《彼たちを守るために俺は死ぬことにした》5/30(土) 蘆屋七瀬①
午前中、虎蛇のメンバーで學校に集まった。まず走る順番を相談し、「音和→いちご→七瀬→俺→會長」と決めたのだが、
「知ちゃんにバトン渡したい……」と、音和は不満げだった。
「我慢しろって。お前の瞬発力は例を見ない。序盤から引き離すためには、音和が頼りなんだよ」
「わかったあたしがんばる!」
なぜかそれでやる気になったらしく、いちごの元にとてとてと走って行った。いちごとし話して、ぺこりと頭を下げる。ちゃんと謝れているじゃんか。
「なっちゃん」
「チュン太」
音和を見ていたら、七瀬と會長の二人が同時に聲をかけてきた。三人で顔を見合わせる。
「お、なに?」
「バトン練習を……」
「と、聲をかけたんだけど……」
聲をかけてくれたけど、タイミングがバッティングしてしまったらしい。三人でやるのは効率悪いし。どうしようかな……。
「會長、俺、七瀬についていい?」
聲をかけてきたくせに、七瀬は揺している。
「會長は運神経いいから、バトン練習もギリギリでいいと思うんだ。コイツは俺がちょっと鍛えようと思う」
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「ふむ……」
會長はし考えてから、頷いた。
「わかった。それが所詮最良の選択ね。なにせあたしは文武両道の上、をも兼ね……」
「じゃあ行こう七瀬」
「あ、うんー」
會長の話を最後まで聞かずに二人でトラックの端に移し、とりあえず、ストレッチから始めることにした。
グラウンドでをばしていると「あたしと練習でよかったの?」と、やはり七瀬がたずねてきた。
「だから會長はお前と違って大丈夫なんだって」
「なにそれ」
「勝ちたいからお前を鍛える」
「……足遅くて悪かったわね」
むくれながらアキレス腱をばす七瀬に聞く。
「んで。お前50m何秒くらいなの?」
「12秒」
「おっせえ!! 本気で走ってねーだろ!」
「だって育だしー。てきとーっしょ」
「お前そういうの良くないぞ。まずは上げからだ、をたたきなおしてやる!」
「ももあげってなによ。から揚げ?」
「なんでここで飯食う気なんだよ! その場で走るように、腕をできるだけ大きく振り、はにつくくらい引き上げるんだ」
「げ、マジ……」
「高速でな。やれ」
スパルタでいくことにした。
2セットもやると、七瀬は地面に突っ伏してしまった。二人で休憩がてら、周りを見るといちごがトラックを走っているところだった。そのきには無駄がなく、風のようになめらかで、鉄棒の下でストレッチをしていた陸上部もグラウンドに散らばっていたサッカー部も、みんなその走りに見とれていた。
ゴールしたあと、俺たちに気づいて手を振るいちごに手を振り返したら、運部が一斉にこっちを見た。
恥ずかしくなっていちごから七瀬に視線を移すと、すでに起き上がっていちごを見ていた。
「やばいねーあれ。あの子があたしの回も走ればいいじゃん」
心から心していたようだったが、その言葉には心できない。
「ズルすんなよ。ほら立って」
「なによ……」
ふてくされた七瀬は育座りになった。
「七瀬ー?」
「やだ」
さらに小さくなって立ち上がろうとしない。
「だってあたしなんて足引っ張るだけだもん。……出たくない」
「あほ、別に足引っ張っていいんだよ」
こいつそんなこと気にしてんのか。呆れつつ七瀬の隣にしゃがみこむ。
「みんなで走りたいんだよ。たとえば音和がスタートで転んだせいで負けたとする。でも音和はすぐに起きて一生懸命バトンをつないだ。お前、音和を責めるの?」
「……そんなことしないよ」
「いいやつだな。俺は責めるがな」
「ちょ、悪魔!?」
「音和には厳しく教育しているんだよ」
七瀬は苦笑して顔を上げた。
「……なっちゃんの言いたいことはわかったよ。……練習するから付き合ってよね」
「おう」
先に立ち上がり、手を差し出す。
「見返してやろうぜ、生徒會のやつらを!」
┛┛┛
一日目ということもあり、晝前に練習が終わった。
バテて木で化しているメンバーに、かいがいしく葛西先輩がお茶を配ってくれている。ああ、なんて有能なマネージャーなんだろうか。
「はい、小鳥遊くんも」
「ありがとう先輩。詩織って呼んでいいっすか」
先輩の手ごとカップをけ取ろうとする。
「ダメです」
ひょいっとカップを上にかわされた。笑ってはいるけど、相変わらず手厳しいぜ☆
ひと息ついたころ、會長がみんなに聲をかけた。
「さてこの後、みんな時間があるんだったらランチでも行く? 日野は……バイトがあると言ってたっけ」
「はい、ごめんなさい」
申し訳なさそうにいちごがうなだれる。
「殘念だが気にするな。チュン太たちは?」
俺と音和に言ってるのだろう。音和は俺に任せるという目でこっちを見てる。
「ああ、俺はだいじょ……」
「あーごめんなさい! あたしたち、ちょっとこれから用事があるんでー」
七瀬が割り込んできた。そういえば昨日、付き合うって約束したな。
そんな俺達に明らかに揺している會長。
「そ、そうなの。珍しいねあんたたち」
俺と七瀬を互に見ていた。
「わたしは平気ですが……どうしましょうか」
葛西先輩が會長にたずねる。音和は口を開けて俺を見ていた。
「あ。すまん音和。ちょっと七瀬に付き合う約束してて。そうだ會長!」
「え? ああ、なに」
「音和を晝メシ連れてってもらえないかな」
「……そうね。なんでもあんたとセットで考えるのは良くなかったわ。穂積は予定ある?」
「……今なくなりました」
あてつけられた。
「じゃあ、一緒にお晝行こうか。3年ばかりだけどあたしも詩織も、あんたのこと可いと思ってるから心配ないわよ」
「……ありがと」
明らかに落膽しているが、いい傾向だ。俺離れのために頑張ってもらおう。
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