《彼たちを守るために俺は死ぬことにした》6/1(月) 蘆屋七瀬②

ガラッと暴に教室の扉が開いた。教師が來たのかと、みんな一瞬で靜かになる。

しかし、視線の先に現れたのは野中だった。スタスタスタといちばん後ろまで歩き、俺のひざに座って機に突っ伏した。

「お帰り」

「お帰りノナカー」

「あー……」

? 元気ないな。

「ノナカー、俺の雑誌は……」

し離れた席の男子が聲をかける。

「……沒収された」

顔を上げずに野中がつぶやく。

「ノオオオオ!!! お気にりだったのにいいい!! エリコちゃーーん!!!」

男子の絶にイライラした様子で野中がを起こした。

「うるせえ、つかあんなん抜けるかよ!! お前USB持って俺んち來い。そしてノナカスペシャルを持って帰れ!」

「ありがとーございまーーーす!!!」

どうやらおシモな話だったらしい。

俺は野中の背中にのしかかった。

「バカだなー、人のエログッズでつかまってたのか」

「いや。あんな趣味悪いのを俺が好んでいると思われたくなくて抗議してたら長くなった……」

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「そんなん、逆に中気になるわ」

「……」

野中は完全に機の上で不貞寢を決め込んでしまった。

ふと、七瀬がじっと俺たちを見ていることに気づく。

「なに?」

「いや。あんたら腐けよさそうだよねーと」

「はあ!? 変な妄想やめろおおお!」

そうびながらくっついていたものから急いで離れると、野中もむくりと起き上がった。

「おい……」

「なによ?」

「どっちだ……」

「えっ?」

「どっちが攻めでけかだよ!!」

言い終わらないうちに側頭部を毆ると、野中は再び機に突っ伏し、沈黙した。

「せめ? ウ……ケ?」

いちごが首をひねりながらぶつぶつ言ってる。ぎゃあやめて!

「いちご、いちご、それは呪文じゃない。むしろ忘れたほうがいい!」

「そうなんだ? みんな難しいこと知ってるね。あたしまだまだだな!」

微笑むその純真がにグサリと音を立てて刺さる。俺もそっち側の住人になりたい。

「あ、そだ。ノナカも……放課後さ、博館行かない?」

七瀬が野中の頭をつつきながら話しかけた。

「んー……はくぶつかん?」

「なっちゃんといっちーと3人で行く約束してたの。あたしビップ対応だからお金はいらないんだけど、どーかな?」

野中は俺を見上げる。

「なっちゃんどうした。熱ある?」

「ねーよ。いやちょっと、街の歴史が気になるお年頃なんです」

「ふーん。俺まだそんなお年頃じゃないかも」

「……そうだよねー」

七瀬は殘念そうに答えた。

「あ、なっちゃん。ほづみんも來るでしょ?」

今度は俺にふられる。

「音和か。絶対行くっていうだろうな。でもいいの?」

「うん、もちろん。最近あたしがなっちゃん獨り占めしてるしね」

「えっ獨り占めっ!?!?」

いちごがまた口元を押さえた。

「わーーわーー!! だからいっちー、そんな突っ込むほど深い意味はないんだからーー!」

七瀬が真っ赤になっていちごの首を揺する。お、おい、それ死ぬぞ。

伏せっていた野中が目だけこちらに向けた。

「……お姫來るのん?」

「校門で今日も待ってるだろうし。タダなら來るんじゃない?」

「あいつはヒマなのか」

「間違いないね」

「ふうん。じゃあ俺も行こうかな」

そう言うと再び腕の中に顔を沈めた。嫌な予がする。

「……音和をあまりいじめるなよ」

念のため、背中に告げておいた。

┛┛┛

閉館前だったからか、客は俺たちだけだった。七瀬がじーさんの話をすると、館長も快くれてくれた。

雨の音が遮斷されている建の中は、心地よいクラシックが流れ、正直、眠気で倒れそうだ。

「え、しらねーの? あの道路、雨の日には昔からの霊が出るんだよ。そういえばお前、毎日通って」

「ぎゃああああたかおみ死ね! 蟲壺とかに落ちてしまえーー!!」

……が、遠くから聞こえる音和のび聲が、何度も俺をこちら側に引きつないでくれていた。

いちごも楽しそうに街の模型にり付いている

七瀬と俺はメインホールからほとんどかなかった。

この街で発見された恐竜の模型と化石は、特別とばかりに、その広場に大きく飾られていた。音和が「超こっええええ!!」とんでスルーしたブースだった。

蘆屋 爾あしや みつる氏

蘆屋 初枝あしや はつえ氏

「おお七瀬七瀬、プレートに名前が!」

「うん! すごいね!!」

七瀬はそのプレートを恍惚の表で見つめていた。本當にうれしそうだった。

三葉蟲やアンモナイトなどの小さな化石を並べたケースの中央に、音和が怖がったじいさんが見つけた化石の標本がある。

……でけえ。

歯が10cmといってたように、食種なのだろう。

二本足で立ったそいつは、俺たちを威嚇していた。

「よくこんなの見つけたな……つか、裏山なんかにいたんだな……。すごいな七瀬のじいちゃんとばあちゃん」

「うんっ」

いつの間にか隣で七瀬も見上げていた。

「……突っ走ろうとするなよ?」

「ん?」

「ひとりで無茶するな? そのために俺がいるんだから」

數秒見つめ合ったあと、再び七瀬は標本を見上げた。

「……あたしがやることは、ベストを盡くすこと。だめなときはなっちゃんに頼る。で、怪我しない。それでいいんだよね」

「うん。わかってんじゃん」

俺たちは閉館時間まで、そのブースで標本を見上げていた。

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