《豆腐メンタル! 無敵さん》阿久戸志連宣戦布告⑤
「結論から言えば、號令は必要です」
無敵さんはそう斷言するところから切り出した。宗像は「ふむ」と頷き先を促す。こう來るのは予想出來ていたようだ。まずは“否定”ありきの連中の頭を砕きにかかる。それが無敵さんの戦略らしい。特に反論もないことを確認した無敵さんは、先を続けた。
「始業前後の挨拶は、號令によって行われる。これが無くなれば、日本は日本でなくなります。これは、それくらいに大事なことなんです」
しかも、話がでかかった。
「はっ。『日本が日本で無くなる』だと? これは大きく出たな、無敵さん」
そう思ったのは俺だけじゃなかったようで、宗像なんかは思い切り鼻で笑っていた。しかし、無敵さんも負けてはいない。
「大きくも小さくもありません。なにしろ事実なんですから」
小さな反論の芽も、真っ向から踏み潰す。この言葉に、そんな意味を込めたんだろうか? だとすれば、今の無敵さんは俺の知る無敵さんじゃあなくなってる。やはり『セリカ』だ。真似でも偽でもない、本のセリカが語っていると俺はじた。
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「理由はいくつかありますけど、まずは一つ」
無敵さんは片手を挙げると、ぴんと人差し指を立てた。
「號令とは“教育の手始め”であるということ」
「どういう意味だ?」
すかさず宗像が飛び付いた。「この指とーまれっ」みたいに、指に飛びついたわけじゃないけどな。
「全ての理由を貫くキーワードは、“共通認識”です。學校での號令とは、國民全員が知る掛け聲です。どんなに歳をとっても、この號令の意味は忘れませんし、その通りにけます。つまり、日本に住む人全員が、號令を“教育”されているということです」
「だからどうした? それが無くなっても、日本人は日本人のままだろう?」
「慌てないでください、宗像くん。そういうの、モテませんよ」
「なにぃ?」
かっと宗像の顔が赤くなる。これは怒りによるものだろう。
無敵さんが、挑発した? こ、こんなの、俺の無敵さんじゃないっ! まぁ、最初から俺のじゃないし、くれるって言われてもいらないけどなっ!
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「號令の目的は、教えてくれる者に対する謝の念を表すと同時に、集団行において重要な“規律”を叩き込むための手始めです。教師を始めとする指導者が、集団をりやすくする為の“規律”を、ここで“刷り込んで”いくんです」
「なっ! それ見ろ! そんなの“人民統制”ではないか!」
宗像が機をばんと叩きつけた。
「違います。それはこれから説明します」
それを無敵さんが冷靜にけ流す。みんなの緩んだ顔が引き締まり、張が一気に増した。
「そして、二つ目。教育とは、“國家百年の計”であるということ」
無敵さんが中指をばした。ピースしているわけではない。ちなみに俺は子のピースって大好きだ。
「日本の學校でしかやらないことは、號令以外にもあります。例えば掃除。海外では、學校の掃除って清掃業者がやるものなんです。ヨーロッパの國々では、學校とは元々貴族が通うものでしたから、當然だとも言えますけど」
「へー。そうなんだー」
七谷が「ほえー」と唸って両手を組んだ。どうやら憧れているらしい。掃除が嫌いってことなのか? それとも貴族になりたいの? 頭くるくる巻きにした。
「これは學校というものに対する西洋と東洋の考え方の違いからくるものです。西洋では、學校は“學問を學ぶ場所”。東洋では“生き方を學ぶ場所”。経験したことないですか? 掃除を真面目にやらない男子に腹が立って、注意したこととか」
「あるわー」
と、留守先生が激しく何度も頷いた。學生時代、男子にきゃんきゃんと噛みついている留守先生の姿が容易に思い浮かんだ。てか、現在進行形でありそうだった。
「ないな」
と、黒野が顎に手をやった。
「掃除など、いつも私が男子にさせていたからな。子はその橫で楽しくお喋りするのが、私のいたクラスでは普通だった」
「……お前のいたクラスでは、だろ」
俺は黒野にジト目を向けた。ここではそんな橫暴通させねぇぞ、黒野。
「海外では、部活というものもあまり盛んではありません。授業が終わればすぐ帰る。掃除も部活もなんにもない。これが海外の“學校”です。もちろん、全部がそうではないですけど」
そこまで聞いたみんなは、
「いいなー、海外の學校」
「でも、なんかそっけないじするね」
などと話しだした。うーん、俺はどうだろう? どっちかというと、海外の學校の方が合ってそうだけど。
「そこまでは分かった。で、何が言いたいんだ、無敵さん?」
焦れてきたのか、宗像が聲を荒げてそう訊ねた。
「つまり、日本の學校は“特殊”だということです」
「“特殊”……?」
俺は思わず鸚鵡返しに呟いていた。
「各教科の知識だけを與えるのが目的なのであれば、海外のようにすればいいんです。でも、日本はそうしない。なぜなら、學校はそれだけを教える場所ではないからです」
