られると痛そう、てか絶対刺さるような革靴を、ガガガと鳴らして追いすがる。もちろん俺に。返事はしない。てか、出來ない。
無敵さんが聞いている以上「本當です」とは反論出來ない。なぜなら、ここに住んでいることが無敵さんにバレるから。「はい、噓です」とも答えられない。それはデルモ男から完全に“敵”だと認定される答えだからだ。俺の帰る場所に出沒するに違いない、やたらと気が短くてケンカ早い男に、だ。
家にもおちおち帰れなくなるなんて最悪な返答だろう。結局俺は、デルモ男の怒りを軽やかにスルーするしかないのだ。
「ちっくしょう! なんて逃げ足のはええやつだ! チャカ(拳銃)を持ってくりゃよかったぜ!」
「あっ。ホ、ホズミくーん? ……と、水無人みなとくん?」
デルモ男の言い放った「チャカ」のインパクトが強すぎて、俺は無敵さんの呟きに気付けない。とにかく逃げろ。俺の足なら、大概のやつからは逃げられる!
「ちっくしょおー! もう、絶対に無敵さんとなんて関わらねぇーっ!」
俺の魂のびは、本町商店街のアーケードに虛しく木霊していった。
優等生だった子爵令嬢は、戀を知りたい。~六人目の子供ができたので離縁します~(書籍化&コミカライズ)
子爵令嬢のセレスティーヌは、勉強が大好きだった。クラスの令嬢達と戀やお灑落についておしゃべりするよりも、數學の難しい問題を解いている方が好きだった。クラスでは本ばかり読んでいて成績が良く、真面目で優等生。そんなセレスティーヌに、突然人生の転機が訪れる。家庭の事情で、社交界きってのプレイボーイであるブランシェット公爵家の嫡男と結婚する事になってしまったのだ。嫁いですぐに子育てが始まり、最初の十年は大変だった事しか覚えていない。十六歳で公爵家に嫁いで二十年、五人の子供達を育てブランシェット家の後継ぎも無事に決まる。これで育児に一區切りつき、これからは自分の時間を持てると思っていた矢先に事件が起こる――――。六人目の子供が出來たのだ……。セレスティーヌが育てた子供達は、夫の愛人が産んだ子供。これ以上の子育てなんて無理だと思い、セレスティーヌは離縁を決意する。離縁してから始まる、セレスティーヌの新しい人生。戀を知らない令嬢が、知らないうちに戀に落ち戸惑いながらも前に進んでいく····そんなお話。 ◆書籍化&コミカライズが決定しました。 ◆マッグガーデンノベルズ様にて書籍化 ◆イラストは、いちかわはる先生です。 ◆9人のキャラデザを、活動報告にて公開
8 130【書籍化】外れスキル『目覚まし』、実は封印解除の能力でした。落ちこぼれの少年は、眠りからさめた女神達と優しい最強を目指す。【コミカライズ企畫進行中】
サーガフォレスト様より、1巻が6月15日(水)に発売しました! コミカライズ企畫も進行中です! 書籍版タイトルは『神の目覚めのギャラルホルン 〜外れスキル《目覚まし》は、封印解除の能力でした〜』に改めております。 ほか、詳細はページ下から。 14歳のリオンは駆け出しの冒険者。 だが手にしたスキルは、人を起こすしか能がない『目覚まし』という外れスキル。 リオンはギルドでのけ者にされ、いじめを受ける。 妹の病気を治すため、スキルを活かし朝に人を起こす『起こし屋』としてなんとか生計を立てていた。 ある日『目覚まし』の使用回數が10000回を達成する。 するとスキルが進化し、神も精霊も古代遺物も、眠っているものならなんでも目覚めさせる『封印解除』が可能になった。 ――起こしてくれてありがとう! 復活した女神は言う。 ――信徒になるなら、妹さんの病気を治してあげよう。 女神の出した條件は、信徒としての誓いをたてること。 勢いで『優しい最強を目指す』と答えたリオンは、女神の信徒となり、亡き父のような『優しく』『強い』冒険者を目指す。 目覚めた女神、その加護で能力向上。武具に秘められた力を開放。精霊も封印解除する。 さらに一生につき1つだけ與えられると思われていたスキルは、実は神様につき1つ。 つまり神様を何人も目覚めさせれば、無數のスキルを手にできる。 神話の時代から數千年が過ぎ、多くの神々や遺物が眠りについている世界。 ユニークな神様や道具に囲まれて、王都の起こし屋に過ぎなかった少年は彼が思う最強――『優しい最強』を目指す。 ※第3章まで終了しました。 第4章は、8月9日(火)から再開いたします。
