《彼たちを守るために俺は死ぬことにした》10/25(日) 日野 苺④

「ここまで離れたら、ちょっとしか見えないな」

「うん、でも雰囲気がわかるし、それだけでもいいよ」

凜々姉なんて超必死だったから、の子はみんな好きなのかと思っていたけど、意外にもいちごはそこまで未練がなさそうな調子だな。

「あんまりパレード興味ない?」

「今からあそこに飛び込む方が、ちょっと怖いかな。ごめんね、見たかった?」

「俺は遊園地自、別にそんなにってじだからなー」

「そか、よかった。じゃあどこかでお話しよっか」

いつもよりも距離が近く、まぶしい笑顔がダイレクトにぶつかってきた。

近い?

そこで、ようやく手を握ったままだったことを思い出す。

「あっ!」

慌てて手を離して、気恥ずかしさにいちごに背中を向けた。

「んじゃ、あっち人がなそうだから行ってみるかー」

歩き出そうとすると、左手首を強く摑まれる。

「あ、待って!」

「えっと……?」

立ち止まったいちごが、不安げに見上げてくる。

「はぐれるの、怖い……」

「………………おう」

顔が見れなかった。

ああ、まずい。

いちごをひとりにしてはいけないことを最優先で考えるべきなのに、彼と二人きりの狀況に、頭がくらくらしはじめた。

しかも手をつないで夜の遊園地で二人きりなんて、あるわけのないハプニングが起きているのだから。

「なんか、手を繋いでいると安心する……」

そんな俺の気も知らず、いちごは手を強く握ってくる。そして近い。

一瞬ドキドキしかけたけど、しだけ違和を覚えた。

「? さっきからずっと顔が悪いけど、調悪いのか?」

「え、ああ。うんと……」

目を逸らし、しだけを離して。

「こんなに人が多いところ初めてだから、ちょっと圧倒されただけ! でもこの辺まで來たら平気、かな? ありがとね」

「そう?」

「ただ……絶対に絶対に、離れないでほしい、かも」

潤んだ瞳で訴えかけられる。若干聲が震えているし、本當に苦手なんだな。

調が悪そうな姿を見ると、さすがに邪念も消えていった。

それから行き先も決めず、とりあえず歩き続けている俺たち。

どこかに座ったり、何か乗ってもいいけど、歩けばその間は手を繋いでいられるし。なんだかこうやって、非日常を歩き続けるのもいいかなって気にもなっている。

「あはは。なんか青春っぽくない? この時間」

いちごが繋いだ手を大きく揺らした。気恥ずかしくて前を向いたまま、曖昧に頷く。

「みんなで遊園地っていうのも楽しいし、知実くんと二人きりなのも、なんだか悪いことしてるみたいだ」

きゅっとまた手が握られた。

あ。いちごの顔が見たい。と思った。

俺も今、結構変な顔してるから、ちょっと葛藤もあったけど。

それ以上にいちごの顔を見てみたかった。

ゆっくりと隣を伺うと、それに気づいたいちごが顔を上げてはにかんだ。

ごとり。と、何かが落ちるような音をじた。

自分の手から溢れるほど大切なものはなるべく作りたくなくて、日常で心がうずくことがあっても今までずっと蓋をし続けてきた。

だって俺は脇役でいなければいけないから。いつフェードアウトしてもいいように。

誰かの何かになることをめないのだから。

だけど……今だけはくすぐったくて泣きそうな覚に、浸っていたいと思ってしまったんだ。

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