無敵さんは留守先生にその細い目を向けた。留守先生は、こくりと力強く頷いた。
「學校で勉強することは、數學や英語だけじゃないんです。禮儀禮節、協調、調和、正義と悪。そして友に努力と勝利。學校は、それら全てが學べる場所。いえ、學ばせる場所。日本は、そう考えているんです」
最後の友と努力と勝利はジャンプ読めば學べそうだけど。むしろ、ジャンプさえ読んでいれば良さそうだけど。
「人が一人では出來ない何かを行う時。必ず誰かの力が、協力が必要になってきます。その時、人と人とを繋ぐもの。それが“共通認識”です。それは號令であり掃除であり給食の配膳であったり朝禮での整列であったり運會での行進であったり、部活だったりするんです。
共通認識は、多ければ多いほどいいんです。學校は、今現在そこにいる生徒たちのみならず、すでに卒業した人々とも意識を共有出來る場所。だから號令がいるんです。“手始め”となる號令がいるんです」
熱弁する無敵さんに、一人の子がぽつりと言った。
「……そういえば私、小學校の頃、海外に住んでたけど……。日本の學校ほどの“連帯”ってなかったな……。帰って來たばかりの頃は、そういうのって異質に映ったもんだけど」
そして「へへっ」と笑った。
それに力を得た無敵さんがとどめとばかりに語り出す。
「巨大な災害時、日本は“奇跡の國”と海外から賞賛されました。それは危機的狀況下にあっても、暴やパニックを起こすことなく、みんなが理的に行したからです。こんなことは日本でしかあり得ません。なぜか?
これは“教育”によるものだと思います。善悪の判斷や価値観が、“共通認識”として刷り込まれていたからなんです。宗像くんが『人民統制』だと言った刷り込みは、いい方向に働いた。それは刷り込みと同時に、個人としての判斷基準も教育されているからです。報が公開されているからです。集団としての考え方と、個人としての価値観を、見事に調和させているからです。家庭で子どもにそれを教える大人も、やっぱり學校で”勉強以外のこと”を教育されていたからです。
あの奇跡の始めには、連綿と紡がれてきた『始業終業終禮の號令による挨拶』があるんです。だから號令は必要です。これまでも、これからも! 日本が、日本である為に!」
しーんと靜まり返った教室に、言い切った無敵さんの「はぁ、はぁ」という息遣いだけが響いていた。俺はただただ「言い切りやがったよ、こいつ」と心していた。
これ、こいつの個人的な考えなのか? それとも、誰かの……?
【書籍化/コミカライズ決定】婚約破棄された無表情令嬢が幸せになるまで〜勤務先の天然たらし騎士団長様がとろっとろに甘やかして溺愛してくるのですが!?〜
★書籍化★コミカライズ★決定しました! ありがとうございます! 「セリス、お前との婚約を破棄したい。その冷たい目に耐えられないんだ」 『絶対記憶能力』を持つセリスは昔から表情が乏しいせいで、美しいアイスブルーの瞳は冷たく見られがちだった。 そんな伯爵令嬢セリス・シュトラールは、ある日婚約者のギルバートに婚約の破棄を告げられる。挙句、義妹のアーチェスを新たな婚約者として迎え入れるという。 その結果、體裁が悪いからとセリスは実家の伯爵家を追い出され、第四騎士団──通稱『騎士団の墓場』の寄宿舎で下働きをすることになった。 第四騎士団は他の騎士団で問題を起こしたものの集まりで、その中でも騎士団長ジェド・ジルベスターは『冷酷殘忍』だと有名らしいのだが。 「私は自分の目で見たものしか信じませんわ」 ──セリスは偏見を持たない女性だった。 だというのに、ギルバートの思惑により、セリスは悪い噂を流されてしまう。しかし騎士団長のジェドも『自分の目で見たものしか信じない質』らしく……? そんな二人が惹かれ合うのは必然で、ジェドが天然たらしと世話好きを発動して、セリスを貓可愛がりするのが日常化し──。 「照れてるのか? 可愛い奴」「!?」 「ほら、あーんしてやるから口開けな」「……っ!?」 団員ともすぐに打ち明け、楽しい日々を過ごすセリス。時折記憶力が良過ぎることを指摘されながらも、數少ない特技だとあっけらかんに言うが、それは類稀なる才能だった。 一方で婚約破棄をしたギルバートのアーチェスへの態度は、どんどん冷たくなっていき……? 無表情だが心優しいセリスを、天然たらしの世話好きの騎士団長──ジェドがとろとろと甘やかしていく溺愛の物語である。 ◇◇◇ 短編は日間総合ランキング1位 連載版は日間総合ランキング3位 ありがとうございます! 短編版は六話の途中辺りまでになりますが、それまでも加筆がありますので、良ければ冒頭からお読みください。 ※爵位に関して作品獨自のものがあります。ご都合主義もありますのでゆるい気持ちでご覧ください。 ザマァありますが、基本は甘々だったりほのぼのです。 ★レーベル様や発売日に関しては開示許可がで次第ご報告させていただきます。
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