《彼たちを守るために俺は死ぬことにした》5/22(金) 小鳥遊 知実①

午前中、なぜか両親が揃って病院に來て、呼ばれた診察室に向かった。親と一緒に並ぶなぞ、三者面談のようで気恥ずかしい。いや、三者面談どころじゃない、今日は父までいるもんな。

ノックして部屋にると、醫が丸イスに腰掛けてカルテを眺めているところだった。

部屋に一腳ぽつんと余っていた丸イスに、両親に勧められて座る。

そんな俺を一瞥してから、醫師は何も言わずに機に備え付けてある蛍燈を埋め込んだような壁に、封筒からレントゲン寫真を出して慣れた手つきでり付けていく。

俺たちはられていく寫真に釘付けになった。

レントゲンなんて初心者が見てもさっぱりわからない。そう思ってたのに。

初心者が見ても分かる異が脳のレントゲンの中に見けられて、心臓がばくばくと脈打った。

全てり終わった醫師は腰をひねり、俺たちを正面にした。青白い顔に赤いルージュが際立つ人さんで、年齢もわりと若そうだ。

「初めまして。擔當の原みはらです。今後ともよろしく」

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ピンと張った背筋にデキるの風格をじる。……けど、なんだかしうさんくさい気が……??

「どうも」

「さっそくだけど、頭痛はずっとあったんだって?」

「偏頭痛がわりと……いや、たまに? あ、しばしばかな」

「えてしてどうなのよ」

「そっすねえ……分かりやすくいうと、マリカーの後続集団にいる際に、赤甲羅引くくらいの確率では頭痛かったすね」

「……」

「それくらい頻繁にってことでぶしっっ!?!?」

背中に後ろから父親にどつかれて大きくえづく。

「おい、ふざけていい場面かどうか見極めろ!」

「エーン、だってなんかしめっぽくて気持ち悪いんだよ~」

軽口でも叩いていないと、震えてしまいそうだった。両親を呼ばれるこの狀況が、ただごとじゃないって分かんないわけないだろ。

「……はあ、まったく。くだらないところはお子サマね」

原先生は鼻で笑った。

「茶々はね、人を笑わせるためにれるのよ。覚えておきなさい年。……とりあえずコレ、見てちょうだい」

んっ手厳しくね!? 俺が中學生だったら泣いてたぞ!!!!!

原先生は涙目で睨む俺を無視し、短めの指示棒をポケットから抜き出しレントゲンを指した。

そのレントゲンを見て、つまらない怒りはすぐに吹き飛ぶ。

それは最初から気になっていた、頭の寫真。脳の中の大きな黒い影にぴたりと棒の先端をくっつけた。

「ちょっとここ。あまり良くない腫瘍ができてるのよね……つか、こんなになるまでなんで我慢できるのよ。病院來なさいよ!」

今度は原先生が俺を睨む番だった。

いや……。穂積のおじさんにもらったポンタール飲んで抑えてたからかな。でもそれはきっとおじさん的にあまり良くないことなのだろうから黙っておこう。

「先生、良くない、というのは言葉のあやですか?」

俺の後ろに立っていた父親が尋ねた。それは確かに父親の聲だったが、いつもより低く、聲に張りがなかった。原先生はレントゲンをまじまじと見つめてから、父親を見た。

「いいえ。薬で散らせない、なるべく早く手が必要な腫瘍です」

「手ですか……」

原先生は苦しそうにつぶやく母親に目を一度移し、俺を見據えた。

「ハッキリ言うと、このまま放置すれば、君が來年、桜を見れる確率はゼロね」

…………え?

頭の中が一瞬にして真っ白になる。

『ライネン、サクラヲミレルカクリツハ ゼロネ』

だって、なにを言われたのか。

父親も聲を大きくして何か言っているが、混した頭では言葉を理解できなかった。原先生も両親に何か伝えている。

俺はそんな先生やぼやっとるレントゲンの寫真を互に見て、まばたきがやたら多くて、心臓も痛くて。たぶんこれは落ち著いていない。

父親が壁を毆った音で五が戻ってきた。母親は泣き崩れていた。

これが阿鼻喚ってやつ? 両親が取りすのなんて初めて見たんだけど。ここまで人を変えることができるなんて、ほんとにやべーの?

二人が看護師に連れ出されていくのをただ見ていた。

自分に起こっている大変なできごと。という事実がそしゃくできない。まるで誰かの人生のドラマを見ているような、一歩引いた目線の気分だった。

「君も行きなさい。落ち著いたらまた続きを話すから」

原先生は俺に背中を向けた。看護師に肩を叩かれたけど、俺は、「いえ、聞きたいです」と、答えていた。

看護師が原先生に目で助けを求める。先生はチラリと首だけで振り返った。

「あんたもボーっとしてるけど大丈夫なの」

「……分かりません。でも今、聞きたいんです」

「それはどうして?」

目を閉じるとふたりの顔が浮かんだ。

「……両親のあんな姿、また見るのはキツい」

「……」

原先生は黙って機の上にあるカルテを手に取り、俺の足を思いっきり叩いた。

「いってえ!」

「あまっちょろいこといってんじゃないわよ! あんたひとりで付き合える病気じゃないのよ!」

そっか。これからずっと、両親のあの顔を見なければならないのか。

「……でもいいわ、続きを話しましょう。確 実 に あんたのご両親が取りす話だから」

そうキッパリと宣言して、原先生はカルテをめくった。

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