《彼たちを守るために俺は死ぬことにした》6/2(火) 葛西詩織①

俺たちの決意とは裏腹に、雨は止まなかった。

ひとり廊下を歩いていると肩をたたかれた。振り返ると、黙ってればモテそうなのにでお馴染みの人が立っていた。

「なぜそんなに殘念そうな顔をしているのだチュン太」

「ああ會長、考えすぎだよ」

「チュン太もこれから購買?」

「うん。ジュースを買いに。會長も?」

「あたしはノートを買いにだけどね。一緒に行かない?」

「もちろん!」

肩を並べて歩いていると、よく一緒に遊んでいた頃のことを思い出す。

橫目で隣をこっそり伺う。やはり年月が経ったことを思い知る。

小學校時代の彼は地域の班長で、俺より大きくたくましくてみんなの憧れだった。誰も逆うことはできなくて、彼を怒らせるとみんな震え上がったほどだ。そんな彼にまとわりついてたのが俺で、たしか……本人には相當ウザがられてたっけな。

だけど今の彼の見た目は、その頃の剛腕な面影はまったくない。肩幅も小さく華奢で、どちらかといえばか弱そうなという雰囲気だし。

「チュン太、聞いてるの?」

……中は変わんねえけどな。

「あ、はいはいごめん、なに?」

「今日も雨ねって」

「うーん、そうなんだよねー」

いつもより暗い廊下を歩く。いつもより寒い。

會長がふうとため息をつく。

「練習、困ったな」

「ウチの學校はなんでこんな天候悪そうな時期に育祭があるのかね……。育館は?」

「掛け合ってみたんだけど、バレー部やバスケ部、外の運部が練習で使っていて無理だった」

まあそっち優先になるわな。部活は選抜大會とかあるんじゃなかったっけ。

「昨日は休みだったし、今日は一応、虎蛇で集まる?」

「そうしたいわね」

「わかった。俺もなにか案を考えておくよ」

販売機で、お目當てのジュースのボタンを押す。

「じゃあ俺りんごジュースね」

「なぜあたしを見る?」

「だって年上じゃんか」

「へえ? いいわよ?」

な、なぜだ……。會長は笑っているのに、なぜこんなに怖気がするのだろうか?

「あたしにものをねだるということは、それ以上の見返りを求められるのは承知の上ってことよね?」

あ、たぶん予當たったわ。

「ごめんなさい、ウルトラハイパー冗談でした」

「あたしを手玉に取ろうとするなんて一生早いのよ」

そして目の前に差し出されるパックのジュース。

「まあいいわ。可い後輩だから今日だけよ。ホラ施しをけなさい」

「言い方!!! ありがとうございます……」

恐る恐るけ取ると、凜々姉は満足そうに頷いた。

「んじゃ……、また今度なんかおごるよ」

パックにストローをさす。

「あらそう。ちなみにあたしの誕生日は8月ね」

ぶふーーーー!!! と、マンガのようにりんごジュースが勢い良く吹き出る。

「はい?」

「8月13日、期待してるぞ、年!」

ぽんっと肩を叩かれ、そのままスタスタと購買へと消えて行った。

「……まさか、からかったの、わりと怒ってたのかな?」

もしくはりんごジュースでわらしべ長者を狙っているのか。読めない人だった……。

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