《學園一のお嬢様が風呂無しボロアパートに引越してきたんだが》第十四話 今日は二人きり……だねっ!
志賀郷のノーガードな寢顔から一日が始まり慌ただしく時が流れていき、今は放課後。
この日は自宅最寄りの駅で志賀郷と別れ、俺は一人でとある場所に向かっていた。
駅前の繁華街を抜けてから徒歩五分。郊外漂う幹線道路を進んでいくと一軒のコンビニが見えてくる。ここが俺のバイト先なのだ。
「いらっしゃいま――あ、狹山くんおはよう〜」
「おはようございます、石神井しゃくじい先輩」
店にるなり、俺に営業スマイルではない天然スマイルを向けてきたのは、バイト先の先輩である石神井心夏ここなさんだ。客のりがなくて暇なのか、カウンター越しから手を振ってくれている。可い。
「そういえば今日、秋穂ちゃんは休みになってたけど狹山くん知ってる?」
「え、四谷は今日來ないんですか?」
この店は基本的にアルバイト三名の制でいている。今日は俺と先輩と四谷のシフトだったのだが、一人欠けるとなると……仕事が増えて忙しくなりそうだな。
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「家の用事があるらしくて來れないって連絡があったんだよ」
「マジすか……」
「だから今日は私と二人きりだね。……えへへ」
自分で言ったくせに恥ずかしくなったのか、先輩は照れながら微笑んだ。この人は天然な格らしく、捉え方によっては勘違いしてしまうような発言をよくするのだ。おまけにいつも天使のようなニコニコ笑顔を振りまいてくるので、先輩と出會った當初は「もしかして俺に気があるんじゃ……」等と思い違いをすることもしばしばあった。
しかし先輩の型は小柄でく、まるで中學生のような見た目をしているので、対象というよりは我が子を暖かく見守る親のような心に近い。以前、四谷が石神井先輩のことを『歩くアロマ』と例えていたが、あれは中々的を得ていると思う。要するに先輩はこのコンビニの癒やしキャラなのだ。
「あんまりからかわないでくださいよ。俺は平気ですけど調子に乗る男もいますから。言い方には気を付けてくださいね」
特に一部のロリコン――イケメンの馬鹿田端には要注意だ。あいつは危険すぎる。
「もう、私だって人を選んでるし大丈夫だよ? それに、私が困ったら狹山くんはきっと助けてくれると思うもん」
「あの、先輩…………そういうとこですよ」
これも無自覚で言ってるのだから石神井先輩は恐ろしい。でももしかしたら本當に俺の事が……? って考えるのはやめよう。俺まで田端みたいな人間になってしまう。
俺は苦笑いを浮かべつつ、カウンターの奧にある事務所にっていった。
◆
「暇だねぇ……」
「ですね……」
業務開始から約二時間。今日は客足が全くびず、品出し等の仕事は既に終えてしまった為することが無いのである。
俺と石神井先輩はそれぞれのレジの前に立ってぼんやりと店を見つめていた。
「フェイスアップする……?」
「さっきしたばっかですよ。全部綺麗に整えました」
「だよねぇ……。じゃあCG(※)切っておく?」
「お客さんが來ないから切れるお金が無いですよ」
ガラガラとレジのドロアーを開ける。中は適量だ。一萬円札も全て金庫にれたし完璧である。
「……暇だし、狹山くんに質問してもいい?」
「え、別に構わないですけど」
振り向けば、悪戯気に笑う石神井先輩がいた。
「狹山くんって昨日とか一昨日辺りに……彼できたりした?」
「え、えぇ!?」
まさか俺と志賀郷が一緒にいる姿を見たのだろうか。それとも四谷が噓八百の報を流したか……。いずれにせよ面倒な事態である。
「……どうしてそう思ったんですか?」
「だって今日の狹山くん、なんだか楽しそうな顔をしてるんだもん。今までよりも何て言うか……リア充してるってじ?」
「そうですか。でも殘念ですが、俺は未だに非リアですけどね」
自嘲気味に笑う。どうやら石神井先輩は俺の表だけで判斷していたようだ。しかし俺は今日も普段通りの仕事をしたつもりだし、浮かれたような態度をとった覚えも無いのだが……。
「うーん。私の読みは外れちゃったのかなー。でもさ、私に何か隠してる事はあるでしょ?」
「いや、隠し事なんて無いっすよ」
「狹山くん。君はいま噓をついてる顔をしているね。あからさまに目を逸らしたし」
お互いの制服がれ合うぐらいまで距離を詰めた石神井先輩が真っ直ぐ立てた人差し指を俺の頬に當ててくる。細くて小さな指だな……じゃなくて。俺の細かくて小さな癖まで知してる石神井先輩からは逃れられないようだ。
「……黙権を行使します」
「そんな権利は狹山くんに無いのだよ」
「ですよねー」
見た目こそ中學生だが、石神井先輩は俺より一つ年上だし、バイト歴も長い上司だ。歩くアロマとはいえ、闇雲に逆らえない存在なのである。
「さあさあお姉さんである私に話してみなさいな」
「はぁ、こういう時に客が來ないのは何故ですかね……」
逆に休みたい時に限ってレジに行列が出來たりするんだよな。
俺は小さく溜め息をついてから、志賀郷との厄介な関係について話すことにした。
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※Cash Guardの略。大量の現金をレジに保管する必要は無いため、一定金額に達するとレジから回収するようにお知らせしてくれるのだ。諭吉様はできるだけ早くお家(金庫)に帰してあげよう!
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