《彼たちを守るために俺は死ぬことにした》10/25(日) 日野 苺⑦
帰宅後、すぐ音和にメッセを送った。
海の家に腰掛けて待っていると、ほどなくして音和がやってきた。
俺の隣に座ってからも靜かにして、雲の間からうっすらとれる月明かりで、妖に艶めく海をしばらく眺めていた。
「夜の海は波の音がよく聞こえるんだね」
沈黙を破った音和の聲は震えていた。
海辺の気溫は10度もないけど、震えているのはきっと寒いからだけじゃなかった。
「今日楽しかった」
「いい打ち上げになったな」
「生徒會と遊ぶ日が來ると思わなかった」
「本當だよな。お前も生徒會のこと、許したんだな」
「謝りに來たから、メガネのお蹴って、おあいこにした」
「はは。虎蛇的教育がしっかりなされているようで……」
これでスッと恨みを忘れられるのがすごいよな。
ぶるっと震える音和の膝に、上著をかけてやる。そして暗く、星もあまり見えない空を仰いだ。
「長らく待たせたけど。ずっと見てたよ、音和のこと。お前が長していく姿は、自分のことのように嬉しかった」
「うん」
「でも、ごめんな。音和はずっと、可い可い妹だった……」
「……っ」
「ただね、俺の人生で一番長く一緒にいたの子で、それは最後まで変わらないから。だからわがままを言わせてもらえるなら、できれば最後まで、俺の人生にはいてほしい。お前のこと、失いたくない……っ」
瞬きと共に、思わず涙がこぼれて焦る。
音和なら、噓でも付き合うことができた気もする。
うまく言えないけれど……。全てを許して、けれてくれるのは彼だろう。
だけど、そんな彼だからこそ甘えたくなかった。
「……実はダメかなって、ちょっとわかってた」
小さく鼻をすする音が聞こえた。
「文化祭の屋上でんでくれたとき。知ちゃんはあたしのこととても大事にしてくれているけど、違うんだろうなって、思った」
「……ごめん」
「ううん。知ちゃんって、あたしに弱いところ見せたくないんだよね。カッコつけてたいんだよね……。だったら……」
ふたりの間を引き裂くように大きな風が通り抜けて、前髪が視界の邪魔をした。
流れる髪を押さえたとき雲から半月が覗いて、音和の顔が照らされる。
それは今まででいちばん大人びていて。俺は息を飲んで、その橫顔から目が離せなかった。
「ずっと、あたしの、自慢のっ。かっこいい人でいてよね! ……大好きでした!」
音和は涙をこぼしながらも、笑っていた。
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