8 98ネコと和解せよ〜ネコとカフェ店長の謎めく日常〜
カフェ店長・橋口杏奈。両親からレトロなカフェを受け継ぎ、仕事は順調だった。 一方、戀愛は婚活で知り合った彼氏にもフラれて慘敗中。婚活も興味を失っていた頃、飼い貓のミャーが突然人間の言葉を話はじめた。 ミャーは貓のカタチをとっているがキリスト教の神様に仕える天使だという。隠密に伝道などを手伝ったりしてるらしい。信じられない杏奈だが、色々とミャーの協力する事に。 そんな中、杏奈の住む町で貓が次々と行方不明になり、三毛貓が殺された現場を見てしまった。杏奈と同級生だった牧師・藤也は、この事件は悪魔崇拝儀式だと斷言する。実際、何か隠されているようで警察もろくに調査しない。 殺された貓の飼い主が気の毒になった杏奈は、ミャーや藤也に聖書の知識を教えて貰いながら事件を追っていくが、再び別の事件に巻き込まれ……? 事件解決の手がかりは「神との和解」!? キリスト教豆知識入り☆とっても可愛いコージーミステリ開幕。※ノベルディズに掲載中です。
8 108クリフエッジシリーズ第一部:「士官候補生コリングウッド」
第1回HJネット小説大賞1次通過‼️ 第2回モーニングスター大賞 1次社長賞受賞作! 人類が宇宙に進出して約五千年。 三度の大動亂を経て、人類世界は統一政體を失い、銀河に點在するだけの存在となった。 地球より數千光年離れたペルセウス腕を舞臺に、後に”クリフエッジ(崖っぷち)”と呼ばれるクリフォード・カスバート・コリングウッドの士官候補生時代の物語。 アルビオン王國軍士官候補生クリフォード・カスバート・コリングウッドは哨戒任務を主とするスループ艦、ブルーベル34號に配屬された。 士官學校時代とは異なる生活に悩みながらも、士官となるべく努力する。 そんな中、ブルーベルにトリビューン星系で行方不明になった商船の捜索任務が與えられた。 當初、ただの遭難だと思われていたが、トリビューン星系には宿敵ゾンファ共和國の影があった。 敵の強力な通商破壊艦に対し、戦闘艦としては最小であるスループ艦が挑む。 そして、陸兵でもないブルーベルの乗組員が敵基地への潛入作戦を強行する。 若きクリフォードは初めての実戦を経験し、成長していく……。 ―――― 登場人物 ・クリフォード・カスバート・コリングウッド:士官候補生、19歳 ・エルマー・マイヤーズ:スループ艦ブルーベル34艦長、少佐、28歳 ・アナベラ・グレシャム:同副長、大尉、26歳 ・ブランドン・デンゼル:同航法長、大尉、27歳 ・オルガ・ロートン:同戦術士、大尉、28歳 ・フィラーナ・クイン:同情報士、中尉、24歳 ・デリック・トンプソン:同機関長、機関大尉、39歳 ・バーナード・ホプキンス:同軍醫、軍醫大尉、35歳 ・ナディア・ニコール:同士官 中尉、23歳 ・サミュエル・ラングフォード:同先任士官候補生、20歳 ・トバイアス・ダットン:同掌帆長、上級兵曹長、42歳 ・グロリア・グレン:同掌砲長、兵曹長、37歳 ・トーマス・ダンパー:同先任機関士、兵曹長、35歳 ・アメリア・アンヴィル:同操舵長、兵曹長、35歳 ・テッド・パーマー:同掌砲手 二等兵曹、31歳 ・ヘーゼル・ジェンキンズ:同掌砲手 三等兵曹、26歳 ・ワン・リー:ゾンファ共和國軍 武裝商船P-331船長 ・グァン・フェン:同一等航法士 ・チャン・ウェンテェン:同甲板長 ・カオ・ルーリン:ゾンファ共和國軍準將、私掠船用拠點クーロンベースの司令
8 113転生王子は何をする?
女性に全く縁がなく、とある趣味をこじらせた主人公。そんな彼は転生し、いったい何を成すのだろうか? ただ今連載中の、『外れスキルのお陰で最強へ 〜戦闘スキル皆無!?どうやって魔王を倒せと!?〜』も併せて、よろしくお願いします。
8 128高校生は蛇になる
退屈な日常に耐えきれず自殺した高校生。 だがその高校生の魂は異世界で目覚める……。 しかし自分の體は蛇になっていた!? 意図せずして蛇になった高校生は、衝撃的な再會を果たし、出會いと別れを繰り返して、より強く成り上がっていく。
8 51