《彼たちを守るために俺は死ぬことにした》5/19(火) 穂積音和①

「おえ……」

目覚ましは7時をさしていた。

やっべえ、隣の人起こさないとまた怒られる……。

起き上がろうとするが、強烈な吐き気と頭痛でうまくが起こせない。もともと偏頭痛持ちだが、最近またひどくなっている。

が睡眠を求めて、俺をベッドに縛り付ける。

「ぐう」

の聲に従って二度寢を貪ろうとするが、調の悪さに目は冴えるばかり。

手をばしてチェストの戸を開け、薬を取り出して枕元の水で飲み込み、臺風のような癥狀が治まるのをただひたすら待つ。薬は看護師をしている穂積のおじさんがくれたものだ。

「ちゃんと病院に行けよ」といつも言ってくれているが、行くヒマがない。

そろそろちゃんと行こう……。と、頭痛が起きたらいつも思う。そして治ったらケロっと忘れる。悲しいけれど、人間なんてそんないい加減なものだ。業なのだ。

そんなことを考えながら、割れそうな頭に冷卻シートをりつけ、時が過ぎるのをひたすらと待ち耐えた。

30分後、まだ痛む頭をさすりながら音和の家のドアを叩いた。

「おー! とー!(怒)」

「おや。知くんおはよう」

聲がした庭をのぞくと、軍手をはめてタオルを首にかけたパジャマの男が見えた。朝から草むしり中のおじさんだ。

趣味が庭の手れなのか、そこまで大きな庭ではないのにもかかわらず、休みの日の朝はいつも庭で作業をしている。

「おじさん、はよっす……。音和はまだ寢てるんですか?」

「んん?」

おじさんは立ち上がり、一度腰をばした。

「いや、今日は委員會があると言って早くに學校に行ったが」

「はああああ!? っつ……」

やべえ。大聲出すとまだ頭に響くな……。つか、なんだよあいつ。今日委員會ねーし……。

「音和がまたスネたのかな? すまんね知くん。甘やかしてきたばっかりに」

申し訳なさそうに頭を下げられた。

そのおじさんの言葉で一気にが熱くなって目が覚めた。

ああーそうだ。昨日、音和に告白されたんだ。

「どしたんだい? 顔が赤いが。今日も調がよくないのかい?」

目ざとく俺の顔を観察するおじさんに、どぎまぎしながら答える。

「あ、いやこれは……」

「薬は飲んだかな」

「今朝、飲みました」

「そうか。あんまり長引くようなら、帰りに検査しに來なさいね」

まっとうなことを言われて気まずい。

ぺこりと頭を下げると、俺はそそくさと穂積家を撤退した。

さて、俺は音和に避けられたわけだ。やっぱり顔合わせづらいよな……。

いつも引っ付いてきた音和がいないのは寂しいし、結構ショックだった。あいつまた泣いてないだろうな。元気がないのをいいことに、変な男にたぶらかさないだろうか。

……ああ、ちくしょう、心配になって來たじゃねーか!

┛┛┛

「ねー音和チャン。今日はひとりってめずらしーネ!」

悪い予は的中するものだ。學校についてすぐ、校門のところで音和を発見したはいいけれど、さっそく悪い蟲もついていた。

「……別にいつも知ちゃんと一緒なわけじゃない」

「ふーん? じゃあ今日は俺と學校サボッてさ。イ・イ・コ・ト、しないっ?」

「「キモいわ!!」」

聲が重なったことに驚いて、パッと振り返った音和と目が合う。俺は構わず音和の前に立ち、男を引き離した。

男は俺の顔を見ると、なぜか可笑しそうに吹き出し、降參とばかりに手を挙げた。

「よう」

「今日は早いのな、野中」

どうやら野中が相手をしていてくれたようだ。良かった。からかわれていた音和は機嫌が悪そうだけど。

「んー、ちょっとな。気分悪いからサボるけど」

「まだ始業もしてないじゃん」

「つかなっちゃんは過保護すぎ。アホになんぞこいつ」

野中の手がび、俺の後ろから顔を出していた音和の頭を暴にかきした。

音和はその腕にしがみついて抵抗しているが、まるでダメージを與えられていない。

「自立しろよお姫」

「うっ……さ、い! アホでも……、ない!」

はは、力ねえなあ。

「んじゃまたなー。してるよなっちゃん、擔任によろ」

満足したらしく音和を俺に押し付けると、登校している生徒の波に逆らいながら野中は坂を下っていった。

「なにしに學校に來たんだよあいつ、なあ?」

と、音和を見ると、俺の片腕の中にすっぽりと収まったまま、黙っていた。

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